妄想heaven

SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

No War! Is the war over?

注意......

「No War!」は続き物です。そして長いです。
どこかからたどり着いた方はひとまず、contentsページからどうぞ。

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No War! Is the war over?

時々夜中に目覚める。その瞬間には起き上がって自分のいる場所から飛びのく。壁際にだったり、何かの物陰にだったり。
暗闇に目が慣れるまでの数秒に動けるかどうかで、助かるかどうかが決まることがある。何かの気配なのか、研ぎ澄まされた感覚なのか、何度もそんな体験をした。
生き残ったのはただの運かもしれないけれど、ディエイトは未だにその癖が抜けない。
もう、戦う必要はなくなったはずなのに......。
未だに近くには武器となるものを置いておきたくなる。
「どうした? 朝か?」
隣りで寝てたジュンが聞いてくる。
辺りはまだ真っ暗で「まだ夜中」と答えたけれど家の外からは雨音がするから「いや、雨みたいだから外が暗いのかも」と言い直した。
「どれぐらい降ってる?」
「音はそれほど」
そう言いながらもディエイトは暗がりに慣れた目で、ジュンを跨いで部屋を出ていく。
当たり前のように外を確認するために。どんなに感覚が研ぎ澄まされていたって、その目で見るのがより正確だからだろう。
「今はそれほどでもないけど、結構降ってたみたい、山から水が流れてきてるとこがある」
ディエイトの言葉にジュンがむくりと起き上がる。
「周りりの様子見ながら、全員揃ってるかだけ見てくる」
ジュンがそう言って雨の中に走り出ていく。そこから20分、ディエイトはいつだって様子を見る。
いつ決めたのかはもう忘れてしまったけれど、20分で戻って来なければ、20分で動きがなければ、20分でケリがつかなきゃ、ディエイトが出る。
よっぽどでないと2人一緒には出ない。
きっとその方が効率が良くて、生き残る確率も高かったんだろう。
その20分を、ディエイトは心の中で自分の歌を歌うことで測ってた。もう声を出したって問題ないはずなのに、今もただ黙って意識は回りに向けながら、無表情で音のない歌を奏でる。
果たして、ジュンは20分経たずに戻ってきた。
「全員いた。雨もそんなに酷くないみたい」
当然のようにそう言ってくれると思ったのに、ジュンが言ったのは「スングァニがいなかった」だった。
「多分畑を見に行ったんだと思う」
最近またウォヌと揉めたとかで、スングァンに甘いヒョンたち全員で、もともとスングァンとハルモニが持ってたという場所に新しい畑を作ったばかりだった。
少しだけ山に入ったところにある、平地でもないその場所は、畑としては良い条件なんて何もなくて、もともとはここがうちの畑だったんだとスングァンが自慢気に言うのを全員複雑な心境で聞いていた。
「斜面だから日当たりはいいよね。畑は畑でも、みかん畑とか茶畑とか、斜面に強い何かを植えたらいいよ」
アメリカ帰りのジョシュアが大きなことを言ったけど、「どう考えてもそんな広さはないだろ」とエスクプスにツッコまれてて、とりあえずと植えられたのはトマトだった。
「まぁトマトからでもいいよね。それで少しずつ、土を強くしていったらいいんだから」
スングァンはいつかここにみかん畑をつくりたいと言いながら、トマトを育てはじめた。
そんなに早くも歩けなくて、ましてや斜面を行ったり来たりするのは辛いはずなのに、楽しそうに歌いながら移動するもんだから、今日もトマトを見に行ってるんだな......ってのが誰にでも判って微笑ましかったのに。
「雨で土が流れるとでも思ったのかも」
一度帰ってきただけだというジュンが、ロープに手を伸ばしながら、すぐに出ると言うのに、ディエイトもすぐに立ち上がる。
ここには敵がいないから。いつか誰かに襲われないとも限らないけれど、今は敵と言えば自然の脅威だけだった。それなら一緒に行く方がいい。
ジュンも同じ思いだったのか、ディエイトを止めることはしなかった。
「みんなは?」
そう聞けば、「いや、スングァニは今日、オモニのとこにいたから」とジュンは言ったから、今スングァンがいないことを知ってるのは2人だけなんだろう。
もう少ししたら、誰かは気づくかもしれない。
ジュンが家を回ったことで、確実に誰かは起き出して、そうすれば心配性の95ラインだって状況を確認しようとするだろうから。
雨の中をジュンと一緒に走る。
水溜まりというには少し大きすぎるそれらを飛び越えて、ぬかるんだ場所は避けて走るのに、足の悪いスングァンじゃこうは行かなかっただろう。坂道だってすんなりと進めたとは思えない。
それでもジュンとディエイトには一瞬で、たどり着いて見れば転んだんだろう、かなり泥だらけになったスングァンが「オットケ......」って言いながら、もう少し雨が強く降り続けば確実に土ごと流れてしまいそうなトマトたちの様子を見てた。
「スングァナッ!」
ジュンがスングァンに駆け寄るのを、ディエイトは立ち止まって見てた。
雨の匂いはしても土の匂いはしなかった。だからまだどこも崩れたりはしてないんだろう。それでも相手は自然だから油断はできない。
「バカかッ! よく年寄りが嵐の時に畑見に行って流されて死ぬニュースを見ただろうがッ!」
怒ることはおろか、本気で怒鳴るムンジュニは珍しい。
でもそれだけスングァンのことが大切なんだろう。それをスングァンも判ったのか、「ジュニヒョン、ミアネ」って声が聞こえる。
「ほら」とジュンがしゃがみ込むのを、スングァンは驚いて見てた。
「早くしろ。もっと怒るぞ」
ジュンがそう言えば、大人しくその背に乗ったけど。ジュンはスングァンのことを背負って、素早く持っていたロープで固定した。
「ヒョン俺歩けるよ」
足を取られて転んだんだろうに、それでも歩けると言っていたスングァンだったけど、上りよりも下りの方が足には負担がかかる。ましてや足元は不確かで滑りやすい状態では、歩けたとしても何度転ぶかも判らないし、それに手を貸して助け起こしての労力を考えたら背負った方が早いし楽だった。
「俺最近太ったんだよ」
スングァンはそうも言っていたけど、多分軽いだろう。戦う装備を担いで走ったことを思えば軽すぎるはずで、水に濡れて泥で汚れてる状態でもまだ軽くてジュンはイラッとしたように「全然軽い」とだけ言った。
「ジュナ」
だからディエイトがそう呼びかけた。きっと自分の声を聞けばジュンは冷静になる。それが判っていたから。
泥でぬかるんだ坂道を、スングァンを背負うジュンを気遣いながら下る。
「ディエイヒョンも、ミアネ」
背負われながらスングァンが謝るのに、「別にいいよ。俺は」とだけ答えた。
2人ヒョンがいて、2人ともに怒られるのは嫌だろうと思う。2人もいるんなら、1人は庇ってやらないと。
絶対に間違えてたって、絶対に悪くたって。それはそういうもんなんだってディエイトに教えたのはミンギュだった。
もうずっと昔、まだディエイトが言葉がおぼつかなかった頃、97ラインの3人で言い合った時に、2人で1人を攻めるのは無しだって話になった時。
ふとそんなことを思い出すと、本当に戦いは終わったんだなって思う。いつだって張り詰めた状態でいた時にはあえてチングたちのことは思い出さないようにしていたから。
僅かな気の緩みであっさりと命が消えていく。そんな世界に生きてた時には、眠ってる時ですら安らぐことはなかったから。
ディエイトがミンギュを思ったからか、「スングァナ〜ッ」って情けない声で呼びながら、雨の中駆けてくるミンギュが見えた。
こっちは大丈夫って意味で手を上げて見せれば、ミンギュはそのまま反転して「ウォヌヒョ〜ンッ。スングァニこっちにいた〜」って言いながら走ってった。
多分2人して別々に探すことにして、ウォヌはいつもの畑の方に行ったんだろう。
もう少しで家って時に、オモニとスングァンが暮らす家から飛び出してきたのはジョンハンだった。ジュンと同じように様子を見に来てスングァンの不在を知ったんだろう。
スングァンがジュンの背中にいると気づいて、「ケガしてるのか?」って焦ってた。
「多分転んだだけ」
ディエイトがそう言えばジョンハンはホッとして、それから「ヤーッ!」ってやっと怒りはじめた。でもすぐに泥だらけのスングァンに手を差し出して、「痛いところは? どこかを打ったりしてないか?」とも聞いていたけど。
「ジョンハナッ! いたのか?」
そう言いながらエスクプスが駆けてくる。
ジュンの背中からそっと降ろされたスングァンは泥だらけだってのに、そんなことも気にせずにエスクプスはスングァンのことを抱きしめる。
「ヒョンまで泥だらけになっちゃうよ」
そうスングァンが言ったって、「それがどうした」ってエスクプスは言う。
それは本当に、それがどうしたって思ってるんだろう。
それからエスクプスはジュンのことも抱きしめた。スングァンのことを背負ってたんだから当然ジュンだって泥だらけで、だから何も問題ない。
なのにエスクプスはそのままディエイトまで手を伸ばす。
「ヤーヒョン、俺汚れてないのに」
ディエイトがそう叫んで逃げようとしたってお構いなしで、ディエイトは自分の足元しか汚れてなかったっていうのに、気づけばシャツもズボンも泥だらけになっていた。
もう笑うしかない。でも泥だらけになって、あぁ戦争は終わったんだ......って実感したかもしれない。
いつもの畑から戻ってきたウォヌは「あぁ、良かった」って言いながらも、「ギリギリ無事だったやつを抜いてきた」とも言った。
なのにそれはスングァンの芋じゃなくて、自分が育ててるものばかりだから、「ウォヌヒョン狡いよッ」ってスングァンから当然文句が出てた。
「俺が行って来てやるよ」
そう言ったらジュンが驚いて振り向いた。
これまではどうしたって生きることに重きをおいていて、なんでもないことには手を出して来なかったからだろう。
雨の中、ぬかるんだ道を畑まで走っていくことは、なんでもないことではないかもしれない。でも生きるか死ぬかではない。
「ほら、どうせ俺も汚れちゃったから」
ついでだよと笑って見せれば、誰も引き止めたりはしなかった。
雨の中の行軍は辛かった。音が雨音にかき消されて気配を感じられないから。そんなことしか考えなかったというのに、今は自分に降り注ぐ雨が心地よい。
戦争は終わったから。ここでは、もう、生きるか死ぬかが背中合わせにあるわけじゃないから。
「油断するなよ」
ジュンから声がかけられた。浮かれてるのがジュンにはバレたのかもしれない。
「大丈夫! でっかい芋を取ってくるよ」
そう言って走る。
どこかを制圧するために、どこかから逃げるために、走ってる訳じゃない。
何度戦争はもう終わったってジュンが言ったって、頷きはしても理解してなかったってのに、不意にやってきたその感覚は、ディエイトをやっと開放したかもしれない。
正直芋はどれもでっかくはなかったけれど、スングァンは喜んでいた。戻ってみればミンギュが湯を沸かしてくれていた。雨でも十分泥の汚れなんて落ちるっていうのに。
飯の支度ももうすぐだと言っていたけれど、ディエイトは寝ることにした。
「俺は寝る」
そう宣言したら、やっぱりジュンだけは驚いていた。
いつだって熟睡なんてせずに浅い眠りだけを繰り返して、眠るよりも起きてた方が気が楽だと言い切っていたほどだったのに。
夢を見るかもしれない。もうどんなものだったかも忘れかけているけど。父親と母親と、一緒に過ごした夢だろうか。それともまだスポットライトの下にいる頃の夢だろうか。
それともまた別の、全然違う未来かもしれない......。
起こしても起きない。そう言われて全員を心配させたのはまた別の話だったけど、ディエイトが飛び起きることはほとんどなくなった。
それはやっと、ディエイトの中で戦争が終わったからかもしれない......。

The END
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