ウジがAAA2021でベストプロデューサー賞を受賞した翌日。
ウジの作業室には、愛想笑いを浮かべるホシがいた。鬱陶しいから無視しておいたけど。
その日だって当然のように、別の音楽番組用の振りを覚えてパートごとの個別練習があって、何かの取材の写真撮影が終わった順に出前でご飯を簡単に済ませて、その後は全体練習入るという。
ウジはその写真撮影から全体練習に入るまでの2時間弱の間に、作業部屋に戻って来ていた。
僅かの時間にも、やりたい作業があったから。
ホシだって忙しいはずで、全体練習前にはパフォチでっていっても今はディノと2人だけど、今回限りの振りを固めるって言ってたのに、なんでかウジの後ろで「えへえへ」って笑ってる。
「こういうのって、タイミングじゃん」
ウジの右手は相変わらず忙しなくマウスを動かしていて、部屋の温度が高めだからか、真冬だというのにTシャツ姿で働いている。
無視されてるのは絶対判ってるはずなのに、ホシはそんなことは慣れっこだからか、働きまくっているウジの後ろで1人で話し続ける。
「やっぱりさ、クリスマスとか、全員が幸せになる日とか、大事だし。な?」
どうやらクリスマスプレゼントに何かが欲しいらしいとは気づいたものの、それでもウジは返事すらせずに無視してた。だって忙しいし、それに無視しとけば、さすがにホシだって時間がなくて去っていくはずだし。
それなのにホシが時間を気にし始めた頃、ドギョムがやって来た。
なんでかさっきのホシと同じように「えへえへ」って言いながら............。
いやもう絶対これは示し合わせてきてるんだろうって判ったのは、ドギョムがジェスチャーでホシに『どんな具合?』って聞いていたから。コッソリやってるつもりだろうが、全部ディスプレイに写ってる。
ウジからふる無視されていたってのに、なんでかホシはドギョムにグーサインなんて出していたけど。
「ウジヒョンさすがだよね。ベストプロデューサーなんて、普通はもらえないよ。プロデューサーじゃないと貰えないんだから」
ドギョムが無理して褒めようとして、こんがらがっていた。まぁそれも無視したけど。
でもドギョムが「ウジヒョン、舞台の上で1人立ってコメントした時、俺感動したよ。大きい舞台に小ささ際立ったけど、でも大きかったよ。あの時、言ったよね? カラットはじめ、色んな人のおかげだって。だからちょっとは、俺のおかげでもあるよね? ね?」なんて言うから、小さくて悪かったな......とは思ったものの、それでもちょっとだけ気持ちは動いたかもしれない。
だって本当に、あれは自分だけが貰った賞ではなかったから。
1人では絶対に、手にすることはなかった賞だから。
「とりあえず、BestProducerの『D』ぐらいは俺のものじゃない?」
何が言いたいのか判らないが、ドギョムがややこしいことを言い始めた。
それまでは横でうんうんって頷くだけだったホシが「ほぇ?」って言ったと思ったら、自分はじゃぁどのアルファベットを貰おうかってなったんだろう。手近にあった紙に、ベストプロデューサーの綴りを書き始めるからそれは丸わかりだった。
「ぁあ? Hないじゃん~」
ベストプロデューサーの中に「H」がないとホシが嘆いてる。大分バカっぽい。そこはもう無視したら良いのに、ドギョムがそれに付き合って、「ヒョン、じゃぁ『S』にしなよ。HOSHIの『S』じゃん」と言い、ホシが「おぉ~」って喜んでいた。
だけどすぐその後に、「ダメじゃん。全部足してもこれ、12文字しかないじゃん」とかホシが言い出して、ドギョムまでも指折り数えてる。何をしたって自分たちには13って数字が必要だってことだろうけど、別にベストプロデューサーの文字を一文字ずつ貰っても何があるってこともないだろうに、なんでかそこは2人して、「最後に!マークとかつけとく?」とか謎に必死になっていた。
絶対ホシとドギョムはその時、大切な用事は忘れ去っていたはず。
ふる無視して作業を続けながらも、ウジだけがそれに気づいていたというのに、案外しっかりもので、カワイイ弟って立場を利用した高いお願いスキルを持ってるスングァンがあらわれた。
しかもこれまた、「えへえへ」って言いながら。
3人が揃えばウジだって、ブソクスン絡みじゃん............ってことにすぐに気がついた。
何かって言ったら、「ブソクスンのカムバックにこの曲良さそうじゃん?」ってホシもドギョムもスングァンも言うから。
まぁでも「Ready to love」の時も「Rock with you」の時も3人で「ブソクスンのカムバにピッタシだ」って騒いでマネヒョンに怒られ、それでも諦めずに「ブソクスンッ! ブソクスンッ!」ってブソクスンコールを繰り返してスタジオから放り出されてたけど......。
まぁジュンとディエイトが2人して国に帰るってことがなければ、あんなに詰め詰めスケジュールじゃなかったはずで、それならブソクスンのカムバも本気であったかもしれない。だけどドギョムのミュージカルも入ってしまっては、流さざるを得なかっただろう。
肝心のブソクスンの3人には内緒だけれど、何度もブソクスンのカムバの話はウジのところまでは落ちてきていたから。
「我らが偉大なウジベストPD様! はいッ!」
やっぱりバレバレながらも、ホシとドギョムが『もうひと押しだ』みたいなジェスチャーをしたもんだから、スングァンは本当に最後のひと押しだとばかりに元気に手をあげる。
ウジが無視してると、「はいッ! はいッ! ウジヒョン、はいッ!」って騒がしい。
「あぁ、もうなんだよ」
根負けしたというか、放っておけばパソコンとウジの間に入り込んでまでも手をあげてアピールしかねないから、諦めてようやく振り返ったウジだった。
「我らがベスP様!」
なんでか大分はしょられた感じがしないでもないけれど、スングァンがそう言いながら、ウジの前に土下座する。
ワンテンポ遅れはしたものの、そこにホシとドギョムまで続く。
「あ? 辞めろよ。なんだよ」
「「「ブソクスンに本気で曲をくださいッ」」」
どうやらウジのベストプロデューサー賞に、結構本気でやる気が刺激されたらしい3人は、「とりあえずカッコイイ曲を」とホシが言えば、「もちろんビビるぐらいカッコイイ詩も欲しいけど」ってドギョムが言えば、「ついでに売れそうな感じのを」って、結局図々しいことを3人で三分割で言っただけだった。
「あぁ、今はさすがに無理だけど、時間がもう少し空いたらな」ってウジが言えば、3人はガバって顔をあげて、なんでか抱き合って喜んでいる。
「ベスP! ありがと~」ってスングアンが言う。
「いやもうお前「様」もないじゃん」ってホシが言う。
「何者かもわかんねぇじゃん」ってドギョムまでが言い、なんでか3人で爆笑してる。
ちょっとだけ、『俺のベストプロデューサーで遊ぶなよ』とは思ったものの、まぁいっかって考える。だって年末年始を過ぎたって、当分時間が空くタイミングは来そうになかったから。
でも目の前では3人が、物凄く楽しそうに話し合っている。すでにパソコンに向かって仕事を再開しながら、聞くでもなく聞いていたら、とんでも発言をしてる3人がいた。
「俺のソロ曲はさ、イメージ裏切ってポップでカワイイ感じにしようと思ってる」
ってなんでか、ホシにはソロ曲があるらしい。
と思っていたら、「俺のソロは、ロックな感じのにする」とドギョムが言い、「俺は英語の歌がいいかも。作詞はボノニに手伝ってもらって」ってスングァンが言うから、思わずウジは振り返ってしまった。
「お前らなんでブソクスンでソロ曲があるんだよ」
「だって俺ら、カムバックした時にミニアルバムも出そうと思って」
「うん。ブソクスンで新曲だして、ソロ曲3つ入れて、後コチモプシも入れるし」
ホシが当然のようにミニアルバムを語り、ドギョムは収録曲の話をし、スングァンがそれから......って言う。
「それから俺らね、オンラインコンサートするんだよ。ヒョンは俺らのPだから、ゲスト出演してもいいけど」
いやもう「P」としか呼んでくれなくなったし、かなり上から目線で「してもいいけど」とか言われたウジだった。
3人が物凄く楽しそうに、オンラインコンサートのセトリを話し合っている。といっても曲は5曲しかないんだから、全部の曲がアンコールにも出てくるらしい。しょうがないからセブチの曲もやろうと言いだして、ワイワイガヤガヤしながらも、時々思い出したかのように3人揃ってウジに「えへえへ」って笑って見せる。
呆れるウジに、ホシがニッコリ笑って「クリスマスだから、ほら」とか言っていたけれど、クリスマスプレゼントだとしても要求しすぎな気がしないでもない。
結局、気づけば2時間弱なんてあっという間に過ぎていた。
この僅かな時間でやりたいことが山とあったのに、ブソクスンにやられたウジだった。
The END
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