「ヤバイ。俺、同じ相手と7年以上付き合ってるわ」
って、言ったのはユンジョンハンだった。
そこにはボカチしかいなかった。そして酔ってる訳でもなく、普通に録音ブースの中で、ウジが無造作に手元で何かを操作して、ジョンハンの発言部分を録音から消した。
「ヒョン、マイクの前で変なこと言わないでよ」
最近はウジの手伝いをしてスタジオに入ることも多いスングァンが、真面目な顔して注意してくる。
「いやだって、マジでビックリしたんだもん」
目の前の譜面台には、恋の歌。恋に落ちて、ずっと横にいたはずなのに。少しずつ2人の距離が変わっていくっていう恋人たちの成長と、恋が違うものにいつの間にか変わってたっていう恋の歌。同じだけ思ってたはずなのに、いつの間にかお互いの思いにも距離ができてっていう。
相変わらずウジはなんでこんな曲や詩が作れるんだってしみじみしながら考えてみれば、思わずジョンハンは「ゲ」ってなった。
自分に置き換えてみたら、もう7年以上も一緒にいて、環境が環境だから、その距離は常に一定で、なんでかこの恋は色褪せない。俺たち凄いじゃんと自慢するべきかちょっとだけ悩みつつも、なんとなくショックで思わず口にしたというのに、「ヒョン、たぶんそれ、クプスヒョンに言ったら拗ねられるよ」とドギョムは言う。
「なんでだよ。どこに拗ねポイントなんてあんだよ」
正直喜ばれはすれ、拗ねられるなんてないだろうがって本気で思ってたっていうのに、何にも聞いてませんでしたみたいな顔したジョシュアも含めた全員にツッコまれた。
「お前7年って、全然正確じゃないじゃん」ジョシュアが言う。
「そうだよヒョン、デビューからの年数で誤魔化したんでしょ」ドギョムが言う。
「あの人は絶対、何年何か月と何日まで判ってるだろうし」ウジまでもが言う。
「アプリ入れときなよ。記念日も含めて全部教えてくれる奴」スングァンが言う。
黙ってたら繊細に見えるかもしれないが、ジョンハンは結構大雑把だし、細かいことは気にしない。だから「いいんだよ。そこら辺はだいたいで。どうせクプスが覚えてるんだから」と適当にあしらうと、ブースの外から全員にヤイヤイ言われたけれど、途端に静かになった。
見ればブース内にスタッフの誰かが入ってきたからのようで、ジョンハンもスンと澄ました顔で歌う準備に取り掛かる。
エスクプスに知られたら拗ねると皆は言うけれど、判ってない。
こういう事はジョンハンは、自分から言うから。そうしたらエスクプスはすぐに「ぇえい、なんで7年以上なんだよ」ってすぐに怒ってくる。
「なんでお前、それこそ7年以上付き合ってんのに、今でも怒れんの?」
ジョンハンがそう呆れるほど。
もう愛してるとか言われなくても平気みたいな空気感だって出してるっていうのに。
「お前、まだ愛してるとか普通に言うよな」
そう言って笑えば「当然だろ。愛してるのに」と言ってくるから不思議だ。
「なんだよ、お前にはそんな気持ち、もうないのかよ」
怒ってても拗ねてても、クプスは真正面から見てくる。
「俺、お前が怒ってても拗ねてても、全然怖くないよ」
だからそう言ってやれば、クプスは嬉しそうに笑う。
その嬉しそうな表情を見てるとジョンハンもまた幸せになる。だから愛してるのかもしれない。でももう愛なんか、なくたって構わないとすら思う。
ただ側にいられればいいとすら。
でもそう言えば、「それが愛ってことだろ」ってクプスが嬉しそうに言うから。
それが愛ってことなのかもしれない。
恋に落ちてからこっち、不安になったこともなければ、別れが訪れそうになったこともない。離れられない関係性がそうさせるんだと思ってたのに、これが愛かも。
そう言えば、クプスが当然って顔で頷いていたけど......。
The END
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