誰のせいでもないけれど、あえて誰かのせいと言うならば、悪いのはエスクプスかもしれない..................。
だって最初に「ここは俺に任せて先に行け」って言い出して、わちゃわちゃの元を作ったのがエスクプスだったから。
そこはかなり幻想的なゲームの世界。
ミンギュのことがあって、表に出る仕事がパタッと途絶えた。それでも相変わらず踊っていたし暇って訳でもなかったのに、なんでか時間がぽっかり空いた時があって。
ジュンは普段はスマホで楽しんでるゲームの世界に、パソコンで入ってガッツリやろうと思っていたら、なんでか「俺もやる」と言って来たのはユンジョンハンで、当然のようにドギョムもついて来た。
「あ、じゃぁ俺もやろうかなぁ」って珍しくもジョシュアも言い出して、「俺だけのけ者にするつもりかよ」って最初から何故か拗ねてるエスクプスもいて。
そんなに宿舎にパソコンがある訳でもないから、何人かは事務所にわざわざ出向いてパソコンの前にスタンバった。カトクで誰かが連絡したのか、ウジとホシはウジの作業室から参加するという。
結局はウォヌとミンギュもいつの間にかやってきたし、超初心者軍団のマンネラインも参加するとなって、全然その気じゃなかったディエイトも強制参加が決まり、セブチで見事に同じゲームにログインするという......。
なかなかにない状態。もちろん自分たちだけで遊べるように、専用のワールドを作ったし、鍵だってかけた。
「じゃぁ後は各自好きにしたらいいよ」
ゲームってそういうものだから......と思っていたのに、「ヒョン、ヒョン、俺になんか服ちょうだい」って言ってきたのはスングァンで、ディノはカッコイイ武器が欲しいと言い、バーノンはゲームの世界の食べ物はただのHP回復用だというのに、食べ物を集め出していた。
ウォヌとミンギュは「俺たち、ちょっとボスキャラと戦ってくるわ」と早々に消えてしまった。
ディエイトはゲームの世界の中の本を読みだしていて、結局何かを読むだけかいと、誰かがツッコんでいたけれど、ジュンは正直それどころではなかった。
「ジュナ~ッ。俺のマウス壊れた~」と、ジョンハンがリアルな世界で呼びつけるから。
「ジュニヒョン、俺もなんか、画面おかしい」と、ドギョムも一緒になって面倒をかけてくる。
ウジはまだゲーム慣れしてるのか、弓矢を使って遠くの敵を倒してる。なんでかクモの妖怪で、「わぁ、スパイダーはやっつけるなって」とホシが慌てていたけれど、まぁ楽しそうで良かった。
しかしジュンのところには、超初心者軍団のマンネラインと、リアルでお荷物軍団のジョンハンとドギョムと、放っておいたらすぐ拗ねるエスクプスと、地味に大人しいように見えて案外面倒なジョシュアが残された......。こりゃもうゲームを楽しむどころではないだろうな......と、かなり最初の段階で気づいてはいたけれど......。
それでも皆を誘導して、初心者にはちょっとだけ大変だけど皆で頑張って戦えばそれなりに楽しいエリアとかにも連れてってあげたっていうのに、エスクプスがそこで突然「ここは俺に任せて先に行け」って言い出した。
そのセリフは普通、物凄い強敵に襲われていて、自分の身を挺して仲間たちを守る時に使う言葉な気がするが、そこはそれほど強い敵もいなかった。それでもゲームに疎い他の面々は、「さすがヒョン」「エスクプス後は任せた」的なことを口々に言っていたけれど、そこにはそこそこの敵を倒して色んなタカラモノを一人でゲットしていく姑息なエスクプスがいるだけだった。
もともとどこにいても何をしていても自由すぎるセブチだというのに、エスクプスのせいでさらに自由なんだと気づいちゃった面々が、暴走しはじめる。
「ジュニヒョン俺、もっと強い武器が欲しい」
まだレベルが一桁だというのに、ディノがなんだか物凄い上を目指してるかのごとく言い出して、初心者でも持てる剣を出してやれば、嬉しそうにそれを構えて、そこらにいるスライムと戦っていた。多分後スライムを5万体ほどやっつけたら、レベルは二桁ぐらいにはなるかもしれない............。
ゲームの楽しみ方は人それぞれだから問題ないと言えば問題ないが、スングァンがゲームの世界のお店を発見し、その中のキラッキラな衣装を「ジュニヒョン買って買って」と煩い。いや普通はゲームの世界で戦ったりして頑張って集めていく装備だったり衣装だったりするはずなのに。「ジュニヒョン帽子と、頭につける花輪と」とか言い出して、あれもこれもそれもと買わせようとする。まぁ別にいいんだけど。
そんな間にも、「ジュナ~ッ。俺のマウスがなくなった~」と叫ぶジョンハンがいて、「ジュニヒョン、俺のパソコンは画面が暗くなった~」とドギョムまで一緒になってリアルで声をかけてくる。
「あ、ジュナ。ハニんとこ行くなら、帰りにお水持ってきて」と、リアルで人を使ってくるジョシュアまでいる。
そうしてる間にも、エスクプスやディノの間をいったりきたりしながら、二人が戦って出てきた古びたコインだとか、スライムの欠片だとかを拾い集めてたバーノンが、「ジュニヒョン、俺の持ち物一杯だって。ちょっと変わりに持っといて」と、ジュンにしてみればどうでもいいようなものばかりを押し付けてくる。
ゲームの世界とリアルの世界と、どちらもバタバタしてて、ちょっとイライラしていたジュンだったけど、今度はジョンハンとドギョムが「ギャーッ」って叫ぶもんだから、パソコンから火でも出たのかと思って行って見れば、ゲームの世界でボスキャラみたいなのが出てきてて、慌てて自分のパソコンに戻り、一瞬で制圧したジュンだった。
なんだか物凄い疲れる............とジュンが思ってる間にも、「あ、俺、いいこと思いついた」とジョシュアが言い出した。
ジョシュア曰く、「そこらの草むらとか弱い敵とか攻撃しても大した経験値は得られないし、動き回ってボスキャラ出てきたら殺されそうで怖いし、それならジュニのことを攻撃したら良くね?」ってことらしい。
「は? シュアヒョン何言ってんの?」
確かにこのゲームはPK機能もあるけれど......。
「だってジュニなら、俺らが攻撃しても反撃してこないじゃん」
「いや確かに反撃はしないけど......」
素直と言っていいのかどうなのか、「シュアヒョン凄い」と言いながら、早速ディノがジュンに攻撃をしかけてくる。まぁたぶん1万回切られても、死にそうもないけど。
そして確かに地味にスライムなんて攻撃するよりも、ジュンのことを攻撃した方が経験値が溜まっていくのは早いらしい。
「ジュニヒョン。なんか風船売ってる。期間限定のアバターなんだって。俺に風船買ってよ~」
いやもう確実にスングァンにはタカラレテイル......。思わず片言になりかけたジュンだったけど、しょうがないから買ってあげる。
そしてやっぱり性格だろう。拾い集めたって意味はないと諭したってバーノンはそこら辺に落ちてるものを拾うことを我慢できないようで、「ジュニヒョンいっぱいになっちゃった」と何千枚貯めても何とも交換できない破れた契約書とかを拾い続けてる。
「俺の水は?」
リアルな世界でジョシュアが当然のように言うもんだから、「あぁもうなんだよッ」ってキレてたら「ゲームでキレるなんて大人げないよ」とかドギョムに言われたりして、さらにムキーってなったジュンだった。
「ジュナ~。俺の子、なんか穴に落ちて動けなくなった~」とジョンハンが呼ぶ。
普段ならウォヌが半分助けてくれるっていうのに、今はミンギュとどっかに行っているから、呼び戻すのも忍びない......と思って一人で耐えていたというのに......。
「ジュナ。お前大丈夫? 無駄死にしそうだけど」
「あ? 無駄死に?」
「ぉん。無駄に死ぬと書いて、無駄死に」
「いや言葉の意味は判るよッ」
別の部屋にいたウォヌがトイレか何かに向かう途中で、ジュンを見つけて話しかけてきた。
とりあえず慌てて戻ってみれば、なんでかディノとジョシュアに攻撃されてるのは判っていたけれど、そこにホシとウジとエスクプスまで参戦してた。
遠くから弓矢で狙われている。チングたちに............。
「ヤーッ! お前らまでなにやってんだよッ」
ディノとジョシュア程度なら全然問題なくても、結構な武器を持ってるウジとホシとエスクプスにやられると、多分死にはしないだろうけど、うっかり死にそうな気もする。
「ジュナ~、俺のマウスが~」
と、リアルな世界でジョンハンが呼んでくるけれど、とりあえず「もうハニヒョンはマウス諦めてパソコンの方を動かしなッ」と叫んでおいた。
それから一瞬でHPを回復させたら、「えぇ、狡いよ」とディノが言う。
いやどこが狡いのか言って見ろって感じだが、遠くの方からウジとホシが「姑息だ」「狡猾だ」と、ただの悪口を言ってくる始末。
「ジュニヒョン、虹買って~。自分の後ろに虹が出せるやつがあって、これも今だけなんだって~」
いやこのたったの数十分で、どれだけスングァンに貢いだだろう......。
ゲームの世界と、リアルの世界。ついでにカトクでも、ジュンが叫んで怒って、ゲームの時間は終わりを迎えた。
セブチはどこでも、騒がしい............。
The END
3805moji