目が冷めたら異世界だった。
壮大な夢だなって思ったのが最初で、それでもそんなに慌てなかったのは、隣りジュンが寝ていたからだろう。
ディエイトは見上げた空に太陽が2つある世界で、スングァンがいたら日焼けの心配をするだろうなって、ボーっと考えていた。
空にはペンギンみたいなものが飛んでいる。
遠くに見てもペンギンみたいだと判るぐらいだから、近くに来たらデカいのかもしれない。
「夢だな」
声に出して言ってみた。
声はちゃんと出たし、自分の声はいつも通りで、だからディエイトは温かい日差しの中でジュンの横に寝転んだ。
スケジュールは忘れたけど、多分すぐに誰かに起こされるだろう。アラームをセットしたスマホが鳴るかもしれないし。夢の中だろうから本物の陽の光ではないかもしれないけれど、それでも暖かい。だから起こされるまでは寝よう。
そう思って寝たら、次は「ハオ、ヤバイ。囲まれた」っていうジュンの声で目が冷めた。
太陽が2つあったから、月だって2つあるんだろう。
でもあたりは多少暗くはなったがまだ明るくて、2つもあるから曇ってない限りは月の下だって明るいんだなって気づいて、1人でへーっとなった。
それから、「で、なにに?」とのんびり聞いたら、「なんか、猛獣っぽいペンギンのデッカイ奴ら」と言われてみたら、確かに出かかった。
「あ、昼間飛んでた奴らだ」
そう言えば、「じゃぁ木の上とかに逃げても無理じゃん」とジュンが言う。
ペンギンのくせにデカイ。そして翼代わりの手は分厚い。なのに手先には鋭い爪があって、威嚇してるのか、口元には牙も見える。
「猛獣って、なんで?」
そろりと立ち上がりながら聞けば、「さっき狐か兎か犬か猫か判らないようなのを襲って食べてたから」とジュンが言う。
ペンギンのくせに狂暴な上に雑食だったようで、それが目の前にいる。しかも複数も。
「死んだら目覚めるかな?」
一応聞いて見た。
「とりあえずそれは試すな。上に逃げても無理なら、障害物がある方へ逃げよう」
ジュンが足下にあった石を強く蹴った。それでどれだけ躊躇させられたかは判らないけれど、確認することもなくディエイトもジュンを置いて走り出した。多分ジュンはついて来る。それに本気になったジュンの方が早い。でも障害物があるなら自分の方が早いかもしれないけれど......。
逃げ切れたかは判らない。でも、物音はしないし空を飛んでくる気配もない。
川を流れる水は鮮やかな紫だった。それが普通な世界なのか、毒でも混ざってるからなのかは判らない。でも遥か遠く、見たことのない動物たちがその水を飲んでる姿は見えた。
「いざとなったら飛び込もう」
そう言いあいながら水の側を移動して、水の色が変わるのかを確認した。
腹が減ったら魚を釣ろうと言ったけど、魚の大群が空を飛んでるのを見て諦めた。
ペンギンだって飛ぶんだから、魚だって飛ぶんだろう。
ある意味川が紫だから、水から飛び出て進化したのかもしれない。
動物たちが食べてるものを見て、同じものを食べた。慣れてくれば食べられるものが増えて、歩き方が判って、人を襲うペンギンとの遭遇率も減って。気づけばゆっくりとまでは行かなくても眠れるようになって、ある程度自由に動けて、2つある太陽だって見慣れた。毎日太陽が顔を出すから、どうやら曇ったり、雨が降ったりはしないらしい。まさかの乾季でとかじゃない限り......。
「こりゃ夢じゃないな」
ジュンが言う。とっくの昔に気づいていたことを言われたから、「まぁ、そうだろうね」と言う程度だった。
食べるものにもっと困るような世界なら大変だっただろうけど、特に困ってない。
ただ踊ったり歌ったりはしてないけど。
途中だった仕事も気になるし、もはや家族のようなメンバーたちも気になるし、本物の家族はもっと気になるけれど、どうしようもない。
「まぁでも、お前が一緒で良かった」
ディエイトが言おうとしてた言葉をジュンが言う。
どこの世界でも、ジュンがいればきっとどうにかなる。そんな気がする。きっとジュンもそう思ってくれてるんだろう。
「あぁでも、どうする? どこかで人間に遭遇しても、言葉が違ったら」
「うへぇ」
ディエイトがそう言えば、ジュンが笑って「今度は俺が先って訳でもないから、頼むな」とか言う。
でもまぁどうにかなるだろう。言葉の壁は大きいけれど、それでも乗り越えた過去があるんだから。
でもまだ2人は知らない。ペンギンが空を飛ぶ世界は、喋る虎とかがいる世界だってことを......。謎にテンションは上がるだろうし、会いたい誰かを思い出すだろうし、ちょっとセンチメンタルにもなるかもしれないし、でもきっと楽しく暮らしてくような気もする。
お互いがお互い、一緒ならどうとでもなると思ってるんだから......。
The END
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