それは、たった24時間のうちに起こった出来事。
誰が悪いと言いだしたら、スングァンとディノはジュンだと言う。自分たちのことを完璧に棚にあげて。
13人もいるから、一緒に暮らしているといろいろある。
でもその日、ジョンハンは頭痛が酷くて眠れなくて、前に病院で処方された睡眠導入剤を飲んで爆睡してたから、実はそんな色々なことが起こっていたなんて、全然知らなかった日。
それはまず、スングァンとディノと、ジュンの部屋からはじまった。
三人とも、三人部屋が嫌いな訳じゃない。毎日が楽しいし、スングァンとディノが言い合いながら笑い合いながら暮らすのはいつも通りだし、そんな二人を見ていつだって笑ってるジュンだったし......。
だけど、宿舎の更新時期が迫っているのに、新しい宿舎の話なんて全然出てなくて、いつもなら全員集まった時のミーティングでも語られるのに、全然語られることもなくて。
まぁエスクプスが体調を崩していたりもして、なかなか全員集合することもなかったり、スケジュールは詰まってたり、練習しなきゃいけないものが多かったり、そうこうしてる間にもワールドツアーが中止になったりして、いつも以上に会社もスタッフもマネヒョンたちもついでに世間も、てんやわんやしてたのも原因だったかもしれないけれど、とにかく、そんな話題が全然なくて。
「もしかしてさ。みんな、今の暮らし快適だって言ってるし、このままでいいとか思ってるんじゃない?」
そうディノが言い出した。
別にそれだって悪くない。でもそれならそれで、「今回はこのままいく」っていう説明は欲しいよねって話にもなって......。
「みんな、三人部屋の苦労を判ってないんだ」
ディノが言う。スングァンが「そうだそうだ!」と唇とんがらして乗っかっていたけれど、一緒にいたジュンは首を傾げていた。
だって三人部屋だからといって、嫌な思いをした記憶はないし、別段酸素量が足りないとか感じたこともないし、なんなら三人部屋で困ったことなんて、笑いのツボに三人一緒に入って笑い倒して眠れなくなったことが数度あったことぐらいかもしれない。
「俺らいつ寝るんだよ」って言いながら、涙ながしながら、三人で一分我慢しようといいながら、結局爆笑しちゃって眠れなかった記憶は今思い出しても笑ってしまうほど、楽しくて幸せな記憶でしかないのに......。
目の前ではスングァンとディノが、「三人部屋の苦労」を必死に探し出していた。
いわく、部屋は狭いよね。専有面積小さいもんね。部屋の電気消すタイミング迷うよね。誰かが起きたら物音で一緒に起きちゃうこともあるよね。
とかとか。しかし全体、カワイイ感じの苦労でしかないような気がする。
それにスングァンもディノも、ジュンが起きてバタバタしてても絶対に起きないってのに、生活音が一番困るよね......とか、真剣に語ってる。
で、結局、ジュンが首を傾げてる間にも、なにやら二人して、「俺ら、盛大にケンカしたらいいんじゃない?」とか言い出して、「やっぱり三人部屋は大変なんだよって思って貰えるだろうし」とか、「それにほら、俺らのケンカだから、別に誰にも迷惑かけないじゃん?」とかとかとか。
気づけばジュンはスングァンとディノに、「ジュニヒョンはケンカに参加しなくてもいいよ。すぐにバレそうだし。俺らのことは黙って見てるだけでいいよ」「そうそう。ジュニヒョンは笑っちゃいそうだし、邪魔だけしないでよ」となんだか酷い言われようだったけれど、そんなことを言われ、「お? お、おぉ」と押し切られた。
それから二人はケンカする段取りをつけて、「後から恨みっこなしのこの場限りの、限りなく本気だすけど芝居だからね」「おぉ、そんなの判ってる。どんと来い」とか言いあって、かたく握手まで交わしていたほど。
で、結局どうなったかというと、97ラインの三人が大ゲンカになった。
スングァンとディノは盛大に、リビングでケンカしはじめた。
お菓子を食べながら、「俺のなのに最後の一つをディノが食べた」とか、「ダイエットダイエットっていつも煩いのに、最後の一つで文句言わないでよ」とか、そんな感じではじまったケンカを、ジュンは言われた通り、黙ってみてた。
いつもならすぐに出てくるハニヒョンが、現れないなぁ......とか思いつつも。
バーノンは部屋でヘッドセットをしながら音を作っているのか、全然気づかず。
ホシは気づいたけれど「仲良くな~」と言いながらリビングを通り過ぎただけ。
ディエイトは本でも読んでるのか、部屋から出てくる気配すらなかった。
「な、なにやってんだよ。お菓子ぐらいでケンカするなって」
そう言って二人のケンカにまともに引っかかったのは、たまたまディエイトの部屋に服を漁りにきていたドギョムで、「ハニヒョン、止めてよ、出てきてよ」とジョンハンの部屋のドアを叩くも起きる気配もなく......。
「ジュニヒョンも止めてよ」
そう言われたけれど、邪魔しないと約束してしまったために、多少困った顔はしたものの、何も言わず。
「やー、お前ら、ケンカなんてやめろよ。ヒョンに連絡するからな」
目の前でどんどんヒートアップしはじめた二人のケンカは多分、かなり早い段階から芝居から本気に変わりはじめていたけれど、ジュンは約束通り黙ってみてた。ケンカを終わりにするタイミングの話し合いは、そう言えばしなかったな......と思いながら。
困ったのはドギョムで、別のフロアにいるジョシュアに電話して、二人のケンカが止まらないって話をしたんだろう。
でもやって来たのはミンギュで、きっと面倒くさがったジョシュアにより、派遣されてきたんだろう。
いつもは笑ってばかりのミンギュだって、時々は機嫌が悪いこともある。
その日はたまたま、そんな日だったのかもしれない。
ケンカしてる二人よりも、「は? なんでお前、ケンカぐらいで電話してくんの?」って、ドギョムに対して文句を言い始めたから。そしてそのまま、ミンギュはディエイトの部屋に向かう。
「お前も弟たちのケンカを止めろよ。なんで本なんて読んでんだよ」
「ケンカなんて放っておけば終わるよ。なに? ドギョミがわざわざ、ミンギュを呼んだの?」
「べ、別に俺はコイツ呼んだ訳じゃないよ。シュアヒョンに電話しただけだもん」
「だからなんでわざわざ、ヒョンに電話するんだよ」
多分ディエイトもちょっとだけ機嫌が悪かったのかもしれない。それにいつもなら優しいからすぐに「ごめん。俺が悪かったよ」って笑うドギョムも、同ライン二人からの文句にムッともして......。
「なんだよ。なんでお前そんな偉そうなの? シュアヒョンに言われて来たなら、さっさとあの二人のケンカ、止めて帰ればいいじゃん」
「ぁあ? だからなんでお前が止めればいいだけなのに、ヒョンに電話してくんだよ。だいたい、こっちのフロアの問題だろ」
「じゃぁ二人とも自分のフロアに戻れば? ケンカなんて、そのうち終わる」
「ぁあ? ヒョンに言われて俺は来てんだよ」
「じゃぁさっさとケンカ止めて帰れば?」
「やめろよ。お前らまでケンカはじめる気かよ」
大抵は仲良しの三人なのに......。
でもディエイトは言葉がまだまだな頃からミンギュとはよくケンカしていた。
優しそうに見えて、大人しそうに見えて、静かそうに見えて、一番気がきついかもしれないディエイトだったし、ミンギュはその身長もあいまって威圧感がハンパない。
楽しいことだって踊りだって歌だって、何にだって本気で取り組むミンギュだけれど、ケンカする時だってそれは変わらないのかもしれない。
三人のなかで唯一押し負けるかもしれないドギョムだって、たまには踏ん張る時もある。何故か二人に負けるもんか......と思ってしまったのは、ほんとにたまたまなんだけれど......。
ドギョムがディエイトの手から本を取り上げて、それを投げ捨てた。別に誰かに当てるつもりなんてなかったけれど、それはミンギュの足にヒットした。
「「何やってんだよッ!」」
ミンギュとディエイトの言葉がほぼ同時だったけれど、「お前らまでケンカしてどうすんだよッ」とドギョムだって負けじと叫ぶ。
ちょっとだけ三つ巴な睨みあいに発展しそうだったけれど、「チッ」と舌打ちして拾い上げた本を手に、リビングに向かったのはディエイトだった。
リビングでまだケンカしてるスングァンとディノを止めてしまえば、ミンギュだっていなくなると思ったからだろう。
リビングではよりどっちがどっちのことを普段から起こしてるとか、起こさなかったことで遅刻したとか、そんな話題でケンカが続いていた。
そこにディエイトがツカツカとやって来たと思ったら、いつもは本を大切にしてるディエイトなのに、持ってた本をリビングの中で壁に向かって思いっきり投げつけて、一瞬でリビングの時間を止めた。
「はい。ケンカは終わった。さっさと帰れば?」
それから後ろからついてきたミンギュとドギョムに一言。
「ぁあ? なに? お前どういうつもり?」
ブチ切れてしまったのか、ミンギュがディエイトの胸倉を掴む。
「だから何やってんだよ。やめろよ。いい加減にしろよ」
そこにドギョムまでもが参戦する。
「だいたい、最初からお前がちゃんと止めてたら問題なかったんだろ」
ディエイトの胸倉を掴みながらも、ミンギュの言葉がドギョムに向かう。
「放せよ、手。早く帰ってシュアヒョンに報告したら?」
胸倉を掴まれながらも、ディエイトの態度は変わらず。
たまたまだろうが、ドギョムが掴んだのはミンギュの左手とディエイトの右手で。
その頃にはもう、自分たちのケンカどころじゃなくなったスングァンとディノが、いつも優しいはずの97ラインの三人が揉めている横で、ビクついていた。
スングァンとディノのケンカなら、遠くから聞こえてきてても気にならなかったというのに、聞こえてくる声と雰囲気が変わったと気づいたのか、ホシが部屋から出てきた。
「やー、何してんだよッ」
スングァンとディノに対しては「仲良くな~」としか言わなかったホシなのに、97ラインの三人が揉めるのは、止めるらしい。
でも残念ながら、ヒョンが言ってるからやめよう俺ら......となるには、ヒートアップしすぎてたのかもしれないし、ホシが優しすぎたのかもしれない。まぁ確かにヒョンっぽい威厳はあんまりないし............。
「ドギョマ、放せ」
「お前が放したら放すよ」
「デカイ図体が邪魔なんだけど?」
「ぁあ?」
「もうやめろって」
三つ巴な感じで終わりが見えなかったけれど、それを最終止めたのはジュンだった。
ディエイトが舌打ちをしたから、「徐明浩」とジュンがディエイトの名を呼んだ。
きっとディエイトの気のきつさや言葉の鋭さを一番理解してるから、そこまでと判断したんだろう。
「ハオ、お前が下がれ」
ジュンが静かにそう言えば、ディエイトが一歩下がる。
「二人とも、手」
ジュンが続けてそう言えば、ミンギュもドギョムも、その手を離した。
「いや、いやいやいやいや。なんッでだよッ」
一人バタついたのはホシだった。まぁそうだろう。自分の言葉では全然止まる気配がなかったのに......と。
「だいたい、ジュニが最初からスングァニとディノを止めればいいだろ。何やってんだよ。それにお前らもお前らだよ。なんで俺の言葉は無視して、ジュニの言葉はきくんだよ。で、ハニヒョンは何やってんの? いつもならとっくの昔に止めてくれてるはずなのに」
リビングから見えるジョンハンの部屋のドアを、そう言いながらも叩いたホシだった。
もちろん返答はない。ドアを開けて覗き込めば、ベッドの中でぐっすり眠るジョンハンがいた。
「ハニヒョン? ハニヒョン?」
絶対に起こしてやろうとは思っていなかったけど、それでも「聞いてよハニヒョン。みなが酷すぎるんだよ」って言いながらホシが近づいていく。
リビングの中ではスングァンとディノが、ちょっとだけホッとしてた。
自分たちのケンカなんて話にならないほど、97ラインが険悪になったから。
でも三人とも今は離れていて、空気はまだ微妙だったけど、きっともう少ししたら「お前ら何やってんだよ、も~」とか言いながらジョンハンが起きてきてくれるはずだったのに。
「ヒョンッ! ヒョンッ! ジュナッ!」
ジョンハンのベッドサイドでホシが叫ぶ。
ジュンが駆け込めば、「どうしよう......。ハニヒョンが............起きないかもしれない」と、手にした何かを見つめながら、途方にくれた顔をしたホシがいた。
怒ってたはずのミンギュだって、ドギョムだって、ディエイトだって、「モヤ?」っていいながらもやって来る。
「ハニヒョン、睡眠薬を、飲んだみたい......」
なんでかホシが、小さく呟く。その手には薬を飲んだ後っぽい、銀色に光る薬が入っていたであろうシートがあって、十錠か十二錠ぐらい入ったそのワンシートの、ほとんどが開けられていた。
「一度に? それだけ? 嘘でしょ?」
「でもハニヒョン、全然起きない............」
そんなバカなことは絶対ない......って笑おうとしたけど、誰も笑えなくて、変な沈黙だけが部屋を支配する。
一番最初に声を出したのはスングァンで、それは「ごめんなさい」だった。
「どうしよう。ごめんなさい。俺たちが、ケンカなんてしたからだ」
ディノと二人固まって、一番後ろから今にも泣きそうな声で。
ケンカなんて関係ない。いつもならそう言ってくれるはずのヒョンたちが、誰も何も言わなかった。
マネヒョンを呼ぶか、救急車を呼ぶか。真剣にホシは悩んだほど。
いつもならテキパキと動いてくれるはずのミンギュすら固まっていて。
多分ジュンとディエイトがもっと韓国語がちゃんと読めたなら、それは睡眠薬じゃなくて睡眠導入剤だと気づけたかもしれない。まぁ気づけたとしても、それがどれほど安心する材料なのかは、薬の知識がなければ判らなかっただろうけど。
「なに? みんなでどうした? ケンカは? 収まったの?」
そう言ってやって来たのはジョシュアだった。
ドギョムからの電話に、面倒だからとケンカの仲裁をミンギュに押し付けたというのに、全然戻ってこないから気になったんだろう。
ホシやジュンからしてみたら、たった一つ年上なだけ。それなのになんでこんなにも95ラインは存在が頼もしいのか判らない。でも全員が、ジョシュアを見て視線で縋っていただろう。
「どうしようヒョン」
ホシが差し出したそれを見ても、ジョシュアはそれほど驚かなかった。
それがどれぐらい、その場にいた全員を安心させたことか。
「なに? 起きないの?」
そう言って、ジョンハンが眠るベッドに近づいていく。
まるで眠り姫みたいに眠ってるように見えるのに、ジョシュアが手を伸ばす。無造作に。寝ててもキレイな顔に、そっと。
と思ったら、ジョシュアはいきなりジョンハンの耳を掴んで思いっきり捻った。
「ッたぁッ」
そしてジョンハンが飛び起きた............。
「起きるじゃん」
「な、な、な、な、なんだよいきなりッ」
「だってお前が起きないっていうから」
「ぁあ? 普通に起こせよッ」
「いや、お前のせいだろ? なんで邪魔臭がって、薬のゴミを都度捨てないんだよ」
そう言って、ホシの手から薬のシートを取り上げたジョシュアが、それをジョンハンに放り投げた。
「ぁ? これがどうした? なに? 別にいいじゃん。いちいち捨てるの面倒だから、全部使い切ったら捨てる派なんだよ俺は」
そこには、いつも通りのジョンハンがいた。
目覚めてみれば普通で、どうやら薬をまとめて飲んだって訳でもないようで。
「でもなんで、睡眠薬なんて」
まだ動揺してるホシがそう言えば、「睡眠導入剤だろ? それ」とジョシュアが笑ってた。
なんでもなかったのに、「ごめんなさい」とまた謝ったのはスングァンで、そんなスングァンに抱き着くようにして、ディノもまた「ごめんヒョン。全部ウソだよ。一緒の部屋だって、全然大丈夫なんだよ」って謝りながら泣き始めて。
いつもならそんな二人に笑ってくれる97ラインの面々も、ちょっとだけお互いを見合ってから、「ごめん」と言い合っている。
ただ寝てただけだと判った後だって、一瞬ドキってしたあの時の恐怖がまだ残ってて、なんで俺たちケンカなんてしたんだろうってスングァンが謝った時には同じように謝りたい気持ちになっていたから。
全然ちょっとしたことの連続で、怒るポイントなんて思い起こせばそれほどなかったはず。なのになんで、さっきはあんなに許せなかったんだろう。
絶対に失えない仲間たちなのに、離れられない、仲間たちなのに。
「ぁあ? なんだよ。なんでそんなに人の部屋で騒がしいんだよ。全然寝られないだろ」
あれだけ騒いでたのに全然起きなかった人の言葉とは思えないようなことを言いながら、ジョンハンがいつも通りに起きてきて、皆の前を通り過ぎていく。
「ビ、ビビった......」
そう言ってホシがジョンハンのベッドに倒れ込んで力尽きていた。
「ヒョ、ヒョンッ! なんで起きないんだよすぐに」
ドギョムがジョンハンに食ってかかってた。驚きすぎて怒りに変わったのかもしれない。
「いやぁ、騒がしかったのは騒がしかったけど、弟たちが全員、コモドドラゴンになった夢見てて、世話が大変だったんだよ」
ジョンハンが、大変だったけど可愛かったと笑ってる。
いつも通りに、楽しそうに。
「ビビった。いやビビった」
復活してきたホシが、そう言ってリビングに今度はひっくり返ってた。
スングァンとディノはまだ泣きながら謝っていたけれど、一番普通なジョシュアから、「で? ケンカの原因は?」と尋ねられ、「ジュニヒョンが止めてくれたら良かったんだよ」「そうだよ。ジュニヒョンが悪いんだよ」と二人して自分たちのことを棚にあげ、ジュンがケンカを止めてくれなかったんだと文句を盛大に言い出して、ジュンを慌てさせていた。
でも聞き出せば、宿舎の話で......。
「全員、集まろうか」
そうジョシュアが優しく言うから、やっぱりスングァンとディノは泣けてきた。
ほとんどのメンバーがいるんだからと、集まったのは珍しくも八階の部屋。
一番最後に部屋から出てきたボノニが、「ん? 何かあったの?」とトボけたことを言っていたけれど。
呼ばれてやったきたウォヌは尻尾をさげて凹んでるミンギュにすぐに気づいて、「お前何やったの?」って笑ってた。
ホシだってやってきたウジに、物凄く精神的負担を負ったことに気づいて欲しかったというのに、全然伝わらずにスルーされて、微妙に凹んでたかもしれない。
時折、全員で集まって話し合う。
それほど真剣な感じでもないけれど、やっぱり話すことは大事なんだろう。
いつも一緒にいて、同じ場所を見ているといったって、心は別々の人間だから。
判りあえてはいるけれど、同じ時の中をずっと生きていくんだと思っているけれど、それでもどうしたって、生きていればいろいろあるから。
きっかけが宿舎の話題と知って、「ここの宿舎は契約期間が切れたら終わりで、次は俺たち、ほとんどが一人部屋で、少しだけ二人部屋かなって程度だけど」とエスクプスが教えてくれた。
事務所とはそれで話が進んでて、本格的な引っ越しの時期や、部屋決めの時期が来れば伝える予定だったけど、気になったら聞けば良かったのに......と言われて、反省したスングァンとディノだった。でも「俺がもっとちゃんと、事前に話せば良かったよな」と、エスクプスが謝ってもくれたけど......。
一応、全員が暮らせる部屋は探しているけれど、多分無理だろうっていう話。
今と同じように二つに分かれるか、それとも三つに分かれるか。別々になるにしてもどうにか同じフロアにならないか......と、探してもらっているらしい。
聞いてしまえば何も心配なんてなかった。
ごめんとか、ごめんなさいとか、ごめんとか。そんな言葉が飛び交いつつも、全員で飲もうかって話に今度はなって。
もうディノだって余裕で飲めるし。
作業室に籠ってたウジまで巻き込まれて、何故か飲み会が開催されて、皆なんとなく凹んでるから大人しくて、謎に「俺全然眠くない」とか言うジョンハンの独壇場で......。
「いやそりゃ、アンタはあんだけ寝たからでしょうが」
と、飲み会の最後の方ではドギョムがジョンハンのことをアンタ呼ばわりしていたけれど、多分そんなこと、もう誰も気にしてなかっただろう。
エスクプスが「今度こそ俺はハニと同じ部屋になるぞ~」と叫んでた。
ジョンハンが「コモドドラゴン買える家に住みたいぞ~」と叫んでた。
ジョシュアが「俺は次も一人部屋ならなんでもいい」と、呟いていた。
95ラインはいつも通りと言えば、いつも通りだっただろう。
「俺は悪くないよ。絶対俺は悪くないって」と、ジュンが怒ってる。
「なんか俺まだビビってる。ビビってる。ビビってる」と、ホシが弱ってる。
「で、結局、これなんの飲み会?」と、ウォヌが笑ってる。
「いや、俺が知るかよ」と、ウジが一人コーラを飲みながら付き合っている。
96ラインもいつも通りと言えば、いつも通りだっただろう。
「ごめん」ディエイトが謝る。それから一杯飲む。
「うん。俺もごめん」ミンギュが謝る。それから一杯飲む。
「お、お、俺もごめんはごめんだけど、もう飲まなくていい?」と、ドギョムは謝るだけ。もう限界が近いんだろう。
97ラインは謝りあいながら飲み続けて、それでも一番に潰れたのはドギョムかもしれない。珍しくも最後には、本気で凹んだディエイトも潰れていたけれど......。
「一人部屋になっても、泊まりに来てもいいよ」スングァンが言う。
「うん。ヒョンも俺の部屋においでよ」ディノが言う。
「二人とも一人部屋じゃないかもしれないじゃん」バーノンが水を差す。
マンネラインは謝って泣いて泣いて泣いてってしたからか、最後の方にはいつも通りに笑ってた。自分たちの新しい部屋をどうするかっていう自慢を早くも繰り広げながら。
で、結局さらに数時間後、ほとんどが潰れて寝てた。
なんでかそんな中、ミンギュが汚れ物を片付けていたけれど。
「どうした? お前が本気で怒るなんて、珍しいじゃん」
一人飲んでなかったから、そして全員が潰れたらまた作業室に向かおうと思ってたから、そこで起きてたのはウジだけだった。
「わかんないけど、なんか、ムッとしたんだよ。俺ばっかりって、なんでか思ったんだよ」
でも嫌いじゃないんだともミンギュは言う。こうやって全員潰れてる中、自分だって相当飲んだのに、洗い物をする自分も、片付ける自分も、誰かのために働いてる自分は嫌いじゃないんだって。
「なぁ」
「ん?」
「俺が作業室にずっと籠って頑張ってるの、お前も知ってるだろ?」
「うん」
「知っててくれるから、俺、頑張れるんだけど」
「..................」
「お前がいつも、みんなのこと思っていろいろやってくれてるの、俺も知ってるってことだよ」
「..................うん」
「それに俺は、ずっとお前と同じ部屋でも、全然いいけど?」
「うん、俺も」
ウジが立ち上がって、潰れてる面々を跨いでいたら、とっくの昔に寝てたはずのホシがむくりと起きだしてきて、「作業室?」と聞いてくるから頷けば「俺も行く」と言う。
寝てるはずのウォヌも何故かパチリと目を開けて、全員いると言うのに気にも留めず、「チャギヤ~水~」とミンギュを呼ぶ。
一瞬ウジとホシが固まったけど、何も聞かなかったふりをして出ていった。
なんでかうつ伏せで寝てるジュンを枕にして、頭に近い方からドギョムとディエイトとバーノンとスングァンがいて......。
タオルケットをかけて回るミンギュが一人笑ってた。
「頭が割れるように痛い」
そう言って一番に起きたのはジョンハンだったかも。
「いや、あれだけ飲めばそりゃ痛いでしょうよ」
と、横でツッコんでいたのはドギョムだったけど、ジョンハンから軽く殴られていた。
死屍累々なリビングは、案外キレイだった。夜中にミンギュが片付けたからだろう。
全員クッションを枕にしてタオルケットにくるまって寝てたりもする。
きっと全員が別々の部屋になったって、時々は全員で集まってリビングとかで飲み明かして雑魚寝したりするんだろう。
ケンカしたと反省してた弟たちが、バカみたいに愛おしかった日。
いつか宿舎から出て、13人別々に暮らす日が来るのかもしれない。
ちょっと寂しいかもしれないけれど、それでもきっと、時々は集まってくれるはず。
でもそういえば、クプスが昨夜飲んだ勢いで、「俺と一緒に暮らそう」とか言ってきたけれど............。
弟たちが全員スルーしていて、ジョシュアが指さして爆笑してたけど。
でも自分はずっと誰かと一緒なんだと、ちょっとだけホッとしたりして。
あぁでも結局宿舎がなくなっても、みんな近所に住みそうだけど。同じマンションとか。でもそうしたら結局入り浸って、今とあまり変わらないはずで。
そして24時間たった頃。
全然寝てないウジの作業室の中、一つの曲が生まれ始めていた。
なんでかウジの作業室の床でホシが死んだように眠ってたけど、そんな中でもステキな曲が生まれる。
泣いてたスングァンとディノが、いつもと変わらず何が起きたのか全然判ってなかったバーノンが、いつもより凹んでた97ラインの三人が。そして床で寝てるホシも含めたチングの三人が、優しいばかりのヒョンたちが。
そんな仲間たちが、ウジが音を生み出す原動力だから。
泣いてたって笑ってたって、ずっと一緒だから。
そして重なる運命線、同じ時の中............。
The END
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