姉が結婚した。義兄はいい人だ。
結婚式にはセブチ全員が参加してくれて、誇らしかったし、自慢だったし。
それにしてもドレス姿の姉はキレイで、それだってやっぱり誇らしかったり、自慢だったり。
仲は良かったけれど、子どもの頃母親からはなぜか、『見知らぬ人について行っては行けない』と同じように、『お姉ちゃんについて行っちゃ行けない』と教えられた気がする。
いつでもどこでも、姉が友達と遊びに行こうとすると、ドギョムが必死に「俺も、俺も行く」って言ってついて行こうとしてたから、子ども心に友達と遊びたいのに弟がついてくるなんて嫌だっただろうと、今なら判るけど............。
でもある時、ドギョムは姉に、「ヘンゼルとグレーテルごっこをしよう」って誘われて、よく判らないなりにも「うんッ」って元気に返事してついて行った。
後で知ったけれど、ヘンゼルとグレーテルはグリム童話で、親に捨てられる物語。
最初に捨てられそうになった時には石を目印にして助かって、次はパンを目印にして鳥に食べられてしまって戻ってこれないことで物語が進んでいくという。
その物語もちゃんと知らなかったっていうのに、家からちょっとだけ遠い公園に連れていかれたドギョムはそこで、「はいコレ、じゃぁね」と姉から蒸しパンを押し付けられて置いて行かれた。
どうやら姉の言う「ヘンゼルとグレーテルごっこ」なるものは、ドギョムを捨ててくる遊びらしかった。
パンを貰って嬉しかったのと、どんな遊びか理解できなかったのと、姉のいなくなる素早さと。そんなのが全部まざって気づけばドギョムは公園にポツンと1人。とりあえず蒸しパンは食べたけど、その後盛大に泣き出した。
1人で帰れない距離でもなかったのに、まだ子どもすぎてビックリしたんだと思われる。
姉はその日、友達の誕生日だったらしく、ドギョムには絶対についてきて欲しくなかったらしい。
泣いてるドギョムを連れて帰ってくれたのは近所の人で、泣いてる理由を素直に話してしまったドギョムによって、姉は母親から怒られて、結果姉も泣いて、ドギョムもまた泣いた。なんでかドギョムまで、「あんたは捨てられてからパンを貰ってどうするのッ」って母親に怒られたから。
思い出せば面白いでしかないけど、捨てる場所に行ってからパンを渡したのは姉のうっかりなのか、ヘンゼルとグレーテルのように戻ってきては困ると子どもなりに真剣だったのかは判らないけど、その後も何かあるたびに姉は、「あの時もっと遠くに捨てときゃ良かった」とか言う。
でも時々は、「あの時、本気で捨てた訳じゃないよ」とも。
結婚式の日だって、姉が言った。「捨てなくて良かった」って。
ドギョムしかその言葉の意味は判らなかったけど、その言葉にうっかり泣いてしまったけど............。
The END
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