妄想heaven

SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

青い春とは名ばかりの

 

「廊下を走るな、クォン・スニョンッ!」

数分前、ウォヌがうっかり、「あぁ、ホシはいいよな。猪突猛進な感じだけど、いつだってイジフンに真正面からぶつかってて」とか褒めたら、「俺、学校で褒められたのはじめてかも」って言いだしたホシが、「ジフニに自慢してくるッ」と教室を出て行った。
そしてそのまま猛ダッシュした結果、廊下を走って教師の誰かに怒られてる声が聞こえてきた。

「褒められたっていうのか? これ......」

ジュンが首を傾げてる。
多分言わないだろう。学校には関係ないし、あんまり褒めてもいないから。ただウォヌからしたらそれが羨ましいってだけだから。

「廊下を走るなッ、クォン・スニョンッ!」

今度は隣りの校舎から、そんな叫び声が聞こえてきた。ホシはまだ走って移動してるんだろう。多分ウジは音楽室か放送室にいるはずだから。そこまでは止まらないのかもしれない。
何事も全力で......と言えば聞こえはいいが、その勢いのまま飛び込んで来られるウジにしてみれば、いい迷惑かもしれない。それでもそれが羨ましいと思ってしまうんだからと、ウォヌがため息をつく。

まぁそれもしょうがないだろうとジュンは思う。何せ高2になってすぐぐらいに、なんでかウォヌにはストーカーが現れたから。
最初は1つ下の学年で、「今日もおぬよんが窓辺で頬杖をついている」っていう謎な言葉が囁き出された。確かにウォヌは、目が悪いのに一番後ろの窓際の席を、謎な運の良さで毎回ゲットしてた。
そこでよく頬杖をついていて、大半は寝てる。
ある時、突然雨が降って来た。風が強い日だったから、それは教室の中にも吹き込んできていて、普通ならいくら寝てるウォヌだって気づいたはず。
でもウォヌはぐっすりと寝続けた。
窓の外でたまたま傘を差して立ち続けていたのは、1つ下の学年のキムミンギュだった。

「え? なに?」

ボーっとしてるウォヌの代わりにそう言ったのはジュンで、それに対してミンギュは「えっと、あの、友達と待ち合わせしてて」と答えた。
校舎の外。しかも1学年上の教室外で待ち合わせなんてする奴なんているもんか......っていうジュンの視線の向こうから、「お待たせ」と言ってやって来たのはハオだった。
1学年下の同郷の友達は、言葉がまだ不自由で友達もうまく作れなかったはずなのに、どうやらミンギュと友達になったらしい。

それはありがたいけれど、友達は選んで欲しい......とか、ちょっと思ったジュンだった。もちろんそれを直接ディエイトに言ったこともある。でも「俺のチングに文句言うのかよ。それにいつだって、楽しんだもの勝ちだって言ってたじゃん。俺ちゃんと今楽しいよ」と言い切られてはしょうがない。
ウォヌのストーカーはジュンの大切な存在の友達という複雑な状態になった。

それでもウォヌは気にした風でもなかったけれど、少しずつ少しずつ、背の高いキムミンギュのことを、見た目の良いキムミンギュのことを、校舎のどこかでよく告られているキムミンギュのことを、夏になれば日傘をさしながらウォヌの眠りを守るキムミンギュのことを、意識せずにはいられなくなったのかもしれない。

恋に落ちる方法は、千差万別、色々あるなとしみじみする。
それはホシの完璧な一方通行なはずの恋が、ウジに通じていたことを知ったから。

このテストだけは絶対に休めない。学生ならばそう思うテストは幾つかあるだろうが、落とせば留年間違いなしみたいなテストの日、ウジはなかなか教室に現れず、いつもなら一緒にいるはずなのに、ホシだけが教室にいた。

「お前、人のこと無理矢理ヤッといて、なんで1人だけのうのうとテストとか受けてんの?」

ウジがふらふらと現れたと思ったら、机に突っ伏してるホシの頭をスパンと叩いた。
その音にもビックリしたけれど、聞いてしまった内容にも驚いた。

「いやだってジフニの制服姿がエロすぎるから」

ホシが頭悪いそうなことを口にする。
とりあえず謝るとか、色々あるだろうに。
でもそう言われたウジが次に言ったのが、「テスト前は止めろ」だけだったことの方が、より驚いた。
「いや、俺コレ何聞かされてるの?」ってジュンが言えば、「この犯罪者め」ってホシの向かってウォヌが言う。
物凄いことが起きたはずなのに、昨日と何も変わらない空気感がそこにはあって。
ホシは相変わらずなテスト結果だったというのに、ほぼ満点近い点を取ったジュンにも、余裕で平均点を越えてたウォヌに向かっても「恋せよクユズ」とかニヤニヤしながら言ってくる。
たぶんどころか絶対、自分の方が凄いと思ってるんだろう。まぁあのウジとの関係を進めたんだから、ある意味凄いけど。

世の中でだるんだりんだって曲が流行ったのか、雨が多くなると、それを呟きながらミンギュがよく窓の外に立つ。それを自習時間に思わずウォヌが口ずさんだ時、「え? なに? 好きとか嫌いとかのはなしもまだしてないのに?」と思わず言ってしまったのはジュンで、「いやお前案外酷いよな」と言ったのはウジで、「なんだよ。結局嫌いじゃないんだろ?」ってぶっこんだのはホシで。

「別にお前から声かけたっていいじゃん。気になるなら」とホシは言う。
「まぁ待ってみるのもいいんじゃね?」とウジは言う。

そうしたら当然次はジュンが喋るだろうと全員が視線を向けたら、なんでか急にジュンが照れた。

「照れてんじゃねぇよ」とウジが言う。
「なに? 最近ジュニに当たりキツイじゃん」とウォヌが言う。

一瞬で空気がピシリとなった。ムッとしたのはウジで、ビクついたのはホシで、意味が判らないって顔をしたのはジュンで。

嫌よ嫌よも恋のうちとかふざけたことをコイツが言ったから、スニョイが俺の抵抗を全部自分に都合のいいように受け取ったんだよ」
「エヘヘ」
「エヘヘじゃねぇわ」

なんでかホシが照れて笑うのに、ウジが突っ込んでいる。
ウォヌがちょっと何ていうか悩んでる間にも、「............お、俺のせいだったのか」とジュンはかなりショックを受けていた。
まぁ自分の発言をきっかけに、犯罪者と被害者が出たとあっちゃぁ、動揺もするだろう。

「でもほら、終わりよければすべて良しって言うじゃん」
「いやお前が言うな」

なんでかホシがジュンを慰めている。当然ウジにツッコまれていたけど。

言葉ではイイアラワセナイほど色々あったはずなのに、ホシとウジは相変わらずな感じで。ウォヌとジュンもそれをいいことに普通に過ごしてた。
6月になって雨が多くなって、ほとんどのクラスでは窓を閉めるから蒸し暑くって鬱陶しかったっていうのに、ウォヌは心地よい風を楽しんでいた。
もちろんそれは、窓の外で傘を差してるミンギュがいたからだろう。

「いやお前もう受け入れてるというか、便利使いしてるじゃん」
「............そうかな? そこに山があるから......的な?」
「あぁわかる。俺もそこにウジがいるから......だもん」
「は?」

ウジの指摘にウォヌが答える。なんでかそこにホシが乗っかってくる。そうしたら意味不明になってジュンが戸惑う。
いつもと同じと言えば同じな、クユズが集うときの空気感。
最近では窓の外にミンギュがいるというのに、別に声を潜めることもなければ、話題を変えることもない。きっと聞こえてる。いやたぶん丸聞こえなはず。なのに。

「ウォヌって案外、流されそうだもんな」とウジが言う。
「ホシに流されたお前が言うな」とウォヌが言う。
「いやウジは流された訳じゃないよ」とホシが言う。
それには当然「お前はもっと言うな」とウジが突っ込む。
「で、結局流されるの?」とジュンが言う。

ウォヌは微妙な顔をする。
窓の外にはいつだっているけど、それだけで、ミンギュ曰くそれはただの待ち合わせだという。そして実際、教師のところに質問とかに行ってるディエイトが「お待たせ」とやって来たりするから、待ち合わせだって嘘じゃない。
その、ウォヌのすぐ側でただ待ち合わせをするだけの男に、どうやって流されろと言うのか。
ウォヌの微妙な表情に何かを察したのか、ホシが「別に流される側じゃなくたって、いいじゃん」と言う。
確かにそれだって考えた。
今や、窓の外に人影がないと、視線が彷徨うことがあるのも事実だから。

「俺たちのことは放っておけよ」

そう言えばホシが、ウォヌと窓の外にいるミンギュを交互に指差して、「俺たち?」と聞いてくる。
だからウォヌは「俺たち」って言いながら自分とジュンを指差した。

「「「..................」」」

何の気なしだったというのに、ウォヌ以外の3人が沈黙で返してきた。しかもなんでか3人が目配せしあってる。

「なんだよ。俺たちのどこがダメな訳?」

ウォヌがそう言うのに、ホシがなんでか立ち上がってウジの横に移動する。そうすると元々ウジとジュンがいた場所の間に立つことになるから、それはまるで、ウォヌと、残り3人みたいな構図で.........。

「ジュニは今、絶賛同棲中だし」ウジが言う。
「い、いや、ただのルームシェアだって」ジュンが言う。
「でも部屋は2つあるのに、ベッドは1つしかないけどな」ホシも言う。
「い、いや、自分の部屋が狭くなるのが嫌だってハオが言うから」ジュンが言う。

ウォヌが知る限り、ジュンはついこないだまで留学生用の下宿にいたはず。なのになんでか今は絶賛同棲中だという。
いやいやいやいやとジュンは否定してるけど、でもそういう事なんだろう。
別に自分が知らなかったからって拗ねることもないけれど、でも確かにそれなら、「俺たち」ではないのかも。

いのち短しあらがえ青春って、言われたんだよ。ジュニは」

そう言ってホシが笑う。
恐らく、いのち短し恋せよ乙女的なことを言いたかったんだろうが、まだ言葉が不確かなディエイトは絶妙に間違えたんだろう。
でもジュンにはそれで通じたんだろう。なんだか勢いはある言葉だから。

「じゃぁ俺たちじゃなくて、俺だけか......」
「いるじゃんお前にだって、青春する相手」
「飛び切りじゃん。最近じゃ他校の生徒だって声かけにやって来るって話だし」

ウォヌがため息はきつつ「俺だけか」と言ったのに、外に立ってるミンギュを指差して「いるじゃん」とウジが言う。余計な情報を教えてくれたのはホシで、なんでかジュンは「まぁ妥協する相手としては悪くない」とか、微妙なことを言う。
別にチングたちがウハウハしてるからって、自分までもがそうならないといけない訳じゃない。でも......。

「なんで俺だけ妥協するんだよ。俺は俺だけを特別に思ってくれる相手と、特別な恋をする」

なんでかウォヌは豪語した。
そんなウォヌの目の前で、ジュンとホシとウジが、「あ」って言いそうな顔をした。
ちょっとだけその顔を見て「ふふんどうだ」って気持ちでいたウォヌなのに、3人が驚いた理由は別にあったと、すぐに知った。

窓の外。いつもはウォヌに背を向けてただ立っているだけだったのに。
なんでか振り向いて、それからその身体のデカさを利用して、横から覗き込むようにしてウォヌの前に突然顔を出したミンギュが、そのまま、ウォヌの初キスを奪っていったから............。

「特別だから」

聞こえたその声に、思わず顔をあげた時にはいつも通り背中を向けて立っている男がいた。

「俺ら、すぐに抜かされそうだな」

目の前ではウジがしみじみとそんなことを言い、「俺負けたくない」とか言い出したホシがウジに向かって顔を突き出して殴られていた。
何も言わなかったジュンは、案外負けず嫌いなディエイトにはバレないようにしようとか思っていたけれど、残念、それはミンギュが自慢げに話したために即バレした。
幸か不幸か、そんな映画みたいなワンシーンを見たのは、クユズだけだった。

「あ、やべ。俺ら、ウォヌの恋がはじまった瞬間見ちゃったんじゃないの?」

何がヤバイのかは知らないがホシがそんなことを言う。
ウジは興味なさげだし、ジュンはディエイトが影響されることを思ってそれどころじゃなかったし。
でもホシの言葉に一番驚いたのはウォヌ自身だったかもしれない。
ウォヌは突然奪い去られた初キスに怒らなかったけど、窓の外に立つデカイ背中をドンと殴ってた。でもその口元はちょっとだけ嬉しそうに笑ってたのも、クユズは見過ごさなかったけど............。

The END
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