ディノにはヒョンが十二人もいる。
誰が一番とか二番とか。そんな順番なんてなく、みんながみんな、頼もしくて優しくて大切で。
マンネは大変なんだよって顔をする時もあったけど、でもマンネだからって押し付けられるのは優しさばかりだったから......。
二十歳もすぎたし、もう「ディノは誰の赤ちゃん? って聞かないで」と言えば、「嫌だね。俺は言いたい時に言う」と言っていたハニヒョンは、でもあまり言わなくなった。ちょっとだけ寂しかったけど、それは内緒。
もう大人だ。マンネなことは変わりはしないけど、それでも一人前として見てもらえてると思ってたのに......。
「ど、どうして、知ってたんなら教えてくれなかったんだよ」
泣きそうになりながら、ハニヒョンに詰め寄ってしまった。
十二人しかいないスタジオでは、急遽十二人での動きをあわせるという。
誰かが別仕事の時もあるから、いつだってありえる状況なのに、なんでこんなにたった一人の不在が大きいのか。
クプスヒョンが統括リーダーで、存在が大きすぎるからなのか。
それともいない理由が理由だからか。
「ごめんな」
ハニヒョンが謝ってくれたけど、悔しくてしょうがなかった。知らされるまで気づけなかった自分に、当然のように知ってた兄たちに。
伸ばしてたはずの髪を切って、男前になったハニヒョンに、「キレイもカワイイも完璧なのに、カッコイイまで持ってくなんてズルいよ」と言ったのはいつのことだったか。その時も確か困ったような顔で笑って、「俺だってやる時はやるんだよ。ヒョン感もオッパ感も、山ほど出してくぞ」って言ってたのは、自分がしばらくは一番上として頑張らなきゃと思ってたからかもしれない。
教えてもらってたとしても、何もできなかったかもしれない。自分が知ってしまうことの方が、クプスヒョンにとっては辛いことだったかもしれない。でも、でも。
やっぱり悔しくて、「ほんとにごめん」と困ったように言ってくれたハニヒョンに向かって、「謝らないでよ」とさらに怒ってしまった。
「クマネ」
止めたのはミンギュヒョンで、いつもよりも真剣な顔で声で、それもまた怒ってるように見えて。でも怖くなんてなかった。許せなかった気持ちの方が強かったから。
「俺は悪くないよッ」
悔しくて悔しくて。ただ悔しくて。
あぁでも悪くないのなんて、誰も一緒だったのに、なんでハニヒョンに詰め寄ったのか、ただの八つ当たりでしかなかったのに、なんでハニヒョンは謝ってくれたのか。
その日、どうやって過ごしたかをはっきり覚えてない。クプスヒョンの抜けた穴を埋めるのはほとんどが自分以外のメンバーだったから、大変さは誰よりも少なかったはずなのに、いつもよりも大変だったのか、イライラしてたからか、踊っても踊ってもいつもみたいに楽しくなかったことだけ覚えてる。
「ごめんな」
ハニヒョンがまた、謝ってくれた。
十一人で活動することが決まった日。謝らなきゃいけないのは自分のはずなのに、「黙っててごめん」「一緒にいられなくてごめん」「俺まで、ごめん」「すぐに戻って来るから、ごめん」と、何度も何度も謝ってくれた。
多分グズグズ自分が泣いてたからだろう。
だって泣けてくる。誰が一番とか二番とか。そんな順番なんてなく、みんながみんな、頼もしくて優しくて大切で......なんて、ほんとは嘘だから。ハニヒョンが一番好きだから。いつだって自分のことを一番に思ってくれてるハニヒョンだから。
何度も辛そうな場面を見てきたはずなのに、気づけばもう動くことすらできないような状況に、なんでその深刻さに気づけなかったのか。
自分の方こそたくさん謝らなきゃいけないのに、涙はたくさん出るのに言葉は全然出てこなかった。「泣かせてごめん」と言ってくれたのが最後。
96ラインの四人のヒョンたちが、さも当然のように十一人での動きについてはなしあっていたから、やっぱり自分以外は知っていたんだろう。
「ウルジマ」
泣くなと言ったのは、やっぱりミンギュヒョンで。「泣いてる時間なんてないぞ」と背中を押してくれた。
ディノにはヒョンが十二人もいる。多すぎると言われることはよくあるけれど、そんなことはない。絶対、そんなことない。
The END
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