ユンジョンハンという人
「スングァナー、起きてる?」
小声って訳でもなく、普通に部屋のドアが開けられて普通に声をかけられれば、寝てても起きそうな気がする。
でもそれ以前にジョンハンはスングァンの寝てるベッドにまで近づいてきて、布団もめくったし、「スングァナー、寝てるの?」と言いながら身体まで揺すってきたけれど。
「寝てる。寝てるよ」
「起きてるじゃん。なぁ、俺、ちょっと遠くの公園まで行ってみようと思ってて、お前の自転車借りていい?」
「いいよ。勝手に乗ってって。ところで、今何時?」
「4時ちょっと前?」
「ヒョン、夜中じゃん。外、まだ真っ暗じゃない? いやそれより、何時に起こすんだよ。俺が不眠症だったら、また寝つけなくて苦労するじゃん。どうすんだよもぉ〜」
「お前不眠症じゃないじゃん」
ジョンハンがそう言って笑ったような気もするけれど、確かにスングァンは不眠症ではなくて、一瞬でまた眠りについてしまって、あぁ、これ夢かも……とかも思ってたりもして。
ユンジョンハンは時々本当に、公園を巡る。
人がいない公園が、自分だけ時間が止まってる気分になって好きなんだという。
もっと派手な場所が似合いそうなのに、そんな素朴な場所でもまた絵にはなる。
できれば勝手に行って勝手に帰ってきてくれるなら面倒がなくていいけれど、それから2時間後、つまりはまだ朝の6時前のこと。今度はスングァンのスマホが鳴った。
「ん? 誰? ハニヒョン? 何? どうしたの?」
電話の向こうでは、「スングァナ~、ミアネ~」とちょっと悲しげなジョンハンの声がした。
「ヒョン、どうしたの?」
心配して聞いたことをちょっとだけ後悔したのは、ユンジョンハンがあろうことか、「ヒョン疲れちゃったよ。タクシーで帰るから、自転車置いて帰っていい?」とか聞いてきたから。
いやいやいやいや。自転車で行ったんだから、自転車で帰って来いよ......。というか、それが当たり前で普通で常識なのに、なんでタクシーで帰りたいだなんて思うかな......って感じ。だいたい普通大人なら、行って帰ってを考えて自転車を漕ぐはずなのに、なんで行くだけで体力を使い切ってしまうのか。
「え、ヒョン。それならちょっとだけ休んで、それから帰っておいでよ」
寝起きながらもスングァンはまともなことを言ったというのに、「ダメだよ。俺もう眠たいんだもん。耐えられないよ」と電話の向こうでユンジョンハンがグズってた。
いやいやいやいや。朝も4時前から出かけたりすりゃぁ、そりゃぁ眠たくもなるだろう。でもそれだって自業自得な気がしないでもない。
「ダメだよ。ダメダメダメダメ。自転車ちゃんと乗って帰ってこなきゃ」
「スングァナ~。ヒョンもうダメだって」
「ダメじゃないよ。ハニヒョン全然ダメじゃないよ」
そう言ってるのに、電話の向こうからは「あ、ちょうどタクシー来た。ラッキー」みたいな声がする。それから「帰ったらカギは返すから」と言われ、電話が切られてしまった。
「........................」
ユンジョンハンには二度と自転車はかさない。そう思いながらも、まだまだ眠たくて、また眠りについたスングァンだった。いや、きっとこれは夢だ......って信じながら。
でも昼近くになって起きた時に、枕元には自転車のカギとともにメモが置いてあった。
見ればそれは自転車が置いてある場所の住所だった。ゴメンの一言もなく、「夢じゃないじゃん。ってか、それ以前にごめんなさいは? どういうこと?」となったスングァンだったけど、ユンジョンハンと言う人は、たぶんそういう人だ............。
The END
1502moji
クォンスニョンという人
「なぁ。俺、いいこと考えついたかも」
と、ホシは時々言うけれど、その大半は、どうでもいいことだったりする。と、パフォチの面々は知っている。
何せ「寝ながら体幹を鍛える方法を編み出した」とか言って、バランスボール2つ並べた上に寝る......という謎な睡眠方法を普及しようとしたり、「13人もいるんだから2人ぐらいは踊ってても休める説」を唱えだし、全員が「おぉ」とかなって逆に練習で疲弊して、これなら普通に踊った方が全然マシじゃね?ってなったり、どんなど素人でもあっさりセブチの踊りが踊れるようになる練習方法を編み出したとか言い出して、スタッフも含めて「おぉ」とかなったけど、よくよく考えればセブチの面々には何の関係もないし、とりあえずはセブチが踊れれば充分だし、そんな練習方法編み出されてもどこで役立つのかが判らない......という事実に気づいてしまえば、それもこれもあれも全部、どうでもいいことばかりだった。
だからか、全然ホシの方を見ずに、「凄いねヒョン」とディノが言う。
「へ~」と、明らかに興味なさげながらも、一応ジュンも返事をする。
そしてディエイトは聞こえなかったふりをする。
「ヤー、ほんとにいいことなんだって」
バカにすんなよとばかりにホシが吠えているが、「はいはい」と誰ともなく返事をするだけ。
まぁ、練習場にこもって早4時間と少し。一旦汗だくになった状態から、それが乾きはじめながらもまだ踊ってるような状態だったから、本気でいいことだったとしても、今はやめて欲しいと思われたってしょうがないかもしれない。
でもホシは本気でいいことを考えてしまったようで、フォーメーションを書いてるノートを広げだす。
そうすればディノがなになにって感じでそれを覗き込むし、ジュンだってディエイトだって、興味が沸かないはずがない。
何かが閃くと、ホシは身体が疼くという。
ディノはワクワクが止まらなくなるというし、ジュンは心臓がドキドキするというし、ディエイトは時間が止まるという。
セブチではそれをパフォチ病と呼ぶ。
もう4時間も練習場にいて、時折水分補給をしろとマネヒョンやスタッフヌナが来るけれど、ずっと居続けているのは4人だけ。
でもホシは本気でいいことを考えてしまったようで......。
ノートの上にはただの丸印が書かれていく。矢印が向かう先が動線で、時折その線が交差する。
どうやってそんなことが閃くのかは不思議。ただ踊りが好きっていう風にしか見えないのに。虎が好きだって言いながら吠えて遊んでる時と同じように、踊ることも楽しいよねって言いながら踊ってるだけに見えるのに。
13人もいるセブチを、どうやって俯瞰してるのか。気づけはノートの上には13人分の動きが次々と描かれていく。
そんなホシと一番長く一緒にいるのがパフォチの面々だから、そしてそういう瞬間が来てしまえば、どんなに疲れてたって自分たちも踊りたくなってしまうから。
でも何よりホシが凄いのは、楽しくなってテンションがあがると、夜中だろうと早朝だろうと仕事終わりだろうと、全員に向かって「全員集合練習室」ってカトクを打つところかもしれない。
パフォチ以外でも平気で呼び出すから。
まぁそれで当然、ちらほらとメンバーが集まってくるのも凄いけど。
The END
1365moji
イジフンという人
「なぁ、飯食わねぇ?」
一人ではご飯が食べられない訳ではないというが、ウジは絶対、誰かを誘う。
被害者ホシの証言。「ジフニはそういう時だけ、俺に向かって『チャギヤ~』って言う」
被害者スングァンとドギョムの証言。「俺たち前に一度、『次の曲のサビ激ムズだけど、相談させて』って騙し討ちみたいに呼び出されたよね」
被害者エスクプスの証言。「『ヒョン......』ってだけの、意味深なカトクが来る時がある」
被害者ユンジョンハンの証言。「俺なんて、『ユンジョンハンカモン』ってカトク来たけど」
被害者ミンギュの証言。「俺には『大変、いいからちょっと来て』ってくるな」
被害者ジュンの証言。「俺には『来い』かも」
まぁとにかく、夜中だろうと誰かは呼び出すってことだろう。
謎に被害に会わないのは、基本カトクを既読スルーするジョシュアだったり、ボーっとしてるのか寝てるのか、いつだってタイミングが一人会わないバーノンだったり。
逆に加害者になるのは、ウォヌとディエイトとディノだったりする。
いつだってウジが忙しい時に、気にせずウォヌはやってきて仕事の邪魔をするから。ディエイトとディノは、案外自分たちのやりたいことの相談にくるし。
加害者ウォヌの証言。「『なぁ俺ヒマ~』って行けば大抵、ジフニは付き合ってくれるけど」
加害者ディエイトの証言。「『新しい曲を先に聞かせてよ』って言えば、大抵ヒョンは聞かせてくれるしね」
加害者ディノの証言。「そうそう。『俺に曲なんかちょうだい』って言えば、好きなの選べよって、曲も聞かせてくれるし」
そんな感じで、ウジの邪魔をする面々もいるけれど、一人ではご飯を食べなくてすむから、それはそれで良いのかもしれない。
作業室の中でゲームをしてたって、寝てたって、大爆笑してたって、ウジは怒らない。
作業室の中で全然寝てない時だって、誰かが行けばいつだって、「おぉ~」っていうたったそれだけで、迎えてくれるから。
夜中に眠れなくなった時、なんだか暑苦しい夜とかも、メンバーたちが作業室に行けば、大抵ウジがいるから。
でも時々、誰も捕まらない時があるんだろう。
そんな時は全員宛てのカトクに、やたら可愛いスタンプを連投してたりする。
そうすれば次の日の昼には、やたらとメンバーたちが作業室に集まるってことを、知っているんだろう。
働きすぎなのに、それについては文句なんて一言も言わないのに、一緒にご飯が食べる人がいないといじけることがある。
偉大なるPD様なはずなのに。もうおかずの量なんて、一人で大量に頼んでしまっても、誰も文句なんて言わないだろうに。
一人でご飯を食べるのは寂しいなんて絶対言わないけど、多分そういうことだろう。
「チャギヤ~」
まぁそう言えば、大抵の場合はホシが駆け付けるんだけど............。
The END
1171moji
チェハンソルという人
「それでさ」
リビングで会って三秒後にいきなり「それでさ」と言われて、話についていけなかったのはドギョムだった。
思いっきり「ん?」って顔をしてるのに、バーノンは何も気にせず「それでさ、あれからね」と話を続けているけれど、「それでさ」の前の話もわからなければ、「あれからね」がいつのあれからかも判らない。
自分がボーっとしてたというのなら「ごめん」とも言えるけど、ほんとについさっき、リビングで会ったばかりだというのに。
でもバーノンは、そういうとこがある。
話についていけないことも多いし、話が飛ぶことも多いし、何故か話してる途中みたいな感じで話がはじまることも。
ちょっとだけ天然。
でもその見た目と相まって、なんだか天使みたいに見えるから不思議だけれど。
「ボノナ」
「ん?」
「それでさって、何が?」
「ん?」
自分が言い始めたというのに聞かれても判らないって顔をする。
多分全部説明して聞き直したとしても、その頃には話題すら忘れているかもしれないから、早々に諦めるのは話し相手の方だったり。
一緒に暮らして長いから、もう慣れてしまったあれやこれや。
食べてる途中にも何かを思い出してしまえばどっかに行くし。もちろん食べてることをそれで忘れるし。
スマホ持ったままトイレ行って、スマホを忘れてくるし。
誰かがシャワーしてるのに、そんなことも確認しないで真っ裸になって入ろうとしてから気づくし。そしてそのまま、まぁいっかと一緒に入ろうとするし。
一緒にコンビニに行けば、一人だけ全然買うものが決まらないし。
仕事で海外に行く前の準備は、いつだってジョシュアあたりが手伝っている気がする。
「それで、あれからさ」
そうこうしてる間にも、ボノニがまた話し始める。
いつの「あれから」かは判らないけれど、とりあえず話を聞いてみるかとドギョムの方が諦める。
でも全然「あぁ、あの後のはなしね」っていう気持ちにはならないから、他の誰かと勘違いしてるのか......。
「ヤー、ボノナ。俺そのはなし知らないから、俺と一緒じゃなかった時のことだろ?」
そう言ってみれば、「そうだよ」ってあっさりと返ってくるから、笑ってしまうけど......。
「お?」
リビングで、自分が食べたいものがあって喜んでいるボノニだったけれど、「それ、お前がさっき食べてたやつだから」とミンギュに言われて、食べてた途中だったことを思い出したらしい......。
まぁ、ボノニはいつだって、そんな感じだけど......。
The END
1042moji
ブスングァンという人
嬉しそうなのも悔しそうなのも、困ってるのも哀しそうなのも、全部が全部判ってしまう。
それが魅力だし、それがどうしたってカワイイから、どんな顔をしてたって思わず笑ってしまいそうになるんだけれど、笑ったらきっと物凄く怒るだろうなっていう感じの顔をして、スングァンはエスクプスの部屋にやってきた。
まぁ、来るだろうとは思ってた。
大分前にユンジョンハンがエスクプスのベッドに潜り込んできたから。
「なに? 寝るだけなら、自分の部屋で寝ろよ」
「いや。自分の部屋にいたら、スングァニが来るから」
そんなことを言いながら、詳しく話すこともなく、モゴモゴ言いながらもエスクプスの横に潜り込んできたジョンハンは、そのまま速攻で寝てしまった。
まぁ、理由は判らないが、何かはやらかしたんだろう。
そう思ってたら昼を過ぎた頃に、スングァンがやって来て、見た瞬間には怒ってるのが丸判りな状態だった。
でも聞けば、そりゃ怒るかも......っていうはなしだった。
何せ自転車を乗り捨てられたっていうはなしだったから。
「ひど過ぎるよ! ひど過ぎるよね? ね? ね?」
なんだかひど過ぎるというよりはおもしろ過ぎて笑いそうになったけど、そこは我慢した。
「ほら、メモ」
そう言って手を伸ばせば、自転車が置かれた場所が書いてるメモを見せてくれた。
「俺が取ってくるよ」
そう言えば、スングァンは驚いて、それから申し訳なさそうな顔になる。
外はもう昼間だから暑いし、エスクプスのせいではないのに......って思っているんだろう。
「いや、俺も自転車たまには乗りたいし。ついでに帰りに何か買ってくるけど、何が欲しい? ま、自転車だからアイスとかは無理だけど」
そう言えば、スングァンが困った顔をする。そんなことは頼めないとでも思ったんだろうが、「もちろん、支払いはハニだからな」と言ったら、嬉しそうに笑って有名どころのアイスコーヒーを口にした。ついでにサンドイッチも......と。
「でもハニヒョンが悪いのに......」
出かけようとするエスクプスの後ろをついてきて、最後までそう言っていたけれど......。
怒ってるスングァンだってもちろんカワイイけれど、「アイツも色々あるんだよ」と言えば、ちょっとだけ考える顔をする。
「今回は、クプスヒョンの顔を立てて、あんまり怒らないことにする」
あんまりってことは、やっぱり怒りはするらしいが......。
The END
1016moji
キムミンギュという人
ウォヌの手元には、キムミンギュとは......っていう謎な紙があった。マネヒョンから渡されたそれは、何かの番組のアンケートなんだろう。
メンバー全員に渡されたかどうかは判らない。
だから漠然と、「デカイ」「弟」「料理がうまい」とだけ書いてマネヒョンに渡したというのに、「漠然とし過ぎてるんで、もうちょっと詳しくで」と差し戻しがあった。
しょうがないから、ちょっとだけ悩む。
「身長は高いけど、その割にはちゃんと踊れるのがビックリする」「困った時にミンギュがいると助かる」「時々拗ねる」
大分文字数は増えたからいいだろうと思ったのに、「できればエピソード的なものもお願いします」とまた差し戻しがあった。
しょうがないから、エピソードを思い出す。
ミンギュのパートで好きな部分とか。困った時にミンギュに助けられたエピソードとか。拗ねた時の対処方法とか。結構しっかり書いたというのに、今度は「誉める言葉とかもお願いします」と追加依頼が入った。
そのあたりで「ん?」って思ったウォヌだったから、マネヒョンを問い詰めた。
そうしたら何の番組のアンケートでもなんでもなくて、ただのミンギュからの依頼だという。謎すぎるけど、何やら構って欲しいのかもしれない。
「キムミンギュの好きなところ。身長が高くて、抱き締められた時にスッポリ感があるから」
「キムミンギュの嫌いなところ。弟のくせに、たまに人をガキ扱いするから」
「キムミンギュの愛おしいところ。俺に向かって走ってくるところ。犬みたいだし」
「キムミンギュの愛おしくないところ。時々嫉妬して拗ねる。俺にとっては特別なのはミンギュだけなのに、拗ねる意味がわかんないけど」
と書いた紙を丁寧に折ってマネヒョンに渡す。
それから五分ほど待ったら、バタバタと音がして、物凄い勢いよく部屋に入って来たのはミンギュだった。
「ヒョ、ヒョ、ヒョンッ。アンケートなのに、なんであんなこと書くんだよッ」
なんだか面白くて笑う。
あぁそうだ。キムミンギュといると、よく自分は笑ってる。
今度本当にアンケートがあれば、そう書こうと思ったウォヌだった。
ちなみにミンギュが一人で、「ほんとのアンケートだったらどうするんだよッ」と慌てて、やっぱり面白くて、ウォヌはずっと笑ってた。
The END
953moji
チェスンチョルという人
一番年上だけど、家では一番年下だからか。
弟たちがまだまだな時には一番頑張っていたかもしれないが、弟たちが育ってしまえば、弟みたいなヒョンっていう立場に落ち着いて、何故かスネてるし、怒ってるし、弟たちに頼りまくっている人。
統括リーダーと呼ばれているのに......。
「ジョンハナ~」
リビングから、ユンジョンハンのことを呼ぶ。
「ハニなら朝早くから、出かけたけど?」
ジョシュアからそう答えられて、「なんで? 俺何も聞いてないけど?」って素で思っているのか、ちょっとイジけた顔をしていた。
「別にお前に許可もらう必要なんてないだろ?」
「きょ、許可はいらないけど、でも、ひと声かけてくれたっていいじゃん」
「ひと声かけて何の意味があるんだよ」
「............」
大抵の場合、ジョシュアに言い負かされる。
「いいもん。別にいいもん」
そんな事を言いながら部屋に戻っていくエスクプスを見ながら、ジョシュアが苦笑してることなんて、気づいてないんだろう。
拗ねるとベッドに潜り込むエスクプスは、「声かけてきたって、もうダメだからな」と、誰に言うでもなく言いながら、一人で拗ねている。
その後ミンギュが「クプスヒョン、一緒に何か食べる?」って声をかけたけど、もはや返事もしなかった。
本気で拗ねてるのかもしれない。
ジョシュアが「放置でいいよ」と笑うから、弟たちも気にしなかったけど......。
でも一番年上でもあるから、しっかりしてるところだってある。
スングァンには優しいヒョンみたいな態度で接していたし。ベッドに潜り込んできたジョンハンのことも、寝かせておいてやってと言っていたし。
タクシーで出かけていって自転車で戻って来た時にはスングァンにだけじゃなく、全員に対して色んなお土産を買ってきてくれたけど、それをジョンハンに請求しなかったことも判ってる。
「ジョンハナ~」
リビングでまたエスクプスの声がする。返事はない。
「ジスや~」
ジョンハンのことは諦めたのか、ジョシュアを呼ぶ声がする。返事はない。
「ん? ウォヌや~」「ジュナ?」「ジフナ......は作業室だろ」「ホシや~」「ん?」「誰か~」
面倒になってきたのか、「誰か」呼びになっていたけれど、呼んでも呼んでも返事がなくて。
「ヤー。お前ら、ヒョンが呼んでるだろッ」って言いながら、各部屋をまわりだしたエスクプスだった。
頼りがいがあるけれど、それ以上に寂しがり屋な人でもあるからだろう。
The END
1033moji
ヲヌヨンという人
ヲヌヨンは、キムミンギュが愛してやまない人である。
ゲームが好きだけど、最近はあんまりしてない。
時々本を読んでいる。
それから寝てる。
楽しそうに笑ってる時がある。
謎にディノのことが好き。
案外96ラインは仲良しで、気づけば一緒にいることが多い。
ミンギュが料理をしてたら覗き込んでくる。
でも「食べる?」って聞いても、「やめとく」っていうことの方が多い。
一緒に寝たいと言ったら「暑苦しい」っていうクセに、時々キムミンギュの横に潜り込んできてくれる。
飛行場では上から下まで何かに包まれていて、よくそれで歩けるなって感じ。
まぁ歩けない時もあるようで、そんな時はキムミンギュの服を後ろから掴んでいたりするから、ミンギュのテンションが謎にあがる。
メガネをかけたまま寝る時がある。
案外食べる。
マンガみたいに、口に含んでた水をブハーっと吹いたことがある。
それを必死に伝えようと、同じ場面を再現して動画に取ろうとして皆から怒られていた。
一番大人そうで、時折一番子どもそうにも見える。
ミンギュしか知らない、誰も知らないヲヌヨンのことも言いたいけれど、それは秘密。
あぁでも案外、96ラインには、本人が言っちゃってるかもしれないけれど。
96ラインを見ていると、弟な自分が悔しくなる。
95ラインに向かってヒョンって言いながら頼りにしているヲヌヨンを見ていると、兄にもなりたかったと切実に思う。
でも。
「お前が弟で良かったけど?」
ってヲヌヨンが言うから。
ヲヌヨンは、キムミンギュが死ぬほど愛してる人である。
The END
655moji
イソクミンという人
「目が覚めたら、だいたい元気」と、ドギョムは言う。
事実、起きた瞬間から歌ってることが多い。
機嫌が悪くたって、凹んでたって、失敗したことを悔やんでたって、大抵は目覚めたら忘れてるから。
睡眠時間が少なくて、二時間も眠れなくても。
移動時間しか眠れなくて、その二時間が車の中だったとしても。
不思議と「目が覚めたら、だいたい元気」だった。
多分眠るドギョムに、毛布とか、それがなければ自分のジャケットとかをかけてくれる人がいるからだろう。
起き抜けに「ほら」と、飲み物を差し出してくれる人がいるから。
「まだ寝とけよ」
そう言ってくれる人がいて。
喉が大事だからと、エアコンの風が直接当たらない場所にいつもドギョムの席を取っといてくれる人がいるから。
「何怒ってんの?」
不機嫌なドギョムに躊躇せずに話しかけてくれるチングがいて。
「無理するな」
無闇に頑張ることしかできないドギョムを制御してくれるヒョンたちがいて。
「ヒョンッ! 凄いよッ!」
そう言っていつもテンションをあげてくれる弟たちがいて。
時々は泣けるし。
時々はひどく生きづらいし。
時々はもうダメかもしれないと思うことはあるけど。
それでも一人じゃないから。楽しいことは、小さいことも大きいことも含めてたくさんあると知っているから。
だからドギョムは、「目が覚めたら、だいたい元気」って言い切れる。
明日も、明後日も。
The END
596moji
ムンジュンフィという人
ムンジュンフィは謎に満ちている。
時折目を閉じて座ってる。
瞑想してるように見えるけど、大抵は何も考えてないし、時々は寝てるだけだったりする。
そして大抵は眠たい感じの顔でそこにいる。
時々はそのまま仕事もしちゃうし、それが映像に残っちゃうこともあるけれど、元が整いすぎているからか、多少崩れたってムンジュンフィはムンジュンフィを保てている。
でも時折、鋭いことも言うし、「ジュニヒョンちゃんと考えてるんだ」とディノが思わず口にしちゃうようなことだって言うし、行動だって起こす。
だいたいがして、踊れるし、歌えるし、目で芝居だってできちゃうし。
走れば早い。
立ち止まる姿も絵になるし。
腰がいいんだと、スタッフヌナたちが絶賛してたけど、本人は全然判ってない感じだった。
あんまりにも静かだからか、「ジュニはいる? ジュニはどこ? ジュニは終わった? ジュニは? ジュニは? ジュニは? ジュナッ!」と、マネヒョンやスタッフヌナたちに声をかけられていることが多い。
なのに時折話すと、重い話もする。
中国三千年の歴史背負ってます......みたいな顔で話すからかもしれない。
でも気にいったことは何度も何度も話すから、大概は「はいはい」って皆から言われるけれど。
宿舎でも楽屋でも、ベタって床に寝てることも多い。
伏せてるのにカッコイイと思えるのは、オーラなのかは謎。
呼ばれるとそのまま転がっていったりするから、全然カッコよくないはずなのに、謎にカッコイイ。
バカなことしか言わない時もあるし、バカなことしかしない時もあるのに、やっぱり謎にカッコイイ。
「我爱你」
時々楽屋で、ディエイトのことを口説いてる。
冗談なのか本気なのかは、その見た目からは謎。
まぁ大抵がふる無視されているけれど......。
全体的に謎すぎるけれど、ムンジュンフィはそのままでいい。何故かそう思わせられる。それが一番、謎と言えば謎なんだけど......。
The END
823moji
イチャンという人
ディノが「俺、マンネを卒業する」とか言い出した。
十二人の兄たちが、それぞれ「チュカヘ~」とか言ってくるけど、本気とは思っていないようだった。
だいたい、卒業ってなんだ......とすらツッコんでもくれない兄たちに、ムッとしてるディノだった。
まぁでもしょうがないのかもしれない。
何をしたってカワイイんだし。
何をしたって愛おしいんだし。
何をしたって、ディノはディノなんだし。
マンネと呼んではいけないというのなら、兄たちは「はいはい」と従うかもしれない。
「ちゃんと聞いてよッ」
そう言えば、やっぱり兄たちが「聞いてるって」と笑ってる。
「最近ダラけてると思う」
全員のミーティングで、ディノが手をあげる。
もはやディノが手をあげてる時点でホシあたりはニヤニヤしてるけど、それでも皆、真面目な顔して聞いてくれるし、「ディノの言う通りだ。もうちょっと俺ら引き締めよう」とかも言ってくれるけど、それでもジョシュアが口にする「俺ら、ちゃんと考えようよ」っていう一言にあっさりと負ける。
それに対して文句を言えば、「ほら、シュアヒョンは、普段は滅多にそういうこと言わないじゃん。時々言うから重みがあるんだよ」とかホシに言われ、ディノだって我慢したけれど、もうその表情が、言いたいけど我慢してますってのが丸わかりの顔だから、ついついウォヌあたりが「キョ~」とか言ってしまい、ディノがキレだし、全員が笑う......ということになる。
だってやっぱり、どうしたってカワイイんだし。
今や後輩だって増えて、ディノよりも若い人たちと一緒になることもある。みんなカワイイとは思えるけれど、それでもどうしたってやっぱりうちのマンネが......となってしまうんだから、しょうがないだろう。
この気持ちはなんだろう。
今や振り付けを考えたりもしてくれて、頼りがいのあるマンネに育ってて、もう成人だってしてて一緒に酒まで飲めるっていうのに。
「俺、じゃぁヒョンを卒業する」
ディノに対抗したのか、エスクプスが謎なことを言い出した。
「あ、じゃぁ俺パフォチリーダー卒業する」
ホシまでもが乗っかってくる。
それぞれ色んなものを卒業すると言い出すミーティングの場となり、何故かディエイトがミンギュに「お前はウォヌヒョン卒業な」とか言い出して、真剣な顔でミンギュが「嫌だよ。なんでだよッ」とキレかけていた。
ということで、「ちゃんと聞いてよッ」とディノが叫んだのは言うまでもないが、「ディノはほら、マンネ卒業しちゃったから」とジョシュアに笑われていた。
たぶんもう少ししたら「マンネ卒業するのやめるッ」とか言い出すディノの姿が見られるだろう............。
The END
1121moji
ソミョンホという人
「愛してる」
時折そう、ジュンがディエイトに愛を伝えている。
それはリビングだったり、楽屋だったり、移動車の中だったり、撮影現場だったりするけれど、大抵はふる無視されている。
ふる無視されてもジュンは気にしてないし、愛を囁かれてるディエイトすら気にしていない。
時折それを見て、ディノが首を傾げてるぐらい。
「愛してる」
何かに集中してる時にジュンがディエイトに愛を伝えると、もれなく財布を渡される。
それを持ってどこかに行ってくれっていう意味らしい。
時折それを見て、ディノが目をキラキラさせている。
「愛してる」
珍しくもディエイトが怒ってる時にジュンがディエイトに愛を伝えると、「わかってる」って返事がある時もある。
たくさんの時間、一緒に頑張って来たことを思い出すのかもしれない。
時折それを見て、ディノは感動する。
「愛してる」
ディエイトが気持ちを振るい立たせている時にジュンがディエイトに愛を伝えると、「ありがと」ってディエイトが笑う。
それは愛の言葉であって、激励の言葉でもあるからだろう。
時折それを見て、ディノは自分も奮い立たす。
自国でない場所で生きていくのは、どれだけ大変なんだろう。
パフォチで一緒だから、ディノはその苦労を一番近くで見てきたかもしれない。
支え合う二人を、励ましあう二人を、堪えながらも諦めない二人を。
だからこそ、ただの「愛してる」って言葉が色んな意味を持つんだろう。
ディエイトがいつも、自分がギリギリ手の届かない場所に向かって頑張っていることを、知っているからかもしれない。
決して自分を甘やかさないと、知っているからかも。
「愛してる」
時々はディエイトも、ジュンに愛を伝える。まぁそれは、ジュンの誕生日とかだけど......。
The END
741moji
ホンジスという人
朝、夜明け前にジョンハンが出かけて行ったことに、ジョシュアは気づいてた。
たまたまだろうが、夜中に出ていく後ろ姿を見たから。
それからまだ寝てないドギョムが、布団をかぶった状態で、歌の練習をしてたのも知ってた。明かりがついたままだったから。
別に、見ようと思って見てる訳じゃないけれど、なんとなく、見てることが多い。
エスクプスの部屋にジョンハンが戻って来たことも知ってるし、それでスングァンが怒ってたことも。
作業室に籠ってるウジが昨日も帰らなかったことも。
だからちょっとずつ皆に声をかけていく。別段それを意識しながらって訳でもない。
「何作ってるの?」
料理中のミンギュにはそう聞くだけだし。
「おはよ」
部屋から出てきたドギョムにはそう笑うだけ。
もちろんチングなエスクプスには多少きつめの言葉もかけるけど。
そんな自分も、嫌いじゃないし。なんなら好きだし。
ディエイトがまた、やりたいと思っていることに真剣に取り組みはじめたことを知っている。
ただふざけてるだけに見えるジュンが、毎日ピアノの練習をしてることも。
ホシはいつだって踊ってる。
ちょっと前、何故か珍しくもウォヌとミンギュがケンカしてたことも知ってるけど。
それからジョンハンは、ちょっとだけ不調。
公園に行けば気持ちが鎮まるかもと抜け出していって、結局ダメでスングァンの自転車を置いてきたほどだから、よっぽどなんだろう。
今もエスクプスのベッドで眠ったまま。
時々気持ちがダメになると笑うチングを、弱いとは思わない。
ジョンハンがダメダメな時にはエスクプスが頑張っているし、逆にエスクプスがへなちょこな時にはジョンハンが無敵になる気がするから、二人はうまく回ってる気がする。
でも自分は結構、いつだって同じ状態を保ててると思う。
やっぱりそんな自分が嫌いじゃないし、なんなら自慢だし。
誰かに褒められたりしなくても、自分で褒めたたえてるからかもしれない。
誰かに支えられなくても、自分で自分を癒してるからかもしれない。
セブチ全体を支えようとなんて思ってないけど、それでも弟たちの様子を時々見て回る自分も嫌いじゃないから。
まぁカトクはほぼほぼ既読スルーなんだけど、そんな自分も、当然嫌いじゃない。
The END
933moji
TOTAL:12972moji