woozi's room
ウジの作業室は、聖域だとホシが言う。
だけどそう言ったホシが、その聖域なはずの作業室でラーメンを食べて汁を飛ばしまくっていた。立ったままで食べてたからだろう。
「ヤー」
ウジの代わりに怒るのはもっぱらミンギュだったけど、文句を言いつつもキレイにしてくれるのもミンギュだった。
「朝まで踊る」
「今から、振り付け考えにいく」
「次のワールドツアー先で、行ってみたいダンススタジオ見つけた」
この部屋に一番多くやって来るのはホシだ。
いつだってホシは色んなことをわざわざ報告に来る。
時々は鬱陶しいけれど、気づけば待ってるウジだった。
だって案外、息抜きになるから。
新しい音を聞くと、新しい踊りが思い浮かぶとホシはよく言うけれどそれはウジだって同じだった。
ホシが口にする壮大な夢も、くだらない夢も、バカな話も、日常の会話もすべて。手の動き一つにしたってウジに、何かを作りたいって気持ちを与えてくれるから。
まぁでもやっぱりだいたいは、うるさいし賑やかだし、一人なのに騒がしいけど。
ここに来るとちょっと緊張する。そう言うのはディノで、入ってくる時にはおずおずって感じで、「ウジヒョン、ちょっとだけいい?」とやって来るのに、帰りはバタバタといなくなる。それこそ扉がバタンと大きな音で閉められるから、どこが緊張してるのかは謎。
でもやりたい音楽や、歌ってみたい曲や、気に入った歌詞を思いついたら、ディノが足を運ぶのは決まってウジの作業室で、実はホシについで二番目に、この作業室に顔を出すのがディノだった。
こんな感じで、あんな感じの、こんな歌詞で、ドドドドって音が厚めで。
ディノのアバウトな、だけどディノの正直な気持ちが詰まったキラキラしたものを、ウジが音に、歌に、曲に仕上げてくれるから。
パソコンに向かいながら、ディノの話しを適当に聞き流しているように見えて、ディノが思わず口にした言葉すら全部拾い集めて、望み通りの、いや望んだもの以上のものを「ほら」ってなんてことないって感じで出してきてくれる。
それだけでも有り難いってのに、踊ってみて歌ってみて、聞きなおしてみて。あぁ、ここがもっととか、あそこにはこんな感じがとか、やっぱり自分勝手な気持ちをブツけてみれば、ウジはなんの文句も言わずに当然のように直してくれるし、自分に手があまると思えば自分の作った曲だとか関係なく、誰かの手に委ねてしまう。
時々は「ウジヒョンの邪魔しすぎ」とミンギュに追い出されるほどだけど、やっぱりウジの作業室におずおずって感じで顔を出しては希望を口にして、希望通りのものを手にして逸る気持ちが抑えられずに部屋を飛び出していく。
「ドアも閉めていかないって、ほんとにもう」
そんなことを言いながら、ミンギュがたいてい、扉を閉めている。
実は全然来ない人もいる。
その1、ホンジス。
その2、チェハンソル。
ウジの邪魔をしちゃいけないと思ってるから......と信じたい。が、興味がないだけかも。
謎にやって来るのに、部屋の入口から覗いて去っていくだけの人もいる。
その1、ムンジュンフィ。
その2、チョンウォヌ。
前の作業室はドアを開ければすぐにウジが見えたけれど、今の作業室は広くなったおかげでドアを開けただけじゃぁウジの姿は見えない。それでもジュンはドアを開けて部屋の中を覗く。練習の帰りに、仕事の帰りに、運動の帰りに。
中にいるミンギュに「ウジいる?」ってジェスチャーだけで聞いてくる。頷けば、謎に頷き返して去っていく。
ジュンはまだウジのことを気にしてる風だが、あんまりというか、ほとんど関係なくやって来るのはウォヌだった。何せミンギュを探しに来てるだけだったりするから。そしていないと、作業中でウジがノリにノッていたとしてもウジに向かって「なぁ、そんなことよりミンギュは?」と、訪ねてきたりする。
「俺が知るかよ」
ウジも素っ気ないが、「知らないのかよ」とウォヌも素っ気なく去っていく。
似てないようで似てるような、そんな感じでやって来る人もいる。
その1、イソクミン。
その2、ブスングァン。
ドギョムは歌がうまく歌えなくて凹んでるとよくやって来る。作業してるウジの後ろのソファに黙って座って、ふてくされてみたり、凹んでみたり、いじけてみたり、時折本気で泣いたりして、結構ウジの邪魔をしている。
逆にスングァンは歌が絶好調に歌えてる時にやって来る。作業してるウジの後ろで歌いたいだけ歌って、時々踊りながら歌って、作業中のウジに拍手まで求めて、やっぱり結構ウジの邪魔をしている。
似てるようで似てないようでやっぱり似てる、そんな感じ。
来て、すぐに去っていく人もいる。
その1、ユンジョンハン。
その2、ソミョンホ。
ジョンハンは特に意味もなくふらっとやって来る。でも作業中のウジの後ろでしばらくソファに座っているけれど、すぐに飽きるのか、ふらっといなくなる。
ディエイトは確実に意味があってやって来る。だけど用件はすぐにすむから、やっぱりすぐにいなくなる。
大抵ディエイトは中国での仕事の前にやって来て、中国語で歌うセブチの歌について相談に来る。まぁ相談っていったってウジが大抵、「お前の好きにしていいよ。困ったら連絡くれたら助けるし」と何も聞かずともOKを出してしまうから、話は早かった。
でも一番謎なのは、残る二人。
その1、キムミンギュ。
その2、チェスンチョル。
キムミンギュは多分、居座っている。来てるとかじゃなくて、居るって感じ。
掃除してたり、ウジの部屋の中を飾ってたり、直してたり、時折はウジのマネージャーのごとく、スタッフたちの意見をまとめてたりもする。
宿舎でも同じ部屋なのだから、作業部屋まで来なくても良い気もするけれど、謎に邪魔じゃない。デッカい存在なのに、謎にうるさくもない。
ホシのように何かを喋る訳でもなく、ディノのように何かを求めることもなく、やっぱり謎に居座っているキムミンギュ。
エスクプスももしかしたら、居座っている。ただし、ウジがいない時にだけ。
謎だけどエスクプスは、ウジのいない作業部屋で、ウジのイスに座って、音も流してない電源の切れたパソコンに向かっている時がある。
「ここで、セブチの曲が生まれてるから」
そう言って、エスクプスがエネルギーをチャージしてるのか、癒されてるのか、何かに感謝でもしてるのか。それとも次の何かを考えているのか。ただじっとウジのイスに座ってる。当然、遭遇することもあるからウジもミンギュも知っているけれど、ほかに知っているのは、そんなエスクプスに時々つきあっているジョンハンぐらいかもしれない。
「凄いね。ウジヒョンの頭の中か、心の中かは知らないけど、どうなってるの? なんでこんなカッコイイ曲が、出てくるの?」
今日もディノが、ウジから差し出された曲に感動したのか、目をキラキラさせている。
「何言ってんの? これはお前の中にあった曲じゃん」
ウジの言葉に、ディノが本気で驚いていた。
「お前の中にあった曲だよ。ただ俺っていうフィルターを通して出てきただけの、これは、お前のものだ」
手の中にある、カッコイイ曲を前に、ディノが驚いていた。それから嬉しさが次々と沸いて出てきたのか、「俺、この曲で踊ってくる」というと、やっぱり勢いよく出て行った。
「だから、ドアは閉めていけって」
今日も居座っているミンギュが怒ってたけど、当然ディノに聞こえるはずもなく。
「ジフナ~、俺、今からトイレいく」
謎に宣言してトイレに向かったのはホシで、「いや、そんな報告いらないから」とやっぱりミンギュにツッコまれていた。
ウジはただただ笑ってた。
謎な作業室な割には、キレイな曲とかカッコイイ曲とか、案外できるよなって、ウジが楽しそうに笑い転げてた。
The END
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