「ヒョン、大丈夫?」
咳をしてたら、スングァンが声をかけてきた。
「大丈夫。さっきお茶が気管に入っただけだから」
笑ってそう言えば、「それならいいけど」ってスングァンがホッとした顔をする。
咳をしながら部屋に戻れば、ベッドにもう入ってたはずのディノが起きだしてきて、「ヒョン、風邪? 体温計ある場所知ってるよ」と言ってくる。
「大丈夫。さっきお茶が気管に入っただけだから」
やっぱり笑ってそう言えば、「ほんと? じゃぁ温かいお茶でも入れようか?」とまだ心配顔。
「コマウォ」
咳込みつつもそう言えば、「お茶入れてくるよ」とディノが部屋を出ていった。
今や唯一の三人部屋を、ジュンは気に入ってる。
一人部屋いいなって態度を取ることはあっても、実際のところは、誰かと一緒の方がいい。たとえ何も話さなかったとしても、誰かがいてくれる方がいい。
「ジュナ? ケンチャナ? 咳が止まらないって?」
聞きつけたのか、ハニヒョンまでもが顔を出す。
「いや、さっきお茶が気管に入っただけだから」
同じ説明を繰り返すのも三度目で、ちょっと面白くなってくる。
「うん。スングァニとディノが二人してお茶を入れてたから、聞いた。落ち着きそう?」
きっと世界中で謎な肺炎が流行っていたりするから、咳き込んでいるだけで心配されるのかもしれない。
笑いながらも「大丈夫」と答えてるのに、ハニヒョンは部屋から出ていこうとしないどころか、スングァンのベッドに腰かけて、お茶を飲んで落ち着くのを見守るつもりのようで.........。
スングァンとディノが二人して温かいお茶にハチミツにのど飴に、念のためにと体温計まで持ってきて。その頃には咳だって大分落ち着いていたけれど、そのどれをもありがたくいただくことにした。
「朝方は冷えるかもしれないから、ちゃんと布団かぶって寝ろよ」
そう言ってハニヒョンがいなくなる頃には、咳なんてほとんどしてなかったかもしれない。飲み終わったお茶やハチミツは、ハニヒョンが持っていってくれることになった。「キッチンに置いとくだけだからな」と言っていたけれど。
三人で布団に潜り込んだ状態で「おやすみ」と言って送り出した。
いつまでだろう。夜になるとどうしても孤独が身に染みて悲しくなったのは。でもいつの間にかそんな気持ちは忘れてた。
家族までの距離が遠すぎる。どこにいてもそう思うことも多かったはずなのに、気づけばここは自分にとって普通に家で、家族で。
ちょっとだけ泣きそうになって、鼻をすすったら、「ヒョン、やっぱり風邪なんじゃない?」とスングァンが心配顔。ディノからも「ヒョン.........」って情けない声があがるから。
嬉しすぎて、やっぱり泣けてきそうになる。だから「大丈夫だって」と叫んで、布団を頭からかぶって寝ることにした。
心配症なのか、最後まで「何かあったら声かけてね」とスングァンが言っていたけれど、気づけば三人とも寝ていた。
夜中にユンジョンハンが様子を見に来て、三人ともにしっかりと布団をかけなおしていたことは知らなかったけれど、次の日は朝から元気だったから、誰も何も言わなかった。
そしてキッチンには、置いたままになったものなんて何もなくて、やっぱり幸せを感じたジュンだった。
The END
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