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SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

天使が空に VERNON side story

注意......

多分。続きモノです。
はじめて「天使が空に」を読まれる方は、contentsよりお進みくださいませ~ 

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天使が空に VERNON side story

バーノンはあの日、一番大切な存在を守れなかった。
争いごとは嫌いだし、戦うという選択肢はいつだってバーノンの中にはなかった。
そんな自分が嫌いではなく、なんならそういう生き方は何よりも正しいとすら思っていたのに、あの日、バーノンは失う訳にはいかない存在の一部を失った。

 

 

確かお菓子を選んでた。
一緒に食べたいものを指さすっていう、遊びでもなんでもないことをしてたはず。
食べすぎる訳にはいかないからと、美味しそうなお菓子を半分こして。バーノンはそんなに太る体質でもなかったから、余分に食べたってへっちゃらだった。だけどスングァンと分け合うお菓子はその行為も含めて嫌いじゃなかった。
楽屋の入り口近くでディノが踊ってたのは見えてた。でも後は誰がどこにいてなんて、全然覚えてなかった。
お菓子が置いてあった机にもたれるようにして、部屋の一番奥から入り口の方を見てたスングァンは、すべて見てたのかもしれない。

「なに?」

小さな呟きは、側にいたバーノンにしか聞こえなかったかもしれない。「ん? 何が?」って言いながらもスングァンの視線を追って振り返った先には、見知らぬ人がいた。
ほとんど同じものを見てた。ディノが近づいていくのも、それを止めたユンジョンハンも。血が流れたのも、エスクプスとジョシュアが叫んだのも。
動けなかったのは自分だって一緒だった。でもエスクプスがドギョムの名を叫んで、ハッとした。
同じ日に生まれたヒョンの、血液型は特殊だったから。
ドギョムのことをホシが後ろから抱きしめるようにして止めてた。
ウジは倒れたままで動かなくて、ジョシュアの服は血に染まってて、バーノンは咄嗟に近くにあったパイプイスを持ち上げて、ドギョムとホシの前に立った。
もしも、もしもこっちに向かってくるなら............。

誰かを殴ったりできるかは判らないし、どんなに正当な理由があったとしても、暴力で解決しようとすること自体に、その考え方すらもバーノンは苦手だった。
暴力はどうしたって、本当の解決にはつながらない気がしたから。どんな理由だろうと傷ついた人の中には恨みが残って、負の連鎖が続きそうな気がするから。

だからいつか、もしもそういうことが自分に起きたとしても、どうにかして負の連鎖は自分のところで終わらそうと思ってた。確かに思ってたのに、バーノンの手にはパイプイスがあって、それは誰かと戦うってことで、咄嗟だったといえ、それは自分が選択したことで。

傷つくのが自分なら構わなかったのかもしれない。でもきっと家族ならダメだ。妹だったり母親だったりしたら許せないかもしれない。
同じように、もう家族も同然な仲間たちが傷ついている。そして血を流すことは絶対にダメなドギョムがいて、守るためには手段を選んでる場合じゃなくて。
握りしめたパイプ椅子は、それほど重たくなかったはずなのに、そんなものを持ち上げ続けることもないからか、気づけば腕が震えてた。
武者震いなのか、怖くてなのか。それすらも判らないまま、バーノンは最後までそれを手放さなかった。

パイプ椅子を、いつ手放したのか記憶がない。
非常ベルを鳴らせとミンギュが口にしたのも聞いていたのに、非常ベルの音にビクついた。
人がたくさん走り込んで来て、救急車も呼ばれて、警備の人が男を押さえてて、気づけばジュンがスングァンのことを呼んでいた。

「大丈夫。もう終わったから。大丈夫」

ずっと呼吸することすら忘れてたんじゃないかってほど固まっていたスングァンは、ジュンに背中をさすってもらって、ようやく息を吹き返した。でも今度は涙が止まらなくなったけど。
どうしてって何度も口にした。そんなの、誰も判らないのに。
ジュンに抱きしめられて少しだけ落ち着いたように見えたのに、スングァンの視線は部屋の中、あちこちを彷徨っていて落ち着かない。
もう大丈夫。そんな思いを込めてその手を強く握ったのに、握り返してもこなかったし、手を握りつづけるバーノンを見てくることもない。
ずっと側にいてくれたジュンが、警察の人が来るからって離れていこうとした時、スングァンは物凄く不安そうな顔をした。その時だってギュッて手を強く握ったのに、スングァンの不安は自分が手を握るぐらいじゃどうにもならなかったんだろう。
ただパイプ椅子を手に、立ってただけだったからかもしれない。何もしなかった、いやできなかったバーノンのことだって、スングァンは見てたから。
タクシーで移動してる間も、病院についてからも、ずっと手を握ってた。バーノンだって何度、「ケンチャナ?」って聞いたか判らない。
スングァンはそれに何度も「うん。うん」って頷いたはずなのに、全然大丈夫じゃないのはすぐに判った。
スングァンが、叫んだから。

「ヒョンッ! 危ないッ! 逃げてッ!」

病室にいたのはメンバーだけで、入って来たのは警察の人だったのに。
ジョシュアは警察の人なのに部屋を出るようにときつく言い、ウォヌは警察の人たちを無理やり病室の外に追い出して、ジュンはスングァンに駆け寄って抱きしめた。
その僅か数秒の間にも、バーノンは横で叫ぶスングァンのことを、ただ見てただけだった。

「逃げて! 早く! ハニヒョンッ! 行かないでッ!」

スングァンはそうも叫んだから、まだあの場所にいて、まだあの出来事を見続けていたのかもしれない。
タクシーにだって乗って、病院の廊下だって一緒に歩いたのに。
病室の中にメンバーしかいなくなってしばらくして落ち着いてみれば、スングァンは自分が叫んだことすら気づいてなくて、でも思い出したように叫ぶようにもなった。
そのきっかけは、小さな物音だったり、ドアの向こう側に見える見知らぬ人の影だったり、声だったり様々で、でも結局メンバーと、長く一緒にいてくれたマネヒョンだけしか病室には入れなかった。

バーノンが繋ぐ手を不思議そうに見てたり、楽しそうにしてたり、照れてたり。ほとんどいつもと同じスングァンなのに、何かに怯え始めるとダメだった。もうジョンハンだけじゃなく、そこにいない誰かを探して、時には手を繋いでるバーノンがいないと悲痛なほどに叫んでた。

何もできなかった。ただ側にいることしかできなかった。叫びはじめてしまえば誰かがきつく抱きしめて大丈夫だと言い聞かせて。その間もずっとバーノンは手を握ったままだったというのに。
もしも自分が抱きしめても叫び続けることをやめなかったら......と一度思ってしまえば、怖くて抱きしめることもできなかった。

誰もスングァンを癒せなくて、治せなくて、もしかしたらずっとこのままかもしれないとも思ったのに、あっさりとスングァンを現実に引き戻したのはウジだった。
気遣わなかったのが良かったのかもしれない。それとも、慣れ親しんだ方法で番号を口にして、ちゃんと13人いることを確認できたことでやっとスングァンの心の中で、ストンと何かが落ち着いたのかもしれない。

叫ばなくなったスングァンの横で、スングァンよりも物音にビクついて過ごした夜だった。いつまたスングァンが叫ぶかと、見知らぬ誰かの足音にすら怯えてた。
何度かは本気でバーノンが飛び起きたほど。でもスングァンはすやすやと眠ってたけど。

見知らぬ人には怯えてたし、結局警察の人とも話さなかったけど、それでも病室のドアを誰かが急に開けてもスングァンは叫ばなかった。
何度か一緒にトイレには行った。その時は手を繋いでた。売店まで行ってもバーノンはその手を離さなかったのに、逆にスングァンの方からその手を離した。

「なんで? いいじゃん」

そう言ったらスングァンは照れて、それからちょっと怒って「別にそんなサービスしてくれなくても、好きなもの買ってやるよ」とちょっとだけ誤解してたけど。

少しずつスングァンは落ち着いてきて、「あの時怖かったよね」と言えば「うん」と頷いていたはずなのに、少しずつだったのか、それとも何か別のきっかけがあったかは判らないけど、あの時のことをスングァンは忘れてしまった。
病院にいることに不思議がったり、何度もジョンハンの頭に巻かれた包帯の理由を聞いたり、それからまた酷く何かにビクつくのに、何に怯えているかは判らないって顔をする。
ずっと側にいて、ずっと手を握ってた。
そうしたら「やっぱりこれって、何サービス?」ってスングァンは言うけど。

「そんなの、ただの愛に決まってる」

本気でそう言ったのに、ケラケラとスングァンは笑ってた。「ボノニが本当は頭打ったんじゃないの」って。
それは暴力事件だったし、話を大きくすれば殺人未遂だったかもしれないし、被害は甚大だったはずなのに、何もなかったことになった。スングァンが忘れなかったら、そうはならなかったかもしれない。ディノは一瞬で納得できないと口にしたのに、バーノンは何も言えなかった。
反応が遅れてるだけなのか、後から怒りが沸いて来るのか、自分の気持ちだっていうのにそれすらも判らなかった。でもそれは、スングァンを自分が守れなかった結果だったことだけは判ってた。

ウジとスングァンの待つ病室に、一番に戻ったのはバーノンだった。
病室の窓から外を見てるスングァンは、病室のドアが開けられてももうあんまりビクつかなくなった。
だからきっとそのうち、本当にケロって全てを思い出すかもしれないし、笑ってあの時はさって言えるようになるかもしれないと少し期待したのに、スングァンは思い出さなかった。
でも見知らぬ人がいると不安になるのか、キョドってる時がある。事務所や練習場では当然そんなことは起きないから、それはいつだってテレビ局に行った時に起きた。いつだって新しいスタッフがいて、別の事務所の人間がいて、廊下にもスタジオにも、見知らぬ人ばかりだったから。

13人もいて、衣装もあって、メイクヌナたちも入ればいっぱいいっぱいなのに、セブチの楽屋はいつだってそんな感じだった。それはその中ならスングァンは安心していられるからだろう。
売れて活躍の場が広がって、もっと広い楽屋や、複数の部屋を用意できるって言われたって、13人一緒にいることを譲らなかったのは、それが理由だったかもしれない。何も覚えてないスングァンが「なんで俺らいつまでたっても楽屋ギチギチなの?」とか言ったって。

近場の廊下で騒ぐことはあっても、遠くまでは行かない。いつまでも2人以上で行動して、「俺ら、いつまでも新人ぽくない?」と笑いあいつつも、誰も嫌がったりしなかった。移動前には当然のように番号を口にして、いつだって一緒にいた。
もう二度と、傷つけたりしない。全員がそう思っていたかは判らない。でもバーノンは確かにそう思ってた。
セキュリティのしっかりした社屋になったって、不審者なんて入りようのないマンションに住めるようになったって。
どんな些細なことだって、2人にとっては大切な出来事ばかりだから。どんな些細な思い出だって、二度と失ったりはしない。
いつまでも一緒に、あの時はって言い合いながら、笑い合って生きていく。そう決めたから。

 

 

退院が決まった日は雨だった。
ウジとスングァン以外が集められた場所での話は、当然スングァンは知らない。
あの日から、無関心を装いながらもずっとスングァンを見てる。そんなバーノンがいることも、スングァンは知らない。でも時々目があって、そうしたらスングァンは照れて笑うけど......。

The END
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