別れは突然訪れる
「俺たち、別れよう」って、ウォヌが言った。
「いや、それはさ。俺に言われても困るんだけど」って言ったのはジョンハンだった。
「いや、そもそもここで言うなって」って言ったのはウジで、そこはウジの作業部屋だった。
「別にハニヒョンに言ってないし、俺がどこで何しようと勝手だろ」
どうやらウォヌは別れ話の練習を勝手にしてるらしい。
ウォヌの目の前にはジョンハンがいて、「紛らわしい。個人練習なら自分の部屋でやれよ」と言えば、ウォヌが「だって俺一人部屋じゃないもん」と言う。なるほど。
一人部屋ではないからと、ウジの作業部屋に来たらしい。
ウォヌのせいで、ウジの作業は一向に進まない。
しかもなんでかウォヌの手には「終わりを察してくれない彼氏と別れる方法」っていう、誰が書いてんだよそんなもの......みたいな本がある。どぎついピンクなその本は、きっと女子中学生とか女子高生に流行っているんじゃないかと思われる。
1章が、「別れは突然訪れる」だった。
鈍感な彼氏にいつもとは違う気配を感じ取ってもらうためには、朝の挨拶は気だるげさを装って無視することって書いてあるらしく、ウォヌはそれを実践したとか。
でもミンギュは全然気にせず、ウォヌのおでこに勝手におはようのキスを落としていったとか。
「1章でもう失敗してるけど、2章に進んでもいいかな?」って、ウォヌが言った。
「いや、そんなこと俺が知るかよ」って言ったのはジョンハンだった。
「いや逆に1章それしか書いてないのかよ。内容ペラペラな本だな。2章に進め進め」とウジが言う。せっかちな方だからだろう。
この場にいたのがスングァンとかなら、「なんで別れたいの?」とか、そもそも論なことをちゃんと訪ねてくれただろうが、案外大雑把で細かいことは気にしないジョンハンと、興味のないことはキッパリどうでもいいオトコマエなウジでは、そこを掘り下げるなんてことはしなかったから............。
「じゃぁ2章に進んでみる」って言って、ウォヌが出ていった。
「あ、別れ話なんて真面目にしないで、フェイドアウトでうまくやればいいのにって言ってやれば良かった」とか、ジョンハンは言っていたけれど、相手がミンギュじゃフェイドアウトなんて無理だって気づいたんだろう。
「ま、無理だな」
って言って、ジョンハンも去って行った。
ウジは一人残されたけれど、これで作業が進むとばかりにパソコンとキーボードに向かいだす。そしてすぐにそんな話を忘れたウジだった。
The END
20220210
記念日にすること
「記念日か............」って、ウォヌが言った。
「なに? ウォヌヒョン記念日なの? 今日」って言ったのはスングァンだった。
「おめでとー」って棒読みで言ったのはバーノンで、そこはスタジオの中、ちょっと離れたところではメンバーそれぞれが楽しそうに笑ってたり踊ってたりふざけてたり寛いでたり。
「いや、記念日かどうかは知らないけど、記念日って忘れられたらショックかなぁ」
「ショックに決まってるじゃん。当然じゃん。ウォヌヒョン何言ってんの?」って必死な感じでスングァンが言う。
「俺は気にしないけど、忘れるとえらい目にはあう」ってしみじみとバーノンが言う。
どうやらバーノンは過去に記念日を忘れた経験があるらしい。そしてえらい目にもあったらしい。
スングァンが当然のように「えらい目ってなんだよ。あれは忘れるお前が悪いんだろ」って一瞬で怒りがぶり返したようで、「ミアネって言ったのに、1週間もプリプリしてたじゃん」ってバーノンが言った瞬間には、「最初は俺が怒ってた理由も気づいてなかったじゃん」とスングァンがさらに文句を言い始めたから、ウォヌはその場をそっと離れた。
「なるほど、記念日を忘れるとそうなるのか......」とか呟きながら。
ウォヌの元には「終わりを察してくれない彼氏と別れる方法」っていう、誰が書いてんだよそんなもの......みたいな本がある。さすがにスタジオまでには持ってきてないけど。
その2章が「記念日にすること」だった。
鈍感な彼氏に気持ちのすれ違いを認識して貰うには、記念日に素知らぬ顔をすることって書いてあった。
相手から言われるまで黙っておく。そして記念日に触れられたら、「あぁ」程度で素っ気なく............って。
書かれてることも理解した。読んで「なるほど」とも思ったウォヌだったけど、問題は、肝心の記念日をウォヌが全く覚えていないことだった。
「俺らの記念日っていつだろ?」
「俺とお前の?」うっかり通りかかってしまったウジが驚いていた。
「いや、俺とミンギュの」
「は? 俺が知るかよ。まさか、あの本の2章がそれなのかよ」察しの良いウジが言う。
「うん。記念日に素知らぬ顔してないといけないんだけど、記念日がわからない......」
「ミンギュに聞けよ......」
自分からミンギュに記念日を聞いたら本末転倒な気がしないでもないが、しかしかまぁ、聞かないと始まらないかもしれない。
とりあえずあっちの方でディノとふざけてるミンギュを捕まえて「なぁ、俺たちの次の記念日っていつ?」って素直に聞いたウォヌだった。
ミンギュはちょっとだけ驚いて「ウォヌヒョンがそんなこと言うなんて珍しい。どうしたの? でも記念日は、実は今日だよ。はじめて............した日だから」と、ウォヌの耳元で囁いてくれた。
記念日には素知らぬ顔をしてないといけないというのに............。
「2章も失敗したけど、3章に進んでみるよ」と、何故かウジに報告にきたウォヌだった。
「いや俺に報告すんなよ。それにしても役に立たない本だな。3章に進め進め」とウジが言う。
「うん3章に進んでみる」って言って、ウォヌがスタジオを出ていった。
スタジオの中ではミンギュが相変わらずディノとふざけてる。でも物凄く幸せそうにも笑ってた。
「全然、無理じゃん」
それを見てたウジが呟いたけど、すぐにそんな話は忘れたウジだった。
ウジのもとにもホシが来て、騒ぎ出したから......。
The END
20220223
ケンカをした時の怒り方
第3章は、ケンカをした時の怒り方によって、彼氏のタイプを考えるっていう章だったけど............。
「なぁ、ミンギュが怒ったとこって、見たことある?」
「いやあるだろ。こないだもなんか、1人でキレてたじゃん」
「............うん。確かマスクをもって出るの忘れてキレてたし、新しいマスクの紐が切れたってキレてたし、マスクをトイレで落としてキレてた」
ウォヌの前で、当然のように「ある」と言ったのはホシで、器用そうで案外うっかりだからか失敗の多い姿を見てたらしいのはジュンだった。
当然そこはウジの作業室で、「それは物に対してだろ? 人に対して、怒ることってないだろ?」そう言えば、「あいつは怒るっていうより拗ねるじゃん」とホシが言えば、「あの図体で子犬みたいな顔してくるな」とジュンが言う。それに対してウォヌが「だよな」って言っていた。それから少し離れた場所でパソコンに向かってたウジは、早々に気づいたのか頭を抱えてる。
「で、なんだよそれ」とホシが聞く。
「うん、ケンカした時の怒り方で、いろいろタイプがあるみたい」とウォヌが答える。
「どんな?」ってジュンが聞けば、掘り下げるなとでも思ったのか、さらにウジが頭を抱えてた。
「押し黙るタイプとか、逆に冷静になって詰めてくるタイプとか、逆切れするタイプとか、怒鳴るタイプとか? それによって、対処方法が違うんだよ」
「まぁアイツは、怒ったら黙々と料理とか掃除とかするんじゃね?」
「あぁそうかも」
「それにミンギュは怒っても、長続きしないだろ?」
「うん、そうかも」
そもそもケンカをしないし、ミンギュは怒ったりしないし。
「ヒョン、俺、怒ってるけど?」って口にしたりはするけれど、「どこらへんが怒ってんの?」って聞けば、本人だって悩むほどだから、やっぱり怒ったりなんてしない。
結局3章もまた、役には立たなかった。
見ればウジがこっちも見ずに手を振っている。たぶんそれは、「次へ行け次へ」って言いたいんだろう。
ウォヌも諦めたかのように、「4章に進んでみよう」とか口にした。
そこでようやくホシとジュンが、ん?って顔をしてウォヌの手元にあるどぎついピンクの本を覗き込んできた。
「なになになになに? 別れたいの?」とホシが冗談だろって感じで笑ってる。
「へぇ」と、ジュンは興味なさげ。
まぁでも、ウォヌが「でもこの本、俺にくれたのディエイトだけど?」って言ったらジュンが飛び上がる勢いで立ち上がったと思ったら、慌てて部屋から出ていったけど。
それからホシには「読み終わったらこの本、ウジにあげる予定だけど?」って言えば、ホシが物凄い焦って、「え? やめろよ。どういうつもりだよ」とちょっとだけ必死になっていた。
もちろんパソコンに向かい続けてたウジは心の中で、『ぁあ? いらねぇわッ』とツッコんでいたけれど............。
The END
20220309
どうしてもうまくいかない時は
第4章はそんなタイトルだったから、今度こそは上手くいくんじゃないかと思ったら、その方法は「電話で伝える別れ話」だった............。
いや、同じ部屋だから、電話で伝えても夜には出会う。もはや今度も失敗臭しかしなかったけど、ウォヌはとりあえずミンギュに電話した。
「別れたいんだけど」
そしておもむろに真っ向勝負に出たほど。
しかもちゃんと考えて、「今日はクプスヒョンの部屋に泊まるから」とも口にしたウォヌだった。
「おぉ、なんか本気っぽいじゃん」と言ったのはジョンハンで。
「え? お前俺んとこで寝んのかよ」と言ったのはエスクプスで。
「まぁ好きなとこで寝ればいいよ」と他人事のように笑ってたのはジョシュアで。
95ラインが揃ってた......。でも95ラインだけじゃなくて。
「まだ言ってんの?」と笑ってたのはホシで。
「ディエイトだってあの本、スタッフヌナから貰ったって言ってた。興味はないって」って必死に言ってたのはジュンで。
「いや、無理だろ。今から全体練習だし、寝に帰っても3時間後にはまた会うし」と呆れてたのはウジで。
「なになになに? 別れ話?」って楽しそうだったのはドギョムで。
「はいはいはい。犬も食わない奴でしょ」って興味なさげだったのはディエイトで。
マンネラインの3人はまだ集まってなかったけれど、ミンギュはドギョムとディエイトともうそこにいて、結局は同じ部屋の中でウォヌからの電話を取ったミンギュがいただけだった。
だからミンギュは「わかった。じゃ、風邪ひかないように、部屋から寝間着もっていきなよ」ってウォヌに直接話しかけている。
別れどうのこうのはスルーしたのか、エスクプスの部屋に泊まることだけ理解したらしい。
まぁ、本気だとは思われていないんだろう。
ミンギュとしてみれば、ケンカした記憶もないから当然と言えば当然で。
「この本、ダメかも」って呟いたウォヌに。
「今さら気づいたのかよッ」ってツッコんだウジがいた。
The END
20220321
別れたい理由は明確ですか
第5章。それでも別れられない人は、「別れたい理由は明確ですか」って問いかけられてた。
そろそろジョンハンやウジ以外にも、ウォヌが別れようとしてることは伝わりはじめていた。
そしてその時、珍しくもジョンハンもウジもいなかった。
まぁ今日はドギョムの部屋に泊まりに来ていたからだけど............。
なんでかウォヌが自分の部屋以外で眠るのを、『お泊り会』だと喜んで、そこにはバーノンの部屋に泊まりに来ていたスングァンもいた。そしてジョンハンから「別れの理由を探ってきて」と頼まれたジョシュアもいた。
でも全員でなんだか楽しくてわちゃわちゃしただけで終わった翌日の朝、といっても昼近く。
忘れてたとばかりにジョシュアが聞いた。
「で、なんで別れたいの?」
そこには寝起きでボーっとしてるスングァンと、朝からハイテンションで歌いそうなドギョムと、スングァンに起こされて来たけど座ったまま寝てるバーノンと、食べ物や飲み物の準備をしてくれてるディノがいた。
「性格の不一致とか?」
ドギョムがそう言えば、「そんなの何年のつきあいだと思ってるんだよ。もう今さらじゃん。何考えてるかも全部判るのに」とスングァンが指摘する。
その意見に、寝てるバーノン以外が「そうだよな」って納得してたのに、シリアルにたっぷり牛乳を注ぎながらウォヌが答えた言葉に全員が固まった。まぁ、寝てたバーノン以外は......だけど。
「いや、性格の不一致というよりは、性癖の不一致?」
「「「「........................」」」」
ウォヌもまだ眠たいのか、バーノン以外の全員が固まってるっていうのに、何も気づかずにシリアルを混ぜている。「固めよりも少ししっとり派だから」とか言いながら。
ジョシュアは何も言えなかった。いや、「どういうこと?」って聞いても良かったけれど、ここにはディノがいたから、話を膨らます訳にはいかなかったから。
ドギョムもまた何も言えなかった。いや、「癖って......?」って聞きたくはあったけど、きっと何を聞いても目の前に広がるのは断崖絶壁ってぐらい、その話題には乗れないことが判っていたから。
スングァンもまた、何も言えなかった。いや興味はあった。興味はあったけど、勇気はなかった。心の中で結構必死に『ハニヒョン』ってユンジョンハンのことを呼んでしまったほどだったから。
バーノンもまた、何も言えなかった。まぁ寝てて何も聞いてなくて、今もまた寝続けているからだけど。
そしてディノが、「はいッ。質問ッ」って、物凄くまっすぐ手を挙げた。
てっきり『性癖』っていう言葉の意味でも確認されるのかと思ってバーノンと、それを発言したウォヌ以外の全員が慌ててたというのに、ディノのことを溺愛してるウォヌは、その元気な「はいッ」に喜んで、なんでか「はい、じゃぁディノさんどうぞ」とか言っちゃって、楽しそうに笑ってた。
そしてまた、ディノの言葉に全員が固まった。まぁ、寝てたバーノンと、もともとの発言をしたウォヌ以外は......だけど。
「っていうかさ。性癖の不一致って正直よく判らないけど。ウォヌヒョンはミンギュヒョンに満足してないってこと? それとも、ついていけないってこと?」
「「「「........................!!!!!」」」」
マンネなディノの、何その大人な発言。しかも絶妙に的確な質問。
全員がビックリした中で、ウォヌが「ん............。どっちかというと」とか、それに答えようとするもんだから、思わずジョシュアが珍しくウォヌの後頭部にチョップして、それを遮っていた。
そして当然のように、ウォヌはジョシュアに連れ去れた。
「俺ら、今日、個別のスケジュールあったの忘れてたわ」って、明かにウソと判る言葉と「はははははは」っていう乾いた笑いを残したジョシュアだった。
The END
20220323
別れのあと
ウォヌはまた、シリアルにたっぷり牛乳を注いでいた。
ジョシュアに連れ去られたせいでシリアルが食べられなかったからだけど、連れ去られた先はジョンハンたちの宿舎で、まぁ別にここでもシリアルは食べられるし......と、衝撃発言をかましたなんて雰囲気は微塵もなかった。
ちなみに本の最後の章は「別れのあと」だったけど、結局別れなんて訪れなかったから、役に立たなかった。本はウジの作業部屋の本棚の中に入れておいた。そのうちバレて捨てられるかもしれないけれど、新しい作業部屋は案外カラフルだから、バレないかもしれない。
「で、なんでいきなりそんな不一致が起きたんだよ」
ジョシュアから話を聞いたジョンハンが聞いてくる。
珍しく宿舎にいたウジは「慄くわ」と引いていた。その隣りでホシが「いやまぁでもそれは結構、かなり、大事だよな」とかしみじみ口にして、横にいたウジから「黙れ」とか言われていたけれど............。
「いやそれこそ、今更だろ? そういうのは、2人でちゃんと話し合えよ。バカバカしい」
ジョンハンがそうも言う。たった1つしか違わないけれど、ヒョンらしく言わねば......とでも思ったのかもしれないが、ウォヌからの返事に今度はジョンハンが言葉を失った。
「でも、ミンギュが急に車の中でやってみたいとか言い出したのって、クプスヒョンから自慢されたからなんだけど」
「は?」思わず口にしたのはジョシュアで............。
「お、慄くわ」今度そう言ったのはホシで............。
「いや、それは俺でも別れるわ」物凄い小さい声で呟いたのはウジで............。
口をパクパクしてたジョンハンだけが、何も口にしなかった。いや、できなかったんだろうけど。
「今はもう全方位のドライブレコーダーがあるから無理だろうけど、俺らのころはまだ無かったもんって自慢気に言われたらしい。それでミンギュがクプスヒョンに負けたくないって言いだして迷惑してるのはこっちなんだけど」
口をパクパクしてたジョンハンの手が、プルプルと震えてた。
驚きから怒りに変わり始めたのかもしれない。
「俺、忙しかったんだ」と言っていち早く逃げたのはウジで、「俺も踊り考えなきゃ」って言いながら続いたのはホシで、当然ジョシュアだって、「今日確か個別の仕事が」とか、またしても嘘丸わかりな言葉を残していなくなった。
3人とも去り際に、後ろから「ヤーーーッ! チェ・スンチョルッ!!!」って叫ぶジョンハンの声を聞いた。
その後、エスクプスともども、ミンギュまでもが一緒になって、ジョンハンに相当怒られたらしい。
結果、ウォヌの中ではいろいろ落ち着いたのか、特に別れ話を口にすることはなくなった。
The END
20220331
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