妄想heaven

SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

Wedding Veil

 

拗ねたような口元を隠しもせずに。
バーノンの隣りにはスングァンがいた。
盛大な結婚式をあげるつもりだったからだろう。友達もいっぱい呼ぶんだと言っていたのに、結局は普段着のままだし、場所は教会ですらない。先祖の人たちが祀られているその場所はある意味教会よりも神聖な場所ではあったけど、スングァンの理想とするものとは、天と地ほど違っただろう。
一応政略結婚だった。
会ってもないのに結婚が決まって、でもバーノンにしてみれば一方的だったかもしれない。
まぁでもしょうがないだろう。
何せ援助してもらうのはこっちの方だから。
父親も親戚の人たちも、不安そうな顔をしてた。
だからどんな相手だって、どうにかなるよと笑ってみせたのに、なんでか申し訳ないって皆から謝られた。
お金も資源も、モノだって。投資だっていう話で色々貰った。でもそれは政略結婚が条件で、末息子の嫁ぎ先を探しているっていう話だった。
きっと放蕩息子なんだろう。我が儘すぎて手を焼いているとか。仕事もできないアホ息子なはずで、学校だって続かないような不良息子で、だからこそ家から追い出されるんだろう。
思えば皆勝手に噂していた。
結婚相手がそんななら、苦労することは目に見えていて、先が思いやられる。そうも言っていたはず。
「援助するのはこれっきりだ」
政略結婚が決まった時にそう言われたらしい。
そう言っておかないと、何度でもタカる奴らだとでも思ったんだろうと父親たちは文句を言っていたけれど、その場では言い返せなかったらしい。
結婚式は一年先だというのに、慣れる必要があるからとバーノンの結婚相手はやって来た。たった1人で。
咥えタバコでそこら中につばを吐いて、ゴミ箱とか道端にあるものは蹴り倒して歩くような奴が来る。皆がそう言うから覚悟してたのに、船から降りてきたスングァンは、お年寄りの荷物を一緒に持ってあげていた。
1人と聞いていたのに1人じゃなかったら、最初は判らなかったほど。
「アニョハシムニカ」って言いながら、頭を下げつつも手を胸の前で小さく振りながらも、小走りに近づいてくるその姿は、拍子抜けするほど可愛かった。
「ブスングァンです。あの、俺の、お迎えですよね?」
そう言った声も可愛くて、きっとタバコなんて吸ったことはないだろう。キレイな指先は、ケンカだってしたことなさそうだった。

まぁタバコは吸わないかもしれないが、最近の都会の不良はそういうもんかもしれない。裏で凄いことをやってるんだ。生意気だろうし、俺たちのことを下に見てるだろうし。
なんでかそう、ブスングァン不良説を捨てない人たちは一定数いたけれど、会えば元気に挨拶してくれて、2回目からはそこに笑顔がたされて、すぐに遠くから手を振りながら駆けてくる姿に、釣られて笑顔になる人は確実に増えた。
お年寄りには当然のように親切で、気づけばそこらのヌナたちにも気に入られてて、なんでか町のカラオケ倶楽部にも入ってた。

あんまり役には立たなかったけれど、早起きしてちゃんと仕事にもついてくる。バーノンが働く横で見てるだけのことも多かったけど、昼になれば家族が持たせてくれたお弁当を広げてくれた。
当然のように日々同じようなことの繰り返しで、都会でもない場所では楽しいことの方が少ない毎日なはずなのに、夕方になって疲労感も貯まる頃になっても、バーノンの側にはスングァンの歌声が響いてた。
それは流行歌だったり、昔の歌だったり、適当に作られた歌だったりと、様々で。
知ってる歌ならバーノンだって時々は歌う。
そうしたらスングァンは驚いて、でも嬉しそうに笑って、やっぱり楽しそうに歌ってた。
半年も過ぎれば、スングァン不良説なんてただの笑い話に変わってた。
スングァンは誰からも好かれてて、誰とでも分け隔てなく笑顔で接してて。
それでも自由気ままな訳でもなくて、気づけばバーンの側にいた。
確かにそれは政略結婚で、それ以外でなら出会うことすらなかっただろう。でもスングァンと結婚することで得られるものよりも、スングァン自身から得られるものの方が山のようにあると気づいてしまった頃には、バーノンだって結婚式が待ち遠しく思ってたっていうのに......。
スングァンの家が破産するらしいって話が最初は噂としてやって来た。
政略結婚すると決まった時にはすでに色んなものを貰っていたし、その一度きりだと最初から聞いていたんだから、スングァンの実家が破産したからといって、何か約束が反故になるなんてことはなかった。
だというのに、厄介者を押し付けられただけだと言う人もいたし、これじゃぁ大損じゃないかって言う人もいた。
もちろんスングァンのことをちゃんと知ってる人はスングァンを気遣うばかりで、そんなことは一言も言わなかったけど。
結婚式の費用だって最初から貰ってた。花嫁衣装は本人の望むままに好きなようにとも聞いていた。
でもスングァンの実家が困ってるなら、それはバーノンにとっても家族が困ってるのと一緒だった。
だから「結婚式は、別にいいだろ」って言ったのに............。
いつもキャキャキャって笑ってるイメージが強いのに、ぐっと我慢するその顔と、「俺はお金なんて持ってないから、しょうがないよね」って言い方と、俯き加減と、視線が泳ぐその姿に、スングァンの中で結婚式が特別なんだと知る。
たくさん友達が呼びたかったのかもしれない。
盛大に、豪勢に。派手にキラビヤカに。幸せのど真ん中にいるのが、スングァンには確かに似合うかもしれない。
「でも結婚式はしたいよ。2人きりでもいいから。何もなくてもいいから」
泣きそうな顔で、スングァンが言った。
それをバーノンは、盛大な結婚式がしたかったからだと思ったのに、結婚そのものを反故にされてしまうことをスングァンが怯えてただなんて、気づきもしなかった。
2人きりの結婚式だから、当然「永遠の愛を誓いますか?」と問いかける人もいない。
「お、俺でいいのかよ」
バーノンがスングァンの手を取ろうとしたら、スングァンが手を引っ込めて、そう言った。
それまでも劇的な出来事があったなら、バーノンだって「お前がいいに決まってる」とかそれなりなことを言えたかもしれないが、のほほんと暮らしてただけだから、思わず口にしたのは「え?」っていうとぼけた感じの声だけだった。
「みんなが言ってた、ボノニにはぶっさいくな彼女がいたって」
「は?」
「すっごいぶさいくだったけど、それでもつきあってたんだから、きっと物凄く性格が良くてボノニのことを思ってて、相性だってとびきり良くて、そのままなら2人は結婚しただろうにって。でも、でも、俺が、割り込んだんだって」
なんだか韓流ドラマのようだなとか思ってる間にも、スングァンが続ける。
「ゆ、融資されたお金を全部返し終わったら、迎えに行くって、約束したって。け、結婚相手はどうせ男だから子どもができる心配もないし、絶対迎えに行くから、待ってて欲しいって言ったって............」
そう言いながらも、スングァンの目には涙が溜まって行く。
はたで聞いていれば、なんだかそれっぽい話な気もする。でもスングァンの時だって、それっぽい不良説は根強く残っていたことを思い出す。あれだって、皆がそれぞれ思うことを口にしてるだけだったのに、いつの間にか本当のように語られていたはず。
泣きそうなスングァンに手を伸ばしかけたけど、でも我慢できなくて、バーノンは思わず笑ってしまった。
「ヤー、なんで笑うんだよッ」
スングァンが一瞬で怒る。それもまた可愛いってのに、でもやっぱり面白い。
「だって、ぶっさいくな彼女って、どんなんだよ。本当だったら、失礼すぎるだろ」
そう言って笑えば、「嘘なの?」ってスングァンが聞いてくる。
「恋人がいないっていうと、みんなが紹介する紹介するって五月蝿いから、恋人がいるって誤魔化してただけだよ。当然いないから誰にも会わせられないし、そうしたら会わせられないんだって話になったみたいだけど。それにしても、ぶっさいくって失礼な」
そう説明しながらも笑って言えば、「だってみんな、すっごいリアルに言うんだもん」とスングァンも笑う。
不機嫌そうだったのが嘘のように楽しそうに笑いはじめたスングァンが、「良かった。ボノニがブス専だったら、俺お嫁さんとして失格だし」とか言い出したから、またバーノンは笑ってしまった。
ブ、ブス専ってなんだよ......って思いはしたけれど、でもある意味正しいかもしれない。
「まぁあってるだろ。ブ専になるんだから」
そう言ってやれば、ちょっとだけ遅れてその意味を理解したのか、なんでか真っ赤になって照れていた。
結婚式は、順調と言えば順調に、だけど適当と言えば適当に進んだ。2人きりだから2人の好きなようにやったってことで。
ブーケトスがしたかったっていうスングァンと、なんでかバレーボールだってした。絶対ブーケトスとは何の関係もないはずだけど、とびきり喜んでたから問題ない。
指輪はいつかって言えば、ドレスもいつか?って聞かれた。披露宴もいつかって言えば、ケーキカットもいうか?って。
「し、新婚旅行もいつか......?」
物凄い凹み顔で聞かれて、やっぱりバーノンは笑いそうになる。
「うん。豪華な新婚旅行はいつか」
そう言ってやれば、今度はキラキラした目をして、「豪華じゃないのはいつかじゃないってこと?」って言うのに頷けば、スングァンは走り回って喜んで派手に転んでた。
助け起こしながら2人でケタケタと笑う。
どこに行こうか。どこまでなら行けるか。質素だけど、質素でもいいよ。そう言いながら2人で話しあった。
スングァンは近くにあった草花で、起用に花冠をつくってた。それを頭に乗せて、「ほら、結婚式っぽくない?」って喜んでいる。
本当はウェディングベールをかぶって、それを花婿さんに捲ってもらって、その時に花嫁さんのあまりの美しさに恋に落ちてもらうのが夢だったとか、ちょっと無謀なことを言っていた。
「え? あまりの美しさに?」
思わず素直にバーノンがそう聞き返したら、なんだよ、夢なんだからいいだろってスングァンはプンスカ怒ってたけど、きっとそんな表情のほうがよっぽど、恋に落ちそうなのに......と思ったバーノンだった。

The END