「げ」
エスクプスがそう言えば、ジョンハンがすかさず「げ、じゃねぇわ」とツッコんだ。
「で、なに? これどういうこと?」
ジョンハンがエスクプスのベッド横に置いてあったゴミ箱を手に、その中のナニを指さしながらプリプリ怒ってる。
「お前の部屋なんだから、ヒョンのだって言い訳は聞かねぇからな」
そうも言っていた。
手を出さないところを見ると触りたくないんだろう。
なにせソレは、使い終わったコンドームで中にしっかり体液だって入っていたから。
「なにって、俺が使ったやつだけど」
「なに? 開き直るつもりかよ。浮気じゃなくて本気とか言い出したら殴るからな」
認めなかったら怒るくせに、認めるが早いとそれもまた怒るらしい。
「いや、すぐに処分しなかった俺も悪いけど、なんでそれでお前が怒るんだよ。浮気とか本気とかでもないだろ。相手はお前だったんだから」
エスクプスはゴミ箱の中にナニたちが見える状態で置いたままになっていることを怒られていると思っていたが、ジョンハンはソレを誰と使ったんだと怒っていた。
怒るとすぐに言い合いをはじめる2人ではあったけど、ちゃんと冷静にもなるし、引くとこは引くし、妥協だってする。お互いを傷つけることは絶対にしないと決めているし、ケンカした日は特別に甘く仲直りだってする。
「ちょっと待って、ソレ、俺に使ったって?」
ジョンハンが微妙な食い違いに気がついた。
「お前以外に、俺がそんなの、使う訳ないじゃん。いや、生のままでももちろん全然いいけど」
超多忙なアイドルなんてやってるから、自由気ままに愛し合えることの方が少ない。だからお互い気遣って、ゴムだって使いはする。
それを男の優しさと見るか、便利アイテムと見るかは2人の付き合いの深さというか、長さというか、なんというか。
でも普段なら別にソレを使われたって、逆に使わなくたってジョンハンは文句なんて言わないのに。
「俺、昨日来てないけど?」
いやある意味衝撃的なことを言い出した。
「は?」
エスクプスは昨夜、いや正確には誕生日を迎えた直後、真夜中過ぎだと言うのにピンポンを連打されて押しかけられたっていうのに。
「え、お前来たじゃん。ピンポン連打したじゃん。確かに多少は酔ってたけど、酔ってないとできないだろって人のこと押し倒したじゃん」
エスクプスが必死に言うのに、ジョンハンは「そんな訳ないだろ。俺さっき自分の部屋で起きて、お前の誕生日プレゼント持ってこうやって来たのに」とか言う始末。
言うことが真っ向違うとどうしようもない。
でも普通なら確かに相手の浮気を疑うだろう。でもそこはジョンハンで、「じゃぁお前、別次元の俺とやったか生霊の俺とやったかだな」とか言って、やっぱりそれでも「浮気だ浮気だ」と怒ってたけど。
「別次元とか生霊とか、結局はお前なら俺はいいけど」
エスクプスもひとまずそんなことを言ったけど、結局は別次元のジョンハンでも生霊のジョンハンでもなく、ただの本物のジョンハンだった。
2人してスングァンに電話したから。
「スングァナ、俺、昨日はちゃんとそこにいたよな? さっき起きて出てきたんだもんな」
深くもしっかりりも話さなかったというのに、さすがスングァンとも言うべきか......。
「いや、ハニヒョンは昨日、真夜中過ぎには俺が行かなきゃ誰が行くんだって言いながら出かけていったよ。相当酔ってたけど。朝方には帰ってきて寝てたみたい」
......ということだった。
「ほらッ、ほらほらほらほらッ」
エスクプスが言う。
ジョンハンは色々棚にあげて、しかもスングァンにお礼も言わずにプツリで電話を切っていた。
「いやでも、俺、やった記憶ないけど?」
そして自分の記憶がないことに対して今度は怒りはじめた。
「酔ってる相手に、お前何回やったの? 鬼畜かよ」って......。
「いやお前が俺に乗っかってきたんだって」
エスクプスが必死に言うのに、「そんなこと俺がするわけ......もあるな」と謎に納得していたジョンハンがいた。
なんでそんなに酔っていたんだとか。酔った状態でどうやって1人で移動したんだとか。そしてどうやって帰ったんだとか。
色々気にしなきゃいけないことは多かったはずなのに、「俺が覚えてないのは絶対お前しかイッてないからだ」とか言い出したジョンハンと、「そんな訳ないだろ」とか言い出したエスクプスと。
2人してバカなことで争いがはじまったいて、大切なことは何ら気づかれないままだった......。
The END
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