スタジオの中で、スングァンはニヤニヤしていた。
普段はスクリーンカーテンで覆われているのに今日は全開だったからあちこちに鏡があって、自分でも判ってた。口元がゆるゆるしすぎてることは。
「お前の欲しいもの、なんでもやるよ」
誕生日前、まだ去年の話だけどバーノンがそう言ったから、何を貰おうかずーっと考えてて。
「じゃぁお前が欲しい」とか言ったらバーノンはどんな顔をするだろう。
あの整ったスングァンの大好きな顔であっさりと、「いいよ」とか。それともちょっと驚いてから「俺なんかでいいの?」とか。それとももしかしたら、「なんだよ。俺はずっと前からお前のものじゃん」とかとか。
もしかしたらそんなことを言ってくれるかもしれない。
そんなことを考えだすと、そりゃニヤニヤもするってもんだった。
「ニヤニヤしすぎて変な顔になってるぞ」
判ってるけど、ミンギュにそう指摘されて、ちょっとだけムッとしたスングァンは、マスクをつけて口元を隠した。
「目は口ほどに物を言うって言うじゃん。良からぬこと考えてるのが丸わかりだって」
確かに目だってちょっと変だったかもしれない。
だから慌ててサングラスをかけて、目だって隠した。
それなのにそんなミンギュとのやりとりを知らないジョシュアがスタジオに入ってきたと思ったら、不審なスングァンに向かって、「首元真っ赤だけど、どうした?」とか言ってくる。
もちろん口調は揶揄ってる感じじゃなくて、ちょっと心配してくれてる感じだから文句なんてないけれど、良からぬことを考えすぎると首元にも出るらしい。
でも良からぬことって言ったって、別に不埒なことなんて考えてないってのに............。
とりあえずスングァンは、そこら辺にあった誰かのマフラーも巻いた。
スタジオの中だから、当然暖房だってしっかりしてて、ミンギュなんかは普通に半袖とかで、ディエイトなんて脇もガバガバのタンクトップ姿だっていうのに、なんでかスングァンだけはマスクにマフラーにサングラス姿で.........。
マネヒョンやスタッフヌナたちには、完全な不審者なスングァンが一瞬誰か判らないらしく、誰もがスタジオに入ると一度立ち止まって、いる人間といない人間を数えて、さらには身長と服装と靴と髪と全体の雰囲気から判断して、「スングァニ?」と聞くほど。
マフラーを必死にぐるぐる巻いたから、特徴的な頭の形や色は少ししか見えてないっぽくて、ぱっと見誰もが判らないんだろう。
だけど当然メンバーは違う。
「スングァナ、なに? 我慢大会か何かか?」
ジョンハンは一瞬でスングァンだと判ってたけど、その理由までもはさすがに判らなかった。
「お前何?」
最後の方にやってきたウジですら気づいた。
でもまぁ笑ってるだけで、興味までは無さげだったけど。
とりあえずスングァンは1人でトイレに行って、顔を洗った。赤いと言われたから冷やす必要があったし、ニヤニヤしすぎて顔の形すら変わってないか確認して、アイスコーヒーをゲットして、まだ練習前だというのにもはや疲れ始めていたほど。
それから当然、練習は頑張った。
テンション上がってるからか、本気で疲れなかったかもしれない。
凄い。恋から生まれるパワーを何かに転用できたら、世界のエネルギー問題は解決するんじゃないかとか、真剣に思ったほど。
練習終わりに恒例のゲームでの掃除担当決めがあって、普通のジャンケンだったのに、なんでか堂々と後だししたくせに負けたミンギュと、そんなミンギュにも負けたウジの2人が残ってた。
スングァンはとっくに帰る準備はできていたけど、帰りながら聞く曲を選んでるバーノンは相変わらずのマイペースで、でも待つことだって楽しくて。
もちろんその間もスングァンは、何をお願いしようか考えていた。
でもやっぱり決められなくて、それならいっそ本人に相談するのだって有りかもしれないと、「ボノナ、俺の誕生日プレゼントな、まだ悩んでるんだけど」って、物凄いニコヤカに話しかけたっていうのに。
「ん? センイルソンムル? なんで?」
誕生日だからプレゼントなのに、それに「なんで?」なんてあるんだろうかって、思わず今が1月なことをスングァンは再確認したほど。
それから「またまたお前何言ってんの? 俺の誕生日じゃん。お前の欲しいもの、なんでもやるよって、前に言ったじゃん」って、当然のように笑って言ったのに。
「あぁ、でもあれだろ? 今回は全員で買うって話になったじゃん。俺もそれにちゃんと乗ったもん」
スングァンの頭の中で、『ガーン、ガーン、ガーン、ガーン、ガーン』って音が響いてた。いや頭の中だと思ったら、側でミンギュが声を出していただけだった。
でもその声は本当にスングァンの頭でも鳴っていて、「それとこれとは、それとこれとは別じゃんッ」って言ったけど、その時にはもうバーノンは廊下に消えていた。
「うん。俺もそれとこれとは別だと思う」
普段はそんなことを言わないウジまでもがそう言ってくれたってのに、きっとバーノンはそんなこと、気づいてないし思ってもないんだろう。
一応スングァンは、ほぼ独り言だったけど、「いや、あんなことを言っておいて、実はプレゼント買ってて、誕生日当日にサプラ~イズッって、シュアヒョンみたいなことを言ってくれるのに、期待を」って言いかけた時には、目の前でミンギュとウジが2人して、「あのバーノンに限って、ないない。ないない」って全否定していた。
まぁないだろう。
ちょっとだけ涙ぐみながらも、トボトボと帰路についたスングァンだった。
でもスングァンだって判ってる。それがバーノンで、悪気なんて当然なくて。
あんなにカッコイイのに、ちょっとズレてるところも大好きだから。判ってる。
やっぱり頭の中では、『ガーン、ガーン、ガーン、ガーン、ガーン』って音が、さっきよりも壮大に響いてた。って思ったら、見送ってくれてたミンギュがやっぱり声を出していて、なんでかそれにハモってるウジがいた。
でもあんまりにもスングァンがトボトボと歩いてたもんだから、それを見送ったミンギュもウジも、不憫に思ってくれたんだろう。ガーンってハモってくれてたし。
でもそれだけじゃなくて、当然のようにそのはなしを、2人してユンジョンハンにチクってもくれた。
そうしたら当然ユンジョンハンはバーノンを捕まえて、「お前何やってんの?」って言ってくれたようだった。
そんなことは知らないスングァンは、当然諦めていた。
全員で買ってくれたプレゼントだって絶対嬉しいはずだから、それ以外にもちゃんと、バーノンはステキな言葉をプレゼントしてくれるはずだからって。
なのに誕生日、スングァンはバーノンに、とびきりのプレゼントを貰ったけど。
何も持たずにやって来たバーノンが、「今日は俺が一日、なんでも、お前の望むことをしてやる」って言ってくれたから。
驚いてたら、「だってハニヒョンが、誕生日プレゼントで失敗して一生文句言われるのと、今回ちゃんと頑張るのとお前どっちがいいの?って、俺のこと脅すんだもん」と素直に暴露ってくれたけど。
だからスングァンは誕生日当日も翌日も、やっぱりマスクにサングラスにマフラーに帽子にコートまで着こんんでスタジオにいた。
もう誰にも顔なんて見せられないから。
自分がどんなにニヤニヤしてるか、判ってるから。
「ボノニにお前、何貰ったの?」
って真正面から聞かれたりもしたけれど、絶対口は割らなかった。いや、割れなかった。当然バーノンだって誰にもそれは言わなかった。いや、たぶん言えなかったはず。
スングァンが必死に色々隠してるのに、バーノンはいつも通りでシュッとしてて、そこがまたカッコ良くて、そう思うとスングァンのニヤニヤは止まりそうになかったけど。
The END
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