건조한사막마을 -MYMY-

久しぶりの地上は、乾いた砂漠の町。
エスクプスとジョンハンが、バーノンの作った各地の思い出のジャムを何瓶か売って、食料と燃料を手に入れていた。

ジャムなのは、ただただバーノンが作れるのがそれだけだからってだけで、モノは何でも良かった。それはただ、色んな場所の思い出が詰まっていることが大事で、地上の人たちはそれを高値で買ってくれた。まぁほとんどは食料や燃料との物々交換だったけど、それでもバーノンのジャムが数瓶あれば、十三人で半年は空の上で暮らせた。

もう大分昔から、人々は飛ぶ人と飛ばない人に別れていた。

飛ぶ人は誰も知らないような場所まで行き、色んな思い出を持って帰ってきて売る。年を取って船を下りる人たちはいたけれど、飛ぶ人は大抵長く長く、旅をしながら暮らしていた。
ディエイトが時々作る茶葉は、ジャムの十分の一ほどの量で、十三人が一年は余裕で暮らせるほど。
それでも飛ばない人たちはそれで色んな情報を知るのか、地上ではいつだって高値で取引されていた。それでも飛ぶ人たちが求めるものは高価なものではなく、旅を続けるための燃料と空で暮らせるだけの食料と、後はいつだって素朴なものばかりだったから......。

今回は砂漠の町なのに、新鮮なミルクが手に入ったといってミンギュが喜んでいた。
久しぶりに火を炊いてバーベキューをしようと、ジョシュアとドギョムが準備をはじめてもいた。
後の面々はそれぞれ、思い思いの場所にいたかもしれない。
そしてウジは船の上にいた。

夜になりかけていたけれど、空はまだ十分に青くて、高かった。いつも船の中から見る空はそれほど青くはないというのに、地上から見上げる空は青く、高く、遠かった。
広く広く、遠くの空を見渡すのはウジの癖で、飛んでようが飛んでなかろうが、それは変わらずウジの仕事だった。だから気づいたのかもしれない。
晴れ渡ってる空の向こう側に、風の香りに、出てる月にかかった一瞬の影に。

「スニョアッ」
「んぁ？」
「出るぞッ。砂嵐がくるッ」
「え？　マジで？」

踊るようにして甲板の掃除をしてたホシが、驚きつつも疑いはしなかったのか、「ジュナッ」とジュンの名を呼んだ。

「ジフニが出るってッ」
「ぅお？」
「飛べるまで何分？」
「荷物の積み込みと、全員回収したら出れるよそりゃ。ハオは絶対エンジンは止めないだろうし。多分十五分もあれば」
「ジフナッ。十五分ッ」
「ダメだッ。五分で出るぞッ」
「ぅお？」

操縦席から船の外に身を乗り出してきたジュンにもウジの声が聞こえたのか、驚いていた。
でもホシはウジの言葉を聞いて船の後ろに向かって走っていったし、ジュンは操縦席にもどって伝声管に手を伸ばした。

「ハオ。五分で出るぞ～」

ジュンがそれほど慌ててなかったのは、エンジン室には絶対にディエイトがいて、いつだって準備万端なことが判っていたから。予想通り、すぐに伝声管からはハオの声で『いつでもどうぞ～』と、のんびりした口調でそれだけ。特に「急になんで？」なんて聞いてこないのは、性格だからか、それともジュンとの関係性なのかは謎だった。

「ヒョンッ！　五分で出るからッ！」

ホシが叫びながら船から飛び出して、今回手に入れた荷物を運んでるエスクプスの手伝いに走った。

「ウソでしょ？」

ホシの声を聞いて驚いたのは、やっと火がいい感じに熾せたドギョムだった。でもすぐに横にいたジョシュアにその場に広げた肉をありったけ渡されて、「走れッ」と言われてドギョムは走りだす。その間にもジョシュアは砂漠だから腐るほどある砂を使って火を消して、用意してた残りの食材を持てるだけ持って自分も駆けだした。

「全員いるかッ？」

ジョンハンも叫んでた。
さっきまでは一人サボって砂漠に敷いた敷布に寝っ転がっていたっていうのに、ホシの声を聞いて飛び起きたと思った次の瞬間には叫んでた。

「95から97ラインはいるけど、マンネラインがいないッ」

荷物運びを手伝ってたミンギュが、冷静に見渡してから叫んだ。
エスクプスは荷物を運んでいたし、ジョンハンはサボっていたし、ジョシュアはバーベーキューの準備をしていた。ジュンは操縦席から基本離れないし、ウジも船の上から降りることはない。ホシは駆けだしてきて目の前で荷物を運びはじめていたし、ウォヌが手に入れた燃料を一番にディエイトのいるエンジン室に運んで行ったのは見ていた。ディエイトはいつだってエンジン室にいるし、ドギョムはジョシュアに持たされた肉を持って必死の顔して船の中に消えてった姿を見た。
でもいつもなら、楽しそうにそこらで笑ってるはずの三人がいなかった。

ジョンハンが走りはじめようとするのを、「ヒョンッ、俺が行くから」と止めたのも冷静なミンギュだった。
多分ジョンハンでは砂に足を取られて体力が持たないと思ったんだろう。
五分で出るというのなら、行くだけで二分しかないから。
町に向かって駆けていくミンギュの後ろ姿を、ちょうどエンジン室から戻って来たウォヌが見ていた。

「ジュナッ。汽笛を鳴らせッ」

ウォヌが叫ぶ。今が夜だとか、ここは地上だとか、そんなことは関係ないとばかりの声に、ジュンが素直に思いっきり汽笛を鳴らした。
少しだけ特徴的な、ウジが大分昔に編み込んで作った汽笛の音が、地上に響き渡る。普段は滅多と鳴らさないその音に、きっとマンネラインたちは気づいただろう。
ミンギュは二分も走ることなく、町から駆けだして来た三つの影を見て足を止めた。
何を手にしてるのかは判らないが、三人が三人とも何かを抱えて走ってくる。

「捨てろッ。時間がないぞッ」

ミンギュがそう叫ぶ声に一瞬迷いを見せつつもスングァンが荷物を捨てた。それに続いてバーノンも荷物を手放したというのに、ディノだけは必死に荷物を抱えて走り続ける。

「大丈夫ッ」

そう叫んだ声が聞こえたけれど、次の瞬間には派手にディノが転んでた。砂漠だから助かったようなものの、それでもディノは立ち上がってまた駆けだした時にもその荷物を必死に抱えなおしたから、よっぽど大事なものなのかもしれない。

「ほら、かせッ」

しょうがないとばかりに、合流して一緒に船に向かって走りはじめたミンギュがディノの荷物を取り上げた。

「ウォヌやッ、後何分ッ？」

まだ荷物を運んでたホシが船に向かって叫べば、ウォヌが「一分ッ」と叫び返す。
エスクプスが「荷物はここまでだッ。全員乗船ッ」と叫べば、走り続ける四人以外が残りの荷物を潔く諦めて乗船し、船が離陸に備えてアンカーを動かしはじめた。
船が少し浮き始めた時に、四人がなんとかたどり着く。
バーノンが飛びあがったタイミングでエスクプスが抱え上げて船の奥に放り投げ、投げ飛ばされたバーノンをドギョムが受け止めた。スングァンのことはウォヌが引き上げて、ディノはミンギュに押し上げられるようにして船に乗り込み、最後のミンギュが船にしがみついた状態で船が本格的に飛び始めた。

急上昇する船の中では、最後にミンギュを引き上げるのに全員が必死だったかもしれない。どうにか全員が無事だった時には、荷物を運んだ面子と、走りに走った四人は汗だくだった。

「な、なんで急に」

スングァンが、息が整わないのに話し始めたもんだから、途中で言葉が途切れてた。
比較的落ち着いていたのは、結局船から降りることなく全体を見ていたウォヌかもしれない。

「砂嵐が来る。ウジが空を読んだ」

そう言えば、誰もが納得した。ウジの空を読む力は皆が知っているからだろう。
汽笛を鳴らしたからか、飛び立った町から人が出てきていた。同じように砂漠で休んでた船も何艘かいて、結構な人が慌てて飛び立ったこの船を見上げてた。

「きっと何か、盗みでもしたんだと思われたかもよ」

息を吹き返したディノが言えば、「別に構わないだろ。次にここに来る頃には、どうせ今日のことを覚えてる奴なんていないさ」とジョンハンが笑った。

そう。飛ぶ人と飛ばない人では、時間の流れが違ったから。
数日飛ぶだけで、地上では数年がすぎていたから。
きっと船を出せなかった人たちは、砂嵐に船が耐えられなかったら、それはすなわち、飛ばない人になるってことかもしれない。お金があったとしても、新しい船を作る間にも年を重ねてしまうから。

もう少ししたら、この船が慌てて飛び立った理由を知るんだろう。でもその時にはもう遅いはず......。でも見知らぬ誰かの心配をしてる暇なんてなくて、全員で砂嵐に備えて船の中へと移動した。しっかりとドアというドア、窓という窓を閉めて。

全速力で船は飛ぶ。
空を読むウジが向かう方向を指し示せば、どんなに無理でもジュンがそれに従って船を操った。
多少は揺れたし多少は砂嵐に追いつかれそうにはなったけれど、それでも飲み込まれはしなかったし、気づけば逃げきれていた。

揺れる船の中でも、ミンギュは器用に料理を作る。
バーベキューは無理でも、船の中でもミンギュが料理してくれれば、それはいつだってご馳走だったから、いつものように何人かに別れて食卓を囲む。
マンネラインはエスクプスにもジョンハンにもジョシュアにも、ミンギュにも怒られた。「どっかに行くなら、なんで誰かに言ってから行かないんだよ」って。
でもディノが必死に守ったものを見て、すぐにその怒りは引っ込んでいたけれど。

「ほんとはヒョンたち全員に、色々買ったんだけど」

スングァンが悔しそうに口にして、バーノンも「ごめんなさい」と素直に謝った。ディノは派手に転んであちこち擦りむいてもいたけれど、守ったのはヒョンたちのためにと買ってきた珍しい酒で、酒瓶が割れてなかったことに喜んでいた。

聞けば三人でジャムをひと瓶売って、ヒョンたちのためにと色んなものを買い出しに行っていたらしい。それはお酒だったり、キレイな布だったり、本だったり、お菓子だったり。

操縦席にいたジュンと一緒に空を読んでたウジと、エンジン室に控えたままだったディエイトが、ミンギュが作った豪華なディナーにありつけたのは大分後になってからだった。
でもどうにか砂嵐も避けられて、今は輝く月の下をゆっくりと飛んでいる。
操縦席にはエスクプスとジョンハンが、エンジン室にはドギョムとジョシュアがいて、後のメンバーはそれぞれ船のあちこちの点検に向かってた。

目の前には、ディノが最後まで手放さなかった酒があって、ジュンとディエイトもちょっとずつだったけど、それを楽しんでいた。酒が苦手なウジだけは口をつけなかったけれど、ウジはウジでテンションがあがっていた。

それは久しぶりに本気な感じの汽笛を聞いたからだろう。
どこまでも、遠く遠くまで響くように。だけどどの船の汽笛とも違う音になるように、ずっと昔に自分で編み上げた汽笛はお気に入りだったけど、久しぶりにそれを聞いて密かに『昔の自分エライ』とか思っていたから。

同じ時間、操縦席の前ではエスクプスも上機嫌だった。それは少しだったけど、格段に旨い酒を飲んだからだろう。マンネラインの三人が買ってきてくれたってだけでも嬉しいっていうのに。横にはほろ酔いなジョンハンがいて、「幸せだねぇ」とこれまた同じように幸せを感じてるようだった。まぁただジョンハンはお気に入りの敷布を一枚失ってしまったけれど。

エンジン室にいるジョシュアとドギョムも、なかなかに幸せだった。
せっかく熾した火を諦めた二人ではあったけれど、ほぼほぼ肉もその他の食材も死守できたから。お互いを褒めたたえながら、旨い酒だったとマンネラインたちのことも褒めまくっていた二人だった。

マンネラインの三人は、あちこち点検しながら船の中を行ったり来たり。ヒョンたちが喜んでくれたことは嬉しかったけど、正直成功とはいいがたいと反省もしていた。
間に合ったから良かったようなものの、もう少し遅ければ砂嵐の真っ只中を飛び立つことになって、それは当然ながら危険極まりなかっただろう。船が危険だからって、マンネラインを置いていくなんてことは絶対にしないヒョンたちだってことも知ってるから。次はもっと上手くやろうと、誓い合った三人だった。

ミンギュとウォヌは、船室の中を見回っていた。
まぁエンジン室よりは上だけれど船底に近いから、砂嵐だからって別段関係ないと言えばない。だから自然と見回りなんていい加減になったし、ミンギュがウォヌにちょっかいをかけまくっていたけれど、ウォヌだってまんざらじゃぁなさげだった。

「バカ、ここで脱ぐなって。砂が落ちるだろ」
「しょうがないじゃん。砂漠を走ったんだから」

そんな声が聞こえてきたけれど、まぁ、まぁ、まぁ..................。

それからホシは一人で甲板にいた。空の上でもゆっくりと飛んでる限りはそれほど危険じゃないから。
夜空を見上げたって見下ろしたって、ウジのように空が読める訳じゃない。
それでも空の中で風を感じながら、そこにいるのがホシは好きだった。
旅の途中って感じがするから。
まさに今、旅をしてるって感じがするから。
いつだって今から、何かをはじめる感じがするから。

The END
5269moji

妄想heaven

SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

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