妄想heaven

SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

キムミンギュが恋をした × キムミンギュに恋をした 2

このおはなしはについて

続き物です。
「キムミンギュが恋をした × キムミンギュに恋をした」の続きです。まぁ今回のタイトル、そのまま+2だし。

まだ読んでない人は、よろしければそちらからどうぞ。  

sevmin.hateblo.jp

 

기분 좋은 봄의 아침(心地よい春の朝)

毎年春はくるのに、何故だか心地よい春の朝。
たぶんそれは、二人でいるから。

 

WONWOO side

ウォヌはネコが好きだった。
それを知っていたからか、二人で暮らし始めた家はペット可な部屋だった。
ミンギュは当然のように、ネコを飼おうかと言う。
どうせならペットショップで買わずに、保護猫を貰ってもいいし......と、ウォヌがどうしたって興味惹かれることを言ってくる。二匹飼ったっていいとも言う。

春になったら......。

別に意味なんてなかった。ただ子ネコなら寒いよりは少しでも暖かい季節の方がいいだろうって思っただけのこと。
でも春になって、再来週には保護猫を見に行こうかって時、ミンギュが新人2名を引き連れて、支社にやって来た。

営業とプログラマーと、男と女と、初社会人と転職と、挨拶と説明と。
なんだかウォヌには情報量が多すぎて、結局どっちがどっちだったか今いち覚えていなかったけれど、ミンギュのお土産のフルーツのタルトは美味しくて、今日は木曜日だったのか......ってことを知ったウォヌだった。

春になったら......。

仕事もせずに、目の前のパソコンで保護猫カフェを調べてたら、「ネコを飼うんですか?」って話しかけてきたのは新人さんの女性の方。
祖母が野良猫を拾って飼っていたと、「ネコは長く生きますよ。カワイイってだけじゃ、飼えないですよ」と教えてくれた。知ってるけど......。

「ペットが飼える家なんですか?」

頷けば、「でも家にいる時間が少ないなら、ネコが可哀想ですよ」とも教えてくれた。当然それも知ってるけど......。
頷くぐらいで言葉を返さないでいたからか、「失礼ですけど、自分のことでいっぱいいっぱいの人に、ネコは無理だと思います」とも言われてしまった。別段、自分のことでいっぱいいっぱいじゃないけど、生活力があるかと言われれば確かにそれはない。

でも、ミンギュが一緒だから............。

一人じゃない。だから大丈夫とは言わなかった。
でも少しだけ、ネコと同じように自分もまたミンギュに面倒を見られている気が、しないでもなかった。
でも今までも一人で生きてきたから、ウォヌだって一人で生きていけない訳じゃない。ただちょっと、ちゃんとした料理もできないし、規則正しい生活も無理だし、気づけばバスカードしかなくて、空腹を我慢して眠ることがあるってだけで......。

 

MINGYU side

家でネコの話をするたびに、楽しそうにしてたウォヌなのに、春になったらネコを見に行くとも話してたのに、なんでか「もう少し温かくなったら」に変わり、「もう少し落ち着いたら」に変わり、「もうちょっとだけ心の準備ができてから」に変わった。

別にネコがどうしても欲しい訳じゃない。
だからネコがいなくたって、二人の暮らしは変わらないはずなのに、なんとなく物憂げに見えるウォヌが気になってもいた。

一緒に家を出て、一緒に家に帰る。
時々は一緒にご飯を食べに行き、散歩しがてら、少しだけ寄り道して帰る時もある。
話すことはたくさんあるようでいて、あんまりない時もあれば、何も話してないのに同じものを見て、ただお互いを見つめ合って満足してる時もある。

それを言葉にするなら、「幸せ」だと思う。
ミンギュがそう思っているというのに、「お前、ニューヨーク支社に行くの?」と不意に聞かれて驚いた。

「ど、どうしたんです? 突然」

思わずどもってしまって、なんだか慌てたけど、「行くなら別に、遠慮しなくていいけど」とか言われて、さらに慌てた。

「いや、行かないですけど。それ以前に、うちにニューヨーク支社なんてありましたっけ?」
「知らないけど」

ニューヨークに支社があるような大手に就職した記憶なんてない。
それなのに、「行くなら行けばいいけど」と、もう一度言いなおすウォヌに、驚きつつも笑いそうになりつつも、なんだか可愛いとも思ってしまったり。

だってその手は、ミンギュの服の端っこを掴んだままで、全然行けばいいとなんて思ってなさそうだったから。

「ニューヨーク支社なんて、なんで突然?」
「別に突然でもないし、ニューヨークに支社があるかどうかは関係ない。お前なら、ニューヨーク支社がある会社に転職できるだろうし」
「転職? 何をいきなり」

どこからニューヨーク支社のある会社に転職してニューヨークに行くっていう話が出てきたのかは判らないけれど、確かに、ウォヌという人を知る前の自分なら、今の暮らしに満足はできてなかったかもしれない。

基本なんでも器用にこなせてしまう自分には、目指そうと思えばもっともっと上に行けるとなんの根拠もないのにそう信じてた。
でもそれで手に入るものよりも、きっと今、ミンギュが手にしてるものの方が尊くて失えなくて、愛おしい。
だって出会ってしまって、手に入れてしまって、今では一緒に暮らしてもいて。
自分が想像する未来には、絶対に一緒にいる人でもいて。

「ニューヨークに行ってみたいなら、夏の終わりの少し涼しくなった頃にでも、長期休暇の申請出しましょうか?」

そう言えば、「ニューヨークなんて、何があんの?」とこれまた惚けた返事に笑いそうになる。

 

WONWOO side

ミンギュがニューヨークに旅行に行こうと言い出した。
もとはと言えば、それはウォヌのせいだったけど、ウォヌは自分のせいだってことをあんまり理解してなかった。
とりあえず、自分の会社に「ニューヨーク支社」はないらしいとは理解したけれど......。

まだネコは、ウォヌのもとには来ていない。

ミンギュと一緒に来てた新人さん二人は、何故かミンギュがいなくても来るようになった。
名前は聞いたはずだけど、どちらも正確には覚えてない。
でも、ネコのことを語るのは女性の方で、ミンギュのニューヨーク行きを語るのは男性の方で、春だから眠たいのもあって、話半分以上聞いてないからか、ネコはなかなか飼えそうにないし、ミンギュはそのうち転職するらしいし。

本人からそんな話は何一つ聞いたことはないけれど、新人さんが言うには「ミンギュ先輩はこんなところで終わる人じゃないですよ」ってことらしいので、確かにそうかもって気はする。

なんでもできるし......。

新人さん二人は、まるでミンギュの日常を知ってるかのように、「日曜日とかだと朝から先輩は絶対、カフェで出てくるようなサンドイッチとか作ってくれそう」とか、「判る。仕事もできるのに料理もできるタイプだよね。あの人は」とか。

そんな話を聞くでもなく聞きながら、平日でもサンドイッチは作ってくれるし、確かに料理は美味いけど、それ以外にも掃除だって片付けだって、DIYもできるし、ウォヌの不調だって本人よりも早く見つけて整えてくれたりする。

新人さん二人の会話に混ざることもないし、頷きもしないけど、ミンギュの生活をまるで見てきたかのように話す二人に、ウォヌは知らぬ間に影響を受けていたのかもしれない。

だって「ミンギュ先輩の彼女は、とびきりの美人で仕事もできて、一歩下がった感じの人な気がする」とか「いや絶対カワイイ系だって。それであの人、結構でれっでれに甘やかしてそうじゃん」とか。「ミンギュ先輩、トリッキーなことやりそうに見えて王道タイプな気がするから、ちゃんとしたお付き合いとかしてそう」とか「あぁ判る。あの人案外、匂わせてそうだし。彼女にしか判らないサインとか、ガンガン使ってそう」とか。

新人さんの男性の方は、ミンギュのことを「ミンギュ先輩」と言うのに対して、女性の方はなんでかミンギュのことを「あの人」と呼ぶ。
なんでかは判らないけれど、ウォヌだって人のことはあまり言えない。
だってなんだか面倒になって、新人さんの男性の方を「new男子」、新人さんの女性の方を、「new女子」と心の中で呼び始めてしまったから。

 

MINGYU side

ネコは長いと二十年は生きるらしい。
2人で飼い始めたネコを、いつか1人で飼わなきゃいけないかもしれないと、ウォヌが考えてるらしいとは、ミンギュはすぐに気づいたけれど、なんでそんなことを考えだしたのかは判ってなかった。

「ずっと一緒にいますよ?」

そう言えば頷いてくれるけど、「人生の転機は突然やってくるらしいから」とか謎なことを口にして、最近はあまりネコの話題を出さなくなった。

 朝起きた時に、ベッド横のサイドテーブルに今日着る服を用意しておけば、何の疑問もないのかそれを着るウォヌは、生活のすべてをミンギュが取り仕切っていることにも気づいてないのか気にしてないのか。

なのに「できる男はいつか自分にチャレンジしたくなる時がくるらしいから」とか言って、ミンギュが転職してニューヨーク支社に行くと思っているらしい。

その理由が判ったのは、いつもの木曜日、ヌナから「マカロンが食べたい」と謎なカトクが届いたから。
ウォヌのためのモンブランとは別に、期間限定のキレイなケースに入ったマカロンのセットも買った。それぐらいの価値があったと思うのは、ヌナから、新人二人がウォヌの前であることないこと、ミンギュのはなしをしてる事実を聞いたから。

別段ウォヌに聞かそうと思ってる訳ではないという。
まぁいつもウォヌがいる場所が、この支社のリビング的な場所なんだから、しょうがないかもしれない。
基本はミンギュのことを噂してる程度だというし、別段悪口をウォヌに吹き込んでる訳でもないらしい。

この支社に普段からいるメンバーは、ミンギュを今や「旦那」と呼び、ウォヌとのことも知っているけれど、ひけらかすことでもないしと新人二人には何も言ってなかった。
でもそれでウォヌが傷つくというのなら............。

ヌナにはマカロンを進呈し、買ってきたケーキは、ウォヌの分だというのに、新人二人に差し出してやった。

「あれ? 俺のは?」

木曜日にはケーキが食べられるともはや認識してるのか、ウォヌが不思議顏で聞いてくる。
そんなウォヌにミンギュは、とびきり甘い顏で声で、「今日は帰りに予約してたホールケーキを持って帰るから」と伝える。

「ホールケーキ?」

ウォヌが意味が判らないと不思議顏。当然その斜め向こう側ぐらいでは、新人二人も不思議顏。だけどミンギュはそれらをふる無視して、「だって今日は俺たちが出会った日ですよ」ってウォヌに向かって笑って言えば、ウォヌは「へぇ。そうなんだ」とあんまり興味がなさそうだった。

家に帰って食べられる豪勢なケーキよりも、今食べたいのに......とでも、思っているのかもしれない。

もちろん一年前の今日、出会った訳でもなく、それは咄嗟についた嘘だったけど、きっとウォヌはそんなこと気にもしてないだろう。ただ見せつけたかっただけ。ミンギュの大切な人が誰なのか、知らしめたかっただけ。

意図せずだったとしても、ウォヌを傷つけることは当然ながら、惑わすことだって食い止めたかっただけ......。

結局、ネコを飼うことなく終わってしまった春だったけど。
ミンギュのマウントは成功したのか、新人二人がウォヌの周りでミンギュの話をすることはなくなったらしい......。

しばらくしたらウォヌはニューヨーク支社のことも忘れて、いつものように、ミンギュと一緒にのんびりと暮らしだしたから......。 

 

 

여름의 오후의 비밀(夏の午後の秘密)

忘れられない夏は、誰にでもある。
夏は眩しいから、きっと誰もが目を細めて思い出す。

 

WONWOO side

夏だから、旅行に行こうとミンギュが言い出した。
これまでの人生で、夏だからと、何かをしたことがなかったウォヌにしてみれば、それが正しいのか間違っているのかは、今いち判らない。

本当は飛行機に乗って物凄い遠くまで行って、人生の中で一生に一度しか見ないだろうなっていう景色を見に行きたいけれど、今回は電車か車で行って、二日ぐらいで帰ってくる感じの、旅行の練習みたいな旅行をしようとミンギュが言う。

旅行カバンも持たずに行ってしまえるような、そんな旅行。
もちろん仕事なんてしないから、ノートパソコンだって持っては行かない。

コッソリとどこかのホテルを予約しておくから、仕事帰りとかに不意に旅に出るのも面白くないですか......みたいなことも言っていたけれど、初心者には逆にレベルが高そうな、旅行らしくない旅行になりそうだった。

旅先で何か記念になるものをお互いに買おうだなんてミンギュが言うもんだから、ちょっとだけドキドキする。
でもドキドキはしても不安にはならないのは、ミンギュが一緒だと思うから。

少しずつだけどウォヌ自身も、ウォヌのまわりも、変わり始めている。
春先には新人二人がウォヌの側でいつもミンギュの話をしてたのに、気づけばパタリとなくなっていた。
それがもしかしたら少しだけ負担に思えてたのかも......と気づいたのは、大分後になってからだったけど、なんでなくなったのかまでは判らなかった。

ミンギュも一人で支社に来ることが増えた。ウォヌ自身も気づかないうちにミンギュの後ろを見てたのか、「そろそろ新人だからって甘えていられなくなってきたんですよ」と、ミンギュが一人で来た理由を教えてくれた。

仕事と言えば、ウォヌだって忙しい。
ただ誰もウォヌのことを急かしたりはしないから。
決してサボってる訳ではないけれど、今日も一人、微睡みながら仕事をしてた。
何度か目覚めたけど、時計を見てもまだミンギュの来る時間じゃなくて。
気づけばいつだって待っていた。

うたた寝してると案外時間はすぐに過ぎていくのに、誰かを待っていると、時間が過ぎるのは遅い。
そんなことにウォヌは最近気づいて、時計の針を不思議そうに見てた。

「どうしたんです?」

時計の秒針を見つめていたらいつの間にかミンギュがそばにいて、そう聞いてくるから、「お前を待ってると、この秒針が1秒動くところに2秒ぐらいかかってる気がする」と言えば、ミンギュが笑ってた。
さすがにそれはないだろうけど、嬉しいですって......。

何が嬉しいのかはウォヌには判らなかったけど、それだっていつかは、判るかもしれない。

いつもミンギュは、「帰りにどこかで、何か食べて帰りましょうか」って言ってくれる。時には「ちょっと遠回りして、カフェでも寄って帰りましょうか」とも。

ウォヌが頷いても、首を振っても。眠たすぎて全然聞いてなくても、いつだってミンギュは困ったり、苛立つこともなく、大抵は笑ってくれてる。

何を言おうか、何て答えようか。
ウォヌがそう考えてる間も、待つでもなく、ミンギュは待ってくれている。
時々は強引だけど、それだって嫌じゃない。

いつだってミンギュは、ウォヌのことを考えて動いてくれてるってことが、判るから。
きっと旅行は楽しいと思う。
だって一緒に歩いて帰るだけでも、楽しいし、幸せだし。
毎日ただ歩く道が、ミンギュと歩くと違う世界になるから。

「俺が旅行好きになったらどうする?」

そう聞けば、ミンギュは笑って、「じゃぁ春夏秋冬、季節ごとに旅をしましょ」と言う。
夏のはじめにはそんな感じで旅行のことばかり考えていた。結局春にネコを飼えなかったように、夏に旅行にも行けなかったけど、そんなことになるとは、露ほども思ってなかったから。

 

MINGYU side

「俺が旅行好きになったらどうする?」

他の人から見れば表情が乏しいと思われがちなウォヌだけど、ミンギュから見たらそれはちょっと浮かれたウォヌだった。

きっと夏の旅行を、ウォヌは楽しみにしてくれてるんだろう。ミンギュだって嬉しくなって、「じゃぁ春夏秋冬、季節ごとに旅をしましょ」と答えれば、「凄い。俺が旅行だって」と小さく呟いていた。

確かにウォヌ一人なら、旅行なんて考えもしなかっただろう。
バスカードを持って、仕事場と家を往復するばかりで、一つ道を逸れることすらしてこなかったから。

しかもボーっと歩きすぎて、気づけば家に帰りついているような毎日だったから、いつもの道ですらちゃんと見てない。よくそれで今まで事故にあわずにやってこれたもんだとも思うけれど、これからは違う。ずっと自分が一緒にいて、支えていけばいいんだから。

一人では行かない場所も、二人でなら行ける。
本当は最初から壮大な旅行だって良かったけど、きっとウォヌの頭も心も、すぐにショートしそうだったから、近場から慣れて行こうと思ってたのに。
不意に出かけるつもりだった日。
朝からミンギュを呼び出す連絡がひっきりなしで、それは新人がヘマをやったのに上司たちはすでに休暇に入っていて実質的に動ける人間がいないっていう後輩からの泣き言と、先輩からの脅しと、上司からの年末には長期休暇を取ってもいいっていう、多分嘘だろうなって感じの成功報酬のついた指示だった。

「夕方には戻りますから......」

ってそう約束したってのに、時計の針はとっくに夕方を過ぎていて夜にさしかかっていた。

タイミングが悪い時は悪い時が重なるもんだと判ってはいても、こうも失敗が重なることも珍しく、これだけ盛大に迷惑をかけられるなら、もっと最初の方で「先輩手伝って」とひと声かけてくれた方がマシだった。

あちこちにお詫びしながらも、仕事を進めていく。リカバリに走る自分も嫌いではないし、仕事を片っ端から片付けていく自分はどちからというと好きだけれど、きっとウォヌは今も、待っているだろう。
なにより大切なもの。それを持たずに生きてきた過去が信じられないぐらいで。
一番大切なもの。それを持った今は、優先順位なんて考える必要もないぐらいで。

ウォヌだってこれまで一人で生きてきたはずだから、ミンギュがいなきゃ生きていけないってことはないはずなのに、なんでかミンギュは、自分がいなきゃウォヌはダメだった信じてる。

それは、ほんの少しの時間でも............。
社会人になって以降、街中を慌てて駆けるのなんて、ウォヌ絡みばかりで。
走りながら一人で笑いそうになった。

寝ながらだから、待ってるうちには入らない。きっと真面目な顔してそんなことを言いながらも、無表情だと言われることの多い目は、切なさを隠しもせずにミンギュを見つめてくるはず。

ウォヌはそんな人だから。
だからこそ、ミンギュにとっての特別だから......。

 

WONWOO side

「ごめんッ」

そう言って走り込んできたミンギュは、「待たせ過ぎた」と慌てて、ここは家じゃないというのに、敬語じゃなくて、ちょっとだけ新鮮だった。

そんなことをウォヌが思いながらも「全然待ってない」っと言っても、「でもごめん」と言って抱き締められた。

「本当は今日、旅行だった?」

そう聞けば、「うん。気づいてた?」と逆に聞かれた。
ほとんどいつものことだけど、朝、ウォヌが起きればミンギュはもう起きていて、いつも大抵は機嫌が良いけれど、今日はさらにご機嫌で。

夏なのに冷房に弱いウォヌのためにと買ってくれたパーカーは、真新しくてウォヌはなかなか袖を通さなかったのに、今日はそれが用意されていたから......。

もしかしたら、今日はふらりと旅に出る日なのかもしれないと思ってたけど、一緒に家を出る頃には、ミンギュのもとにはあちこちから連絡が入りはじめてた。
いつもならウォヌを支社に送り届けてから仕事に行くのに、ミンギュはその時もウォヌに謝って、家を出たところで別れた二人。

「ドラマだったら、いつもと違う別れで、何かのエピソードがあったり横やりが入ったりするんだよ。これで予定が崩れたら、許さないからなッ」

って独り言にしてはデカイ声で言いながら、走っていくミンギュがいて、朝から一人で笑ったウォヌだった。

だから、待ってたって哀しくもなかったし、寂しくもなかったし、辛くもなかった。
待つことさえ幸せで、旅行なんて行けなくたって、一緒にいられるだけで幸せで。
帰ってきてくれただけでも幸せなのに、走って来てくれて、抱き締めてくれて、待たせたことを謝ってくれる。

だから「待ってるのも幸せだった」って素直に口にしたら、その場で押し倒された。
そこは支社で、ウォヌの仕事場で、今は誰もいないけれど、日頃は他の人だっている場所なのに。

でも抵抗なんてしなかったし、なんなら自分からも縋ってしまったかもしれない。
最後までするつもりなんてなかったと、後からミンギュは謝ってくれたけど、途中で止められた方が辛かったかもしれない。
それぐらい、身体が熱かったから。
だからそう、今度も素直にそう言ったのに、ミンギュもうウォヌのことを押し倒したりはしなかった。ウォヌがもう倒れ込んでヘタっていたからかもしれないし、ミンギュは満足したのかもしれない......。そんなことを思っていたら、「これ以上ここでは、さすがに無理だから」と呟いて、ミンギュはどこかに行ってしまった。

戻って来た時にはタオルと、どこから出てきたのか着替えがあって。
まぁ支社と言ったって普通の家だから、そこかしこに何かを閉まって置ける場所がある。そしてミンギュは誰よりも、ここのどこに何があるかを知っているんだろう。

着替えを手伝ってくれながら、ミンギュはまた「すみません」と謝ってくれた。
旅行に行けなかったからなのか。仕事場でそんなことをしてしまったからなのか。
でもどちらにしても、謝ってもらう必要なんてなかった。だって............。

「仕事場でしたから、これってオフィスラブってやつかな?」

そう言ったらミンギュがフリーズしてたけど、ウォヌは続けて、「それに家以外でしたから、旅行したみたい」と言えば、ミンギュのフリーズが解除されていた。

 

MINGYU side

物凄く丁寧に扱いたかったのに、物凄く雑に扱ってしまったかもしれない。
でもそれぐらい、早く帰って、続きをしたかった。
正直なところ、もっとボーっと、普通に、何も気にせずに待っていると思ってた。それなのに「待ってるのも幸せだった」なんて見上げながら言われたら、押し倒さないはずがない。

ボーっとしてそうに見えて、案外判ってる時があるし。何も見てないようでいて見てる時もあるし、かと思えば全然見てない時もあるし。
ただ座ってるだけなのに、酷く楽しそうに笑ってる時がある。

目が離せない。そんな言葉を知ってはいても、まさか自分がそれを体感するだなんて。
旅行に出るつもりだったから家の冷蔵庫には簡単に食べられるものなんて何もなかった。それを思い出したのは翌日で、朝、目覚めてからようやく昨夜は何も食べずにウォヌのことをただ貪ってしまったことに思い至った。

「獣かよ」

独り言だったはずなのに、「獣だったの?」と問いかけられて振り向けば、真っ裸で立ってるウォヌがいて、見慣れてるはずなのにやっぱり目が離せなくなったほど。

「な、なんでそんな恰好なんだよ」
「シャワーを浴びにいく道すがら......だから?」
「何か羽織ったりしないと風邪ひくのに」
「夏なのに?」
「............まぁ、そうだけど。でも俺にはもう一度襲われるかも」
「そりゃ、困るね。とりあえず腹減ったし、するなら食べた後がいいよ」
「..................」

思わず言葉を失ってる間に、ウォヌはさっさとシャワーを浴び始めてて、「俺なんか、食うもの買ってくるから」と声をかけて、家を出た。 

歩きながらも、思い出すのは昨夜のことばかり。
なんだか焦って、いつのまにか小走りになっていたけど、「家以外でしたから旅行したみたい」なんて言われてしまっては、次から旅先のホテルには、熟考してしまいそうな気がする。

でもウォヌには、わざとハードルをあげてミンギュを困らせようだなんて考えは当然ないことは判ってもいたけど。

そしてなんでか、帰りはもうダッシュしていたミンギュだった。

ちょっとだけ期待したというのに、シャワーを浴び終えたウォヌは、しっかりと服を着ていた。まぁそりゃそうだろうけど。

少し足を延ばせば小洒落た朝食を用意できただろうけど、焦りすぎたためにそこにはコンビニの袋があるだけ。急いでたから適当に買ったサンドイッチとかしかないというのに、ウォヌは嬉しそうな顔でコンビニの袋を漁ってた。

「なんか凄い。夏の思い出って、こういう風に、できていくんだな」

サンドイッチにかぶりつきながら、ウォヌが言う。
なんとなく、夏の思い出としては微妙な気もしないでもないけれど、「まぁ、思い出といえば、思い出だけど」とミンギュはかなり言葉を濁してしまったほど。

「でも俺らの夏の思い出って、誰にも言えないな」

確かに言われても困る。
だから夏にちゃんとした思い出を作ってやろうと思ってたのに、結局その後も忙しすぎて、旅行は無理だった。

大きな花火を見に行く予定も、雨で流れて。
夏の終わりころに気づけば、思い出と言えば、衝撃的な夜だけだったりして......。 

 

 

가을이지나 가면(秋が過ぎていく)

去年の秋は一人だったのに。
今年の秋は二人でいる。

 

WONWOO side

家で飲み会をしてもいいかと聞かれた時、思い出したのは、去年のこと。
行きたかったのに、行けなかった飲み会のこと。

なんで聞いてくるのかが判らない。そんな気持ちが顏に出てたのか、「今は二人の家だから」って言われて、ようやくここが自分の家でもあることを思い出したウォヌだった。

その次に思ったのは、飲み会が終わるまで、会社にいればいっか......だったのに、それもバレバレだったようで、「いや、ウォヌヒョンも参加だけど」って言われて、自分も参加なんだとちょっとだけ驚いた。

「去年の飲み会の件がどうやらバレたみたいで、新人たちが俺たちには飲み会がなんでないんだって煩くてさ」

そんな説明を聞きつつも、自宅に誰かを招きいれたことなんて、ほとんどなくて、思えば一人で住んでた家にミンギュが来たのが最初だった気がする。
そう考えると、迎え入れる側としてはウォヌなんて初心者も初心者で、できることなんて何もなさそうだった。

「いらっしゃいって言うだけでいいけど」

笑ってミンギュがそう言うけれど、そこでふと、二人で暮らしてることがバレても問題ないものなのか......っていう物凄い初歩的な疑問にぶち当たったウォヌだった。

「でも俺がいらっしゃいって言ったら............」

言葉は途中で途切れてしまったけれど、色んな思いが視線に乗ったのか、それともウォヌのことならなんだってミンギュは判るのか。

「言いにくかったら、黙ってても問題ないよ。でもウォヌヒョンも参加するでしょ?」

黙ってても問題はないらしい。参加するかと聞かれて、ウォヌは頷いた。それからポツリと、「焼きそば」って口にした。
去年のあの日、ウォヌが食べ損ねたのは確か、中華風の「焼きそば」だった。

「焼きそばも作るよ。あれ、案外簡単にできてボリューミーで楽だから」

ミンギュがそう言うのに、「じゃぁ参加する」と焼きそばに釣られたウォヌだった。

それから数日経って、飲み会がいつ開催されるのか、聞いた気はするけれど当然のようにウォヌは忘れてた。
それを思い出す必要ができたのは、珍しくも一緒に働くヌナが、「飲み会参加予定なんだけど、何時からだったっけ?」って聞かれたから。
日取りも覚えてないのに、開催時間なんて判るはずもない。

「何か持って行った方がいい?」

そうも聞かれたけど、それこそウォヌが判るはずもない。
とりあえず言えたことと言えば、「焼きそばはいらない」ぐらいだろうか。

誰かに何かを聞かれるたびに、それだけを答え続けたウォヌのせいではないだろうけど、なんでか飲み会は、「焼きそばパーティ」ってことになっていた。

 

MINGYU side

「焼きそばパーティって、どんな焼きそば食べられるんです? 和風? 中華風?」

ミンギュは何故か、そう聞かれることが多くなった。
誰情報かなんて、聞かなくても判ったけれど、別段ウォヌだって「焼きそばパーティ」なんて単語は出してもないんだろうにと、ちょっと面白くなる。

「辛いのは苦手だから」という人もいれば、「あんかけ焼きそばも食べてみたい」という人もいて、なんだか色んな焼きそばをつくるはめになりそうだったけど、それだってウォヌが喜ぶならと、ミンギュはやる気だった。

家での飲み会と聞いて、去年のあれやこれや、はじめての夜とか朝とかを思い出してくれるかと思いや、食べられなかった焼きそばを思い出すあたりがウォヌらしいし、飲み会の間、家を留守にすることを考えるのもウォヌらしい。

ちょっと意外だったのが、「いらっしゃいませ」って言葉に引っかかったこと。そんなこと気にせずに言ってしまいそうなのに。
でも絶対、何も気にせずにルームウェアとかで部屋からは出てきそうな気がすると、想像してニヤニヤする。それにきっと飲み会の途中で、「俺は先に寝る」っていなくなりそうな気もするから、さらにニヤニヤする。

新人たちに強請られて仕方なく家での飲み会を開催することになったものの、もしかしなくても一番色んな事を期待してるのはミンギュだったかもしれない。
今回も支社の人間と新人にだけ声をかけ、珍しくも全員参加だった。

家の中を片付けたのは飲み会の前日で、朝から家具も動かしたりしていたけれど、ウォヌは特に何も言わなかったから、気づかなかったのかもしれない。
その数日前から多めに用意した飲み物やら乾き物やら、それこそ冷蔵庫の中には色んな材料でいっぱいだったけど、普段冷蔵庫を開けることのないウォヌは気づいていなかった。

当日は午後から阪急を取って、準備万端にしてから支社にウォヌを迎えに行った。
参加者には適当に時間と場所が判るようにカトクを送っただけだっていうのに。
でも結局参加者は全員支社に集まっていて、当然のようにミンギュとウォヌの後ろをついてきた。

「た......、お邪魔します」

きっと真横にいたミンギュにしか聞こえてなかっただろうけど、ウォヌは確実に「ただいま」って言いかけて、ちょっと慌ててお邪魔しますって言い換えていた。
思わずそれだけで、横から抱きしめたくなったほど。
物凄い我慢したけど............。

全員を招き入れ、準備してたあれやこれやをひろげまくり、その間にも新人たちが動いて飲み物の準備をしてくれて、全員で「乾杯ッ」って言うまで僅か十分弱だったというのに、ウォヌは自分ちだというのに一番隅っこでちょこんと座っていて、物凄く借りてきたネコ感があって、思わずそこにいた全員を見失いそうになったほど。

何種類かの焼きそばを小皿に入れて、ウォヌの前に置けば、口の端をちょっとだけあげて嬉しそうな顔をして、一緒に渡されたいつも使ってるそれが自分の箸だってことに気づいてるのか気づいてないのかは知らないが、焼きそばを堪能しはじめたウォヌがいた。

あぁ、はじまったばっかりの飲み会なのに、全員もう帰ればいいのに......。
そんなことをミンギュが思ってるだなんて、誰も知らなかっただろうけど、それがミンギュの素直な気持ちだった。

 

WONWOO side

焼きそばが思った以上に美味しかった。
自分の家の中に、たくさんの人がいるのが不思議だった。
それでもって、焼きそばがやっぱり美味しかった。
ミンギュが遠かった。

「使いやすそうな箸ですね」

って誰かに言われてはじめて、他の人たちと自分の箸が違っていることに気が付いたけど、ウォヌは思った以上に冷静に、「使いやすいですよ」って答えてた。

色んな味の焼きそばをちょっとずつ食べるのに必死だったけど、お酒を飲みつつも食べつつも、仕事の愚痴をこぼしたりと、他の人たちは騒がしかったけど、それが飲み会ってもんだってことは、後から知った。

それからやっぱり、ミンギュが遠かった。

焼きそばを食べたら、ウォヌはやることがなくなった。
毎日スーツ着て働いている......ってことはなかったから、別にそのままでも何の問題もなかったけれど、正直着替えたかった。
それから騒がしい場所から離れて、ベッドで横になりたかったけど、お邪魔しますと入って来たはずだから、お邪魔しましたと出て行かなきゃいけないことに気づいてしまった。

飲み会というものは、果たしていつ終わるのか......。
はじまりの時間は知っていても、終わりの時間が決まっているものかすら判らない。
思わずミンギュのことを見たけれど、ミンギュは近くに座っている新人たちに話しかけられていて、ウォヌがちょっと困ってることにも気づいてない。

だからウォヌはしょうがなく、相変わらずミンギュの番号しか入っていないスマホを取り出した。

『焼きそば、食べ終わった』
『飲み会って、いつ終わる?』
『俺、お邪魔しましたって言わなきゃ』

呟くように、カトクを打つ。
ノートパソコンに向かってる時には滑るようにその指がキーボードの上を走るっていうのに、スマホを打つ時には、一文字一文字、丁寧に打つ。
それもまた性格が出るのか。

普段なら、自分からメッセージを送ることなんてほとんどないし、送ったものは送りっぱで気にもしないってのに。

ウォヌは自分の手の中のスマホを、じっと見つめる。
そのメッセージが、全然既読にならなくて。
同じ部屋の中にいるっていうのに、やっぱりミンギュは遠かった。

 

MINGYU side

ミンギュのスマホはパンツの後ろポケットの中で、ウォヌからのカトクには気づかなかった。それに気づいたのは、飲み会参加者の、それこそウォヌ以外の全員が、ウォヌが必死にスマホを手にしてる姿を見ていたからだろう。

たぶんウォヌは知らないけれど、ウォヌ以外の全員が知っている。そのウォヌのスマホは、ミンギュとしか繋がっていないってことを............。

当然のように、ミンギュは「先輩、スマホ......」と、新人にスマホを確認するようにと促されていたけれど、ウォヌ以外の全員がそれに気づいているというのに、当然のようにウォヌは気づいていなかった。

『焼きそば、食べ終わった』
『飲み会って、いつ終わる?』
『俺、お邪魔しましたって言わなきゃ』

ウォヌはウォヌのままでも愛おしいっていうのに、ウォヌからのカトクすら愛おしかった。
装飾のあまりない、文字だけのカトクなのに。

思わず全員の注目を集めてるっていうのに、スマホを見て笑ってしまって、慌てて顔を引き締めた。

たぶん飲み会っていうものは、食べ終わってからもダラダラと2時間ぐらいは飲み続けるし、途中チキンの出前とかも取ってそのまま2次会とかにもなだれ込むし、最後には雑魚寝したりもするし、朝には酒臭い輩があちこちに倒れてたりすることもある。

焼きそばを食べ終わったら飲み会が終わるっていうなら、それはただの食事会であって、食事会でもまだもう少し時間はかかるだろうし............。

それでもミンギュは『皆さんそろそろお開きで』と言いかけたほど。グッと堪えたけど。

でも見れば、ウォヌはしきりとスマホを気にしてる。それは当然、ミンギュからの返信を待ってるんだろう。
だってそのスマホは、ミンギュとしか繋がってないんだから。

「先輩、返信......」

またもや新人に横から囁かれたけれど、正直どう返信していいか悩んでた。言えてせいぜいが、焼きそばのお代わりを確認するぐらいだから。

「焼きそば、チンチャマシッタァ〜」

助け舟は、珍しくも飲み会に参加したヌナが出してくれた。

「さぁ、みんな焼きそば食べ終わったら、一次の食事会が終わりだから、二次会は会社戻って朝まで飲み明かそう。あそこならあんた達は家だし、日頃から寝泊まりしてるから誰も困らないし、明日そのまま働けて楽だし」

そう言いながらヌナがパンパンと手を叩く。
普段は場を仕切ることなんて、ほとんどしないっていうのに、だけどそこは自分が言い出すのが一番良いと判断したんだろうし、確かにそう言えるのはヌナしかいなかっただろう。

もちろんそんなヌナの発言に誰も、疑問を口にする人間はいなかった。みんな色々察知していたんだろうから。

本当なら料理の残りを持ち運べるようにして、家の酒も支社まで運んで、2次会の準備までは手伝うつもりでいたというのに、ミンギュはそれら全部を諦めた。それは「お邪魔しました」って言わなきゃいけないことを気にしてたウォヌが、色々あって疲れていたからだろう。
乾杯のビールも口にしたり、自分の家だというのに着替えもできずに沢山の人と一緒に食事して、普段と違うことばかりでもう疲れていたから。

「俺、もう帰りたくない」

全員が立ち上がって玄関へと向かおうとする中、1人立ち上がらなかったウォヌがいて、思わず全員がフリーズするようなことを口にした。

結構長い時間、全員が止まっていたかもしれない。それから息を吹き返したミンギュは、おもむろに財布からカードを取り出すとヌナに手渡した。

「好きなだけ食べて飲んでください」

ヌナは黙ってそれを受け取って、何も持たずに出て行った。当然皆、それに続く。

次の日、支社の中は死屍累々。色んな意味で破壊力の強かったウォヌのせいで、皆が悪酔いしたんだろう。

ヌナの手からカードがミンギュに返された時、「しこたま飲んで食べたけど」と言われたけれど、勿論文句なんてあるはずもなく......。

「あんたんちでは、二度と飲み会はしない」

そうも言われて、ミンギュは苦笑いするしかなかった。

 

 

또한 겨울이 온다(また、冬が来る)

寒いのに、寒くない冬。
雪だって、幸せを運んでくる。

 

WONWOO side

ウォヌは珍しく、風邪をひいた。
1人で暮らしてた頃は、寒々しい家で暮らしてても風邪なんてひかなかったというのに。

ミンギュという温もりを知ってしまったからか、珍しくミンギュがいなかった夜に1人で寝たら、朝には風邪をひいていた。

起きたら喉がもう痛くて、ケホケホと乾いた咳がでる。1人だったころは、どうやってやり過ごしていたんだろうって考えて、そういえば風邪なんてひかなかったな......って気がついた。

風邪薬を探す。または薬局に買いに行く。そんなことすら思いつかなかったんだから、病院に行くだなんて考えるはずもなく、ウォヌはトイレに行って、それから帰り道に冷蔵庫によってペットボトルの水を取り出し、それをそのままベッドに持ってきて、枕元に置いて寝た。

風邪なんて、寝たら治るはず......って信じて。

『もう起きてる? 何か食べた?』
『まだ寝てるのかな?』
『早く帰れそう。だから一緒に昼を食べよう』
『もう起きたかな? 朝ごはん食べちゃダメだよ。早めの昼にする予定だから』

ミンギュからカトクが届いてたけど、ウォヌはそれに気づかなかった。
何度か電話も鳴ったけど、その頃には節々が痛すぎて、手すら伸ばせなかった。

『ヒョン? 何かあった?』

そんなカトクが最後で、ミンギュは諦めたのかもしれない。
びっくりするぐらい寒くて、ガタガタと震えてた。

大抵のことは1人でやり過ごせたはずなのに、気づけば「ミンギュ」って、家にはいないミンギュの名前を呼んでいた。呼べば来てくれる気がして。それから、ウォヌのことを助けてくれる気がして。

どれぐらい時間が経ったのかも判らないなか、さっきまではガタガタ震えてたのに、今度は身体の中が燃えるように熱くて、枕元に置いたペットボトルに手を伸ばしたのに、朦朧としてたからか、伸ばした先にペットボトルが見つからなくて。

「ミンギュ」

また名前を呼んだ。

「呼んだ?」

そうしたら、ミンギュがのぞき込んで来て、「さっきより熱あがった?」って言いながら首筋に手を当ててくる。
その手が冷たくて気持ちよくて、それ以上にミンギュがいるってだけでホッとして安心して。

「あぁ、ミンギュ」

また、名前を呼んだ。

「うん。大丈夫。俺がいるから」

不思議と本当に、ミンギュがいるから大丈夫って思えて、ウォヌは「うん」って言いながら意識を手放した。

 

MINGYU side

仕事で家をあけた夜。
株で儲けて仕事は辞めて、ウォヌのために主夫をしながら暮らしたいな......って空想しながらも、必死に働いていた。

トラブルがあるとやっぱりミンギュは呼び出される。

丸々1日も離れてる訳じゃないけど、それでも一緒に寝て起きてっていう2人の生活が途切れるのは、思った以上に違和感があって不思議だった。
ミンギュの暮らしの中には確実にウォヌがいて当然で、今1人でいるだろうウォヌもそう思ってくれてるかなって考えながら、時折1人でニヤニヤしながら働いていた。

どれぐらい頑張れば、何時ころにはウォヌのもとに帰れるか............とか考えながら。
お土産に何を買おうかとか。
どこかで待ち合わせして一緒に何かを食べようかとか。

考えることの全部にウォヌがいる不思議。
ほぼほぼ徹夜で過ごした中で、何度かスマホを手にしたけれど、そこに入ってるメールもメッセージも着信履歴も、全部仕事関係ばかりでウォヌからのものは一つもなかった。

それもまたらしいと、滅多に自分から連絡のくれないウォヌのことを思い出して愛しくなったりしたけど。
そんな愛しい気持ちが不安な気持ちに切り替わったのは、朝、カトクを送っても既読にならないし、電話しても出ないし。
まだ寝てるのかも......って思いながらも、まだ完全には終わり切っていない仕事を一旦切り上げることにしたミンギュだった。

一度家に帰ることを告げても引き留められなかったのは、落としどころが見えていたし、ミンギュが徹夜したことを誰もが知っていたからだろう。
タクシーを捕まえることも考えたけど、この時間帯なら地下鉄の方が早いと諦めて走る。

きっと帰ったら幸せそうに寝てるウォヌを見つけて、『心配したじゃんもぉ』って言って笑うんだろうって信じながらも、安心できなくて電車の中ですら走りたくなったほど。

2人でいることの幸せを嚙み締めたばかりだっていうのに、2人で暮らすことの怖さも感じたかもしれない。
でももう、手放せないんだけど......。

ウォヌはベッドで倒れていた。いやベッドの上だったから、それはただ寝てたのかもしれないけど、高熱に魘されながらだったから、やっぱりそれは倒れていたんだと思う。
その額に手をやれば驚くほどに熱が高くて。
なのにガクガク震えながら、寒い寒いって布団にしがみついていた。

毛布を二枚上から被せて、それから氷を用意して戻ってきたら、「ミンギュ」って呼ばれたから、「ごめんヒョン遅くなった」って答えたのにウォヌの意識は戻らないままで。
辛いときに無意識で自分の名前を呼んだウォヌに、本気で驚いて、でもそれ以上に幸せを感じて、それから少しだけ泣けてきて。
ウォヌの熱が下がるまで、ずっと傍に居続けた……。

 

WONWOO side

ウォヌは珍しく、風邪をひいた。
辛かったはずなのに、気づけばミンギュがいた。

「うん。大丈夫。俺がいるから」

その言葉だけで酷く安心して、荒かった呼吸すら少し落ち着いた気がした。 

もう大丈夫。そう思って目を閉じたら、ただ熱が下がり始めてただけかもしれないけれど、落ち着いて眠れたかもしれない。

汗ばんだ身体は眠ってる間にキレイに拭いてくれていて、枕元に置いたはずの水も気づけば新しいものに変わってた。

咳き込むことが増えれば、ミンギュの指がウォヌの唇に触れてくる。その後に唇を舐めれば、そこにはハチミツが少しだけあってウォヌの喉を癒してくから、熱に朦朧としながらも何度も何度も唇を舐めていたかもしれない。

1人でもきっと大丈夫だったはずだけど、ミンギュのおかげで、もっと大丈夫だった。
1人ならきっと元気になったら栄養のあるものを食べなきゃと思っていたはずだけど、ミンギュのおかげで、耐えながらも栄養は補給され、時折目覚めれば「元気になったら何食べたい?」と聞いてくれるミンギュがいたから。

熱のせいでぼんやりしてたからか、「お前がいればいい」なんてことを口にして、ミンギュのことを黙らせていたウォヌだったけど、自分は覚えてもいなかった。

「どうしたらいいんだろう。もう1人じゃ、生きていけそうにない」

心の中にあった言葉が口から滑り出ていく。
そうしたらミンギュに手を握られた。驚くほどに冷たいのは、何か洗い物でもしてたからかもしれない。

「いいじゃん。俺ももう、手放せそうにないよ」

そう言われた気がした。
でも、夢かもしれないけど。

目覚めるたびに楽になっていった。目覚めるたびにミンギュがいたから。
洗濯してたり、料理してたり、仕事してたり。それからウォヌの世話をやいていたり。それからミンギュは誰かと電話をしていたり。

「うん、多分季節の変わり目だから。悪いけど、急ぎの仕事は、家でするから」

そんな声が聞こえてきたあたりから、大分意識がハッキリしてきたかもしれない。
パチパチとキーボードを叩いてる音もして、視線を向ければミンギュがベッドの横に床に座って仕事をしてた。もっと仕事のしやすい場所はあるだろうに......。

ずっと見てたはずなのに、気づけばまた眠ってて、次に起きた時には身体を拭かれてた。

「ごめん。起こした?」
「うん。起こされた」
「シャワーはもう少し、我慢しなきゃいけないから」
「うん」

首筋も、背中も腕も腹も。ミンギュの手で拭き清められていく。
全然恥ずかしくなくて、「照れないの?」ってミンギュが笑いながら聞いてくるから、「なんで?」って聞いたら笑われた。

普通は誰かに身体を拭かれるのは照れくさかったり恥ずかしかったり、好ましいと思う人はいないらしい。そう教えられても、ウォヌは別にかまわなかった。

「だってミンギュなのに?」

そう言ったら、ミンギュが床にへたり込んでしまった。「ごめん。風邪うつした?」って聞けば、「いや、ちょっと立ち眩み」と言う。

だから「一緒に寝る?」って聞いたのに、「いや、今は無理」と言いつつ、ミンギュがどっかに行ってしまった。
なかなかに、ミンギュがウォヌから離れていくなんて珍しい。
それぐらいはさすがにウォヌだってもうわかる。 

2人で暮らす家は、それほど大きくない。だから一周してきたって、すぐに戻ってくる。ミンギュは本当に家の中を隅々まで歩いてきただけのようで、去って行ったままの速度で戻ってきて。

「ごめん。俺ちょっと、シャワーしてくるから」と言ってウォヌをギュっと抱きしめたと思ったら、そのまままた去っていってしまった。

「風邪なんてひいてなかったら、一緒にシャワーできたのに」

身体を拭いてもらっても、やっぱりどうしてもサッパリスッキリとはいかないから。

 

MINGYU side

熱があるウォヌは素直だった。
いや、普段からウォヌは素直かもしれない。
別にムキになったり、虚勢を張ったり、嘘をついたりもしない。ただ自然に、自分のテンポでのんびりと楽しく生きているだけ。

1人でいても楽しそうに笑ってる時もある。
幸せそうに笑ってる時もあるから、「何をそんなに幸せそうに笑ってるの?」って聞けば、「お前のこと考えてた」とか素で言ってきたりするから、ミンギュは簡単にノックアウトされてクラクラすることがある。

今もまた、身体を拭いてたら恥ずかしがりもしないから「照れないの?」って聞いたのに、ウォヌは「だってミンギュなのに?」って返されて、腰が砕けた。

あぁ熱なんてなければ、そのまま押し倒してたのに、絶対。
普段からウォヌは存在するだけでミンギュの心や身体のあちこちを刺激するっていうのに、熱に浮かされてポワポワした感じのウォヌから発せられる言葉は、ミンギュの腰を直撃する。
思わず冬なのに水でシャワーをしそうになったほど。
自分まで風邪をひくわけにはいかないからと、普通にお湯を出したけど......。

何度か後輩からは仕事場に戻って来てくれとヘルプが入ったけれど、「いや無理」とあっさりと断ってしまった。ミンギュのことをいつまでも頼ってばかりはいられないし、下も育てなきゃいけないしっていう尤もらしい言葉で誤魔化したけど、なによりもウォヌが大切だったから。

気づいているのか、いないのか。ミンギュがずっと家にいても、ウォヌは気にしなかった。仕事どうなった......なんてことも聞かないし、いろいろ面倒かけてごめん......なんてことも言わない。

「元気になったら何が食べたい?」と聞けば、「甘くないパンケーキ......と、チーズがたっぷり入ったサンドイッチ......と、ラーメン......と、チキン......と」と、食べたいものは山とありそうなので、元気になるのに数日はかからないだろう。

夜になって、熱がまたあがってきたのか、ウォヌが「ミンギュや」と呼ぶ。
無意識なのか、「熱い」とか「寒い」とか「水」とか。手を伸ばしながら単語だけで色んなことを求めてくる。
それでも一番辛い時よりもマシだったのか、「一緒に」と布団をめくってくれるから、「俺に風邪うつしてもいいよ」と言いながら一緒に寝ることにした。

「ミンギュが風邪ひいても、俺、何もできないけど」

困ったって顔をしてウォヌが言う。あぁやっぱり愛おしいと思いつつも、まぁ確かに......と思えて、おかしくなった。

「でも水ぐらいは持ってきてくれるだろ?」

そう聞けば、「水は大丈夫。冷蔵庫にあればだけど」と、ちょっとだけ不安な返答が来て、冷蔵庫の中の水は切らさないようにしようと思ったミンギュだった。

 

 

 

그리고 다시 봄.(そして、また春。)

また春が来たと、驚いている人がいて。
また春が来たと、笑ってる人がいて。

 

WONWOO side

どんなに愛し合っていても、別々に育った2人だから、揉めることだってあるという。
相手の行動を信じられなかったり、不審に思ったり、求めすぎたり、求められすぎたり、どうしたって小さな綻びが2人の関係に小さなヒビを入れようとするらしい。

別々の人間だから、ふとしたタイミングで何かがズレていく。
気づいた時には別々の道に向かっていて、2人の間に違う時間が流れていくことに気づくらしい。

最近、支社のリビングでは、恋愛ドラマが流れてる。
放送時間になるとヌナや、もはや新人ではなくなった新人さんたちが集まって来て、テレビに向かってあーだこーだ言いながら、毎回絶妙にすれ違う主人公たちに文句を言ったりしているけれど、ウォヌにしてみれば、ドラマだからそれはやっぱり作り話でしかない。

絶妙なすれ違いは演出であって、それは良い感じの場面でステキな歌が流れ始めるのと一緒な気がするのに、なんでかヌナたちはそれに盛り上がる。

「いるいるこういう男。誰にでも優しいタイプ」と、さっきまでカッコイイと囃し立てていた俳優さんが、主人公以外の女性にも優しくすると、なぜかヌナが文句を言いはじめる。

「誤解が誤解を生むタイプね」
「絶対後から一途な後輩とかが出てくるヤツだわ」
「わかる。二番手の方が絶対幸せになれるのに......って思わせられるアレね」

文句なのか、ドラマの予想なのかよく判らないが、それが楽しいらしい。
ずっと黙って聞いていたウォヌだったけど、一言、「ミンギュも誰にでも優しいけど」って言ってみた。事実だから。

その場にいた全員の視線を一瞬で集めたウォヌだったけど、ウォヌは誰かに対してマウントを取ろうと思った訳でもないし、何か自慢したかった訳でもない。ただ、ウォヌが事実と思うことを素直に口にしただけのこと。それが判っているからだろう。別段文句も言われることもなければ、冷たい視線を向けられることもなかった。

「まぁミンギュは基本優しいけど、誰にでもではないし、ちゃんと線引きしてる気がする」

ヌナがそう言えば、その場にいた全員が頷く。

「でも、嫌じゃない? 自分の男が自分以外の人にも優しいのって」

元新人さんがそうウォヌに言う。別段深い意味なんてない言葉だろうに、その場が少しだけピリっとした。多分その空気に気づいてないのはウォヌだけで。
その場にいたウォヌ以外の全員が話題を別のドラマの話に変えたっていうのに、少ししてからウォヌが呟く。

「別にいいけど。自分にも優しかったら」って。

ヌナが物凄い深く息を吐く。
多分いろいろ言いたいことがあっただろうに、全部飲み込んだからだろう。
それから「仕事するわそろそろ」と言っていなくなった。テレビを勝手に消して。もちろんそれにならって皆がいなくなる。

もちろん自分の発言で皆がいなくなったなんて気づいていないウォヌだったし、テレビが消されても気にしてなかったし、ウォヌは静かになったとばかりにウトウトしはじめただけだった。
春だから、午睡するにはもってこいの季節だから。

 

MINGYU side

ミンギュが支社に来た時、ウォヌは相変わらず寝てた。
まぁ春だからだろう。

居眠りする時ようの小さな枕をプレゼントすれば、それがお気に召したのか、仕事場だけどスヤスヤと寝てる。まぁ昔からだし、社長が来てたって、外部の人間がいたって構わずだし、そもそも起こそうとする人間がいないんだから、何も問題ないだろう。

ウォヌは相変わらずだったのに、心なしかこの支社には、最近人が増えた気がする。
それでもウォヌがいつもいる場所は相変わらずあって、ウォヌが何かに脅かされることもなく、幸せそうに微睡ながら、時々働きながら、ミンギュの帰りを待ってくれている。

「付き合ってる相手が、記念日を忘れ始めたら危ないんだって」

時々、ウォヌがそんなことを言うから驚く以前に笑ってしまうけど、なにやら昼間にヌナたちと一緒に恋愛モノのドラマを見てるらしく、そんな話題になるんだとか。

「でも、記念日を、俺が覚えてない」

忘れられたかなんてわかんないよと言うウォヌに、「俺が全部覚えてるから大丈夫」と言えば、「記憶力すごいな」と言われたから、「いやアプリ」と見せてみれば、こんなのがあるんだ......と感心してた。

「誰にでも優しい男はダメらしいよ」

そんなことも言われたけれど、「俺はウォヌヒョンにしか優しくないから大丈夫」と言えば、結構本気で驚いていた。「ミンギュは誰にでも優しいじゃん」って。

「人として親切で、誰に対しても丁寧で、その行動のすべての基本に優しさがあると思う」

物凄い寝起きな感じのボーっとした雰囲気なのに、言葉はミンギュの胸を突き刺す勢いがあったかもしれない。
でも感動したのは評価の内容じゃなくて、いつのまにそんなに自分のことを見ててくれたのかってことで、「ほとんどここと家の俺のことしか知らないじゃん」って言えば、「うんだから、それ以外の場所で乱暴者だったらちょっと困るけど」ってウォヌが笑う。

最近とみに愛おしいから、場所なんて関係なく抱きしめたくなるし、口づけたくなるし、押し倒したくなる。
それがまた一緒に暮らして季節を超えたからか、「俺のこと、押し倒そうとしてるだろ」ってウォヌが言い当てるから、「ヒョン、早く帰ろう」って囁くことになる。

「いいよ。早く帰ろう」

当然のようにウォヌもそう言ってくれるけど......。

 

WONWOO side

自分の男が、見た目が男前なら自慢しちゃいけなくて、中身が男前なら自慢してもいいらしい。
なにやらヌナたちがそんな話題をしてたから、当然ウォヌは、「見た目も中身もいい男なら?」って聞いてみた。
だってミンギュは、見た目も良ければ中身も良くて、仕事もできて料理も美味くて家事もできてお金もしっかり稼いできて............と、言い出したらキリがないから。

そうしたらヌナたちが黙ってちりぢりに、いなくなってしまった......って話をミンギュにしたら、笑ってた。でも次の日、木曜日でもないのにミンギュはケーキを買ってきたけど。

ダメなところを必死に探してみたけれど、探し方が足りないのか、見つからなかった。
時々うっかりなことをして、一緒に出掛けた先の店が休みだったりすることはあるけれど、それもまた楽しいし、飛び込みではじめての店にチャレンジして新たな発見をしたりするのは、多少不味かったとしても、かけがえのない思い出になるから。

一緒に暮らして一年以上の時が経ってようやく、最近ミンギュのことをちゃんと見れるようになってきたのかもしれないと思う。
頭の先から、足の先まで。
顔とか。いつもカッコイイけど、寝起きのボサボサ頭とかでも、カッコイイとか。
そういうのを最近ようやく、ちゃんと見られるようになってきて、キムミンギュって人間を、今は観察するのがすごく楽しい。
それから誰かが話すキムミンギュの話を聞くのも、ひどく楽しかった。

なんだかウォヌが知るミンギュよりも、人間臭かったり、もっともっとカッコ良かったりするから。

色んなキムミンギュを知っていくというよりは、なんだか集めていってる感じ。
新人さんたちは、ミンギュがどれだけ凄い先輩かを教えてくれる。逆に社長や部長たちは、ミンギュの新人の頃のやらかした話を楽しそうに語ってくれる。
本社でモテモテなミンギュの話だとか。
新しいケーキ屋を発見したら教えてほしいと、会社中の女性陣たちに頼んでる話だとか。

新しいミンギュの話を聞くたびに、それを話す相手もミンギュだったけど、「そんなことあったかなぁ?」とか、「懐かしいな」って言いながら一緒になって色んなミンギュの話をミンギュ自身が楽しんでくれる。

「俺のこと話してるとき、凄い楽しそうだね」

ミンギュがそう言うから、「楽しい。中学生とか高校生とか、小学校でもいいけど、どんなミンギュのことも、知りたいかも」って言えば......。

「じゃぁ今度、俺の実家行く? 卒業アルバムあるし、うちのオンマに聞けば、生まれた時からの話が聞けるけど」

ウォヌはそのミンギュの提案に、嬉しそうに頷いた。

MINGYU side

最近ウォヌは、ミンギュの話を聞くのが好きで、色んな人からミンギュの欠片を集めては、ミンギュ自身に自慢してくる。
それが面白くて可愛くて、思わず実家に誘ってみれば、ウォヌは嬉しそうに頷いた。
たぶん、恋人の実家に行く意味なんて、何も考えてないんだろう。
普通は母親に会わせるなんて言われたら、驚くか怯えるか身構えるかそれとも喜んだとしても緊張はするだろうに、ウォヌはただただ素直に喜んでるだけだった。

実家には妹がいて昔は可愛かったのに今はうるさいばかりだと言えば、「ミンギュに似てるかな」ってやっぱりウォヌは楽しそうだった。
普通なら小姑までいるのかと考えそうなものなのに。

どんな服装で行けばいいのかとか、何か手土産は必要ないのかとか、何時ころに行けばよくて、何時ころには帰った方がいいのかとか。
そんなこと何一つ言わないのは、やっぱり考えてないどころか、思い浮かんでもないんだろう。

だから当日、ウォヌ洋服を選んだのもミンギュなら、自分の家に帰るだけなのにお土産を用意したのもミンギュで、昼前に着くからって連絡して、ウォヌが食べられるものをコッソリ母親に伝えたのもミンギュだし、夕方には出ると決めていたのも当然ミンギュだった。

普通に家を出て、普通に街中を歩いて、普通にバスに乗って。
学生の頃に通った道を説明しながら、気づけば実家についていた。

まだピンポンも鳴らしてなければ、ミンギュはドアにも触れてないっていうのに、絶妙なタイミングで玄関が空いて、「おかえりオッパー」っていう妹と、「いらっしゃい」っていう母親と、「よく来たな」っていう父親が出迎えて、ちょっとしたその勢いに、ウォヌはちょっとだけ驚いて、ただ会釈するだけ............っていう、恋人の実家に行った時の挨拶としては一番ダメダメな感じになったけど、ミンギュが気にせず「うちの家族な。見ればわかるけど、オンマとアッパとヨドンセンな」と、玄関先で簡単な紹介が終わってしまった。

ウォヌはただただ、優しそうなところがミンギュに似てる母親と、笑う姿がいつかのミンギュみたいな気がする父親と、楽しいことを見つけると目がキラキラするのがそっくりな妹を見て、「ほんとにミンギュの家族だ」って感動してた。

ミンギュが横で笑いながら、ウォヌのことを家族に紹介してるってのに......。

でも良い意味でミンギュの父親と母親と、そして妹だったから、常識なんてものよりも目の前にいるウォヌを見て、それぞれ気に入ってくれたらしい。
用意されてた食事はミンギュの希望通りだったものの、油断したら次から次へと追加されて出てきて、結局食べきれなくて持ってきたお土産以上に持ち帰るはめになったほど。父親は食べながらも、次は一緒に釣りに行こうとウォヌを誘うし、妹はミンギュとウォヌの家に遊びに行きたいとうるさかった。

目的だった卒業アルバムは見る時間もないぐらい、時間はあっという間に過ぎてしまった。
出迎えも家族3人だったのが、見送りも家族3人で。
帰りも丁寧な挨拶......なんてものはできなかったウォヌだけど、振り返り振り返り、手を振ってくる家族に、ウォヌも小さく手を振り返してた。お辞儀なんてするでもなく......。

でも常識的で愛想笑いができて、丁寧でキッチリとした挨拶ができる人を連れ帰るよりも、両親も妹も喜んでくれたはず。

何か口にするたびに、「ミンギュの味と似てる。美味しい」ってボソって呟くウォヌのことを、家族みんなが良い意味で驚いていたから。

「なんだかあっという間だった」って何度もウォヌが言うから、「今度は泊まりで行く? 卒業アルバムも結局見れなかったし」って言えば、ウォヌが「うん。ミンギュの部屋、居心地良さそうだった」ってあっさりと頷く。

きっと今度も、何も考えてないはず。

夏には父親が誘ってきて、一緒に釣りに行くことになりそうな気がする。
秋には妹の買い物にも付き合ってそう。
冬には帰って来いっていう母親の言葉で、年末年始を実家で過ごすことになるかも。

でもウォヌは何も気にせず、一緒にそれを楽しんでくれそうで......。
そしてまた春が来て、夏が来て。秋も冬も、一緒に過ごしてるはず。
ミンギュは木曜日にはケーキを買い続けて。
ウォヌは仕事場で微睡んで。

そして、また、春が来て......。

 

The END
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