95ラインの3人だけで飲むのは、9年ぶりらしい。
エスクプスがそう言ったから、それは事実なんだろう。
でもそんなに前だったっけ? とは思ったものの、それぐらい前だったかもしれない。
そしてよく思い返してみれば、3人で飲んだのなんて、あれが最初で最後だったかもしれない。
「俺ら付き合うことにしたから」
っていう衝撃の告白をされたので、結構鮮明に覚えてる。
そもそもそれをジョシュアに伝えたいがために、エスクプスが場を設けたんだから。
いや別に、そういうのは黙っててくれていいんだけど......って思ったのも覚えてる。
大事な話があるからっていう話だったから、当然セブチの話だと思ってた。
まだ小さなケンカは日常茶飯事で、先が見えない不安もあって、ウジは曲作りをもうはじめてたからか、睡眠不足すぎてフラフラになることもあって、ホシは思いが強過ぎたからか圧もまた強過ぎて練習室はいつだって変な緊張感があった。
だからてっきり一回95ラインだけで話したいって言われた時にはそっちの話だと信じて疑ってなかったって言うのに............。
うっかり馴れ初めを聞かされそうになって、「いや、そういうのは2人だけの思い出にしといて」って確か言ったはず。
「なんでだよッ。チングなのに」
と2人して文句を言っていたけれど、チングに求めすぎんなと確か言ったはず。
結局セブチの話も弟たちの話も、これからの話も、全然出てこなかった飲み会だった。
テーブルの下で2人が手を握り合ってたことも気づいてたけど、無視しといた。
でも不思議なことに2人がそうなったと聞いても、別段驚かなかったし、否定する気持ちだってなかった。
ただ困ったことと言えば、色んなことに巻き込まれたことぐらいか。
別れたって物理的に離れられないのに、別れ話をするという2人とそれぞれに話してみれば、お互い本当は全然別れたいなんて思ってなかったり。
「え、お前ら俺の時間返せよ」
と、結構真剣に言ったジョシュアはその度に「もうお前らのこの手の話には関わらないから」と、言ったけど。
あんまりにもムカつくから2人を避けてた時期だってあるし、物凄い強気で接してた時だってあった。
弟たちは「シュアヒョン.........」とただただ驚いていたけれど、数年経って96ラインだって事情を知ってみればジョシュアの立場を理解したんだろう。
最近では「シュアヒョン、もっと傲慢になってもいいと思う」とか言ってくれるほど。
ホテルで各々1人部屋だったのに、なんでかジョシュアの部屋に集合して2人でイチャイチャはじめられた日には、誰だってジョシュアに同情するだろう。
まぁでもそのお陰かは知らないが、誕生日プレゼントは破格だった。
なんでか2人がはじめてキスした日だって、ケンカした日だって、泣いて仲直りした日だって、ジョシュアは知っているんだから。
色々あって落ち着いて今がある2人の、その大半の色々を知っている。ただチングだっただけで。
「シュアヒョン、将来暮らしに困ったら暴露本だしなよ」
ウォヌあたりがそんなことを言う。
いやそんなの、誰が買うんだって気もする。まぁでもスングァンあたりは喜んで買ってくれそうだけど。
エスクプスがセブチを離れてた時、「俺がしっかりしなきゃ」と言うジョンハンに、「俺らが、な」と何度言っただろう。
最終的にはジョンハンだってクラクラになったのに、そんなジョンハンを、何度抱き締めただろう。
ただのチングだったはずなのに、いつのまにか愛してた。弟たちだってそう。
弟たちを愛してるジョンハンは、幸せそうに笑う。
それを揶揄えば、「お前だって大してかわんねぇぞ」と返されるから、きっとジョシュアも弟たちのことを同じような視線で見てるんだろう。
ただの仕事仲間で、7年持つかどうかも判らなくて、国に帰ってしまえば滅多に会えない存在になるはずだったのに。
ひとりしか産んだ覚えはないのにと、母ですらそう言って笑う。
なんでかジョシュア抜きでホシが自宅にいたりするからだろうし、ホテルのレストランとかで、なんでかマンネラインが母と一緒にテーブルを囲んでたりするからだろう。
「誰だよ情報をリークしたのは」
カトクで散々自分から自慢しておいて、店の中に3人以外もいたことに対してエスクプスはえらく不機嫌だった。
当然ジョンハンから「お前が自慢するからだろ」と言われていたけれど、「俺は自慢はしたけど、店の場所も時間も言ってないだろ」ってムキになっている。
ミンギュが気にせず「はいはい」って言いながら適当に料理を頼んでいく。
ドギョムも「ヒョン、怒んないでよ」って言いながらエスクプスに酒を注いでた。
ジョシュアにしてみれば、弟たちがいてくれる方が便利だし楽だしありがたい。
なにより最近ベッタベタな2人から、謎なはなしを聞かなくてすむから。
「じゃぁもう絶対これだけだかんな。これ以上は人数増やさないからな」
まだ5人しかいない。それなら酔ったってそれほどうるさくもならないだろうとエスクプスが言ったけど、ミンギュがすでにメンバー全員が参加するカトクに「クプスヒョンの奢り」って写真と共に情報を出した後だったから、バーノンは絶対来るだろうし、バーノンが来るならスングァンだって来るし、それならディノだって着いてくる。
こういうのに興味ないって顔してるのに、クユズだって集まってくるだろうし、それならディエイトだって誰かが連れてくるだろう。
そのカトクはエスクプスにもすぐにバレて、「ヤーッ、お前、いい加減にしろよ」と怒り出したけど、ジョンハンがそんなエスクプスの背中を優しく叩いてた。
揉めた数だけ仲直りしてきただけあって、きっともう、どこがお互いの沸点で、どこが落とし所だとかは判っているんだろう。
「俺、お前のことも愛してるからな」
結局弟たちも集まってきて、ワイワイガヤガヤすぎてにぎにぎしくて、ジョンハンまで誰かに取られたエスクプスが可哀想だったから、ジョシュアはそんなエスクプスの背中を叩いてそう言ってやった。
何言ってんのお前......って言われると思ってたのに、もう相当酔っているからなのか、「俺もお前のこと愛してるんだから、当然だろ」って返されて、ジョシュアがビビったほど。
「俺ら一緒に暮らすけど、お前も一緒に行くだろ?」
そんなことまで言われて、「え? なんで?」って思わず酔いが覚めそうになったほど。
とりあえず「なに? ジョンハニのこと、俺にもくれるの?」って答えておいた。
「あ? お前、殺されたいの?」
エスクプスはそんなことを言っていたのに、数分後には「でもさ、俺ら、そうしたら一緒に飲めるじゃん」とも言っていた。
それを目の前で聞いてたジュンに、「クプスヒョン、そんなに3人で飲みたいの?」とか言われてた。
「だって俺らがここまでやって来れたのって、コイツのおかげだもん」
しみじみとエスクプスが言う。
だからジョシュアは今後も、3人だけの飲み会の時には情報をリークし続けようと密かに心に決めたほど。
The END
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