背中合わせに座ってるからか、背中が温かくて、でもそれはもう自分の温度だった。
ちょっとだけ疲れたからパソコン前から移動してソファに座ってみれば、なんでかホシが真後ろからもたれてきた。
別に押す訳でもないし、ふざけてる風でもないから放置してたら案外心地よくて、これじゃあまるで2人で1人みたいになっちゃって、動くに動けない。
「なに? お前凹んでるの?」
ホシは大抵の場合、楽しそうに笑ってるし、テンションが高い。
静かな時だってもちろんあるけど、そんな時でも1人で何かを話してるし、歌ってるし、声は出してる。
でも時々は落ち込んでたりして、黙りこくってる。
だから凹んでるのかと聞けば、「今、過去の自分に負けてるとこ」ってボソって言う。
音を紡いで曲を作るのも、言葉を紡いで歌詞を作るのも、楽しいけど苦しい。だからホシがぶち当たるものも、それが過去の自分だってことも、ウジにはよく判る。
でも判るからこそ、慰めの言葉が役に立たないことも知ってる。
誰に何も言われなくても足掻くだけ足掻いた後で、それでもダメだったからちょっと離れて見て、気分転換に好きな曲を聞いて踊って。それでも晴れない時には運動に行って場所を変えて。
そんなことの繰り返しで、日常が出来ている。
「で、いつのお前に今負けてんの?」
そう聞けば、少しだけ前の曲名を呟く。それを聞いてまた納得してしまった。
本当なら誰にも負けたくない。でも誰かに勝つとか以前に、過去の自分にすら勝てそうにない時がある。
なんでこんなバカみたいなものしか作れないだって、もう振り絞っても自分の中からは何も出ない気がして、ここまでかもしれない......って思うことも一度や二度じゃない。
天才でもなんでもなくて、どうにかこうにかここまで来れた方が凄いんだと、自分を慰めもする。でも悪あがきばかりして、時間ばかりが過ぎていく。
「ごめん。このままだと、お前の足まで引っ張るから行くわ」
珍しくもホシがそう言って、ウジの背中から離れて行った。
だからウジも、ソファから立ち上がる。ホシと同じように、どうしたって過去の自分に負けて心地よい音が紡げなかったから。でもだからって、諦めたりはしないから。
ホシが向かう先はいつだって誰もいないスタジオの隅っこで。鏡の前で自分に対峙しながら、過去の自分に打ちのめされても、太刀打ちできなくても、その場に居続ける。
お互い諦めないことだけが、次に続く道だと信じてるから。
ホシが諦めない限りは、ウジだって諦めないし、ウジが諦めない限りは、ホシだって諦めない。
動けないまま時間だけが過ぎたって。明日もまた、同じだけ鏡の前にいることになったって。たった一振り、腕を動かすだけなのに、それが納得できなくて足掻き続ける。
でもきっと大丈夫。明日には「俺って凄くない?」って言って笑ってる。ウジに鬱陶しいからお前もっと凹んどけよとか言われながら、きっと笑ってるはず。
そう信じて、ホシは今日も鏡の前に居続ける。
The END
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