ユンジョンハンがズルをした。
もはや通常運転すぎて、それがユンジョンハンとも言えるかもしれない。
だけど珍しくディエイトが怒ってた。
「ハニヒョン、いつかバチが当たるからね」って。
一緒にいた97ラインのミンギュが「あれがユンジョンハンじゃん」と言えば、ドギョムもまた「ハニヒョンに怒ったって無駄だよ」と言う。
「みんなハニヒョンになんでそんなに甘いんだよ」って、だから余計にディエイトは怒ったっていうのに、「だってハニヒョン優しいじゃん」とドギョムが真剣な顏で言う。
面倒見がいいのだって、優しいのだって知ってるけれど、それにしてはイヒヒヒヒって笑ってズルをしても許されるなんてと、ディエイトがプリプリまだ怒ってる。
「まぁ気まぐれだけど、ハニヒョンは基本優しいよ」
そうミンギュが慰めていた。
でもドギョムは首を傾げてた。だって、気まぐれなんかじゃなく、ドギョムにとってはいつだって絶対的に優しいヒョンだったから。
不機嫌になったらお互いに黙ってしまうけど、それでも、「なんでお前も不機嫌なの?」って絶対に声をかけてくれるユンジョンハンは、そばにいて欲しい時にいつでもそばにいてくれるヒョンで、困った時にも辛い時にも大変な時にも、ドギョムが思わず視線で探せば必ず目があって、絶対にそばにいてくれる。そんなヒョンだから。
ユンジョンハンと一緒の部屋で、ドギョムは凄い......と、スタッフヌナたちや新しいマネヒョンとかは褒めてくれたりするけれど、全然凄くなんてない。だって色々細かい制約があるとかいいながら、ドギョムと一緒にいてくれるのはいつだってジョンハンの方だったから。
出会った頃のジョンハンは、線の細い、カッコイイとカワイイでいうとカワイイって感じの人だった。いつの間にかキレイでカッコよくて、カワイイも持ってる人になっていたけど。
なんとなく優しい人だとも気づいてはいたけれど、ドギョムの中では、みんなに平等に優しくしようとしてるように見えて、誰にでも親切な人なんているはずがないから、ちょっとだけ胡散臭くて、最初は馴染めなかった。
自分勝手にも、ワガママにも見えるのに、どうしたって優しくて、知れば知るほど、本当にみなに優しいヒョンだった。もちろん時々はイヒヒヒって笑ってイタズラもするし、騙そうとするし、ゲームではいつだってズル賢く勝ってしまうヒョンだったけど。
決定的だったのは、耳が聞こえなくなった時。
いや正確には、聞こえなくなった訳じゃなかったけど......。
その時ドギョムは外部のスタジオの、外が見えるガラス張りの室内にいて。スタジオだからか、外の音が全く聞こえなくて、たまたま一人で。
ジョンハンは外にして、ちょうど道路の向こう側にいて、両手にお菓子やら飲み物がいっぱい入ったコンビニの袋を持っていて。
スマホを持ってる手を振って、電話かけるよってアピールしながら、ジョンハンに電話をかけた。ジョンハンが持ってる荷物の中に、自分の好きなお菓子はある?って聞きたくて。
外では両手に荷物持ってるんだから、無理無理って文句を言ってるのが丸わかりのジョンハンがいたけれど、「ヒョン出てよ。出てって」って言いながらもかけ続ければ、呆れたような顔で、荷物を足元におろしてから電話に出てくれたジョンハンだった。
「あぁもう荷物いっぱいなんだから、電話になんて出れないって」
たぶんそう言ってるんだろうなっていう表情でこっちを見てたけど、持ってるスマホからは、ジョンハンの声が全く聞こえなかった。
思わず自分の握るスマホを見て、誰と繋がってるのか確認したほど。
耳が不調なことには気づいてて、でも騙し騙し、大丈夫と信じてやってきたのに、あぁ、とうとう、聞こえなくなっちゃったんだ......と思った時には、そう呟いてもいたんだろう。
その時には、まだ片方の手に荷物を持っていたはずのジョンハンが荷物を放り出して、道路をまっすぐに渡ってくるところだった。
思った以上に音が聞こえないってのは怖くて、哀しくて、ちょっとだけ震えてたかもしれない。ドギョムのところまで、ジョンハンが猛ダッシュで駆けてきてくれるまで、一分かかったかかからなかったか。その僅かな時間で、自分がセブチじゃなくなることまで考えたほど。
「ドギョマッ」
でも駆けつけてきたジョンハンの叫んだ声はちゃんと聞こえて、「ヒョンの声は聞こえる」って驚いてたら、「俺だけ特別なのかも」って言いながらも、落ち着け、落ち着こうって、ドギョムのことも自分のことも落ち着かせるように何度も何度もそう言いながら、ずっと背中を擦ってくれた。
その時はただドギョムのスマホが壊れてただけで、本当に音が出てなかっただけだった。でもお先真っ暗な感じのドギョムがそれに気づける訳もないし、機械が苦手なジョンハンに気づける訳もなく。
結局は後から「ハニヒョン、危ないから道路いきなり渡らないでよ」って言いながら自分の分の荷物にジョンハンの分まで抱えてやってきたミンギュが冷静に状況を判断して、「じゃぁ俺がドギョムのスマホ鳴らすから、出て見て」って言ってくれたから気づいたことだったけど。
でも検査に通った病院にも、手術の時にも、その後の検査にも、忙しいのにいつだってジョンハンはついてきてくれて、「大丈夫」なんて一言も言わずに、いつだって背中を擦ってくれた。
かけて寝たはずの音楽が止まっていた時にドギョムがひどく怖がったから、二人で泊まる部屋では音楽をかけずに眠る。ホテルの部屋で音楽をかけないのも、ドギョムの耳を気遣ってくれた結果だったのに、いつのまにかジョンハンが「音があったら眠れない」ってことになっていた。
耳鳴りが酷くて枕で耳を塞いで堪えていたら、やっぱり背中を擦ってくれる。
ドギョムが眠りにつくまで、とりとめもなく話してもくれる。
それにドギョムが負担にならない程度には、ワガママだって言ってくれる。それもまた優しさとしか思えないのに。
「ほんとに、あの性格なのに、たまに天使に見えるから不思議だよね」
ディエイトがまだ怒ってて、ミンギュがまぁまぁと宥めてる。
いつだってドギョムにしてみれば、天使みたいな人なのに。
本当にあの優しさが気まぐれだというのなら、ドギョムにしてみれば、ジョンハンはいつだって気まぐれているってのに............。
いやでも時々は本当にイヒヒヒって笑うんだけど。
それでもやっぱり、優しいんだけど。
The END
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