移動車を4台用意して、どんなメンバーで、誰が運転して......って、TTTに向けての話し合いの場には、スタッフも含めてかなりの人数がいたというのに、ホシが不意に口にした「クユでもいいけど」って言葉には、誰一人として反応しなかった。
それを本気で皆が聞き取れなかったと思ったのか、ホシが再度、「1台、クユでもいいけど」って言いなおしたというのに、ものの見事にその場にいた全員がそれを聞かなかったことにした。
二回目もスルーされたというのに、「みんなッ! ちょっと俺のはなし聞いてッ」ってわざわざ注目を集めて再度、「クユで1台っていう案もあるよ」って言いなおしたというのに、視線があってたはずのスタッフヌナやマネヒョンまでもが視線を思いっきり逸らして違う話を続けるものだから、「え? 俺もしかして無視られてんの?」って、ようやく気付いたホシだった。
きっと誰もが、「クユズで1台だけはない」と思っているのかもしれない。
多分クユズだけを詰め込めば、絶対に現地に辿り着けない......と思われているんだろう。
そしてそれは正解。
ギリギリ行きはまだどうにかなるとしても、帰りはきっと帰り着けない。
何せ誰かが「寄り道しようよ」とか言ったとして、それに反対する人間がいないから。それがどんなに突拍子もなく、無謀な提案だったとしても、皆が皆、何故かポジティブに捉えて一度は乗っかるから。それこそクユズだけで釜山に向かって走り始めたりは確実にするだろう。
普段は結構冷静なウォヌだって、ちゃんと色んな計算ができるウジだって、宇宙相手に語ってるように見えて誰よりも現実を知ってるジュンだって、なんでかホシの「俺いま、すっごいイイコト考えちゃった」って言葉に、簡単に乗っかるから。
だいたいがして、ウジは基本、誰かの意見に反対なんてしない。
ウォヌはチングと一緒にいると簡単に子どものようになってしまう。
楽しくなると、ジュンは途端にテンションがあがる。
そしてホシはクユでいるだけで幸せで仕方なくて、もっともっと楽しいことがしたいって思いが強くなって。
多分高速道路の入口で、反対車線にうっかり入っていくことぐらい、朝飯前ぐらいな勢いでするだろう。
「え? なんで? なんで? クユで1台ってありじゃない?」
全体に向けた発言が無視られたため、ホシは目の前にいたマネヒョンに直接話しかけたけど、マネヒョンから「いや、それだけはないです」って拒否られていた。
それだけはないとまで言われて、思わずホシはキョトン顔で近くにいたウォヌを見れば、「俺はクユでもいいけど」と笑ってる。ジュンを見れば、「楽しそうだし、俺も大丈夫」と頷いている。さらにウジを見れば「俺はどこでもいい。どうせ運ばれるだけだし」とか言って、クユズの面々全員揃って『俺ら全然大丈夫だけど』みたいな感じを醸し出している。
「ほら、クユで1台行けそうだけど?」
ホシが負けずとスタッフヌナを見てそう言えば、「いや、それは絶対ない」と言い切られ、ホシがちょっとだけのけ反っていた。
自分たちの無敵感というか、謎な瞬発力というか、爆発力というか、クユズが揃っちゃうと起こるかもしれない問題の数々とか、そういうことには全然気づいてないクユズの面々だけれど、何が凄いって、そんなクユズは物事にあまり執着しないことだったりする。
それこそクユズの七不思議にして最大の不思議かもしれない。
揃えばなんだって願いが叶いそうな面々だというのに、スタッフヌナが「クユズだけは絶対にない」ともう一度口にしたのを見ていたジョンハンがすかさず、「ホシや。俺と一緒に行こう。ウジも一緒に」と言えば、瞬間嬉しそうな顔をして喜んで、すっかり自分が言い出した「クユで1台案」を押すことを忘れさったから。
ウォヌもジュンも、それでも別に構わないよって感じで、「クユで1台案」に執着してる様子もない。ウジに至っては『それもいいんじゃない?』って顔で頷いているだけ。
上から2番目のラインで、何かを言う発言力だって持っているはずで、多少のワガママだって許されるかもしれない。セブチのすべてを支えるウジがいて、セブチの踊りを生み出すホシがいて、セブチの空気感を一瞬で変えられるウォヌやジュンがいるっていうのに。
まぁでも何かを食べに行った時にクユズばかりでテーブルを囲むと、火もつけられないホシに、辛いものばかりを入れようとするジュンに、白飯白飯とうるさいウジに、「俺何食べたらいいの?」とか言い出すウォヌがいたりして......。全員見事に役立たずすぎて何もはじまらない時があるから、スングァンあたりに「はい、クユズは分かれて分かれて」ってあっさり解散させられて、いたりもする............。
物凄い頼りになったりもするはずなんだけど、そんなとこも多分、不思議すぎるクユズの魅力の一つだろう。多分............。
The END
2013moji