2020年12月18日。夜。メイクしたままの状態で車に乗って十分後。
追い出されるかのごとくバタバタと出てきたけれど、別段ショックだとか、辛いだとかはない。
ある程度覚悟はしてたし、最初から誰か一人でも結果が出なければそうなるとも聞いていたから。
でもたった一人宿舎に残されたクプスのことは、どうしたって気になったけど。
だから「なんでも好きなもの、買って帰るけど?」ってカトクしたのに、クプスからは「シュアからさっき同じ内容がきたから、チキンとか頼んだけど?」って返事が。
さすがチング。
健康管理という名のダイエットをしてるメンバーもいたけれど、こんな日ぐらいは、好きなものを食べて過ごしたっていい気がする。だからほかのメンバーにも食べたいものを聞こうと思ったら、メンバー全員のグループトークではすでにホシとウジが、全員好きなものを頼めと言い出して、すでに自分たちが頼んだ出前の内容を告げていた。
しかも支払いは全てウジがするという。
少ならからず落ち込んでるはずで、凹んでもいるはずなのに、全員がテンション高く食べたいものをカトクで叫んでた。大抵は「どうせ余るんだから、残ったものを俺は貰うよ」とか言ってるバーノンだって、今日は好きなものを頼むことにしたんだろう。
検査結果が出ないから、どうしたってクプスとは一緒に食べられないというのに、全員が6階に集まって食べるっていう話になっていた。せめて同じ宿舎にいたいからって。
こんな時期でこんな状況だから、誰が悪いとか、誰のせいとかもない。ましてや検査結果が遅いだとか、言える訳もない。
間が少しだけ悪かっただけのこと。
今はただ、クプスの結果も問題ないはずって、信じて待つしかないだけ。
クプスがいる宿舎で全員で食べると言えば、マネヒョンはいい顔をしなかった。
トイレやキッチンを使う時に、クプスと動線が被ってしまうから......って。
「何言ってんの? ヒョン」
スングァンが信じられないって顔と声で文句を言いかけたけど、それを止めたのはミンギュで、止めたミンギュだって辛そうな顔をしてたからか、スングァンが泣きそうになっていた。
全員で8階に集まって、出前も揃って。
「絶対大丈夫だよ」「そうだよ。クプスヒョンだってなんでもないよ」「明日にはみんなで一緒にまた練習してるよ」「うん、すぐに笑い話になるよ」
みんながそれぞれに、励ましあっていた。
そんな中ジョシュアが、クプスのためのチキンをジョンハンに向かって差し出してきた。
やっぱり、さすがチング。
それを受け取って当然って顔で歩き出せば、マネヒョンが少しだけ慌ててたけど、「あいつが陽性なら、俺は絶対、濃厚接触者だから」と笑って言えば、諦めたのか譲ってくれた。
だってやっぱり辛いから。
一人でいるクプスがじゃなくて、自分が。
それに今すぐ会いたいから。
チキンを持って部屋を訪ねたら、クプスはちょっとだけ驚いて「ヤー、俺は隔離処置中だろうが」と言ったけど、「どうせ一昨日もしたし、お前が陽性なら、後の祭りだろ」と言い返せば、「まぁそうかも」と笑ってた。
それから二人でチキンを食べた。
「俺ダイエット中なんだけど」ってクプスが言うから、「知ってる。だから?」と言えば、やっぱりクプスは笑ってた。
「なんで俺だけ結果が判らなかったんだろうな」
食べ終わって、二人でクプスのベッドに並んで眠りにつく頃に、独り言みたいにクプスが口にした言葉に、「さぁな」としかジョンハンは答えなかった。
だってほんとに判らないから。
「でも、俺で良かったよな。これが弟たちの誰かなら、もっと耐えられなかっただろうし」
頷けばよかったかもしれないけど、頷けなかった。
だって一人残して先に行くのすら、辛かったから。
心配顔の弟たちに「俺だって後からすぐに行くよ。会社がバイクを手配してるっていうから、間に合うだろ」って笑ってたクプスのことを思い出して、それすら心配だったから。
いつもと変わらず過ごしてるのに、いつもと全然違った日。
二人しかいない宿舎は静かで、なんでもないはずと、本気で願いながら眠った日。
The END
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