妄想heaven

SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

_World

_Worldは、アンダーワールドと読む訳ではないらしい......

って確かどこかで見たけれど、気にしない。
あんなにピンクなトラックリストを見たっていうのに、そんな世界が浮かんじゃったから、しょうがないよね。
タイトルだけ決めてしまったけれど、いつ書くかは謎。
どんなおはなしになるかも、微妙に謎だけど......。

 

SECTOR17......

もともと、SECTOR17のblogの中で書こうとしてたけど、あっちが重たすぎて断念。
というか、このおはなし、ちょっと長くなるような気がしてきて、断念www
おはなしだけど、「_World」ってタイトルで分けました。

sevmin.hateblo.jp

 

元ネタ......

えっと、元ネタですが、YouTubeでね、1話だけ出してくれる韓国ドラマがあるでしょ?あれで見たんですよね。人殺しのドラマを。
いや基本怖いのは苦手で、あんまり見ないんだけど、なんでか見てて。
それで、人殺しが事前にわかるシステムがどうとか~っていう話だった。
しかし、あんまり有名な人が出てなかったから、もう覚えてないんだけど。タイトルとかも全部。残念。

 

_World

    • _World 001 何かが壊れる音がした
    • _World 002 好きなものに囲まれている
    • _World 003 神は死んだのか
    • _World 004 夜空の星は全部きっと
    • _World 005 俺が生きる場所
    • _World 006 どこにもない。どこかにある。
    • _World 007 行きたい場所に行けばいい
    • _World 008 夢を見る不思議
    • _World 009 でも嫌いじゃないんだ
    • _World 010 ポツンと座っているだけで
    • _World 011 どんな場所でもドキドキはして
    • _World 012 特別な夜は輝いている
    • _World 013 泣いても朝は来る
    • _World
    • _World 001 again 誕生日の夜には
    • _World 002 again でっかい目をしてさ
    • _World 003 again 一杯ぐらいは
    • _World 004 again 走り抜けた先にあったもの
    • _World 005 again お前の信じる道を行け
    • _World 006 again この星に住むすべての人は
    • _World 007 again 一緒なら笑えるし
    • _World 008 again 思い出の先にあるもの
    • _World 009 again バカだろと言われても
    • _World 010 again そばにいてよ
    • _World 011 again 狂ってるのは世界
    • _World 012 again 二度と手を離さない
    • _World 013 again 朝日が見たいと言ったって

 

_World 001 何かが壊れる音がした

なんでだよ。なんで俺たちがバラバラにならなきゃいけないんだよ。
世界はとっくの昔に壊されて、打ち捨てられていたはずなのに。
エスクプスには、幼かったころの記憶がある。兄がいて、優しかった両親がいて、自分は末っ子で、愛されていた記憶がある。
なのに気づけばここに閉じ込められていた。
SECTOR17と呼ばれるこの施設には、17人の子どもがいた。
遺伝子なのか脳波なのか、詳しくは忘れたけれど、確実に将来、人を複数殺したりする重犯罪を犯す因子を持っているっていう話だった。
どうやってそんな子供たちを見つけたのかも判らない。何かのきっかけで病院に通った際に、勝手にそれを調べて判定されて、子どもたちは死んだように装われて連れて来られたんだろう。
別にいい。誰も恨んだりもしてない。結局は勉強だってさせてもらえたし、普通に暮らしてたらできないような遊びだってたくさんしたし、結果、掛け替えのない家族を手に入れたから。
結局集められた子供たちは13人まで減った。
そして全員で楽しく、穏やかに暮らしてる。
最初にそれを提唱した博士は、最終的には「育った環境にも左右される」と、そりゃそうだろうっていう感じのことを言ったらしい。
そしてここはもう少しで解散となるらしい。普通の人間を結構長い間囲ってきたけれど、無意味だってことにようやく気付いたからだとか。
両親のもとに返されることもない。まぁ誰もそれを望みはしなかったけど。
お金も身分も補償される代わりに、ここで暮らしたことは秘密だという。
いや、誰が信じるんだよって吐き捨てたのは、いつも隣りにいた男で。
ただ、バラバラに暮らさないといけないらしい。ここのことは、少しでも外部に漏れないようにしないといけないからだとか。3年は監視という名のフォローをしてくれるらしい。普通の暮らしができるようにって。

エスクプスの中で、何かが壊れる音がした。
誰にも聞こえてはいなかったけど、大切なものを失うぐらいなら、全て壊してしまえっていう、それはある意味何かを塞いでたカギのようなものだったのかもしれない。
いつだって隣りにいて、その手を握ってくれる存在がいてはじめて、エスクプスは笑っていられたっていうのに............。

The END

_World 002 好きなものに囲まれている

閉じ込められていると、憤っていたのは誰だったか。
でもジョンハンにしてみれば、そこは楽園で、好きなものに囲まれて毎日楽しく過ごせる場所だった。
誰かがどこかで笑ってる。時折ケンカして、誰かが言いつけにくる。
なんでかエスクプスは拗ねている。
ドギョムは相変わらず危なっかしい。
気づけばウジは何かを発明したのか開発したのか、書き上げた論文が海外の雑誌に載ったとか載らないとか。
ホシの将来の夢はトラで、みんな笑ってたけど、本気っぽいなって思ってたら大人になった今でもホシの夢は変わってなかった。
それがらしいと思えて、やっぱりジョンハンは笑ってた。
外に出るには誰かの許可がいる世界。
自由がなくて、目に見えない足かせがあるような、そんな世界。
部屋には鍵はかかっていないけれど、いざとなればその鍵は自分の自由にはならないことも知っている、きっとここは歪んだ世界。
いつか自由になりたいと、ディノは言う。
俺はなんでもいいと言いながらも空ばかり見上げるバーノンがいて、ボノニと一緒ならどこでもいいと笑うスングァンがいる。
ジュンとディエイトは、世界中を旅してまわりたいと言っていたっけ。
ジョシュアはハワイで暮らしたいらしい。
ミンギュはウォヌしかいらないと言い、ウォヌはなんでもいいと言う。
見つけたのか、育てたのかは判らない。でもそこには確かに幸せがあって、やっぱりジョンハンは好きなものに囲まれていて、いつだって気づけば笑ってる。

The END

_World 003 神は死んだのか

神は死んだのか。いや、最初からいなかっただけ。
聖書が好きだった。長い長い物語だから。暇を潰すにはちょうど良かったから。
讃美歌も好きだった。それはドギョムが口ずさむから、その声と、優しい笑顔と、いつだって「シュアヒョン」って言ってくれる雰囲気が穏やかで愛おしかったから。
この場所には誰も残らない。だけどウジだけは、関係者のもとに残るという。デキがいいからだろう。残されるのか、残りたいと望んだのかは判らない。
だけどここを出たら全員バラバラに暮らさなきゃいけないっていう話だったのが、そこに「3年間は」って但し書きがついたのは、きっとウジが残ることに決めたからな気がする。
とりあえず、ここを出たらハワイに行って、のんびりしようと思ってたのに、海外には出られないという。
は? ふざけんな。
いつものように笑いながらも心の中ではそう思ってたら、さすがに一緒に長く暮らしてたからか、「シュアヒョン怒んないでよ」ってドギョムが言う。
でもまだまだだと思うのは、後からジョンハンが、「お前はそういうの、突破して行きそう」って笑ってたから。
だってしょうがない。3年間は会えないのなら、ハワイぐらい行ってのんびりしないと。
近くにいたら、弟たちの哀しみを拾ってしまうから。
そうしたらきっと、我慢できなくなる。
何よりも愛おしい弟たちなのに、弟たちのためなら、神様だって殺せそうなのに。

The END

_World 004 夜空の星は全部きっと

自由だと、目の前に扉が開く。
どこへ行ってもいいらしい。歩きはじめれば、「ジュナ」と呼び止める声がした。
振り返ればウォヌが「お前はほんと、振り返りもせずに行くつもりかよ」と笑ってた。
手を挙げて、それだけで終わり。
「どこにいても、お前は目立ちそうだ」とよく言われるけれど、ジュンは一瞬で気配を消して、どこかに消えた。
監視という名のフォローが3年はつくという話だったのに、施設から半径5キロ以内の監視カメラどれ一つにもジュンの姿はなかったという。
出ていったのはジュンが最初の1人だというのに、すでに数多くいるスタッフたちはざわついていた。
何をしたいのか。そう問われた時にジュンは、3年は星でも眺めて暮らすよと笑ってた。山の上とかで、仙人のように暮らすのも悪くないって。
ジュンの担当スタッフは楽だろうと、スタッフたちだって笑っていたっていうのに。
「ジュニヒョン、星空見て何を願うの?」
スングァンがそう聞いたら、ジュンは不思議な顔をして、「夜空の星は全部きっと、もう死んでる。それに願いは自分で叶えるものだから」と言ってのけて、ある意味スングァンのことをビビらせていた。
でもジュンがそういう男だと、チングたちは知っていたから。
きっと何も移さなかった監視カメラのうち何台かは、ジュンが細工したんだろう。
そしてそれを確実に見極められるのは、自分たちだけなはず。
ジュンが消えてもなお、まだ、誰も疑いはしなかった。そしてウジ以外が解き放たれた。

The END

_World 005 俺が生きる場所

ウジは残るという。じゃぁ俺はどこに行く。
ホシは途方に暮れた。情けない顔をしてたらウジが、とりあえず南に迎えよ。って物凄い適当なことを言う。
でも「色んなものを見てこいよ」って言った後に当然のように、「待ってる」とも言ってくれたから。
だって自分が生きる場所は、当然ウジの隣りのはずだから。
そう思って生きてきたし、これからだってそれは変わらないはず。
「ムンジュニが出るぞ」
ウジがそう囁いてきた。
「一気に行け。異変はすぐにバレるけど、さすがムンジュニって笑っとけば、多分騙される」
その言葉をホシはウォヌに囁けば、ウォヌはミンギュに伝え、ミンギュは全員に伝えた。そしてさすがなのはその予想通りで、ジュンは気軽に出てったのに姿をキレイに消してしまった。
スタッフたちは全員が驚いていたけれど、「ジュニヒョンなに? 実はその辺で寝てるとか?」って笑うスングァンの言葉に全員がそうかもって笑ってた。
だから2番手はホシが出た。
とりあえずこの国の南を目指してみると決めて。どこかにタッチをしたら戻ればいい。
「おさきッ」
そう言ってホシが走り出て行く。
恨み言一つ言わずに、ホシは出ていった。
もう自分が生きる場所を見つけてるから強いのか、いまだにトラになることを夢見てるから頭のネジが緩いのかは判らない。
ただホシもまた、ジュンと同じように消えた。
それが明確な異変だと気づいた時には、ウジ以外の全員もまたそこを出ていて、そして次々と消えていく。まるで今までそこに存在していたことそのものが、ウソかのように。

The END

_World 006 どこにもない。どこかにある。

ウォヌはキムミンギュの墓の前で立っていた。
結構大きなそれは、残された人の愛情の大きさだったかもしれない。
雨がさっきまで降っていたのに晴れ渡った空は、キムミンギュに良く似合う。

「そこは、息子の墓なんだけど......」

長く佇みすぎたせいか、気づけば背の高い壮年の男性に声をかけられていた。
ウォヌは慌てたりもせずに「すみません。友達の墓を探していて、キムミンギュって言う」と言えば、その人は「残念だけど、うちの子は小さい頃に亡くなったから」と教えてくれた。

頭を軽くさげて、ウォヌはその場を遠ざかる。
背の高いその人の背中を見れば、よく見知った背中と、よく似ていた。

ウォヌは当てもなく歩き出す。行き場所なんてどこにもない。でも、どこかにあることは知ってる。
きっと笑ってる。それから、絶対に自分のことを探してる。
今日は会えなかったとしても、明日には会える気がする。
雨が降れば、ウォヌは傘をささずに歩く。そうしたら「傘さしなよ」って言いながら、傘を差し出してくれると信じてるから。

離れてからはじめてのミンギュの誕生日は、そうやって終わった。
3年は長い。きっとアイツには耐えられないはず。でもきっと笑ってる。そう信じてる。悲し気な顔も浮かぶけと、いつだって前向きだったから。
きっと笑ってる。ウォヌはそう願ってる。

The END

_World 007 行きたい場所に行けばいい

ウジはそこに残ることを決めた。
自由にしてくれるという。でもバラバラにだけど。
だからそこに3年という条件を付けた。役立つのなら、自分が残ると伝えれば、誰がそれを比較検討したのかは知らないが了承された。
お前何やってんの? って、エスクプスは文句を言いに来た。
昔から、ヒョンらしいヒョンだったから。
ホシは当然のように、俺どうしたらいいの?みたいな顔でやって来た。
だから「色んなものを見てこいよ」と言っておいた。南にでもと適当に言えば、嬉しそうに行ってくると言っていたから、本当に行って来るんだろう。
ジュンは、「俺は行くよ~」と挨拶に来た。「俺は自由だ」とも言っていたから、3年のフォローなんて、着けるつもりはないんだろう。無害に見えるのに、無敵なジュンは正面から出るとニヤリと笑った。
ウジが残るとして、ほぼほぼ全員が会いに来た。来なかったのはユンジョンハンとバーノンだけ。
ジョンハンは敢えてっぽいけど、バーノンはボーっとしてそうだ。そう思ったら笑える。
でも、「行きたい場所に行けばいい」と皆に言った。
スングァンだけが、「ヒョンは? ヒョンの行きたい場所はないの?」って聞いてきた。きっと優しいからだろう。
「俺は、犠牲になって残る訳じゃないよ」
だからそれだけ答えた。
だって本当に、全員のために犠牲になったつもりなんて微塵もなかったから。
ただ13人いないと、意味がないのはウジだって一緒だっただけ。
スングァンはウジのことを抱きしめて、「ウジヒョン、サランヘ」って言って去っていった。
だれもバイバイなんて言わなかった。

THE END

_World 008 夢を見る不思議

ディエイトは、行ったこともない場所の夢を見る。
この世界しか知らないのに、優しい景色は、もしかしたら幼い頃の記憶かもしれない。
母がいて、父がいて、両手を繋いで歩いたその場所は、何もないただの原っぱなのに、いつだって夢を見る。
自由が手に入ると知った時、それなら丁度いいとばかりに、夢で見る場所を探しに行くことにした。そうジュンに話せば、「夢で見た場所を探すのって、おとぎ話みたいだな」って笑ってた。
大抵の場合、探してた場所は元いた場所だったってことが多いんだよとも言ったのは、誰だったっけ。
閉ざされた世界で、ディエイトは世界を学んだ。
普通に生きていれば知ることもなかった知識の泉の中に、埋もれるようにして過ごした。
知識欲はいつだって満たされた。ただの興味からはじまったものも、望めばどんなものだって学ぶ機会を与えられた。それはある意味人生を奪ってしまったことへの贖罪だったのかもしれない。それとも案外役立つとでも思われていたのか。
果てなく知識を吸収してもなお、世界はディエイトにとっては不思議で魅力的で美しかった。
でもどんなに色んなことを知ったって、ディエイトの心を揺さぶるのは夢の中に出てくる景色だけ。
別に誰かを恨んだりはしてない。誰かを責めるつもりもない。
だからあの場所に行かせて欲しい。
今ではもう、誰に教えてもらう必要もなく、自分が知りたいことを知る術を手に入れた。
戦わずして勝つ方法も。殺さずに制する方法も。笑って息の根を止める方法も。
そうやって育てられた気がしないでもないけれど、勝手にそう育ったのかもしれない。
「誰も恨んでないよ。ほんとだよ。俺はただ、行きたい場所があるだけなんだ」
そう言えば、ウジは「好きな場所に行けばいいだろ」って言ってくれた。
それから、「ジュニの痕跡を辿れよ。そうすれば最短で行ける」と、そうも教えてくれた。
解き放たれた。それを望んだ訳じゃない。ただ、それもまた与えられただけ。
制御なき世界は、本当に自由なのか。その答えはきっとこれから知るんだろう。
ウジの行ったようにジュンの痕跡を辿れば、バカみたいに簡単に監視を撒けた。それからディエイトは、夢の中に消えるかのように消えた。

THE END

_World 009 自由を手に入れて愛を失う

恋に落ちたのは、ウォヌが「人は殺しちゃいけない訳じゃないと思う」って言ったから。
でもたぶん、「人のイチゴを盗ってる間に、自分の皿からもイチゴは盗られる」とか言われても、恋には落ちていたかもしれない。
「愛してるよ」
そう言ったら笑われた。まだミンギュがガキだったからかもしれない。
大人になるまでも、なってからも言い続ける自信があると言えば、ウォヌは「コマウォ」って笑ってた。
「人の分のイチゴまで盗るなって」
そう言いながら、自分のイチゴを当然のようにくれるヒョンたちがいた。
だからいつからかミンギュだって弟たちに、イチゴを食べていいよと譲れる男になった。
どうしても自分も食べたい時には、「半分こな」って言って分けることを学んだ。
ミンギュは自分がここに連れてこられた理由を知っていた。
いつか、自分が人を殺すからだって............。
料理をしたり、何かを作ったり、掃除をしたり、片付けたり。ベッドメイクだって好きで、何でも器用にこなす自分は、きっと人もうまく殺せるんだろうなって思ってた。
でもいつか誰かを殺すなら、そこには何か、やむにやまれぬ事情があって欲しいとも思ってて、笑って、楽しいから人を殺すなんてことは、できればしたくなかった。
集められたのは全員そんな因子を持つ子どもたちだって話だったのに、チングなドギョムはいつだって鈍臭くて、包丁を持って料理をすれば自分の手を切るような奴で。
もう一人のチングのディエイトは色んなエナジーを自分の中に取り込んで芸術に昇華するのが得意で、2人とも人なんて殺しそうには見えなかった。
「お前はどっちかっていうと、殺される側だな」って言えば、「縁起でもないこと言うなよ」ってドギョムは怒ってた。「お前だって殺すってよりは、事故るって感じだけど」ってディエイトが逆にミンギュに言ってくる。ドギョムもそこに賛同する。
だからいつだって3人で、言いあったり笑いあったり。
いつ自分は人を殺すんだろう......って、ずっと思ってた。
こんなに幸せで、毎日楽しくて、ウォヌはいつまでたっても自分の横にいるのに。
でも、自由を手に入れて、ウォヌを失った。
3年って言われた。
あぁ人は、愛を失うと、誰かを殺したくなるのかもしれない............。

THE END

_World 010 ポツンと座っているだけで

ドギョムは親に捨てられたのかもしれない。理由は判らないけど。
いつだってポツンと座っているだけだったのに、気づけばここにいた。
見知らぬ子どもたちがたくさんいた。
仲良かった子の名前も忘れてしまったけれど、いつだって手を繋いでくれていた。
その子は、ドギョムが虫が嫌いだと言うと、いつだって虫を殺してくれた。たぶん優しい子だったはず。でも繋いだ手はなかなか離してくれなくて、離れようとすると強く引っ張って来るような子だった。
名前も忘れてしまったのは、ある日いなくなってしまったから。
「ドギョマッ」
気づけばハニヒョンが呼んでくれて、そうするとその子はどこかに逃げていってしまう。
「あの子、名前、なんだったっけ?」
そう聞けば、「は? 誰のこと?」ってハニヒョンは言うけど、確かにいたのに。
誰も覚えてないのかと思えば、「どの子かは知らないけど、いなくなったのは4人だよ」と教えてくれたのはミンギュだった。
「1人はここで消えた。もう1人は海で消えた。あとの2人は俺は知らない」
きっといつだってドギョムは1人で座っていることが多かったから、気づかないうちに色々あったんだろう。
1人ぼっちの子どもだったのに。
でもここで育ってチングができた。ディエイトとミンギュは笑ってドギョムの肩を抱く。今では普通にケンカだってする。
ヒョンたちは優しくて、弟たちは可愛くて。
もう1人は嫌なのに。あの頃のように、1人ぼっちでいたら、きっとまた何かが起きるのに............。
どうしたらいいの? どうするの? どうしたらいいの? どうなるの?
自由を手に入れて解放されるという。
良かったなと、説明してくれたスタッフのヒョンが言ったけど......。
また1人になってしまう。そうしたらきっと、あの頃のように、「ドギョマッ」って、ドギョムのことを止めてくれる人は、もういないんだろう。

The END

_World 011 どんな場所でもドキドキはして

こんなにドキドキしてるから、恋をしてるんだ。って言ったら、ただのビビリなだけだろってバーノンは言う。
スングァンが目をキラキラさせてても、見た目キラキラしてるくせに、バーノンは案外辛辣で、スングァンのテンションを下げることばかり言う。
みんな、ヒョンたちもチングも弟のディノも、それからスタッフなヒョンたちも、本当に全員が全員、「スングァンは何か間違いがあってここに来ちゃったんだな」って言う。
いつだって楽しそうで、小さいことにも幸せを感じて、笑ってて、時々は怒ってて誰かとケンカしてるけどすぐに仲直りしてて。
人なんて、殺したりは絶対しないように見えるから。
でもどんな場所でもドキドキはして、小さな小鳥も、可愛らしい子猫も、全部全部手に入れて、自分のものにしたくなる。
そう言えばバーノンが、「俺だけにしとけって」って言うから。
子猫を鷲掴みにしてたスングァンの姿を、きっとバーノンは忘れてないだろう。
でもダメだとも、なんでとも、バーノンは言わなかった。
色んなものにドキドキするんだって教えたら、その時に「俺にも?」って聞くから頷けば、バーノンはキラキラした笑顔で「じゃぁ俺だけにしとけって」って言った。
あれから、スングァンの隣りにはバーノンがいつだっていた。
小鳥にも子猫にも、スングァンは手を伸ばさない。
自由が手に入るらしい。でもスングァンの隣りには、バーノンはいてくれないと言う。
それを聞いた時、バーノンはスングァンのところまで走ってきて言った。
「自由には責任がつきまとう」って。
でも自由だ。スングァンはちょっとだけドキドキした。
「俺が絶対に、3年も待たせない。絶対にすぐに会いに行く。スングァナ、スングァナ」って、バーノンがスングァンのことを抱きしめて言ったけど。
でも自由だ。きっと世界には、小鳥よりも子猫よりも、スングァンをドキドキさせるものがいっぱいあるはずで。自由って、何をしてもいってことだと思う。
「うん、待ってる」
そう言ったけど、スングァンはもう目の前の自由って言葉に、ドキドキが止まらなかった。

The END

_World 012 特別な夜は輝いている

自由を手に入れた日。バーノンは走ってた。
3年は監視がつくっていう話だったのに、当然のようにジュンが突破して行った。全員それに続くというから、人よりのんびりなバーノンは、最初、1週間ぐらいはのんびりして後から出ていこうと思っていたのにそうも言ってられなくなって、遅れないようにと走り出た。
本当はスングァンと一緒に行きたかった。
だけど2人なら確実に見つかるぞと、最初はバラバラで行けと言ったのはホシヒョンで、そんなの、ウジヒョンが残るからホシヒョンは何も考えなくていいけど、絶対、ウジヒョンも出るなら何があったって離れなかったはずだ。って文句を思いついたのは、1人で夜空を見上げた時だった。
あそこで見上げた夜空と何も変わらない。
バーノンは人を殺したいだなんて思ったことはない。
でも殺せないかというと、そうでもない。きっと。
スングァンだって、人を殺したいだなんて思ったことはないはず。
でも殺さないかというと、そうでもない。きっと。
いつだって幸せそうに隣りで笑ってたスングァンが、ただ傷つかないで欲しい。
全員散り散りになったけど、スングァンだけは探すつもりでいた。3年も待たせないと約束したから。
泣いてないといい。誰かを殺めてその手が血に濡れていても、傷つかないで欲しい。どんな手だってスングァンの手なら、掴めるはずだから。
スングァンと出会ってからバーノンの見上げる夜空はいつだって輝いていて、毎日が特別だったんだから。

The END

_World 013 泣いても朝は来る

ディノは1人だった。
色んなことを学んで育ったから、きっと1人でも生きてはいける。
それにディノには12人のヒョンたちがいて、1人でいてもいつだって誰かが話しかけてくる感覚がある。
どの道を行こうか。悩む時はいつだって誰かの声がする。
それは見守ってくれる視線でもあったり、応援してくれる声だったり、1人だけどディノの心をいつだって抱きしめてくれる気持ちだったり。
失敗したら嘲笑ってくるスングァンの声だって聞こえてくる。
だからディノは感覚を研ぎ澄ませて、最善を行く。
ホシヒョンから学んだ勢いに、ジュニヒョンから学んだ大胆さに、ディエイヒョンから学んだ冷静さ。
そうすればどの道を選んだって、すべてをやり過ごせる。
でも自由だと言われても行く場所なんてなかった。
気づけばあそこにいて、そこで育って、そこしか知らなくて。実は閉じ込められてる感覚すらなく、なんならあそこにいたってディノは自由だった。
いつだってヒョンたちには敵わなくて、悔しくて泣いたことだって山とある。でも、寂しくて、辛くて泣いたことなんてなかったのに......。
自由は孤独なんだと知ったディノは、何度か振り返りそうになったけど、それはグッと我慢した。いつだって前を見ろってホシヒョンが言っていたから。
でも、いつまで耐えればいいんだろう。
3年なんてあっという間なはずなのに、指を折って数えようとしても、果てしない数の夜を超えないとと行けない。
ディノが辛い時にはいつだって誰かが寄り添ってくれていたのに、今は泣いてても誰も来ない。でも、泣いても朝は来るけど。

The END

 

_World

パソコンに向かって、いつも通りに仕事とも遊びともとれるナニカを作っていたウジのもとに、スタッフが慌てたようにやって来るのは、ジュンが消えたあの日から日常になりつつある。
最初は笑って「どこの監視カメラもムンジュニを捕らえられてないけど、そこら辺の草陰で昼寝でもしてそう」と言っていたのに、本当にジュンが消えたことに気づいた時には時すでに遅し。後から出た兄弟たちも、全員が消えていたから。
うっかり連発しそうなミンギュや、時々やらかすドギョムや、ボーっとしてそうなバーノンや、マンネなディノでさえも綺麗に消えていた。
でも一番スタッフたちを驚かせたのは、ジョシュアだったかもしれない。
消えたはずのジョシュアが、普通に空港の、しかも国際便のゲートを潜っていく様子が映像として残っていたから。
監視カメラに向かって笑うその姿はいつものジョシュアで、ピースまで添えて、それから手を振って搭乗ゲートに消えてった。
ここから消えて僅か数日で偽造パスポートでも手に入れたのかと思いきや、使ったパスポートの名前はホンジスで、それはジョシュアの本名だと言う。本人ですら知らないはずなのに、なんで......とスタッフたちは言葉を失っていたけれど。
「調べたんだろ。自分のルーツを。それで、親が自分の死亡届けを出してないって知ったんだろ。ま、本人のパスポートで出てるなら、なんの犯罪でもないから捕まえようがないな。シュアヒョンはどうせ、ハワイに行ったんだろ」
ウジが面倒だから、いちいち報告しに来なくていいけどって言いつつそう言えば、スタッフたちは言葉を失っていた。
確かにジョシュアは笑って自由になるんだったら、ハワイ辺りに行こうかなって言っていたから。でも国内からは出られないんだって説明されて、残念ってそれもまた笑って言ってたのに............。
見つけなきゃいけないのが仕事で、監視するのもまた仕事で、動向を探って検証だってするんだろうに、それでも長く一緒にいたスタッフたちだったから、心の底から心配だってしていた。
どうやって食べていて、どこで寝ていて、何をして、これからどうするつもりなのか。
でも、「自由にしちゃったんだから、しょうがないじゃん」とウジは呆れてたけど、本気で見つけるつもりで会議を繰り返してた。
でも見つける必要はない。きっと誰かが動き出すはず。
スニョイは多分大丈夫。ウジが行ってこいと言ったから。
「見つかるだろ。案外我慢がきかないのは、ミンギュあたりじゃね?」
ウジの言葉は誰も聞いてなかったけど、全員が消えて数か月。それはウォヌの誕生日に起きた。
当時でさえ目立ってなかったのに、今ではもう誰も覚えてないような、かつて官僚だったおじいさんが、駅の階段から落ちてケガをした。お年寄りだから亡くなってもおかしくなかったかもしれないけれど、額は切りはしても無事だった。
背中を押された気がすると言ったけど、最初は誰も信じたりはしなかった。
でも同じ日に、各地で色んな人が事故とも呼べないような事故に遭った。
乗ってたタクシーが事故を起こした人は、たまたまかつて、ある会議に出席したことがあるってだけの人だった。だからそれはただの事故のはずで、後から警察が来るまでそんな会議のことすら忘れていたほど。
でも同日に各地でちょっとした事故にあった人は全員、その会議に出席してた人だった。
「でもあの時の会議に出てきた案は確か、否決されたはずなのに」
そう言ったのは、乗ってたバスから火が出た人で、当時は書記的な役割で、今でもまだ比較的若いおじさんだった。ただ一人、バスの中で「これは警告だ」っていう声を聞いた人でもあった。
ウォヌの誕生日に起きたんだから、それはもう当然ミンギュだろうって空気があって、でもスタッフたちは皆、「ミンギュに限って」と最初は信じたりはしなかった。
だってミンギュはいつも明るくて、前向きで、何より愛を知ってて、皆を愛してて皆から愛されていて、負の感情なんて一度も口にすることもなければ、感じさせることすらなかったのに............。
「でもアイツから、その愛を取り上げたじゃん」
そうウジが言うまで、本気で全員が気づいていなかった。
人は誰でも間違える。間違えるけど何が悪いって、良かれと思って行動する人たちが間違うことほどタチが悪いものはない。
自由だという割には監視はつくし、何故か一緒にはいられないし。
だいたい、誰が自由を求めたんだろう。誰もそんなもの、求めてもいなかったはず。
今となってはひっそりとした計画となっていたから、大々的には探せなかったのかもしれない。
「で、警告なのは判ったとして、いつまでにどうしろっていうのはなかったのかよ。判りにくいなアイツも」
やっぱりウジの言葉は誰も聞いてなかったけれど、スタッフたちは次に起きた事件に動転しすぎていたのかもしれない。
大邱広域市っていう、別にそんなに田舎でもない場所で、獣に襲われて亡くなった人がいたから。それはまるで虎のような猛獣に襲われたような状態で、野生の虎なんてものがいるはずもなく、動物園から逃げたりはしてないかとニュースになっていたから。
でもスタッフたちは、いつか虎になりたいと言っていたホシが、大きくなってからは自分は虎だと言っていたことも知っている。
そしてそんなホシが、虎として人を襲ってるんじゃないかと疑っていた。まぁそれぐらいのこと、ホシならできるだろう。だけど何のために? ホシは何も失ってはいないのに。
もはや疑心暗鬼に陥ったのか、警察官僚が事故を起こしただけで、誰かの報復じゃないかと大慌てだった。
後ろ暗いことなんて山とあるだけなのに、そんなことを全て棚にあげて、やれ脅されただの、やれ狙われてるだの、時々は本当に狙われてる人もいたかもしれないが、それを全部自分たちのせいだと言われても堪らない。
でも............。
「で、喧々諤々、話し合った結果は出たの? ウォヌの誕生日が来たってことは、もうすぐクプスヒョンの誕生日も来るってことだけど」
ウジのその言葉に、全員が止まった。
毎年毎年、誕生日おめでとうって言葉を、どれほどエスクプスが心待ちにしてたかを知ってるからだろう。24時をすぎた時にケーキを用意して歌ってクラッカーを鳴らしてプレゼントを用意して、それでもなお拗ねることが多かった寂しがり屋の男が、たった1人で耐えられる訳がない。
でも、あの子に人が殺せるはずがない。って言ったのは、エスクプスをよく知るスタッフの1人だったけど。
「でも俺らは人殺しになるからって、集められたんじゃん。きっかけさえあれば、一線を超えるのは簡単だと思うけど。それに、ハニヒョンがいないなら、誰もクプスヒョンを止める人間がいないのに............」
最後の呟きを、ウジは遠いところを見ながら言った。
スタッフたちが、より慌て出した。
持たせたスマホには当然GPSだって設定されていたけれど、そんなもの、ここを出た後にはすぐに破棄したんだろう。使われた形跡もないのに、スマホそのものは1台たりとも見つからなくて、不気味さは余計に募るばかり。
世界中で1日に、どれぐらい人は死んでるのか。そのうち、殺されてる人はどれぐらいなのか。韓国では?
事故死や自然死も含めれば相当な数なのに、それすらも疑えだせばキリがないって言うのに、探し出せなすぎて誰かが、そもそもまだ韓国にいるのか......って言いだした。
あれだけ堂々と国外に出て行ったジョシュアほどではないにしろ、時間は十分にあったはずだから。
あの子は、人を殺すかもしれない............。
そう言ったスタッフが1人だけいた。エスクプスの話題をしてたから、誰もがそれはエスクプスのことだろうと思ったのに、ウジだけは違っていた。
「あの子って?」
誰も聞かなかったのに、ウジだけはそう聞いたから。
そこではじめて全員の視線がそのスタッフに向かう。
「イ・ソクミン............」
そこにいた大半のスタッフたちは、その名前を聞いても誰のことか判らなかった。
それがドギョムの本名だと知るのは、本当に古くからいるスタッフと、ウジを含めた数人ぐらいだろう。
最初は子どもたちは17人いたのに、今は13人しかいない。
理由は様々だったけど、いつだってドギョムはいなくなった子たちと一緒にいた。
1人は海で消えた。その年、なんでか子どもたちを海へと連れて行ってくれたのは、たまたまだったのか、何か理由があったのか。
結論から言えば、それは離岸流による事故だったと処理された。
でもずっと一緒にいたはずのドギョムは助かって、その子だけが一瞬で沖へと流された理由を、ちゃんと説明できる人間はいなかった。でもウジは覚えているけど。あの時ジョンハンが、ドギョムのことを呼んだから。呼ばれたドギョムは数歩、「なに? ヒョン」って言いながらジョンハンに向かって進んだ。その数歩が運命を分けたんだろう。
「あの子は、人を殺すかもしれない」
さっきは誰にも聞こえないほどの呟きだったのに、今度はしっかりと声を出してそう言う。
もう1人は、ここで消えた。
本当に消えてしまった訳じゃない。扉を内側から閉めて部屋から出て来なくなっただけ。でもスタッフたちが気づいてそこから助け出された時には、衰弱が激しくて、そのまま病院に運ばれたけど助からなかったらしい。
施設の中の監視カメラには、その部屋にその子が自分で入る瞬間が映ってた。後を追って、その部屋のドアを叩いて「出ておいでよ。遊ぼうよ」って言うドギョムの姿も映ってたけど。
衰弱が激しくても決して部屋から出てこなかったのは、何かに怯えたからなのか。そうだとしたら、その子は何にそんなに怯えていたのか。当時そんな話もあがったけれど、こんなところに閉じ込められていれば、子どもだって心を病むっていう意見に押し流されて終わった。
それでも当時いたスタッフの中には、ドギョムに話を聞いた方がいいんじゃないかと言った人間は少なからずいた。それを拒否したのはドギョムを抱き込んだジョンハンと、その前に立ちふさがったエスクプスとジョシュアだったはず。
いなくなったのは後2人。
もう1人はここから逃げ出した。こんなところ、俺は出て行くっていつも言ってて、そしてある日本当に消えてしまった。無事に逃げたのかは判らない。
それからもう1人は、殺された。
広い広い、庭と呼ぶには広大な庭があって、そこで遊んでいて、命を落とした。
でも命まで狙ってたのかは判らない。飛来物が子どもに当たったのは確かだったけど、それは銃弾のようなものではなかったし、衝撃で遊具の上から落ちた時の打ちどころが悪かっただけだったから。
飛来物は木の枝だった。ただそれは、誰かの手に寄って研ぎ澄まされていたから十分に殺傷力はあったけど。
狙われていたのがその子どもだったのかは今も判らない。救いだったのは、外から飛んできたのをその場にいた全員が見てたから、犯人は中にはいないと判断されたこと。
「でも俺たちも殺されちゃうの?」
そう言ったのはスングァンで、しばらくは怖がって庭には出なかったほど。
誰の仕業かは今でも判らない。ただここに子どもたちが集められたことを知ってる人は驚くほど少なかったから、知ろうと思えば簡単だったかもしれない。
もしも狙われたのが今なら、13人のうち誰かが確実に犯人を特定するはず。
まともそうに見えて一番まともじゃないジョシュアあたりが、「別に警察じゃないんだし、特定しなくてもいいんじゃない? それっぽい輩を殲滅しちゃえば」とかって言いそうだけど。
ウジがそんなことを考えて1人で笑いそうになるのを我慢してる間にも、スタッフたちには動揺が広がるばかりだった。
「ウジや」
そうしてスタッフの1人が、ウジの名を呼んだ。
結局遅かれ早かれ、ウジに頼るしかどうしようもないってことに気づくはずだったから、ウジだって判ってた。でも当然「んぁ?」ってちょっと聞いてなかったフリをしたけど。
「現状をどうにかしたいと思ってる。あの子たちはみんな、人なんて殺さないと信じてる」
長く一緒にいたからスタッフたちの方が、自分たちは管理する者だってことを忘れかけているのかもしれない。
人を殺す子どもたちとして、集められて来たというのに。
「3年は長すぎる。思ってる以上に、一緒にいることで俺たちはバランスを取ってたんだよ。幸せなんて存在しない場所で、幸せを作り出して自分たちで育てたんだ」
もしもスタッフたちが何も言い出さなきゃ。見つからないと、ただただ追い詰めるだけの行動を取るつもりなら、この施設ごと、全てを消し去るつもりだったのはウジの方だった。
人を殺してはいけないらしい。
世の中はそういう風潮が正しいとされている。でも、この世界の人殺しの多さはどうだ。
楽しく生きてるならきっと誰かを殺したいとは思わないかもしれない。
でもウジのそばにはもう、誰もいない。
眠れないのかと声をかけてくれるヒョンたちがいない。
くだらないことしか言わないチングたちがいない。
ウジヒョンウジヒョンと、楽しそうに話しかけてくる弟たちがいない。
いつの間にか愛してた、あの男がいない。
「止められるか?」
たぶん止められるだろう。ウジなら。頷けば「どこにいるか、判るのか?」とも聞かれたから、それには首を振る。
「戻ってくるか?」
そうも聞かれた。どうだろう。本当の自由ではなかったけれど、それでも自由な世界を知ってしまった今となっては、戻りたいと思うだろうか。
ウジのもとに駆け戻ってくるのは、ホシぐらいかもしれない。
「本当にハワイにいるなら、シュアヒョンはもう帰ってこないんじゃない? 韓国は寒すぎるから」
笑い話にもならない。
でもいつだって笑顔に見えて、どうしようもない自然相手とかによくキレてるヒョンだったから。
どうやって収束させるのか。少しは前向きな話題になりつつあったのに、突然騒然となったのは、8月8日爆弾を仕掛けるっていう書き込みがネットのあちこちに見つかったから。
世間では、それはただのイタズラだと思われていた。だって爆弾を仕掛ける理由が、今年は誰にも誕生日を祝って貰えないから......だったから。
でもウジをはじめとしたここにいるスタッフたちは皆、それが事実だと知っている。
ケーキの色にだって、ケーキの上のロウソクの数にだって、ケーキの大きさや出すタイミング、それからケーキの上に書かれたおめでとうの文字にだって、喜んでたと思った次の瞬間には拗ねてる男は一番ヒョンなのに一番マンネのようでもあって。
頼りになるのに、拗ねると面倒で。
でも拗ねるのは寂しがりだからと全員が知ってて。
「ほら、俺がいるだろ」
そう言っていつも側にいた男がいないと、きっと、本当に何もかも、それこそこの世界そのものを壊してしまいそうだった。
イムリミットが決まる。
後はどんな手を打てば、この事態が収束するのか。
話し合いは進むけど、答えは出ない。どうやって全員にメッセージを届けるか。今の議題はそんな感じのことばかりだった。
でも、ウジは知っている。タイムリミットはそんなに先じゃない。
驚くほどにメンバーを愛してるユンジョンハンは、案外せっかちで、待つのは嫌いだから。それにその愛してるメンバーの中には当然ウジだって入っていて、きっとジョンハンにしてみれば、ウジが囚われたままでは自由なんて謳歌できるはずがない。
「どこが爆破されようと、誰が殺されようと、きっと犯人は捕まらない。みんなが黙ってたら、きっとバレないし、証拠すら見つからない。ただ焦れたら、誰かは普通に武器持って出て来そうだけど」
ウジの言葉に、スタッフたちは真剣に考える。
長く一緒にいすぎた。閉じ込める側と閉じ込められる側だったのに、距離が近すぎた。いやそれぐらい、皆が幸せそうに毎日笑って暮らしてたから、錯覚したんだろう。
ここはまるで、楽園のようだって。
実際には、監獄で要塞で自由のない場所だというのに。
「悩んでる暇は、あんまりないよ」
ウジの呟き程度の声は、今度は全員に聞こえただろう。
そして本当に、時間は残ってなかったようで、ウジを奪還に現れたのは予想通りユンジョンハンだった。
夜中にコッソリ裏口からとかじゃなく、真昼間に堂々と正面から。
なんでかランチャーっぽいものを担いで現れた。
「ヒョン、それ邪魔じゃない?」
思わずウジがそう聞いたほど。
「いやだってインパクト重視だから」
ジョンハンはそう言って笑ってたけど、目は笑ってなかったかもしれない。
驚いてるスタッフたちに、「できればコレ、使いたくないんだけど」って言いつつも、引き鉄からは指を離さなかった。
「ヒョン、まずは普通に交渉とかからはじめなよ」とウジが苦笑するのに、「吹っ飛ばしてから要望を伝えようと最初は思ってたもん。我慢しただけ偉いじゃん」とジョンハンが笑う。
「どうする?」
考える時間なんて与えるつもりもないのか、その場で答えを迫るジョンハンがいて、ウジを取り戻すのは当然だと思ってるのが、その場にいた全員に判った。
「私たちが捕らえている側で、君たちが捕らえられてる側だと思っているのか」
確かその人は、ここでは2番手の人だった。
良き相談相手にもなってくれた人たったはず。
「別に、そんなのはどうでもいいよ。ただウジは返して貰うけど。それが叶わないなら、俺は加害者にも犯罪者にもなったっていいってだけで」
選ぶなら当然、ウジを選ぶ。そう言ったジョンハンにはもうウジしか目に入っていないのかもしれない。
離れていては、安心できない。
弟たちが幸せじゃなきゃ、生きていけない。
13人もいるんだから、1人ぐらいいいだろ......なんてことは、絶対にない。
「悪いけど、急いでくんない? この後、俺、クプスも宥めなきゃいけないし弟たちも回収しなきゃいけないし。結構忙しいんだけど」
ウジは傍観してた。相変わらずユンジョンハンは見た目に反して男前だと思いながら。それから優しさに底がなくて、やる事もハンパないなって思いながら。
「監視をしたい訳じゃない。ただ、ちゃんと生きていけるのか、心配してるだけだ」
もうお互い長く一緒に居過ぎたから。幸せを願ってだっている。
別々にもちゃんと暮らしていけた方がいいと本気で思っての、でも自分たちが手助けするから大丈夫だとも、やっぱり本気で思っての行動だったんだと、一番親しかったであろうスタッフのヒョンが言う。
ジョンハンが、口元だけで笑う。儚げに見えるその笑顔は多くの人を魅了する。でもウジは知ってる。ユンジョンハンがどれだけ、自分たちを守るために頑張ってきたかを。
もうみんな仲間みたいな、家族みたいな雰囲気で暮らしてきたけれど、ジョンハンだけは笑顔の裏で、油断してなかったことを。弟たちが幸せに暮らすことで色んなことを忘れても、自分だけは忘れないぞって感じで、生きてきたことを。
だからこそ、突然の自由にも全員が対応できたんだろう。
いつか何かあった時を想定して、どれだけ心を砕いてきたことか。
もう誰が敵で味方か判らなくなったとしても、弟たちだけは絶対に守ると心に決めて。
いつかエスクプスが言った。ジョンハンはまるで、この世界に自分たちしかいないように話すって。でもきっとそれは真実で、ジョンハンにしてみれば、世界には自分たちしかいなかったのかもしれない。
「ここはもう、研究所としても主流じゃない。大分忘れられた場所だから、どうとでもなる。ただ、困った時には必ず連絡してほしい。できれば生きてることも、幸せなことも、教えてほしい」
それはただのお願いだった。
本当の自由が手に入った瞬間だったのかもしれない。
ウジは話が決まったんならと、立ち上がる。近くにいたスタッフのヒョンに、頼まれてたプログラムはほとんど作り終わってるからと、置き土産も用意して。
「これ、重たいから置いていく。片付けといて」
ジョンハンはそう言って、ランチャーなのに適当に投げ捨てた。
ウジがジョンハンの後ろを歩く。
「迎えにきてくれなくても、良かったのに」
自分1人でも出ていけた。ウジがそう言おうとしたのに「俺が迎えに来たかったに決まってるだろ」とジョンハンが言う。

少ししてから、2人で振り返った。
研究所は堅牢に見えて、案外ショボかった。もう大分時が経過してるからだろう。
それに確かに最初はもっと人がいたはずなのに、少しずつ少しずつ減ってきて、きっともうすぐ、ここには数人だけが残るだけになるんだろう。

長く暮らしたそこしか、ウジの記憶はないかもしれない。
でも、出て行くことに不安はない。
だって「ほら」と、手を伸ばしてくれるヒョンがいるから。
「子どもじゃないのに」
そう言っても、「いいだろ。他に弟たちもいないんだし」と、ジョンハンが無理やりウジの手を取って歩き出す。
小さい頃もそうやって歩いてた2人を覚えてるスタッフたちは、そんな2人をずっと見送っていた。でももう2度と、振り返られなかったけど......。

The END

 

_World 001 again 誕生日の夜には

そこを出る時、エスクプスはどす黒くなっていく自分の心を、自分でもどうしようもなく、でも止める気持ちもなく、放置していた。
3年なんて無理なのは判ってる。
たぶん3か月も無理だ。
耐えて耐えて耐えて3週間かもしれない。
それを知りすぎてるほど知っているジョンハンが近づいてきて、手を握ってくる。
「クプスや。俺がいなくても、ちゃんと眠れよ」
一番ヒョンだったから、いつだって強気で先頭に立ってなきゃいけなくて、弟たちは守る存在で、「大丈夫に決まってる」って、そう言い続けなきゃいけないのに。
「そんなの、無理に決まってる」
チングで、もういなくちゃ生きていけないほどの存在の前では、エスクプスだって弱気にもなるし、バカみたいに泣きそうにもなる。
「大丈夫。俺の夢を見たらいい」
本当に夢の中にも出て来そうな笑顔を見せてジョンハンは言うけど、エスクプスが首を振れば、握ってたその手に力を込めてくる。
「お前の誕生日の夜には、絶対にプレゼントを持って会いに行くから。な?」
いつだって笑って平気で嘘をつく男だけれど、エスクプスとの約束は違えたことは一度もない。
「来なかったら、許さないからな」
そう言えば、「俺がお前との約束を破るかよ」と笑ってた。
弟たちは全員可愛くて愛おしくて、守れたかどうかは判らないけど、エスクプス的には守って来たつもりだった。その中でもウジは特別で、本当の弟みたいなもんだった。
ここに集められたのは順番もタイミングもバラバラだったから、結構長く2人きりの時があって、今では1人でも平気だけど?みたいな顔をしてるウジは、いつだってエスクプスに引っ付いていた。
あいつだけは、俺、置いていけないってのに」
ジョンハンが優しく笑うから、泣き言が止まらなくなる。
2人だけで引っ付いて眠ったたくさんの夜、ウジの流す涙でいつだってエスクプスの左腕部分は濡れていた。
「大丈夫。ウジだってちゃんと、俺が連れていくよ」
ジョンハンはそう言った。だから信じたのに、誕生日まで数日となってもエスクプスは1人だった。
時計の針ばかりを見て過ごした数日。
ピッタシに、おめでとうと祝ってくれないと、ダメなのに。
誕生日中なら同じじゃんって言われるかもしれないけど、それじゃぁダメに決まってる。
「ジョンハナ、ジョンハナ」
信じてる。絶対大丈夫だって、でも怖すぎて、その場にいないジョンハンの名を呼び続ける。
あぁ、間に合わなかったら、何もかもを壊してしまうかもしれない。やっぱり耐えられそうにないから。
自分たちだけがいればいい。この世界には。後の人たちはいなくてもいい。今までは排除しようなんて思ったこともなかったけれど、誕生日を1人で迎えるぐらいなら............。
エスクプスは昏い闇の中に堕ちようとしていた。
でも誕生日の10分も前、「わぁ、間に合っただろ? 待ってろよ。ちゃんとピッタシに祝うように、超特急で飾りつけするからな」って現れたジョンハンが、驚くエスクプスをよそに壁やら窓やらに陳腐な紙のテープを貼り出した。
それにジョンハンに遅れること数分、「ハニヒョン、このケーキ何人前だよ」と文句を言いながら、ウジもやって来た。
手には確かにでっかいケーキの箱を抱えてた。
「時間がなくてプレゼントまでは買えなかったけど、ウジでいいだろ? プレゼントは」
飾り付けに必死なジョンハンがそう言う。
時計が12時を超えた瞬間には、2人が歌う。
幸せすぎて泣けるっていうのに、口にしたのは「全然足りない。まだ後、10人も足りたい」だったけど......。

The END

 

_World 002 again でっかい目をしてさ

「ヒョンもしかして、急いでる?」

ウジがそう聞いてきた時、「見たら判るだろ?」って叫びそうになったジョンハンだった。
ウジがトイレに行くと言うからデパートのトイレに送り届け、その足で前から注文してたケーキを受け取って、リボンを別で買って、パーティグッズが売ってる場所を確認して飾り付け用のグッズを手にいれて、両手いっぱいでウジを迎えに行けば、「なんか、デパートのトイレって広い」とか変なところに感動してるウジがいた。
完璧おのぼりさんなウジは、あちこち見ながら歩くからトロイことこの上ない。

「ヒョン、俺も何か持とうか?」

そうウジは言ってくれたけど、絶対トロさは倍増するだろうからと断った。

「とりあえず料理はもうチキンを買って行くから」

そう言ってスマホで注文だけして、受取時間を確認すれば、もっと凄いプログラムをパソコンで書いたりできちゃうクセに、ウジは「俺も注文してみたい」と羨ましがっていた。
そこからタクシーを捕まえて移動してチキンも回収して、全部持ってエスクプスの待つ場所に向かう。

「ハニヒョン荷物持たずに、全部届けて貰っとけば良かったのに」

スマホを貸してやればあっさりと色んなことを理解したウジが言う。

「いやだって誕生日プレゼントとかが先に届いたら嫌だろ」

そう言えば、「別料金だけど、時間絶対厳守指定ってのがあるよ」と返された。

「ヤー、煩いぞ。こっちの方が気持ちがこもるんだよッ」

大荷物を抱えての移動は、タクシーを使っても大変だった。でもタクシーの中でも勝手にアップデートしたウジが、乗ってる間にもスマホで支払いを済ませてた。
ジョンハンには理解できないことが多すぎる。

でも、1人泣きかけてる男の状況だけは、誰よりも知っている。だから僅かでも誕生日前にたどり着こうと必死だった。
時計の針が12時を迎えた瞬間には、「チュカヘ」って言わなきゃいけないから。きっとそう言えば、口を歪ませて「遅い」って文句を言うはず。泣きそうなぐらいに嬉しいはずなのに、それを我慢して、ブーブー文句を言うはず。
それから絶対来年には13人で祝ってくれなきゃって言うはず。
あのでっかい目に涙を溜められるのは、実はちょっとだけ苦手だから。

The END

 

_World 003 again 一杯ぐらいは

出国することは、ジョンハンにだけは伝えていた。
だいたい、自分はこの国の人間でもない。ただルーツがここだっただけで。
家族の記憶は薄れてて、でも笑顔がステキな人が母親だった気がする。その両親が死亡届を出していないと知った時、そこに愛を見つけた気がした。
美味いワインを飲んだら帰ってくるよと笑って言えば、「それなら機内で十分だろ」と言われた。
冗談だと思ってたら本気だったようで、エスクプスの誕生日までには全部終わらせるつもりだと、「悪いけど、頼まれてくれ」と言ったジョンハンの頼み事は多すぎた。
ディエイトとドギョムとスングァンを任せてもいいかって言われたから。
いやさすがに3人は無理だろう。だから「努力目標でいいなら」と言えば、「いや、完遂厳守だけど」と返された。それも真剣な顔で。
ウォヌとミンギュは、お互いでどうにかするだろう。それにジュンとホシは強い。
バーノンは柔軟で、ディノは兄たちを見てよく育ったから、それなりにやるだろう。
だけどドギョムは優しすぎて脆くて。スングァンは1人ではやっていけないだろう。それからディエイトは色んな意味で強過ぎた。
誰かを傷つけるその鋼のような刃は、ディエイト自身をも切り伏せてしまうかもしれない。
痛みなんて気にもせずに立ち続けることができるから、止める人間がいなけりゃ深手を負うのはディエイト本人かもしれない。

「ジュニは? あいつならディエイトを止められるだろ?」
「あいつも行くだろ。そりゃ。でもあいつだって、どうしても先に確かめなきゃいけないことがあるから」

母親と2人生きていたジュンは、きっと一目散に忘れないように必死に頭の中に刻み続けた家を目指すんだろう。
もちろん戻って来て弟たちも助けなきゃいけないからと、一番に出てったはずだから。
「誰が一番ヤバイ?」
そう聞けばジョンハンは「ミョンホ」と即答する。
「でも、止めれればあいつは1人でも大丈夫だから、そのまま急いでスングァニのとこ行って、それから最後にドギョミかな? あいつはほら、自分から動く訳じゃないから」
結局ジョシュアはジョンハンの頼みを引き受けた。
アメリカまでの飛行時間は尋常じゃないから、実際に乗ってたら3人どころか1人ですら見つけられなかっただろう。
だからジョシュアはチェックインだけして、搭乗することもなく飛行場を後にした。
元より本名で海外に出たと思わせることが狙いでもあったから。
それなのにジョンハンは、再会した時に「シュア、お前ハワイ行ってたクセに、チョコの一つもお土産ないの?」とか言ってきたけど。
一杯も飲んでないってのに............。

The END

 

_World 004 again 走り抜けた先にあったもの

ジュンは走った。
まだ幼い頃、母親はジュンのために働いていた。親子2人だけの家族で頼るものも何もなく、あの頃、ジュンには母だけが全てで、母には自分だけが全てだったはずなのに、なんで離れ離れになってしまったのか。
閉じ込められた世界でもジュンは前向きだった。生きていれば、生きてさえいれば、必ず会えると信じ、そう言い続けてもいた。
きっと母親だってジュンが帰ってくると信じてるはず。待っているはず。だから昔暮らした家の場所を、忘れないように必死に覚えてた。
成長するにつれて記憶はどんどん薄れて書き換わって行くけれど、それでも、母親と2人歩いた道や、曲がりくねった道の先にあった狭い家の場所は必死に覚えてた。
でも辿り着いた場所には、記憶にある古い家なんてなかった。でも母親はいた。
母親の隣りには見知らぬ男の人もいたけれど。でも2人は似合ってて、幸せそうに見えた。それは2人の前で楽しそうに遊ぶ小さな男の子の姿もあったからかもしれない。
少しだけ寂しかったけど、でもそれ以上に母親が幸せそうで、良かったって思った。
家は建て替えられたのか、綺麗な色の壁は鮮やかな青で、ひときわ目立つ家だった。
きっとそれは母親の愛だ。いつかジュンが帰ってきた時に、この家が絶対目に入るようにっていう、愛だ。
それが判ったから、ジュンはそっと3人から遠ざかる。
きっと今もまだ母親が1人であの古い家でジュンのことだけを考えて生きていたら、もっと堪らなかったはずだから。
ずっと会いたかった母親に背を向けて歩き出せば、ジュンの中にはもう、会いたいヒョンやチングや弟たちの顔が浮かぶ。
いつだって支えてくれて守ってくれて愛してくれて。それこそ今はもう家族な兄弟たちに、堪らなく会いたかった。
もとより帰るつもりではいたけど、いつの間にか走り始めてたジュンは、母親を求めて走っていた時よりももっと早く走り出したことに気づいて、思わず笑ってしまった。
自分だってもう家族を見つけていたんだっていうことに、気づいたから。

The END


_World 005 again お前の信じる道を行け

ホシは移動を続けながらも、虎として行動した。
気高く誇り高く、強く尊く。誰にも負けないけれど、無駄な殺生は決してしない。
どうしても食べなきゃいけない時はしょうがないから虎だって何かは殺すけど、空腹じゃなければ水場で遭遇した草食動物を襲ったりはしない。きっと。
虎の瞳はきっと何よりも強いけど、普段は何よりも優しいはず。
時々は正義を振りかざし、時々は闇夜で暗躍し、時々は公園で子どもたちのケンカにだって割って入り、時々は風上に立って仲間を探す。
どんな場所でもホシには親切にしてくれる人がいたけれど、ウジを待たせてる身としては、安寧とその場に留まる訳にはいかない。
だからいつだって駆け抜ける。
見たことのない街を、人を横目に、はじめてみる世界は綺麗で雑多で時々は醜くもあったけど、ホシは虎だから、そんなものには影響は受けない。
お前はお前の信じる道を行けと、ウジが言ってくれるから。
笑ってても怒っててもムクれてても泣いてても。お前らしいとウジは言う。
見えない何かを探してる気がするって言えば、お前になら見えるだろってウジは言う。
そんなの、もう世界相手に勝てる自信しかなくなる。
そりゃそうだろ、負けなきゃいいだけだから、結果お前は絶対に勝つ。そうウジが言うから、ホシは世界を制覇する。
南に進んで、きっとここがゴールだ。そう思った場所で、見知らぬ家の壁にタッチする。それからホシは振り返る。今来た道を戻るだけ。
歩いてきた道は、きっとすでに知ってる道なはずなのに、目の前にはまた見知らぬ世界が広がる。
戻ればきっと、ウジの側にいる。
そこがどこだろうと、一生そこから出られないとしても。ホシが見た景色を、一つずつ語って聞かせてやればいい。見知らぬ街の中で見た色んなものを。
走り続けて、気分は一瞬でウジのもとに舞い戻るつもりだったのに、ホシの足を止めたのは、大邱で虎が人を殺したというニュースだった。
最初は猛獣って話で、それが虎だって話になって、野生の虎がいるはずもないからペットとして密かに飼ってる場所から逃げたんだとか、色んな話が出ていたけれど、虎は人間をそんなに襲わないし、ましてや連続で殺すようなことはない。
そうやって躾けられたのなら別だけど......。
でももうそうやって躾けられたっていうなら、それは虎とは言えないはず。
なんだか仲間が苦しんでる気がして、ホシは向かう先を変えた。
きっとウジはホシが行き先を変えたって気にしないはずだから。誰が何を言おうとウジだけは、「お前の信じる道を行け」って絶対言うはずだから。

The END


_World 006 again この星に住むすべての人は

ウォヌはまだ、ミンギュに遭えずにいた。
そろそろその理由も判ってる。本当は一つ場所を決めてジッとしていればいいのに、ミンギュも自分も動き回っているからだろう。
でもそれがなんだか、楽しくなって来たから。
だっていつか絶対会える。会えなきゃ、この星に住むすべての人を片っ端から抹殺していけば、ミンギュだけが残るはずだから。
そんな考えを心に秘めつつ、最近ではミンギュに何の関係もない、いつか2人で行きたい場所なんかも勝手に訪れて寛いでいる。
ヒョンたちは元気だろうか。チングたちは、弟たちは。
時々はそうも考える。器用そうで案外不器用なマンネなディノのことだけは気がかりだったけど、後の面子はどうにかしているような気がする。
どうにかできないとしても、きっとヒョンやチングたちがそれぞれ考えているだろう。
隠れんぼしてて、見つけられない子どもの気持ちが判ってしまったとか思いながらも、ウォヌはのんびり待っていた。
ミンギュが見つけてくれる予定だったのに、ウォヌのことを見つけたのはウジの方が早かった。
「お前何してんの?」
誰からもかかってくるはずのないのに、ホテルのフロントを介して電話が入ってみれば、ちょっと懐かしい気もすれば、いつもと変わらない気もするウジの声で、「とっとと出てこいよ。ミンギュがお前のせいで暴れ散らかしてるだろ」と文句を言われた。
見つけられないのは自分のせいなのに、ミンギュはどうやらイラってしたらしい。
普段は怒ったりなんて絶対しないのに珍しい......って呟けば、「お前絡みだからだろうが」ってウジは呆れてた。
聞けばミンギュは犯行声明まで出しているらしい。しかもそれっぽく、エスクプスが動いている風に見せかけて。
「なんでアイツ、自分じゃなくてクプスヒョンを騙ってんの?」
素直にそう疑問を口にすれば、ウジはあっさりと、「相手がミンギュならどっかでポカるって気がするけど、クプスヒョンなら必死感が出るじゃん」と言った。その言葉に、「なるほど」って言いながら笑う。
「じゃぁ俺、どうしたらいい?」
探しても見つからないミンギュをどうしてみつければいいか判らなくてそうきけば、ウジは有名な駅の名前を口にしただけだった。
「そこの3番出口でたとこらへんに立ってろ」
ウォヌだって知らなかったけど、そこにはWEBカメラがあって、誰もが駅前の様子を見られるらしい。
それでも世界以上にネットの世界は複雑で広くてアングラでもあるのに、立ってるだけでミンギュが気づくだろうか。下手をすれば別の人間たちに捕まる危険の方が高い気もする。
「さすがに30分とは言わないけどな。アイツはホイホイ出てくるぞ」
ウジが笑った。
ありえそうで、ウォヌも笑った。

The END

 

_World 007 again 一緒なら笑えるし

ジョンハンはウジのことを連れ出してくれたけど、そしてなんだかどんと任せとけみたいな雰囲気だったけど、結局はエスクプスの誕生日の準備を手伝わされたし、久しぶりに会えたからか、エスクプスはジョンハンを片時も離さなくなってしまったし、結局場所が変わっただけで、一番働いたのはやっぱりウジだったかもしれない。
至るところに散ってった兄弟たちを探すことから始めたし、それと同時に自分が見つけた誰かにたどり着くための情報は一つずつ確実に潰していった。
行き先の判ってるジュンとホシは見つけやすかったものの、ウォヌはなかなか見つからなかった。普段は楽しくて明るくて前向きなミンギュが暴れ散らかしてるってのに、ウォヌがいたのはなんだかとってもメルヘンなホテルだった。
いつか彼氏と行ってみたいランキングで常に上位らしいそのホテルにウォヌがいるだなんて、さすがにミンギュでも判らないだろう。
「でもお前は探したじゃん」
なんでかウォヌは不納得そうだったけど、でもウォヌは素直にウジの言うことを聞いてホテルを後にした。
それから次に連絡をとったのはジョシュアで、「ドギョムは俺がどうにかする」と言ってくれたから、見つけてるんだろう。
ある意味一番心配でもあった。なんでかドギョムはいつだって、変な輩を惹きつけるから。
次に見つけたのはバーノンで、「ウジヒョンッ。俺まだスングァニのこと見つけられない」と焦ってた。
「大丈夫。巷で暴れ散らかしてるのはミンギュで、あいつは動いてないから」
そう言えば力が抜けたのか、電話の向こう側でバーノンが深いため息をついていた。
「俺が見つけてやるから、すぐに動けるようにだけしとけ」
そう言って電話を切る。
どうしたって計算して動くようなミンギュなら見つけやすいのに、普段はそんなことないのに、追いつめられると何も考えずに動き始めるスングァンなんかは見つけにくい。
兄たちの教えをよく守ってるディノとかは、案外見つけやすいのに。
でももうすぐ全員が見つかって、揃ってしまえば誰も不安なんて感じない暮らしが待っている。全員でいたら、それだけで楽しくて。
「ウジや。目途がつきそう?」
そうやって後ろからジョンハンが声をかけてくる。振り向けば、なんだか物凄いパーティ中みたいな状態のユンジョンハンがいた。
「いや、まだ。ミョンホとスングァニと、ホシとディノもまだ」
「ドギョミは?」
「シュアヒョンが向かってる」
「ミョンホは大丈夫だろ。ジュニが見つける。それにホシも大丈夫だろ。アイツはどうしたってお前のとこに帰ってくる。ミンギュが正気に戻ったら、ディノのことはどっかから見つけてくるだろ」
見た目だけだと頭の中はお花畑に見えるのに、ジョンハンは冷静に言う。
「問題は、スングァニか......」って。
一番幸せそうに笑うのに、1人ではきっと生きていけない。
「探しだすよ。絶対」
だからウジは自分に言い聞かすように、そう言った。

The END

 

_World 008 again 思い出の先にあるもの

自由の中に解き放たれて1時間も経たずに、ディエイトの足は止まった。
夢に見た朧げな記憶の全てが、そこにあったから。
幸せそうに笑ってた自分は父親と母親と一緒に歩いてたはずなのに、それは自分たちの子どもを施設に連れてくる途中だったことを知る。
幼いながらに、両親には制御できないほどだったのか。それとも売られたのか。愛されていなかった訳ではないと信じたい。
それでも両親を探してみようかと、思わなかった訳じゃない。でも、捨てたはずの過去が目の前にあらわれるほど、不気味なことはないはず。
ジュンの後を辿れば最短で駆け抜けられるとウジは言ったけど、その意味すら無くなってしまった。
どこに行こうか。それから、何をしようか。
なんでも1人でできるようになったはずなのに、ディエイトは動けなかった。
無意識のうちに痕跡を消しながら行く宛もないのに移動し続けていたから捕まらなかっただけで、下手をしたらその日のうちに連れ戻されていたかもしれない。
ひとりぼっちなんだと思わず笑う。
何をするにも自由なはずなのに、自由を手に入れる前は、色んなことをするつもりだったのに。
見たことのない景色を見て、行ったことのない場所に行き、そしてやったことのないこと、全てをやりたいと思ってた。
山にも海にも川にも、都会的な場所にも。美味しいものを食べて飲んで。それから欲しいものを見つけたら買って。
そう思ってたのに、ひとりぼっちなんだと思ったら身体が動かなくなっていた。
心が向かう先を見失ったから、身体も動きを止めてしまったのかもしれない。
途方に暮れて、ディエイトは膝を抱えて座り込む。
潜り込んだのは、誰も寄り付かないような場所。
このままだと動けなくなるなってぐらい、その場に居続けた。何回かトイレに行き、何回か食料を手に入れるために動いただけ。
食べることもやめてしまえば、生きることすらやめることになるかもしれない。
寒いと暑いとか、そんな感覚さえ忘れ始めた頃、目の前に浮かんでいたのは、コレは誰のせいだって言う思いだった。
遠い過去の父親と母親を、今更怨んだってどうにもならない。判ってはいても、どうしようもなくて。
全てを壊してしまえるスキルはもう身につけていて、実行することもきっと難しくない。
きっとジュンが駆けつけてくるのが後1日でも遅かったなら、ディエイトは全てを壊し始めていたかもしれない。
小さく膝を抱えたまま、もう何も見えてなかったのに、そんなディエイトを丸ごと抱え込んだジュンがいて、「遅くなったな、ごめんな」ってその声が、ディエイトの耳に胸に心に染み込むまでジュンは黙って抱き締め続けた。
「俺、もうひとりぼっちだ」
ディエイトの呟きに、ジュンは頷く。でも。
「ひとりぼっちなら、俺はなんだよ」
そういうジュンの言葉もまた、ディエイトに沁み込んでいくまで大分かかったかもしれない。

The END

 

_World 009 again バカだろと言われても

なんのためにあらゆる場所の監視カメラをハッキングしてたかは、一瞬で忘れた。
探してた人を見つけたから。
火薬からして自分で準備しようと、繊細な作業をはじめる予定だったのに、それら全部を無造作にカバンに放り込んで、ミンギュは慌てて部屋を出た。
探しても探しても探しても、その痕跡すらなかなか見つけられなかった。
いなきゃダメなのに、自分の隣りには絶対、ウォヌがいなきゃダメなのに。
でも他には何も求めない。ウォヌだけがいればいい。
そんな気持ちで探してたのに見つからなくて、自分の無能ぶりを棚上げして、それなら誰かが動くようにしてやろうと仕掛けることにした。
悪知恵はユンジョンハンには劣るけど働く方だし行動力はあるし、実行する能力も当然ある。いざとなればウォヌ以外はどうでもいいと言い切れる冷徹な一面だって持っている。
きっと自分は犯罪者向きだ。
でもウォヌがいれば、ウォヌさえいてくれれば、一瞬でふにゃってなって、笑って暮らせて、幸せしかなくて。
目の前に、ただ立ってるウォヌがいた。そこにいるのはどこにでもいる男のように見えて、ミンギュにとっては唯一の男。
「ウォヌヒョン、今までどこにいたんだよ」
近づきながらそう言ったら、「お前、バカだろ」って文句を言われた。
どうやらミンギュがやろうとしてることは筒抜けだったらしい。
「とりあえず移動しよう。抱きしめたい」
「そんなことより、飯にしよう。それからウジに連絡取って、状況を確認しなきゃ」
冷静そうな顔を崩さないウォヌの前に立って、周りから視線を隠してその腕に触れる。
ウォヌもミンギュに手を伸ばしてくれるから、気持ちは一緒なんだって気分だったのに、あっさりと腕を振り払われた。
でもそんな触れ合いですら嬉しくて、「ほら、移動しよう」と言ったけど、なんでか地下鉄は止まってた。それに道路は大渋滞で、どこかで何かあったのか、一部封鎖されてるらしい。
「なに? ウザイな」
本気でそう言ったのに、「お前、本気でバカだろ」ってウォヌに言われて思い出した。
「あ、そうだった。俺が爆破予告してたんだ」って。
でもウォヌを取り戻した今となってはそんなダルイこと、するはずがない。

The END

 

_World 010 again そばにいてよ

ひとりは苦手なのに、走り出したら止まらなかった。
捕まったって何がある訳でもないはずなのに、走り出したら怖くて逃げなきゃって気になって、気づけばひとりになっていた。
チングや弟たちが側にいないかとキョロキョロもしてみたけれど、見知った顔は見つけられなかった。
自分から探したっていいはずなのに、絶対に誰も「なにお前、なんで来たの?」なんて言わないのは判ってるのに、なんでか足が竦む。
待ってても誰も来てくれない気がして、気持ちは一瞬でどこかに吹き飛ばされていく。
誰もいない場所にいることも寂しくて彷徨えば、見知らぬ人だけど、誰かはそばに来てくれる。その人が誰で、何を求めてるのかも判らないけれど、1人よりはいい。
見知らぬ人だって長く一緒にいればきっと、見知った人になって、そのうち一緒にいることが普通になって、ドギョムの不安が少しでもなくなるはずだから。
親切に見えて自分勝手な見知らぬ人たちは、いつだってドギョムのことを浸食しようとする。与し易いと思われるからか、バカにされてるのかは判らない。

でもドギョムは誰かに何かを言われたって、揺るぎないものを持っている。
それはチングたちがくれた言葉だったり、弟たちが向けてくれた思いだったり、ヒョンたちが示してくれた愛情だったり。なによりユンジョンハンがもたらしてくれた影響は大きくて、自分すらも自分のことを信じられなくなりかけてたって、どこからかユンジョンハンの声が聞こえてくる気がするから。

「お前は大丈夫」

なんの根拠があるのかは判らない。でも「俺がそう言ってるんだから、それを根拠にすればいいだろ」と強気で言う人の言葉は、いつだってドギョムをあっさりと掬いあげた。
もう二度と会えないとしても、どこにいても、きっといつだってドギョムのことを救うはず。

見知らぬ人たちはよく嘘をつく。ドギョムにはそれが判らないとでも思うのか。
でも嘘をつかれたって悲しくもならないし、嘘だと言い返す気力もなく笑ってるだけなんだから、誠実さに欠けるのはドギョムだって一緒かもしれない。
なんでも言うことを聞くように、見えるのかもしれない。
でも誰かがそばにいてくれるには、それぐらい、しないといけないのかもしれない。
きっとこの手はもう汚れてて、今さら、その罪が増えたところで何の問題もない。きっと。

普通の人は誰かに言われたからって、出来ないことがあるらしい。
だけどきっとドギョムは、死ねと言われたら死ねるかもしれない。
誰かがそう言ってくれるのを、待ってすらいるのかも。

「お前は大丈夫」

そう声が聞こえる。だから大丈夫。何があっても、何をしても、たぶん大丈夫。
でもどこが限度なのかは、やっぱりドギョムには判らなくて。

ほら、それを持って行けばいいと渡されたナイフは鋭くもないし研ぎ澄まされてもいなかったけど、きっとドギョムが使えばそれは簡単に人が殺せるはず。
いざとなったら助けに行くとも言われたけれど、助けに来られてもきっと判らない。顔なんて、覚えられなかったから。

脅すだけでもいいと言っていたけど、誰かにとって殺したいほどの人は、一体何をしたのか。

でも普通ならドギョムが簡単に人を殺せることなんて知らないはずだから、ドギョムは見知らぬ人たちに利用されただけなんだろう。
気づけばドギョムは敵か味方かも判らない人たちに囲まれていたから。

風前の灯火のように見えていたドギョムだったけど、果たして命が尽きるのはどっちか。
ただの一般市民なのか、それともどこかから差し向けられた誰かなのか。
その場にいた誰もがドギョムのことを見てたっていうのに、ドギョムは平気だった。
でもそれは、「なんだお前」って誰かが言うまでだったけど。
てっきりドギョムに向かっての言葉だと思ってたのに、その言葉はドギョムを通り過ぎて行く。

「弟を迎えに来ただけだから、お構いなく」

こんな場所にそぐわない柔らかい声は、笑顔さえ含まれていて、ドギョムは驚きすぎて振り向くのが一瞬遅れたほど。
でも振り返ってみればそこには、「ほら、迎えにきたよ」と笑うジョシュアがいた............。

それはまるで、映画の場面が変わったような感じで、気づけばドギョムはジョシュアの後ろを歩いてた。
あっという間に、何人かは倒れてた。

「ヒョン、殺したの?」

ドギョムが聞けば、ジョシュアは「いや、まだ死んでない。でも、時間の問題じゃないかな? 病院連れていけば、助かるだろうけど。面倒だからトドメはさしてない」って、物凄い爽やかな笑顔で答えてくれた。

「俺がトドメさしていこうか?」

だからドギョムは、ジョシュアが面倒だということを引き受けてもいいと思ってそう言ったのに、2人のその会話にだだ引きしたのか誰ももう襲ってこなかったし、それなりに大切な仲間だったのか、倒れてる人たちを助け起こしてたから、きっと病院に運ぶつもりだったんだろう。
2人がその場を離れようとしても、もう誰も追いかけては来なかったから。

そして歩き出してみれば、ドギョムはさっきまで堪らなかったはずの思いすら忘れてしまった。
「美味いピザ食ってこう」って、ジョシュアが何事もなかったかのように、そう言ったから。

The END

 

_World 011 again 狂ってるのは世界

スングァンは、優しい子どもだった。小さいころに金魚を水の中から救ってあげた。狭い場所でずっと口をパクパクさせていたから。
しっかりとタオルで水をぬぐって、ほらもう自由だって言ったのに、金魚たちは何度助けても助けても、ただ動かなくなっただけだった。
驚いた母親はスングァンに教えてくれた。金魚は水の中じゃないと生きていけないんだって。
スングァンには姉がいた。確か2人。
あの子がいるから学校に行きたくないと泣いていたのはどっちの姉だったか。
だから消してあげたのに、誰も喜ばなかったし、姉は学校には行かなくなってしまった。本当は友達でちょっとだけ言い合いをしただけだったらしい。あんたはイカれてると叫んだのは、どっちの姉だったか。

連れて行かれたのは病院で、善悪を理解できないことは成長して学ぶことでどうにかなるでしょうが、問題はそれを実行に移せてしまうことですと、医者が言っていた。普通は躊躇するらしいあれやこれやが、スングァンにはないらしい。

そして何より問題だと言われたのは、その時の気持ちを聞かれたスングァンが、嬉しそうに笑って「ドキドキする」と答えたことだった。
まだ幼い子どもだから表現する言葉を持たないだけだと否定する人もいたけれど、より幼いからこそ直接的な表現で、彼はそれを心の底から楽しんでいるという人もいた。

悪いことだと母親は必死になってスングァンに色んなことを教えた。
赤信号を渡ってはいけません。人に石を投げてはいけません。
トイレの後は手を洗いましょう。人を階段の上で押してはいけません。
先生の言うことはちゃんと静かに聞かないといけません。でも、五月蝿いからといって他の子どもたちを叩いてはいけません。

きっと色んなことを教えるのに、母親の方が疲れたのかもしれない。
この世界には色んな決まりがあって、それをスングァンはちゃんと覚えようと頑張ったけど、色んな決まりを守らない人が多すぎて、信号を守らない人は車に轢き殺されてもいい人たちなはずなのに、それは違うらしい。

死にたい人は多いのに、殺してはいけないらしい。
死にそうなほど苦しんでる人も多いのに、殺すのは違う。
蟻は踏み潰しても平気なくせに、人間は殺しちゃいけないなんて。不思議なことを大人たちは言う。

「別に殺しちゃいけないなんてことないだろ。ただ、色々面倒だからやらないだけだって」

あっさりとそう言ってくれたのは、ジョンハンだったか、ウジだったか。
その時これまでで一番「そっか」って納得した。
それからバーノンが「俺と一緒にいれば、もっとドキドキできるだろ」って言うから。それに本当に、バーノンといるといつもドキドキして、楽しかったから。

でも今は1人で、スングァンの前には病んだ世界が広がっていて、きっと殺しても殺してもこの世界の人口は増え続ける。

明日死ぬなら、今死んだって同じだ。
それは自分自身かもしれないけれど、誰かに殺されるなら、誰が殺したって一緒だ。

スングァンはきっと狂ってる。でもこの世界はもっと、狂ってる。

The END

 

_World 012 again 二度と手を離さない

1人では見つけられなかったスングァンを見つけたと連絡を貰ってバーノンは急いでた。
きっとスングァンは、バーノンを見たら嬉しそうに笑って「ボノナッ」って呼んでくれるはず。なんでか小声で呼ぶ時は「ハンソラ」と呼ぶのに、それはスングァンの中で明確な違いがあって、2人だけの秘密で、楽しみでもある。

「俺、狂ってるんだよ。多分。そう言われたし」

スングァンはそう言うけれど、「狂ってたっていいよ」と言ってやる。
だって本当にそうだから。なんの問題もない。

潜り込んだのか、それとも落ちてはまり込みでもしたのか。普通の人は近づくこともないような療養所にスングァンはいて、外からの侵入者を阻んでいるのか、中からの脱走者を阻んでいるのか判らないような高い塀に囲まれた中庭は、空を行く鳥ぐらいしか見えない。でもバーノンはそこを超えたけど。

「ごめん、待たせた」

そう言えば、スングァンは「遅すぎるよ」と文句でも言うかと思ったのに、「ホンモノ?」って聞いてきた。
きっと何度も何度も、バーノンが迎えに来たんだろう。でもそのたびにそれは霧散して、スングァンの目の前から消えて行く。

「うん、ホンモノ」

手すら伸ばして来ないから、バーノンはその手を取って自分の身体へと導いて、「ほら」と触らせた。
スングァンは指でバーノンの胸を押す。それから、「こんなに筋肉あったかなぁ」とか失礼なことも言うから、「脱ごうか?」と聞けば、照れて「バカ」と言われた。

「ごめん。ほんとに待たせた」

スングァンが抱きついてきて、随分と長い間バーノンから離れなかった。だからもう一度謝れば、「美味しいパンケーキで許す」と言ってくれた。
当然ながらバーノンは美味しい店なんて知ってるはずもなくて、外でなんてそんなもの食べたこともなくて、だから「帰ったらミンギュヒョンに頼むよ」と言えば、抱き着いたままのスングァンも頷く。

The END

 

_World 013 again 朝日が見たいと言ったって

ディノは隠れてた。
繊細に大胆に、でも決して動かなかった。
動きがあれば誰かが迎えに来てくれる。そう信じていたから。
でも食べるものには少し不自由したし、何より1人では楽しくなかった。
物音にも敏感になった。
何をしてたって楽しかったのに、1人では楽しくないんだって知った。
13人でいた時には1人になりたい時があったのに、いつだって誰かが見守ってくれてたことも知った。
「チャナ」
名を呼ばれた気がした。
でもうつらうつらするといつだって誰かが呼ぶ声がして、そのたびにヒョンたちの名を呼んで飛び起きたから、その声に反応するのがちょっとだけ遅れた。
「迎えに来たぞ」
ミンギュの声がして、もう一度「チャナ」と呼ぶウォヌの声がした。
隅っこに隠れるようにして座り込んでいた場所から立ち上がって覗き込めば、「お前、もうちょっと判りやすいところに隠れろよな。探しただろ」と文句を言いながら、ミンギュが部屋に入って来るところだった。
「遅いよ。何やってたんだよ。遅すぎるよッ」
ディノが文句を言えば、「しょうがないだろ、誰かのせいで街には警察が出て交通規制しまくってるわ、地下鉄は止まってるわ」とミンギュが言う。横からウォヌが「いや、誰かのせいでって、お前のせいだろ」とツッコんでいたけれど、言われたミンギュはどこ吹く風だった。
「ほら、行くぞ」
そう言えばディノは立ち上がる。
「荷物は?」
そう聞いても、「ないよ」と潔い。
ウォヌが久しぶりのディノの姿に感動して、「マンネや」って言いながら抱きしめようとしてるってのに、ディノはなんでかテンションがあがったのか、「ほら、早く行こう」と飛び跳ねてる。
「どこに行きたい? 何が食べたい? 何がしたいでもいいけど」
「みんなは? どうしてる?」
よくできたマンネは、ヒョンたちのことをちゃんと気にして、ミンギュとウォヌのことを和ませる。
「全員、無事だよ。落ち着き先を探してるってウジヒョンから連絡来てた。それまで旅でもしようかって話が出てるらしい」
「全員で?」
さすがに全員での大移動だと目立つだろう。
ジュンとディエイトは砂漠を見に行くと言っていたらしい。バーノンとスングァンは済州に向かった。エスクプスとジョンハンは近場を攻めるらしい。ジョシュアとドギョムはとりあえず行き先は決めずに飛行機に乗った。それからウジはまだ待っていて、ホシはいまだに帰って来ないらしい。
「で、お前は俺たちと、どこ行く?」
ミンギュが聞く。ウォヌも「どこでもいいぞ」と笑う。
マンネなディノはそんな2人に向かって、「朝日を見に行こう」と元気に言った。
外はもう昼過ぎで、一番早く見れるのは夕日だというのに。

The END