妄想heaven

SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

I Don’t Understand but I Luv U

 

I Don’t Understand but I Luv U

怪物だと石を投げられた。
小さい子どもたちだから、手を出す訳にもいかないけれど、子どもたちがそうするってことは、大人たちがそう思っているってことだろう。
町までは山を越えないと行けないような場所に住んでるってのに......。

「石、投げ返してもいい?」

どこかから見てたのか、ハオがそう言いながら突然現れた。
ただ近場の木から飛び降りただけなのに、子どもたちにしてみれば本当に突然、そこに現れたように見えたんだろう。勝手に怖がって泣き出して逃げ出しながら転んで、必死になって逃げてった。

「また怪物ネタが増えたね」

ハオは笑ってる。ジュンは「お前がビビらせるからだろ」と呆れたように言うけれど、別にハオのことを諫める風でもなかった。
遠い国から流れてきて、言葉が違うことが化け物だと言われた最初だっただろう。それが怪物に変わったのは、たぶん強過ぎたから。
人のために戦ったはずなのに、平和が訪れれば異端になった。ただそれだけのこと。

「わぁ、ほんとに怪物がいる」

忌み嫌われることの方が多いのに、なんでか嬉しそうに言ったのは、山を6つは超えてきたと自慢気に言う男だった。
この世には、時々変な奴がいる。だからジュンは最初気にしなかった。放っておけばいなくなるだろう程度に。でもジュンの後ろにいるディエイトが緊張してるのが判って、そこではじめて目の前にいる男に警戒した。
でもその男を追いかけて、また1人、やって来た時には驚きすぎて言葉を失っていたけど............。

「ホシや。怪物を見に行くって、お前、なんで1人で駆けだすんだよ。本当に怪物だったら危ないだろ」

そう言った男は、綺麗だったし、優しそうだったし、ニコニコと笑っていたけれど、頭には兎の耳がついていた。

「シュアヒョンでも、ほら、怪物が2人もいるんだよ。俺1番に来てよかった。まだ誰にも見つかってないみたい」

最初に来た男だって、よく見れば楽しそうに話すその口には牙が見えて、気づいてしまえば普通の人間になんて見えなかった。
化け物と呼ばれてはいるけれど、ジュンとディエイトは普通の人間だった。
ただ普通の人とは言葉が多少違っただけで、それだって今では意思疎通はできるぐらいには話せるようになっている。人殺しをしたことは認めるけれど、それだって戦うことが仕事だったんだからしょうがない。人がやりたがらない仕事だってこなすから、今では話の判る大人たちは2人のことを認め始めてだっていた。

ディエイトを庇うようにジュンが一歩前に出る。
化け物はどっちだ......。本当ならそう言いたかったけど、きっとそんな余裕はない。
倒すことなんてきっと無理だから、逃げるための一撃がどこまできくか......なんて不穏なことをジュンが考えていたってのに、「友達になってよ」と牙を持つ奴が言った。

「ホシや。ちゃんと名乗らなきゃ。それに友達になって欲しいなら、怪物なんて言っちゃダメだよ」
「え、そうなの? でも大丈夫だよ。怪物って言ったって怒られなかったもん。俺はホシだよ。もう少ししたらきっと虎になるんだ」

そう言ってニカって笑えば、確かに肉食獣の牙がある。もうすぐ虎になるのがホントか嘘かは知らないが、友達になれるとは本気で思ってるようで、ジュンとディエイトが名乗るのを今か今かと待っている。

「ホシや。人間は怖い生き物だから、友達にはなれないかもしれないよ。それにこの2人は人を殺しすぎている」

ウサギが言う。確かに人はたくさん殺してきた。事実だからしょうがない。でもそれがなんで、友達になれない理由になるのかは判らなかった。それはホシと呼ばれた牙を持つ男も同じようで......。

「なんでだよ。人ならシュアヒョンの方がもっと山のように殺してるじゃん。こないだも山の上から岩を蹴落として、水源を一つ潰してた。あれだけでも人間がどれだけ死んだと思ってるんだよ」
「いやあれはわざとじゃないよ。それに俺のせいじゃないし、あれはミンギュが蹴躓いてディノのことを突き飛ばしてそれを支えようとした結果であって、わざとじゃないわざとじゃない。ある意味運命なんだよ。うんうん」
「そうかなぁ。でもわざとじゃないならいいなら、こいつらだってわざとじゃないよ」

ホシは当然のようにそう言った。見てきた訳でも、2人から話を聞いた訳でもないのに。
逃げるにしてもタイミングが微妙で、戦うにしては負けが確実なようで、でもそうこうしてる間に、ジュンの後ろに隠れて警戒してたはずのディエイトが好奇心に負けたんだろう。

「俺はディエイト」

止める間もなく、そう名乗ってしまったから。
妖怪とか化物とか幽霊とか。色んなおとぎ話が世の中にはあるけれど、名前を知られてしまっては都合が悪いものだってたくさんあるっていうのに。

「こっちはジュン」

黙れっていう間もなく、ジュンの分まで名乗ったディエイトだった。
でもそれでホシは喜んで、「友達ができた。シュアヒョン俺、友達ができたよ」と飛び跳ねそうな勢いだった。
名乗るだけで友達になれる仕組みなら、色んな場所を流れて生きてきたジュンとディエイトなんて、友達だらけなはずなのに。

山を6つ超えてきたと言ったけど、きっと人は通れない山なんだろう。

「いつ虎になるの? なんですぐにはなれないの? どうやったら虎になれるの? で、今はなんなの?」

ディエイトの疑問は尽きないのか、次々と質問を繰り出していく。

「たぶん後300年ぐらい? まだ大人じゃないから? 虎になりたいと思って生きてたら虎にはなれる。今は、なんだろ。シュアヒョン今俺なんなの?」

判らないことはウサギに聞くらしい。
案外常識人なジュンにしてみればはてなばかりが浮かぶ会話だっていうのに、ディエイトは楽しそうだった。
人のことを怪物と呼ぶくせに、自分達のほうがよっぽど怪物だったりするし。
なんなら2人揃って夢を見ているか、山雪崩にでもあって実際には死んだのかもしれないとかも思ってた。

「俺もいつか、何かになれるかなぁ」

ディエイトはいつだって、本当は静かにのんびり過ごすのが好きだった。自然が好きで、空が好きで、風が好きで、野に咲く花が好きで。何時間でも水の音を聞いて過ごすのだって好きだったのに、生きるために戦って流れて流されて生きて、その手でたくさんの人の命を殺めるたびに、いつだって冷たく笑うようになっていた。
それが今は、「何かになれるなら、何がいいかなぁ」って楽しそうに笑ってた。

それからホシは、ほぼ毎日のようにジュンとディエイトを訪ねてきては、そんなに面白くないはなしを面白話のように語って聞かせてくれた。
ジュンは無表情だったけど、ディエイトは面白くないなりにはじめて聞く話だと、「それはなんで? どうしてそうなったの?」って質問ばかりしてた。
きっと普通に暮らしていたならば、そういう相手が友達だったのかもしれない。ホシは楽しそうにやって来ては、「よ、怪物兄弟」と呼びかけてくる。

「ねぇ、なんで俺たちのこと、怪物って言うの?」

ある日そう聞いたのはディエイトで、ホシはそれに「え? 気づいてないのか?」と驚いていた。

「だってお前ら、もう半分以上、人じゃないじゃん」

人を殺しすぎたからだろと、ホシはなんでもないことのように言って笑ってた。
確かに殺しはしたけれど、生きるためだったし、それは国同士の戦いでもあって、厳密に言えば殺したくて殺した訳じゃない。
だけど確かに、殺しすぎてはいたかもしれない。
バカみたいに強くて、いつだって最前にいて。
ジュンは総当たりで当たっていく。その間にディエイトが総大将を狙って走る。いつだって決めた訳じゃないけど2人は同じように動いて、目立ちに目立ってジュンが人の目をひき、ディエイトは暗躍する。

「天国にはいけないとは思ってたけど、地獄に落ちる訳でもないんだね」

ディエイトが言う。
人とは違う何かになったと言われても、ジュンは特に驚かなかった。自分1人じゃなくて良かったと、思っただけ。

だからって食べるし眠るし排泄だってするし、何が人と違うのかも判らずに、それでものんびり生きていたっていうのに、そんな暮らしは突然終わった。

「スニョアッ! 戻れッ! 扉が閉じるぞッ!」

ホシはのんびりと寝そべって、その日もディエイトに空を走る船の物語を聞かせていたのに、突然空から声が聞こえて来た。
空からとしか言いようがなかったけれど、それは直接頭に響いた言葉だったかもしれない。

ホシが飛び起きて駆けた。それは一瞬だったのに、気づけばホシの身体はジュンとディエイトから大分離れてた。
本当ならホシはそのまま疾走して、2人の前から消えていただろう。そしてそれが最後になったはず。
なのにホシは止まって、その場で振り返った。そしてジュンとディエイトのことに、ホシにしては珍しく、強い視線を向けてきた。

「バイバイ」

ディエイトは何かを察してそう言ったけど、ジュンは「またな」と手を振った。
気づけば知り合ってから結構長い時間が経っていた気もしたから。話すのは楽しかったし、2人のことを怪物とか言う割には仲良くだってしてくれた。
ちょっとした知り合いなんてさっさと通り過ぎて、友達ぐらいにはなっていた気もする。
そしてそれは、ホシだって同じだったのかもしれない。

「ジフナッ! 2人連れて帰る。いつまで扉を開けてられるッ?」

ホシはそう天に向かって叫んだ。それからバイバイって姿勢のジュンとディエイトに向かって、「行くぞッ!」と叫ぶ。

2人ならどこにでも行けた。この地に2人を留める何かがある訳でもない。ジュンの頭に一瞬浮かんだのは、昨日の夜から煮込んでた煮物が無駄になったな......なんて、そんなことだった。

「行こう!」

でもディエイトがそう言って駆け出して行く。だから当然ジュンだって走り出した。
ホシはそれを見て頷きはしたけれど、人としては早い2人だけれど、ホシから見れば全然遅かったんだろう。

「ジフナごめんッ! 3日はかかりそうッ!」

そう叫び直してた。そうしたらどこからか物凄い舌打ちがした。それから「ふざけんな。扉は1時間も持たないぞ」っていう不機嫌そうな声も。
扉っていうのが、どこにあってどこに通じているのかは判らない。でもそこが閉まる迄に通り抜けないと行けないんだろう。
ジュンとディエイトは、ホシの背中を追ってただ無心に走り続けた。でも結局、10分も走ることはなかったけれど............。

「ドギョマッ!」

そう叫んでホシが立ち止まった。嬉しそうに天に向かって手を振っているホシの視線の先を見て、ジュンとディエイトはその足を止めた。
だってそこには、天馬がいたから。
力強く空を駆けてくるその馬には羽が生えていて、物語の中でも滅多に見ないような美丈夫な馬だったから。

「ウジヒョンに俺蹴り出されたんだけど............」

そしてその天馬は口をきいた。しかもどことなく拗ねてる感じだったけど、ディエイトが「凄い。世界で一番カッコイイよ」とか言うもんだから、すぐに機嫌を直していたけれど。
その天馬に、ホシもジュンもディエイトも乗せてもらって、はじめて空を飛んだ。
走り続けても到底3日じゃ無理そうな場所まで飛んで、そうしたら本当に扉があって、その扉を必死にみんなで押さえてた。

ウサギもいた。そこには動物が他にもいたし、人もいたし、見たことないようなモノもいた。でもみんなが天馬に向かって、「頑張れ」「もう少しッ」「さすがドギョマッ!早いぞッ!」と、励ましの言葉がいっぱいだった。
だから本当ならもっと、その扉の中に入る時にはドキドキするはずだったのに、ジュンもディエイトもあっという間に通り抜けてしまった。
通り抜けた瞬間には天馬はただの人の姿になったから、ホシもろとも投げ出されていたけれど、誰1人ケガなんてしなかったのは、そこには地面すら存在しなかったから。

「俺、いつか龍になりたい」

ディエイトはその日から自由に生きていて、なりたいものも見つけたようだった。
自分たちの国にあった伝説の生き物に、いつかなりたいらしい。
ジュンもあの日から自由に生きている。ここでは無機物だって心を持っているから、花に木に、小さな小さな蟻よりもまだ小さな存在たちの声を聴きながらのんびりと生きている。
何を言っているかは判らなくても、その優しさだけは伝わってくる。そんな世界で、ジュンは毎日ゴロゴロしながら生きている。

The END
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