このおはなしについて......
MYMY7。
どこまでも自由に書けるこのおはなしが、かなり好きです。
ということで、まだ「MYMY」の全てを知らない方は、contentsページへどうぞ。
あの太陽の上へ
船から落ちた時、ウジは身体が落ちていく感覚よりも、驚くよりも早く小さくなっていく船が不思議だった。
船からも仲間たちからも離れるつもりなんてまだなかったのに、こういうのは突然、やって来るもんなんだなって気持ちが恐怖よりも先に浮かんだ。
あんまりにも高い場所を飛んでたから、地面に叩きつけられるのはまだまだ先だと思えたからかもしれない......。
「ウジが落ちたッ」
そう叫んだのはウォヌだった。
ホシがウジを追って飛び降りると思ったのに、ホシが飛びついたのはジョンハンだった。それはまさにジョンハンが船から落ちる勢いで身を乗り出したからだろう。
「掴まれッ」
滅多と叫ばないのに、ジュンが叫ぶ。
「全員掴まれッ」
ジョシュアがそれにならって叫ぶ。
ジョンハンはそれを見てた。
器用に、でも着実に生きてるはずの、船から落ちるなんて絶対しなさそうなウジが落ちる瞬間を。
「ぅお?」って声だって聞いた。
絶対に間に合わない距離にいたのに手を伸ばしたし、船から自分まで落ちそうになるほど身を乗り出したのを、なんでかホシに必死に掴まれていた。ホシこそウジを追って飛び降りていきそうなのに。
こんな時、便りになるのはエスクプスだろうと振り返ったのに、エスクプスは普段から大きな目をさらに大きく見開いて固まってた。
現実を理解できなかったのかもしれない。
でもウォヌが叫んで、珍しくもジュンまで叫んで、それからジョシュアの声がした。覚えてるのはそこまでだった......。
船ができる限りの早さで地上に向かって速度を上げたから、こういうのをきっと、真っ逆さまっていうのかもしれない。
ジョンハンが船から投げ出されなかったのは、ただただホシが必死にジョンハンともどもどっかにしがみついていてくれたからで、エスクプスなんかは船の中でその勢いに負けてどっかにふっ飛ばされて行った。
堕ちるって、誰かが叫んだかもしれない。
でも正確には堕ちてるんじゃない。地上に向かって飛んでいた。
落ちたウジの下にでも回り込もうかって勢いで。
いざって時に案外男らしかったのは、マンネなディノだった。と言ったのはスングァンだったけど、それに首を傾げてたのはバーノンだった。
「ディノはただただ怖かったから、固まってただけじゃないの?」
バーノンの言う通りだった。
掴まれって言葉を聞いた時、ディノが咄嗟に掴んだのは眼の前にいたスングァンだった。
別に助けようと思った訳でもなく、ただただ咄嗟だっただけ。
それから船が真っ逆さまになって、さっきまで壁だった場所に転がってたって、ディノはスングァンのことを離さなかった。ただただ掴まれって言葉だけが頭の中にあったからかもしれない。
でもスングァン的には自分を支えてくれてるように見えていたんだろう。何があっても離さないぞっていう強い意志も感じたのかもしれない。
ウジが落ちたことも、ちゃんと認識してなかったかもしれない。
船の中で掃除をしていたマンネラインだったのに、見事に部屋はぐちゃぐちゃになっていた。
でも誰もケガはしなかった。
ディノは全然スングァンを離さなかった。
ジョシュアが「もう大丈夫」って言いにくるまで。
バーノンが「もういいんじゃない?」って言ったって。
片手だけはスングァンから離れたけれど、その手で今度はバーノンのこともしっかりと掴まえただけだった。
3人でかたまってったら無事ってことはない。でも船での暮らしをはじめてから、まとめて守られることが多かった。だからか3人で一緒にいると少しだけ安心する。
それに大抵のことは、3人で一緒にかたまってる間に終わってる。
船から落ちたらしいウジだって、気づけば回収された後だったりする......。
ミンギュは料理中だった。
特別に美味しい何かだった訳ではないけれど、普通に美味しい何かではあったはず。
だけどウジが落ちたって聞いた瞬間には、火をとめて持ってたフライパンごとゴミ箱にしてる箱の中に突っ込んで、さらにそれに上から蓋をして抱え込んだ。
もちろんその間にも、近場にいたドギョムのことを引っ張り倒して一緒に抱えるようにして、狭い場所で身体を突っ張らせた。
でも絶対、誰かが落ちたらミンギュだってそうするだろうっていう行動を、やっぱりジュンもとったから。
それから誰がどこにいたかを考えた。
ジュンは操縦席にいて、ホシは当然ウジと一緒にいただろうし、エスクプスの姿は見えていた。ウォヌとジョシュアの声は聞こえた。
マンネラインの3人は揃って部屋の掃除をすると言っていた。
ドギョムは腕の中にいる。
「ユンジョンハンとミョンホはッ?」
ドギョムだってミンギュに抱えられてしがみ付きながらも、「ハニヒョンッ、ミョンホヤッ!」って、どこかを探すように声を張っていた。
真っ逆さまになって加速する。高いところが苦手だってのに、それでも外が見えないだけマシだったはず。ミンギュとドギョムには盛大に色んなものが落ちてきたけれど、必死すぎて痛みはなかったかもしれない。
「ハニヒョンは? 誰か、ハニヒョンはッ?」
抱えてるドギョムが、そう叫ぶ声だけは聞こえたけれど、それに対する返事は聞こえてこなかった。きっともう誰もが必死だったからかもしれない。
ミンギュのように身体を必死につっぱることすらしなかったのか、「ぅぁあ~」って言いながらエスクプスが滑るように移動していくのは見えた。
エスクプスは驚いていた。
ウォヌが叫ぶよりも前に、ウジが落ちていく瞬間を見てたから。目は飛び出るんじゃないかってぐらい見開いたし、口もあいたかもしれないけれど、声は驚きすぎて出なかった。
現実じゃないみたいな光景の中で、ウォヌが叫んで、ジョンハンが飛び降りる勢いで身体を乗り出して、それをホシが必死に止めて。
それでもってジュンが叫んだ次の瞬間ぐらいには、わーーーーって言いながら自分がどこかに吹っ飛んでった。
1番上のヒョンなのに......と、後から残念そうに言われたけれど、そんなの、しょうがない。
助かって戻ってきたウジのことを抱きかかえてしばらくしがみついていた時にも、誰かに1番上のヒョンなのに......と言われたけれど、ウジが離せなかったんだからしょうがない。
その後にジョンハンのことも抱きしめてしばらく離さなかったけれど、ジョンハンはそんなこと言わなかった。
何度もドタバタすることはあった。はじめて船で空を飛んだその時から、本当に何度も。
いつだって必死だったけど、そのたびに失えない12人だって毎回思ったけど......。
考えれば考えるほど怖くて悲しくて、やっぱりジョンハンから離れられなかった。
1番上のヒョンなのに、大規模な後片付けをブッチした......とマンネラインにまで言われたけど......。
ジュンは相変わらず、操縦桿を握ってた。
でも飛んでるとか飛ばしてるっていうよりも、浮いてるって感じで、風に流されてるって感じだったから、せいぜいが何かにぶつからなきゃいいって程度だった。
そう言えばいつも、「この空の上で何にぶつかるってんだよ」とウジは言うけど、ぶつかる時はぶつかる。
普段は船の上であちこち見ながら指示してくるだけなのに、ウジは珍しく甲板にいた。手すり近くだった訳でも、手すりに跨っていた訳でもない。
でもウジは小さくて軽かったからかもしれない。
飛んできた何かにあっさりと持っていかれて、ウジは船から落ちてったから......。
ウォヌが叫んだのも聞いてたし見てた。ボーっとしてそうだし、日頃はのんびりしてるようにも見えるのに、叫ぶその速度は早かった。
ウジを追って船から飛び降りそうなホシはジョンハンを掴まえてた。ジョンハンの方が飛び降りていきそうな勢いだったから。
ハオはエンジン室にいる。
マンネラインたちが部屋の掃除をすると言ってたのは知ってた。
後は全員、ジュンからは見えていた。
だからできたのかもしれない。
「掴まれッ」
珍しく叫んだその後にはジョシュアが「全員掴まれッ」と叫んでくれたけど、ジュンが叫んだ相手はホシとウォヌに向かってだった。
その2人とジョンハンだけが、船の外にいたから。
後はきっとどうにかなる。
ジュンは信じて、地上に向かって船をはしらせた。
ディエイトは異変を、エンジンが高速で回りはじめたことで知った。急旋回だろうと急降下だろうと、元から狭いその場所では、咄嗟に足を突っ張ればどうってこともなかった。
ウジが落ちたと後から知った。
ジュンが必死になったと、後から聞いた。
エンジン室だって壁にかけてた紙類は散乱したぐらいだから、船の中は言わずもがなだった。
「人数が減ることだって、いつかはあるよ」
船の中ではエスクプスがジョンハンを抱きしめたまま離さなかった。ディエイトはそういうこともあるよと軽い感じで伝えたかっただけなのに、「お前は本当にもぉ」とミンギュとドギョムに小突かれた。
2人とも、なんだか食材にまみれていたけれど......。
「ジュニヒョンだって、クプスヒョンみたいに俺に抱きつきたいかもしれないじゃん」
掃除を手伝えと言う2人にそう文句も言ってみたけど、興奮してるのかテンション上がりすぎたのか、ジュンはひたすら、ホシとウォヌとウジに向かって起きた出来事を詳しく語ってた。
「よくあの3人、あのはなし何度も聞けるよね。そもそも自分たちだって当事者で、当然知ってるはなしなのに」
ドギョムが関心してた。
「ウォヌヒョンは優しいから」
ミンギュは何故かウォヌだけを自慢してた。
掃除をしてから身体を洗うか。身体を洗ってから掃除をするか。そんなことを悩む2人に「全部まとめて捨てよう」と面倒になって言えば、ドギョムは「もったいない」と言い、ミンギュは「せっかく集めたのに」と言う。
「お前らごと捨てたっていい」
そう言ってやったら、「もろともだ」って言われて、2人に抱きつかれたけど......。
ジョシュアはちょうど、船の外と中の間、つまりは入口にもたれてのんびりしてた。
外ではウジとホシがわちゃわちゃしてて、それをジョンハンが見てて、ウォヌは甲板を散歩するって、すぐに折り返すはめになるその場を1人楽しそうにウロウロしてて。
船の中を見ればジュンが相変わらず操縦桿を握ってた。でもそれほど真剣にでもなくて、ただただ船はふわふわとしてるだけ。
船の奥からは良い匂いとともに、ミンギュとドギョムが何かを作ってる音がしてて、船の中からはエスクプスが「お前がそこにいるとジョンハニが見えにくいじゃん」と文句を言っていた。それなら自分だって出てきたらいいのに。
それからマンネラインの3人は、部屋の掃除をしてた。
時々3人は楽しそうに今日は何しようゲームをする。その日1日何で楽しむかすらゲームで決めるってそれに、「3人で1日、完璧な部屋の掃除」ってお題をねじ込んだのはジョシュアで、「いやでも当たるとは限らないもん」と言っていたスングァンっが見事に引き当てていた。
バーノンなんかは「完璧なってなに?」とか言っていたけれど、ディノはしっかりと「隅から隅までってことだよ」とも言っていたから、どうにかなりそうだった。
それにマンネラインの3人は、掃除だってきっと楽しめるはずだから。
楽しいばかりの日常の一コマ。ありきたりな1日。空を飛ぶことにも慣れてきて、ちょっとした強風すら「今日は風が強いね」って言える程度になっていたっていうのに......。
ウジは落ちていた。
普段はおっとりしてる感じなのに、一番にウォヌが叫んだのが聞こえた。でも、他の声は聞こえなかったから、それだけ落ちる速度が速かったのかもしれない。
ホシが「なんかある」って言ったのが最初で、船の上にいつものようにいて、「何が?」って言って見上げたのにウジのところからは何も見えなくて、「何もなかったら許さないからな」って言いながらもホシがいる場所まで降りた時だった。
「ほら、あそこ。なんかあるだろ」
ホシが指さす先に目を凝らしたら、確かに何か見えた。でも太陽の光が強すぎて陽炎のように揺らめいて見えて、そっちに集中した分だけ身近な何かに気づいてなかった。
飛んできたのは毛布のようでもあり、誰かのローブのようでもあり、絨毯のようでもあり......。
後から見たって人間の意見を集めても、「まぁ派手だったのは確か」ってことぐらいしかわからなかった。
まだ鳥に襲われる方が自然な遥か空の上での出来事なのに、どこからそれが飛んできたかもわからない。ただそれは一瞬でウジを絡め取って行っただけ。
まだ空の中、落ちるといっても地上は遥か遠い。船はでも一瞬で遠ざかっていって、耳元ではバタバタと、自分を絡め取った何かがまだ身体にまとわりついていて煩かった。
その何かのせいでウジは落ちたけど、でもその何かのおかげで助かったとも言える。
なにより落下速度がただ落ちるよりは大分抑えられたはずだから。そして船からウジを見つけるのにもその何かは物凄く役立ったから。
一瞬で遠ざかったはずの船が、爆速で飛んでくるのが見えて、落ちながらも「嘘だろ」って呟きそうになったほど。でも確実に変な「ぅっほッ」って音みたいな声は出たけど。
あぁでも落ちたのが自分以外の誰かなら、自分だってそう指示したはず。まだイケる。なんとかなるって。絶対に諦めなかったはず。
助かるかもしれない。助かってもきっと骨ぐらいは折れるかもしれないし、相当な衝撃は来るだろう。
あぁそう言えばと、昔スングァンを助けるために船から飛び降りたことを思い出した。
あの時も確か痛かった。
今度はもっと痛いかもしれない。でも地上に打ち付けられるよるはマシだろう。きっと......。
真っ逆さまに加速した船は、多分一瞬でウジを追い越したのかもしれない。
ホシによってしっかりと掴まえられてたジョンハンには、ウジが落ちてた姿もちゃんと見えなかったけど、船が今度は無理やり減速して、自分でも身体がどうなったのかがわからないような状態だった。
でもホシが離さなかったから無事だったけど、何にも掴まなってなくてただ船の中でふっ飛ばされていたエスクプスは、急激な減速に反対側にまた転がってきて、結局だいたい元の場所あたりまで戻ってきたらしい。
あとから本人がそう言っていた。
「ヒョンごめん。後は自分でどうにか捕まって」
そうホシの声がした時には、船の入口ら辺に捕まってたはずのジョシュアが、「チャンスは何回あるッ?」って叫んでた。
船でウジの下に回り込んでも、そのウジを確実に拾わないと意味がない。同じ速度で落ちていけたら、それはそれほど難しくはないのかもしれないが、人と船ではどうしたって無理だろう。
「1.5回ッ」
ジュンが叫び返した。
普段はのんびりしてるはずのウォヌが「網があるッ」と、物置からそれを持って転げるように出てきた。誰も動けないような船の上で、必死に這ったウォヌがいた。
網を必死になって広げて減速して一緒になって落ちても、ウジがそれを掴めるかはわからない。なにより落ち続けてるウジがとっくの昔に気を失っていたら......。気を失っていなかったとしても、それを掴めなかったとしたら......。
考える時間のない中で、誰もが必死に考えたんだろう。
「ヒョン、最後の0.5回は、生きてればいいよね」
不穏なことを言いながら戻ってきたホシは、手に槍のようなものを持っていた。見れば先端には反り返しのようなものがあって、一度刺さったら簡単には抜けないようになっていた。そして槍の持ち手部分にはロープがついていたから、それは海とかで大きな魚をとるのに使われたものかもしれない。
それを見てジョシュアが「バカ。お前がウジを殺す気か」と即却下してたけど、さすがにホシだってそれをウジに投げて突き刺して......とは考えてなかったんだろう。
慌てて「違うって。俺が飛ぼうと思って」と言いながら、槍からロープを外そうとしていた。
確かに長いロープで、しかも用途が用途だからその強靭さは確かなものなんだろう。
落ちていくウジと一緒に落ちていけたなら、手を伸ばすことだってできるかもしれない。
なんでも、大抵のことは簡単に決断できるのに、弟を2人も失うかもしれない恐怖には勝てなかった。いつもなら笑って頷いてやれるのに......。
動けなかったジョンハンの代わりに、「お前ならできるッ」って叫んだのはジュンだった。
転がっていって、転がって戻ってきたエスクプスに操縦桿を押し付けて、ジュンは飛び出てきたと思ったらウォヌと一緒に網を広げだし、船の端にきつくきつく結んだ。
「ウジが落ちてくるぞッ」
ジョシュアが叫んだ。
見上げたのは一瞬で、ウォヌと一緒に編みを遠くに投げたと思ったら、ジュンは船の中に駆け込んだ。エスクプスから操縦桿を取り戻すために......。
「ホシやッ。準備しろッ」
でもそう叫ぶのも忘れなかった。
ロープの端を船に巻き付けるジョンハンがいて、ホシは反対側を自分に巻き付けていた。
下手をしたらウジだけじゃなくホシだって失うかもしれない。その恐怖からジョンハンの手はどうしたて震えていたけれど、「大丈夫ッ! イケるッ! 絶対どうにかなるッ!」って叫び続けるジュンの声が背中を押した。
減速するのをやめて自由落下に切り替えても、船の大きさからかウジよりも風の抵抗は当然ながら強い。だからウジが船のそばを落ちていくその姿は、一瞬だったかもしれない。
でもウジが手を伸ばしたのがジュンには見えていた。船への衝撃は微塵も感じられなかったから、その手が網を掴めなかったことも理解したけど。
「行けッ!」
ジュン以外、そう強く言える人間はいなかったかもしれない。でもその言葉にホシは飛んだ。ウジを目指して。
「アンデ」って、エスクプスの声がした。
ジョンハンはホシを繋いだロープが船から外れないようにと抑えてた。縋り付いていたって言ってもいいほど。
ウォヌは飛んだホシを視線で追った。
それは命綱だったけど、下手したらウジまで届かないかもしれないから。
もしも駄目なら......。
絶対できると言いながらも、それだってちゃんと考えていた。どんな無茶だってするつもりだった。
でもウォヌが「掴んだッ!」って叫ぶよりも早く、船が引かれる2人分の衝撃にそれを知る。
船がバランスを崩して傾くのに、エスクプスがまたしても前につんのめってどこかにぶつかっていた。
「見えるかッ?」
叫ぶようにジュンが聞けば、見えるとウォヌが叫び返した。
でもそれよりも、「ロープがもたないッ」って叫んだジョンハンの悲痛な叫びの方が大きかったけど。
バーノンはひっくり返ったままで、スングァンにしっかりと抱きつかれてた。そんなスングァンにはディノが必死に抱きついていた。結局そんな2人のことをバーノンだって抱きしめてたから、守られてたのか守ったのかは微妙だけれど、3人で絡まってたおかげか、エスクプスのようにあちこちに飛ばされることもなく無事だった。
まぁ多少の打ち身ぐらいはあったかもしれないけれど。
真っ逆さまが落ち着いた時には「見に行ってくる」って言ったのをスングァンが「アンデアンデアンデアンデ」って必死に止めた。
「ヒョンッ! ヒョンッ!」
ディノがドアの外に向かって叫ぶ。
きっと誰かが「大丈夫か?」って言いながら様子を見に来てくれると信じながら。
でも結局誰も来なくて、スングァンはバーノンとディノにまわしてた手をより一層強くした。
「見に行かなきゃ、何もはじまらなくない?」
そう言ったけど、怖がりなスングァンは絶対ダメとばかりに首を降る。強気に見えるディノだってやっぱり怖がりだから、「よ、様子を見ようよ」とか言ってバーノンのことを離さなかった。
「いやでもこれ、なに時間?」ってぐらい、3人で抱き合っていた。
「い、行くなら3人で行こう」
ってスングァンは言ったけど、せめて手を繋ぐぐらいまで離れないとドアすら出られないだろう。
今ならトイレに行きたいと言ったって、スングァンもディノも一緒に行くとか言いそうなほどだった。
そんなバカなことを考えたばかりに、本当に行きたくなったけど。
でもトイレは我慢したけど。
運動神経は悪くはないのに、咄嗟には動けない。
怖がりが先にたつからかもしれない。
ドギョムはミンギュにガッツリ掴まれていたから無事だった。
船がどうなったのかを理解するよりも前に、ミンギュがその手を離して立ち上がったと思ったらいなくなった。
まだ何も終わってなかったからだろう。
ホシはいつのまにかウジを掴まえていたけれど、そのロープを必死に掴まえてたジョンハンの手からは血が滲んでもいて、ドギョムが身体を起こした時にはミンギュはもうそのロープをしっかりと掴んでいた。
ただ2人分の重みがかかったロープを引っ張るだけなら、大変だったかもしれない。でもミンギュがジュニヒョンに、「力技で回収するの限界があるから、跳ね上げられるなら、タイミングあわせてロープ引くからッ」と叫んでいたけれど、それがどういうことかも理解できなかったのは、どうやらドギョムだけだったようで......。
「掴まれッ」ってウォヌが叫んだ。
ホシに掴まれてるウジに叫んだのかもしれないし、船の中にいる誰かに叫んだのかもしれない。
船が傾いた。いや、傾けたんだろう。
そして次の瞬間には反対側に傾いた。
その反動で、ロープが浮く。当然その先にいるホシもウジも。
立っているのさえ難しいのに、ロープが浮いた瞬間にはミンギュとウォヌがそのロープが緩んだ分だけ一気に引いた。後ろで構えてたジョシュアが引かれたロープをしっかりと船に結びつけていく。
「もう一度行くぞッ」
ウォヌが叫ぶと、船は再度傾いた。
何かにしがみつくことと見てることしかできなかったのに、2度のその作業でロープは大分短くなったのかもしれない。
「網を掴んだッ」
見下ろしてたウォヌが言う。多分ウジかホシが、ロープ以外にも網を掴めたってことだろう。
ジュンがまた舵をエスクプスに任せて飛び出ていって、ジョシュアとウォヌと3人で網を必死に手繰り寄せて行く。
ロープよりは皆でいっぺんに引けるから、回収速度も速かったのかもしれない。
結局ドギョムが見てる前で、ホシもウジも無事に船の中に戻ってきた。
ウォヌは疲れてた。
多分1年分以上は叫んだし、動いた気がしないでもない。
普段はおっとりとしてる方だから。
マンネたちが何かしてたら、それを見てるのが楽しかった。でも今日は掃除するというから、見てたらきっと手伝ってよと言われるだろうと逃げてきていた。
船の中ではミンギュとドギョムが何か作ろうとしてた。それを見てるのもきっと楽しいだろう。でもミンギュが「楽しみにしてていいよ」と言ったから、それなら見てない方が楽しめるとばかりにそこからも移動した。
操縦桿を握るジュンの横にだって立った。でもやってみる?と言われて断った。
飛ばせはする。覚えたから。上手いとは言ってもらえるけれど、いざって時に加速したり、雲の切れ目に飛び込んだりはできそうになかった。
13人もいれば、誰かが何かをやってくれる。
そんな他力本願で生きても許される。気づけばそんな環境だった。
空の上だと言ってもそんなにいざって事は起きない。だから日々、ウォヌはのほほんと暮らしてる。
まぁいざは目の前で起きたけど......。
「ウジが落ちたッ」
突然だったのに、よくそう叫べた自分......と、後から自分を褒めたほど。
気づけば両手は血だらけだし、楽しみにしてたミンギュとドギョムの料理は食材の残骸があちこちにあって、せっかく手伝わなくて良かったはずの掃除は、もう船内全部がめちゃくちゃで、きっとウォヌだって手伝わなきゃ終わらないだろう。
でもウォヌは何も失わなかった。大切なものは何も。
書きかけ~ <(_ _)>