妄想heaven

SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

天使が空に MINGYU side story

注意......

多分。続きモノです。
はじめて「天使が空に」を読まれる方は、contentsよりお進みくださいませ~ 

sevmin.hateblo.jp

天使が空に MINGYU side story

あの日のことを思い出すと、ミンギュはいつだってちょっとだけ鳩尾あたりがギュッとなる。

メンバーたちもマネヒョンも会社のスタッフヌナたちも、みんなみんな、ミンギュのことを褒めてくれた。
あの時、ミンギュが身体を張ってウジのことを守ったから、ウジが無事だったんだと言って。
その他にも、非常ベルを鳴らすようにディノに指示したことなども含めて、全般、冷静な判断ができていたって。

でも............。
もしもあの時、動けていたら、自分は誰かのために戦えただろうか。ほんとに誰かを守れただろうか。
どうしてもそう考えてしまって、鳩尾あがりがギュッとなる。

 

 

ミンギュはあの日、見知らぬ人に気づいた瞬間には、部屋の中に視線を走らせて、全員の位置を把握していた。別段、何が起こるとも判ってなかったのに、一瞬でそれをしたのは何かの気配を感じていたのかもしれないし、たまたまかもしれないし。

でもジョンハンが殴り倒された時には、意思を持ってドギョムのことを見た。その場所を再度確認して、ドギョムのことだけは絶対に守らなきゃと思っていて、身体はドギョムの方に向かいかけてもいたかもしれない。

なのになんでか、ウジがその男に立ち向かっていったから。

「なんだよアンタ!」

そういうウジの声が聞こえてきて、「え?」って思った時にはウジが薙ぎ払われるようにして弾き飛ばされていて、そのままの状態でウジが壁にぶち当たるのを、咄嗟に自分の身体で庇えたのは、ウジの小ささのおかげか、それとも自分の反射神経の賜物か。

壁との衝突も、その後の床に倒れ落ちる時ニモウジの頭は守ったけれど、堪え切れずに「ウッ」って声が漏れたほどで、一瞬息が止まった。それでも床に倒れ込まずに自分の腕で身体を支えて、部屋の全体を見回したのは、まだ倒れられないと思ったからで。

目に入ったのは部屋の一番奥で、固まってるスングァンと、倒れ込んだジョンハンの東頭部を染めた血の色だった。
その次に目に入ったのがディノで、まだ男の近くで、驚いたのが丸わかりの状態で口を開けた状態で突っ立っていた。

どこから、何から、どうしたらいいのか。
腕の中のウジの様子を確かめながらも考えた。たぶん数秒の間もないほど。
でも気づけば目の前をイスが飛んでいた。
ジュンの声も聞こえたけれど、何を言ったかまでは判らなかったけど、その声とほぼ同時にミョンホがディノの腕を掴んで後ろに跳び下がっていた。

こんなに間近で誰かと戦う人を、はじめてみた。
それは暴力と正当な防衛とのせめぎ合いで、ウォヌまでそれに参加しはじめたのを見て無意識に動こうとして、思った以上の痛みに動けなかった。最悪どこかの骨に罅でも入っているのかもしれないけれど、それでも二人が少しでも押し負けることがあったなら、どうにか立ち上がって自分が出なければ......とも、思ってはいた。

だってどうしたってドギョムは守らなきゃならないし、頭の傷だから派手に血が流れてるだけだと信じたいけど、ジョンハンを早く病院に連れて行ってほしかった。

実際にその場で動けたかどうかは、二人がどうにかして抑え込むことに成功したから判らないけど......。

ディノに非常ベルを鳴らすように言った時には、もう普段の自分だった気がする。
そしてその頃には、自分の腕の中のウジはピクリとも動かなかった。
さっきまでは確かに意識があったはずなのに、なんだかまるで、もう大丈夫と確認したから意識を手放したような、そんな感じ。
一番小さいヒョンなのに、なんでこんなに無謀なんだか、目を覚ましたらちゃんと言わなきゃ。そう思ってたっていうのに、「目が覚めないから脳波を調べたい」と言われた時には、白衣を着た大人たちに向かって「は? 冗談でしょ?」って思わず言ってしまったミンギュだった。

救急車に乗る時にはもうグッタリしてたけど、それでも少しすれば目覚めると当然のように思ってて、なんなら血が流れすぎてるジョンハンたちに、先に行っていいとまで言ったのに。
持病について聞かれて「ある訳ない」とは答えたものの、言われたのは「大人と話したい」ってことだった。
そう言われて、ミンギュは95ラインと一緒にいるはずのマネヒョンを探した。
どうしたってジョンハンの方が重傷に見えていたから、当然のようにマネヒョンはそっちについて行って、ウジにはミンギュがいるから大丈夫と思って貰えていたんだろう。

処置室の中にいるジョンハンに、そのそばから離れようとしないエスクプスが見えて、少しだけ離れた場所にジョシュアとマネヒョンがいて。ミンギュが近づいていけば、「なんとか、多分、大丈夫そう」と笑ってくれたジョシュアがいて。
「ウジは?」
そう普通に聞かれて、「うん」ってバカみたいに頷いただけだった。

だってそのまま普通に、「うん。ウジは目を覚まさなくて、医者は脳波を調べたいとか言い出していて、大人と話したいって言ってる」なんて、言えなかったから。

「どうした?」

泣きそうになってたら、ジョシュアが気づいてくれた。
「ウジは? 無事なんだろ?」っていう言葉に、今後は頷けなかった。だって、嘘はつけなかったから。

脳波を調べたいと医者が言ってると言えば、「は? それが治療に必要なら断りなんていらないだろ?」と当たり前のように怒ったのはジョシュアで、大人が必要だと医者の言葉を伝えれば、「あぁ、そっちか」と勝手に納得して、まだ理解してないマネヒョンを連れて行ってしまった。

ミンギュが追いついた時には、医者と対等に話し合っていたのは大人のマネヒョンではなくて、腕を組んでその場にいたジョシュアの方だった。

要は保険適用外の治療が必要になる可能性があったから、大人とお金の話がしたいっていうことだったらしい。そんなこと、言外に言われてもミンギュには確かに判らない。

通常の脳波検査はすでに行われていて、CTも当然のように取られてて、頭の中では出血も腫れも見られないのに、脳波の波形は通常の睡眠状態でもなければレム睡眠とか深睡眠状態でもなく、異常波形でもないという。

「なら何が悪いんです?」

ジョシュアが冷静に聞けば、「脳波は、普通に起きて動いて活動してる状態なんです」と答えられた。それなのに起きないから不思議だという。
それが良いことなのか悪いことなのかは、確かに判らない。

病歴の話になった時も、キッパリとジョシュアが「ありません」と答えていた。
マネヒョンは大人だったけど、「会社に連絡してみます」としか言えてなかった。
でもいくら大人だって、そんな非日常なことにテキパキと対応なんてできるはずもない。
いつもは決して前に出るような人じゃないのに、なんでかキレ気味に見えるジョシュアは珍しかったけど、頼もしかったのも事実で。
でもやっぱり、ウジが目覚めないって現実の前では、なんの意味もなかったけど......。

結局医者は「様子を見ます」としか言わなかった。
たぶん医者だからって、全部知ってる訳でもないんだろう。

病院だから当然携帯は使えなかった。だからホシたちが病院にやって来たっていう連絡をは、スタッフの人が直接持ってきた。ジュンたちも後から向かってて、そっちには警察もついてくるらしいっていう話もあって。
誰もケガはしてないはずだけどその確認の後、警察が一人一人に話を聞きたいと言ってるって話も確かあったはずだけど、ミンギュはウジの傍から離れるつもりはなかった。

たぶんエスクプスだってジョンハンから離れるつもりなんて微塵もないはずで。それが判ってるのか、ジョシュアが「俺があっちの様子も見てくるから、お前はウジのこと頼むな」って声をかけてくれてから、去って行った。

守ったはずだったのに......。
咄嗟に自分の身体で守って、それで大丈夫だったと思ったはずなのに......。

脳波的には起きてるはずなのに目を覚まさないウジの隣りに座って、ウジのことを見つめてた。目が開くのを、呼吸が乱れたりないことを、手が、足が、今にも動くんじゃないかって。
そんなことをしてる間にも、同じ病院の別の場所では、メンバーが集まってきていて、ジュンやウォヌたちと一緒に警察の人が来て、そこではスングァンが叫んで、部屋から警察を追い出す騒ぎになっていたなんて、ミンギュは何一つ知らなかった。

メンバーが集まっている病室には、医者も看護師も、当然警察の人も入れない状態だった。気づけばスングァンが、そこにはいないジョンハンに向かって「逃げて」と叫ぶからだと後から聞いて、自分がそばにいてやれなかったことが悔やまれた。

ジョンハンが無事だったことは聞いたけれど、いつ病室に運ばれたのかも、いつ目覚めたのかも、ミンギュは何も知らなかった。だから当然ドギョムがその時号泣したことも、後から聞かされた。
ディエイトの様子がおかしかったことも............。

それから一時間近く、ミンギュはただウジの真横に陣取って、その手を握りしめて過ごした。時折看護師さんが来て、医者が来て、マネヒョンが来て、ジョシュアも来たけれど、それ以外は何も変わらなかった。
瞼が開かないか、その口が動かないか、ただじっと見つめてた。
でも見たって動きはなくて、何度ため息を零しただろう。

「鬱陶しいぞ」

二時間は経ってないかもしれないって時に、深く深く、ミンギュが息を吐いた時。
堪らなくなって、「ヒョン、戻って来てよ」ってウジの手を握りながら縋った時。
不意にそう言われて、一瞬誰に言われたのか判らなかったほどだったのに、「手も放せよ。暑苦しい」とも言われて、まだ目を閉じたままのウジが普通に話してたことに気が付いた。

「起きたのッ? 目は? 目は開く? お医者さんを呼んでくるから、あ、違う。呼び出しボタンを押せばくるから。それからシュアヒョンにも教えなきゃ」

一人慌ててるミンギュをよそに、なんでかウジが「腹減ったわ」と呟いて、気づいてみれば、そこにいるのはいつも通りのウジだった。
しかも目を開けたと思ったら、「お前俺のこと、呼び捨てただろ」と指摘までしてきて。

「え? は? 俺が?」

でも言われてみれば、ウジが押しのけられるようにして薙ぎ払われて飛んだ時に、咄嗟に「ウジやッ!」って叫んだ気がしないでもない。

「いやでもそれは、緊急事態で咄嗟にだったからだよ」って言い訳するでもなく言ったのに、「いや、お前はその後ちゃんと、クプスヒョンに向かってヒョンって叫んでた」とか言われ、「いやウジヒョン、めちゃくちゃちゃんと覚えてるじゃん」と驚かされた。

「覚えてるに決まってるだろ。非常ベルが鳴ったとこまでは、ちゃんと聞いてたからな」

もう大丈夫だろうと判断して、緊張を解いたらそのまま寝てしまった......という本人談を、半分以上目覚めてくれたことに喜んで涙ぐみながら、それから半分以上はだったらとっとと目覚めてくれよと怒りながら聞いていたミンギュだった。

「ハニヒョンは?」

ミンギュがまだウルウルした状態で目覚めたウジのことを喜んだり怒ったりしてるっていうのに、ウジはちゃんと自分が眠ってた間のことを確認していく。

「大丈夫。さっき、病室に移ったって聞いた。まだ起きてないかもしれないけど」
「ジュニは? ケガしてないか?」
「判らない。特に話は聞いてないから、多分大丈夫だと思う」
「ドギョミは? あいつは絶対ケガなんてしてないだろ? 確かスニョイが一緒にいただろ?」
「うん。ドギョミは確実に無事」
「チャニは?」
「大丈夫」
「良かった」
「..................」

気になったことを聞き終えたのか、「良かった」ってウジは言ったのに、その後のミンギュの微妙な沈黙にすぐに気づいたんだろう。

「何かあったのか?」

さすがと言えばさすがで。
ミンギュが「うん」と言えば、さっきは自分で暑苦しいと言ったくせに、今後はウジがミンギュの手を掴んで、「誰も死んでないだろ?」って聞いてくる。
頷けば、「生きてるなら大丈夫だろ」って言うから、それだけで大丈夫と思えるから不思議だ。

待つだけのミンギュのもとに来たジョシュアが、スングァンの様子を聞かせてくれた。
病室には、メンバーといつも一緒にいるマネヒョンしか入れないことも。
ミョンホの様子もちょっとおかしかった話も。
今はまだ緊張とショックが抜けてないだけだと信じたいけど、逆にそれが収まった時には今大丈夫な面子も調子を崩すかもしれないというジョシュアだって、いつもとは違ってたと話せば、ウジが笑って「シュアヒョンは、いざとなったら一番強気なだけだろ」と言う。

やっぱりそう言われればそんな気がして、ウジが目覚めただけなのに、すべてが良い方向に向かう気しかしないミンギュだった。

やっと落ち着けると思ったのに、実はそれからの方がミンギュは大変だった。
何せウジが「腹減った」って言い始めたから。
看護師さんは、検査をしたいからまだ食べないでくださいと言うけれど、腹が減ったウジを放置はできない。
せめて検査が終わった瞬間には何か食べさせないとと思っていたミンギュなのに、その検査をウジがあっさり断っていた。

「いや、すみません。貧乏なんで」

病院の検査を患者が断ることなんて、なかなかない気がする。焦るミンギュをよそに、保険適用外の検査も治療も不要ですと伝えたウジは、検査を勧める医者と交渉して、数日病院で様子を見て、明らかに問題なければ追加検査はしないってところで折り合いをつけていた。

ミンギュからウジが目を覚ましたと聞かされて喜んだマネヒョンだったけど、ウジが空腹だと聞いて、慌てたようにそのまま買い出しに走っていった。
病院の中にもコンビニはあったけれど、売ってるのはパンばかりだったから。
三度の飯よりご飯が好きなウジに、白いご飯を食べさせてやりたいと思ってくれたんだろう。
弁当を四個も買ってきたその姿に、ミンギュやマネヒョンも一緒に食べるのかと思っていただろう看護師さんたちが、それをペロリとウジが食べ切ったものだから、本気で驚いていた。そして羨ましがってもいた。

看護師さんが、別の病室を用意すると言うのも、ウジは断った。
メンバーと同じ病室でいいって。

でも四人部屋のその部屋は、病人としてジョンハンとスングァンがもう使って、残るベッドは2つしかないというのに、ミンギュとウジを除いた11人がそこにはもういて。さすがに四人部屋を13人で使うのは厳しいだろうっていう話だったけど、狭くたって何の問題もないし、今は全員で一緒にいた方が、きっと皆の傷の治りも早いかもしれないと判断したんだろう。

ウジの判断はいつだって的確で、それでいて男前で。
一番小さいヒョンなのに、頼りがいがあって、任せがいもあって。

「なぁ、病室行く前に、コンビニよってから行こうぜ」
「ウソでしょ? あんなに食べたのに?」
「イチゴウユ買う」

そう言いながらも立ち上がろうとすれば、こればかりは譲れないとばかりに看護師さんが車イスを差し出してきて、「歩けるけど?」っていうウジは、極力動かないようにと言われて車イスに乗せられていた。

病室は、エレベーターから一番遠い部屋で、一番奥にあって、なんでか廊下には警備員がいた。
襲われたのがたまたまなのか、狙われていたのかがまだ判っていなかったからかもしれない。
一緒について来てくれた看護師さんが、そっと扉を叩けば、扉を少しだけ開けてウォヌが中から顔を出した。
無表情に見えて、明らかにホッとしたような様子でウジとミンギュに「おかえり」と声をかけ、それから看護師さんには「すみません。今、スングァニが起きてるから」と謝っていた。

二人を通すためだけに開けられて、すぐに閉じられたスライドドアは、本当に一瞬だったのに、部屋に入った瞬間には入口をじっと見ながら、一瞬ビクついたスングァンがいた。

それでもミンギュは明るく「みんな、ウリジフニが戻ったよ」と言えば、皆がそこに全員揃ったことに喜んだ。
頭に包帯を巻いたジョンハンは痛々しかったし、口元だけで笑うディエイトのことは気がかりだったし、いつものように笑ってるように見えて、小さな物音にもビクつくスングァンはかなり気になったけれど、「13人いるとホッとする」ってしみじみとエスクプスが言うもんだから、「いつもは多すぎるのにね」とミンギュも笑って言えた。

でも平和だったのは、ほんの少しの間だけだった。

物音なのか、人影なのか、それともただ思い出しただけなのか。
バーノンがスングァンに「大丈夫。スングァナ。もう大丈夫」と聞こえた次の瞬間には、「ダメだッ。逃げなきゃ。早く逃げなきゃッ」って叫びはじめたスングァンがいて、でもそこから逃げる素振りなんて全く見せない。それから「チャニがいない。チャニがいないッ。ボノナ、どうしよう。チャニがいないッ」って言い始めて。

でもそんなスングァンの様子に、驚いてるのはミンギュとウジだけだったことの方がショックだったかもしれない。
スングァンはもう何度もそうやって叫び、ジュンやエスクプスが強く抱きしめて収まる時もあれば、過呼吸を起こして叫べなくなって落ち着くこともあって、そのたびにバーノンが「大丈夫。もう大丈夫だよ」と言えば「あぁ、もう大丈夫なんだ。ビックリした」って笑顔だって見せるっていうのに。
それでもまた、何かをきっかけにして叫ぶという。

名前を呼ばれてたディノが「スングァナ。俺、ここにちゃんといるよ」と言えば、「なんだよ。どこにいたんだよ、心配したじゃん」とプリプリ怒ってる。そこにはいつも通りのスングァンがいるのに。

自分がずっと一緒にいたって、何もできなかったかもしれない。それでもミンギュは、スングァンの側にいなかったことを後悔した。
あぁでもスングァンだけじゃない。ドギョムが真っ赤な目をしてて、「ウジヒョン良かった」とさらに泣きだせば、そんなドギョムの側にだっていたかったって思ったし、いつもならそんなドギョムやずっとウジの側に居続けたミンギュのことを気遣って声をかけてきてくれるはずのディエイトが、様子のおかしいスングァンのこともぼんやりと見てるだけだったから、やっぱり自分が側にいてやりたかったと、後悔する。

「お前もう鬱陶しいから」

あちこちに視線を走らせながら、ミンギュ自身が泣きそうになっていたからかもしれない。ウジから物凄く冷たい言葉がかけられたけど、きっとそれだって優しさだろう。
だってその言葉で、ようやくミンギュは動き出せたから。

「ディノや。お前ケガは?」

とりあえず、マンネから攻めることにしたミンギュだった。
ディノがケガをしたなんて情報は誰からも聞いてなかったから問題ないとは判っていたけれど、自分で確かめずにはいられなかったから。

「俺は大丈夫」

スングァンの様子が気になっているからか、ディノはちょっとビクついていた。本当ならいつもと違った一日のことを、たくさん話すことで色んな気持ちを整理したかっただろうに。

「スングァニも、すぐに落ち着くから。俺とウジヒョンが戻ってきたら、全員揃ったんだし」

そう言えば、「そうだよね。全員いるもんね」とディノが笑う。
頭をポンポンしてやりながら「明日、みんながもう少し落ち着いたら、たくさん話そう」と言えば、ディノは素直に頷いていた。

次は当然バーノンの側にいってやりたかったけど、バーノはスングァンの手を握りしめるのに必死だった。それなのにスングァンから「なに? なんで手握ってくれるの?」とか聞かれてる。
「ベタベタしたら普段は嫌がるくせに」って笑うスングァンは、ほんの数分前に叫んでたなんて、信じられないほど。

だから諦めてディエイトの側に行けば、ディエイトは腑抜けてた。
「大丈夫か?」って聞いても頷くだけ。本当ならもっと言葉をかけたかったけれど、今は何かを口にする力も残っていないのか、ディエイトがミンギュに向かって手をあげる。それから頷いて、横になってたベッドの上で、目を閉じてしまった。

「大丈夫。もう少しだけ寝たら、元に戻るから」

ディエイトの側にはジュンがいたから、きっと大丈夫だろう。でもミンギュは覚えてる。ディノのことを庇ったディエイトが、その時どれぐらい緊張を強いられていたかって。

「ありがとな。それから、ごめんな」

だからそう言った。伝われって思いながら。
閉じてた目が開いて、ちょっとの間、見つめ合う。それからディエイトはすぐにまた目を閉じてしまったけど、口元が笑ってた。たったそれだけのことにホッとして、ミンギュはさらに腑抜けてる感じのドギョムのもとに向かう。

「お前、大丈夫か?」

そう聞けば、「大丈夫な訳ないじゃん」って言うのは、タオルで目元を冷やしてるドギョムだった。泣きすぎたのか、目が真っ赤で。

「ケガはしてないって聞いてるけど、大丈夫なんだろ?」

そう言えば、「お前までそんなこと言うなよ」って、「やっと涙が止まったのに」って言いながらまた泣き始める。
心配するのなんて当然なのに、ドギョムは改めてそれで感極まっているんだろう。

「頼むから、お前だけは前に出てくるなよ。お前がケガなんてしたら、後悔なんかじゃすまいだろ」

普段なら照れて言えない言葉も、今は伝えておかないといけないと思える。
そうしたらさらにドギョムが泣くのは判ってても。

「ミンギュや、それぐらいにしといてやれよ」

そう声をかけてきたのはジョンハンで、頭に巻いた包帯が痛々しく見えるはずなのに、なんでか楽しそうに笑ってる。
やっぱり大丈夫とは聞いていたけど、その笑顔にホッとした。でもその横には心配そうな顔をしたエスクプスがいて、きっと本当は大丈夫じゃないのかもしれない。

それから、本当は一番に声をかけたかったウォヌのもとに行く。
病室の扉のすぐ側にわざわざイスを置いて座ってた。
誰かが勝手に入って来ないように、扉を外から叩かれればすぐに動けるように......だろうか。

「ヒョン、大丈夫?」

そう聞けばウォヌが、「とりあえず今は」と言う。
きっと明日には、足のあちこちが痛むかもしれないし、誰かを蹴った記憶が心のどこかに残ってるかもしれないし。落ち着いてしまえば、スングァンのように叫ぶまではなくても、それでも見知らぬ人にビクつかないとも限らない。

きっとそう、泣き言を零したかっただろうに、今は言えないとでも思っているのか。
隣りに座ったミンギュの手をギュッと握って、それだけで色んなことを伝えてくれたウォヌがいた。

病室の入口の側に座れば、病室の中がよく見渡せた。

病室入って右奥のベッドには、ジョンハンが寝ていた。その向こう側のソファには、エスクプスとジョシュアがいて、なんでかミンギュによって泣かされたドギョムが、当然のようにジョンハンのベッドにあがって隣りに寝始めていたけど、13人で暮らしなれているから、ベッドに二人で寝るのなんて気にもならない。

だって当然のように右手前のベッドには、ジュンとディエイトが寝てたし、左手前にはウジとホシがいたから。

左奥にはスングァンがいて、その向こう側のソファにはバーノンとディノがいた。

疲れ果てた顔をしてたり、ヘトヘトだったり、案外飄々としてたり、泣いてたり。皆それぞれだったけど、それでもここに13人いて、それは何よりも心強かった。

「俺がしばらく起きてるから、ヒョンも少し休んで」

そう言えばウォヌは、「悪い。何かあれば起こして」と、ミンギュにもたれたと思ったらすぐに寝てしまった。よっぽど気を張っていたんだろう。

でもそれだって、それほど長くは寝ていられなかったけど。
扉をそっと叩かれる音がして、ウジとジョンハンの検温をさせて欲しいと看護師さんがやってきたのに、その直前までバーノンやディノと笑って話してたはずのスングァンが叫びはじめたから。

「大丈夫。スングァナ、もう大丈夫」

今度はそう言って、エスクプスが側にいってスングァンのことを抱きしめていた。
全員揃っていて、傷は負ったけれどひとまずは無事だった。それだけでも喜べるはずだったのに、スングァンの傷は想像できないぐらいに深くて、心が叫ばずにはいられないんだろう。

自分が一緒にいたって変わらなかったかもしれないけれど、それでも、自分が一緒にいられなかったことが、やっぱり悔しかった............。

それでも少しずつ、時間が経つにつれて落ち着いてはきたのかもしれない。
スングァンの叫ぶ間隔も、ちょっとずつ、本当にちょっとずつだけど、長くなっていって、消灯時間とともに病院全体が眠りにつく頃には、スングァンも疲れ果てたのか、よく眠ってた。
きっと明日になったら、そうきっと明日になったら大丈夫。そう願うかのように寝たふりをしてたのに、真夜中すぎにまた、スングァンは眠りながら唸り出した。夢の中でも同じことを繰り返してるのかと思うと、苦しくなる。

そばにいって、「大丈夫。もう大丈夫だからな」って今度こそ言ってやりたいって思ってた。それがどれだけ救いになるのか、それでスングァンが落ち着くのかなんて判らないから、それはただただ自分の気持ちを軽くするためだけのものかもしれないけれど......。

まだ寝たままのスングァンが、「ハンソラッ。ハンソラどこッ」って叫んだ。バーノンは真横にいて、その手を必死に握ってるっていうのに。その声は悲痛で、本気で探してるって判る声だった。
ミンギュは何も言えなくて、言えたって「もう大丈夫」ぐらいなのに、そんな言葉言われたって、スングァンは全然大丈夫じゃないのに。それが判ってるからか、誰も何も言えなかったって言うのに、ウジがそんなスングァンに怒鳴った。

「五月蠅いッ黙れッ。今何時だと思ってんだ」

スングァンはその声に驚いて飛び起きていたけど、驚いたのはスングァン以外のメンバーも一緒だったかもしれない。
誰もがスングァンのことを、気遣って時間が解決すると思ってたっていうのに。

「だってヒョン、ボノニがいないんだよ」

スングァンが、物凄く頼りなさげな顔で声で、泣きそうになりながらそう言うのに、ウジは気にもせずに、「じゃぁお前の横にいるヤツはニセモノかよ」っていつも通りに対応してた。

気負いもせず、気遣う素振りも見せず。
それだけでも、やっぱりウジが戻ってきてくれて良かったと思ったほど。

「でもヒョン、俺数えても数えても、全然数があわなくて」

ちゃんと13人いるのに、スングァンにはそれが見えていないのか。
そう言いながらも、バーノンに捕まれていない方の手で、スングァンが自分の胸あたりをギュッと掴んでて。

見てるこっちの方が心臓が痛くなりそうだった。
やっぱり、口にできることなんて、「もう大丈夫」ぐらいしかないっていうのに、ウジは違った。

「ほんとに今何時だと思ってんだよ。あぁもう、番号ッ!」

慰めなんて微塵も感じない声で態度で。それから、怒ったように「番号ッ!」と言っただけ。
でもその掛け声は聞き慣れたもの。そして全員が言い慣れたもの。

ジョンハンの横のソファに座って寝てたエスクプスが手をあげながら「イチッ」と口にした。ベッドに横たわってるジョンハンが、しっかりした口調で「ニッ」と言えば、何故かジョンハンのベッドに一緒に寝てるジョシュアが「サンッ」と言いながら手をあげて......。

たったそれだけなのに、当然のようにそれが続いていく。

別のベッドにディエイトと一緒に寝てたジュンが当然のように「ヨンッ」と言う。ウジと一緒に寝てたホシが「ゴッ」と元気よく両手をあげてくれた。入り口横の椅子に座ったままだったウォヌが「ロク」と静かに言えば、怒ってたウジが「ナナ」と言い、ドギョムが「ハチ」、ミンギュが「キュ」、ディエイトが「ジュ」と数字をテンポよく刻んでいく。

それから少し、沈黙が広がる。全員がスングァンを見てた。
続きそうな沈黙に、ドキドキしてた頃、「ほら、お前だろ」ってウジがスングァンに向かって言って、止まってた時間は動き始めた。

「ジュウイチ」って、スングァンが言ったから。

そうしたらバーノンが当然のように「ジュウニ」、ディノが「ジュウサンッ」と言って、スングァンがしみじみと「13だ......」と口にして、全員そこにいるってことをようやく認識できたようだった。

ウジがいて良かったってもう一度思って、ウジの言うことには、どんな無理難題でもしばらくなんでも聞いてあげようとか、真剣に思ったほど。

その後、スングァンは寝て、朝まで起きなかった。
看護師さんが何度か病室を訪れたけれど、なんでかケガ人の方が病室の入り口まで出てきて検温されてたり脈を取られてたりしていたけれど、そんなの、スングァンの眠りが守られるなら苦でもなかったはず。

いつの間にか座ったまま寝ていたら、揺すられて起こされた。
目を開けたらそこにはホシがいて「交代」って言われた。見ればウジの横を開けてくれたようで、ベッドを譲ってくれたらしい。同じようにジョンハンの横にはエスクプスがいて、スングァンの横にはディノがいた。

「それなら俺よりウォヌヒョンを」
「ウォヌはディノの寝袋をもう奪って寝てる」

隣りに座ってたはずなのに、そう言われて見れば、確かに丸まって寝てた。
靴を脱いでベッドに横になる。気持ち的にはちょっとだけ横になって、すぐに誰かに変わってあげなきゃ......って感じだったけれど、横になった瞬間には寝てしまい、そしてそのまま起きれなかった。

次の日。
昼過ぎまで寝て起きたら、ウジと一緒に寝てたはずなのに隣りに寝てたのはウォヌで、聞けばウジは検査に出てるってことだった。

あれほど検査を拒否ってたのに......とは思ったものの、保険適用内の検査なんだろうって勝手に納得した。

それから病室を見渡せば、ディエイトはまだ少しボーっとしてたけど、スングァンは落ち着いていた。
逆に泣きすぎたドギョムが頭が痛いとジョンハンの横で死んだように眠っていて、ジョンハンはもう何もなかったかのようにいつも通りに笑ってた。

雰囲気が少しだけいつものようで、そうすれば病室だからって全員大人しくしてる訳もなく、「果たして朝飯は病院が13人分配膳してくれるのか」っていう話題で盛り上がりはじめてたけど、多分無理だろう。

まぁでも病院で用意される朝飯ではきっと足りないだろうしと、ミンギュはさっさと、買い出しに出かけることにした。病院側から13人分の朝飯が出たとしてもどうせ足りないだろうし、唯一病室に入ることのできるマネヒョンは忙しいだろうし。

でもミンギュは病院内のコンビニには行けなかったし、朝飯の調達もできなかった。
病室を出てエレベーターに向かうまでの間に、ウジに捕まったから。

「検査どうだった? 大丈夫だった?」

当然のようにそう聞いたというのに、あっさりとウジから「そんなことより」と切り捨てられた。
聞けば検査は嘘で、マネヒョンから呼び出されて副社長と話してたらしい。

「加害者が治療費は持つらしい。入院にかかった費用も、検査代も、当然全員分」

物凄い真剣な顔でそう言って来たウジは、なんだかちょっと、あくどい顔をしていたかもしれない。

「とりあえず」

物凄い小さい低い声で言うもんだから、思わずミンギュは背を屈めて、見知らぬ人がその姿を見れば、図体のデカいミンギュがウジを脅してるかのように、見えたかもしれない。

それでも物凄く真剣に話を聞いたのに、思わずミンギュは「へ?」ってちょっと間抜けな声を出していた。

「ウジヒョン、マジで?」

思わずそう言ってしまったほど。
目の前ではウジが真剣な顔をして頷いている。

ウジ曰く............。
湿布とか湿布とか湿布とか。日頃からあっても邪魔にならないものは、貰えるだけ貰って帰ろうっていう話だった。

「とりあえず、お前の打撲用に、湿布もだけど、湿布張りすぎると皮膚が負けるから、スプレーとか塗り薬とか、なんだかんだ言って貰って来い。それからジュニとウォヌも打撲ってことにして、ハニヒョンも打ちどころ悪くてって言えばどうにかなるだろ? あれだろ? ボノニは椅子かなんかを担いだんだろ? 筋肉痛とかでも何か貰えるんじゃね? それからディノ当たりは風邪ひいたとかって言えば、おでこに張るやつとか貰えるはずだし」

物凄い一気に話されて、ミンギュはちょっとだけ圧倒されたけど、それでも話は理解した。

「とりあえず、それが事実かのエビデンスを押さえてからだけど、だいたいは理解した。病院内のコンビニで買ったものとかを、病室につけとけないかも確認しとく」
「おぉ、あとこれ、みんなにはまだ内緒な」

何か事情があるのか、それ以上は話してくれなかったけれど、それでもミンギュはちょっと楽しくなってきた。
それまで非日常な出来事に巻き込まれてあれよあれよと流されてきたけれど、やっと自分たちから動き出せて、しかもちょっとだけ企みっぽくて。

「任せた」

そう言ってウジが去り際に、ミンギュの手を握っていった。
なんだかそれも秘密めいた感じで、俄然やる気を出したミンギュだった。

気持ちは猛ダッシュしてたけど、病院だから走る訳にはいかない。だから気持ち急ぎ目に歩いて病室に戻ったミンギュは、とりあえずウォヌを廊下に連れ出した。

「ヒョン、看護師さんに今から、足があちこち痛くなってきたから、湿布くださいって言いに行くから」
「え? お前足が痛いの?」
「違うよ。足が痛いのはウォヌヒョンだから」
「え? 俺、足は別に痛くないけど」
「いいから。あちこち痛くなってきたって感じでお願い」

意味が判らないって顔で、でも「ほら時間がないから、次があるんだから」というミンギュに無理やり連れて行かれた先で、ウォヌは十分達者な芝居をしてた。

「歩けるんで、レントゲン撮るまではいらないと思うんですけど」

そう言ったウォヌの言葉に、看護師さんもお医者さんも、「後から痛みが来ることはありますから」って慰められていた。
すかさずミンギュが「もしかしたら、ボノニもちょっと肩か腕が調子悪いって言ってたから、様子見て、後からくるかもしれないですけど」って、誰に言うでもなく口にして、ウォヌから不審がられてた。

医者が「湿布を1週間分ほど」というのを、横からミンギュが「いや、身体が資本の商売なんで、2週間分ぐらいでお願いします」と口にして、まんまと2週間分の処方箋をゲットしたウォヌとミンギュだった。

まだ首を傾げるウォヌに、ミンギュは「後で説明するから」とだけ言って、「ジュニヒョンちょっと」と次はジュンを呼び出していた。
当然ジュンだって「ぉ? お? おぉおおお?」って謎な声をあげていたけれど、「ジュニヒョン片言のふりしといて。俺がジュニヒョンは肌が弱いから、湿布よりもスプレータイプがいいって言うから」と謎な説明をされただけなのに、子役時代から培った演技力を十二分に発揮して、これまたあっさりと処方箋をゲットしていたミンギュだった。

次々と連れて行くのかと思ったら、さすがって感じのインターバルをあけてもいたりして、それでもそこはかとなく同情を誘いながらも、今後も役立ちそうなものをゲットしていったミンギュは、かなり胡散臭かったけど、そこはミンギュの見た目が爽やかすぎたからか、特に疑われることはなかった............。

もっと長く病院にいるのかと思ったら、結構あっさりと、全員での退院が決まった。
本当ならもっと色んなものを貰っていきたかったけど、ミンギュは引き際を見極めた。
結局色んな事を知っているようでいて、ほとんど知らなかったけど、「俺も知らない」と笑ってるウジがいたから、ミンギュも気にしないことにした。

だって目の前には、いつものように楽しそうに笑ってるみんながいたから。

 

 

退院するという日。雨だった。
ウジとスングァン以外が呼ばれて、簡単に事情を聞いた。納得できないとディノが言ってたけど、大人の事情っていうやつがあるんだろう。

悔しくはないけれど、思い出せばいつだって鳩尾あたりがギュッとなる。だけどそれは、誰にも言わなかった。
ただ、次はもっとうまくやる。次は絶対、もっとうまく、みんなを守って見せると思っただけ。

きっとそう言えば、ウジあたりは「次があってたまるかよ」とか言いそうだけど。
ミンギュはそれを、ただ自分に誓っただけ............。

 

The END
14778moji

start:20210309
finish:20210616