テレビ局からの帰りの車の中で、年上組は、「果たして誰が一番強いのか」を話題にして、年下組は、「果たして誰が一番怖いのか」を話題にしていたらしい。
ウジは一人で、車の中にいた。
昔は2台だった移動車が、今は3台。
テレビ局で別れる時にタクシーを呼んでもらう予定でマネヒョンにも頼んでいたというのに、ウジがそこから別行動をとると知ったエスクプスに猛反対された。一人でなんてダメだと......。
どうしてもタクシーで行くなら、俺が一緒に行く……とホシまで言い出して、ヒョンが移動車に乗ってくれないと、俺ら心配で帰れないよ……とミンギュが言ってきて。心配そうな困った顔と視線を送ってくるジョシュアに、言うことを聞けって感じで睨んでくるジョンハン。ジュンやウォヌはまだ働くつもりのウジのことを『困ったヤツ』って呆れ顔で見てた。残りの年下組も心配そうな顔で「ウジヒョンが移動車に乗るまで、俺らも乗らないよ」とか言ってくる。
どこの箱入り娘かってぐらいに心配されて気遣われて、こそばゆいし戸惑いしかない。
でも結局全員の優しさに押し切られて、たった一人だというのに移動車を使わせてもらったウジだった。
車の中は音楽が流れているけれど、それでも一人だからか静かで、運転してくれてるマネヒョンも何も言わない。スマフォをさっきからさわってるウジが、もう仕事をはじめてるとでも誤解してるのかもしれない。
実際にはさっきから、ホシとミンギュからそれぞれ年上組と年下組の車の中の話題がリアルタイムでカトクに流れてくるのを、楽しんでいるだけだったけれど。
誰が一番強いのか……。そして、誰が一番怖いのか……。ウジは今たった一人だから、誰の意見を聞くこともなく、誰に意見を遮られることもない。だからこれはウジの独りよがりでただの言葉遊び。勝手にそう思ってるってだけのこと。
誰が一番年上なのか。はたまた、誰が一番弱いのか。それは、チェ・スンチョル。
エスクプスはいつだって「大丈夫」って口にする。周りを励ましながら、自分も励ましている。みんなを守りながら、自分も守ってる。弱いからこそ、強くあろうとしてる人。
そしてウジの一番の理解者でいてくれようとする。苦手なのに、一番言い難いこともキツイことも言ってくれる。そんな時はいつだって、ごめんとありがとうとも言ってくれる人で、ウジにとっては本当の兄のような人。
誰が一番天使なのか。はたまた、誰が一番策士なのか。それは、ユン・ジョンハン。
ジョンハンは儚くも見えるのに、天使の見た目で心の中は結構黒い。でも、それもこれも全て利用すればいいとキッパリ言い切れて、実際にそれを自分で利用して、誰かに利用されても気にしない人。
気を遣ってるように見えて好きなことをして楽しんでいる。そして好き勝手してるように見えて、いつだって誰かを気遣っている人。悩んでるウジにはいつも、「お前のやりたいようにやれよ」と言ってくれる。ウジにとってははじめて会った時から変わらず、誰よりも男前でカッコイイ人。
誰が一番紳士なのか。はたまた、誰が一番強かなのか。それは、ホン・ジス。
ジョシュアは、裏も表も横も斜めもあるようなユンジョンハンの横で、全てを見て聞いて判っていても、素知らぬ顔で柔らかく笑ってられる人。
何度同じ話を聞いたって、はじめて聞いたと驚いてみせることができる人。そしてその嘘がバレても、慌てたりなんてせずに、誰も困らせることなく爽やかに笑ってみせる人。
傷ついていても、それすらも上手に隠せてしまう人。でもいつのまにか全てを糧にしてやっぱり柔らかく笑ってられる人。
優しさや柔らかさが強いことを、何より戦わずして勝つことを教えてくれた人。
誰が一番不思議なのか。はたまた、誰が一番深いのか。それは、ムン・ジュンフィ。
ジュンは驚くほどに整った顔をして、驚くほどに全てを知っている時があって、驚くほどに全てを受け止めてくれることがあって、驚くほどにその全てを忘れてくれる人。
そして本当は、誰よりも才能に恵まれた人。きっとその気になれば、一人でも高く高く飛べるはずなのに、一緒にいることが幸せだと言ってくれる人。
兄みたいな、弟みたいな、でもウジにとっては頼り甲斐のある大切なチング。
誰が一番普通なのか。はたまた、誰が一番遠いのか。それは、クォン・スニョン。
ホシは普通の人。だけどきっと本当は、とんでもなく遠い人。優しさの塊で、努力の塊で、愛情の塊で、才能の塊で......。誰よりも遠いところまで行ける人。
ホシはいつだって諦めないから。困ったり悩んだり壁にぶち当たったり、そんなことも全部全部、真っ向勝負してるから。
ウジにとっては、いつだって音を紡ぎたくなる気持ちをくれる人。
それは愛だとホシは言うけど、多分これは愛じゃないと思ってる。やっぱり大切なチング。
誰が一番穏やかなのか。はたまた、誰が一番賑やかなのか。それは、チョン・ウォヌ。
ウォヌは静かな人である。確かに静かな時もある。だけど一番賑やかな人でもある。
静かに笑う人だけど、声をあげて楽しそうに笑う人でもある。
見知らぬ人には簡単には見せない優しさと、男らしさと、強さと。そのどれをも惜しみなく、セブチに与えてくれる。
ウジがもうこれ以上頑張れないと思う時に、「いや、お前はもっと頑張れ」と、誰も言わないようなことを言ってくれる。「チングじゃないと言えないだろ」と笑いながら。
気づけばウジのことを、一番支えてくれている、大切な大切なチング。
誰が一番繊細なのか。はたまた、誰が一番強いのか。それは、イ・ソクミン。
ドギョムはいつだって繊細で、優しくて、涙を流すことも多い。だけど負けたりはしない。結局は強いと思うのは、最後にはいつだって全てに打ち勝っているから。
いつだって楽しそうに笑ってて、いつだって嬉しいと言ってくれて、いつだってウジの才能を褒めたたえてくれる。
なのにいつだって、「ヒョン、ごめん」と期待にこたえられないと謝ってもくれる。
きっとセブチの曲が誰かの心に響くのは、ドギョムが、いつだって優しい気持ちで歌うからだろうと、ウジは信じてる。セブチを、セブチたらしめてる人。
誰が一番器用なのか。はたまた、誰が一番不器用なのか。それは、キム・ミンギュ。
ミンギュはなんだってできる。でもミンギュはそのすべてをぶち壊す。
でも不思議と、文句を言っても誰も真剣に怒ったりしない。その行動の全てが誰かを思ってのことだと、全員が知ってるからだろう。
びっくりするぐらい男前なのに、びっくりするぐらい可愛らしく笑う。
びっくりするぐらい優しく抱きしめてくるのに、びっくりするぐらいバカ笑いする。
驚くほどに何も隠さずにいるから、ミンギュが笑っていれば今が幸せだと気づける。
エスクプスとは違う意味で、ミンギュがいればセブチは安全なんだと信じられる人。
誰が一番強気なのか。はたまた、誰が一番自由のか。それは、ソ・ミョンホ。
ディエイトは強気。そしてディエイトは自由。
言葉の壁があって苦労したことは事実だろうけど、その壁を乗り越えてしまった後は、いつだって羽ばたいている。
誰もが躊躇することにも、平気で飛び込んでいく。
繊細そうに見えて強気で笑う。無理そうなことでも、できないと言われたことにも、諦めたりはしない。自分の気持ちを隠したりもしない。
いつかセブチが変わっていくとしたら、きっとそれはディエイトがいるからだと思える人。
誰が一番愛おしいのか。はたまた、誰が一番しなやかのか。それは、ブ・スングァン。
スングァンはよく笑ってる。歌ってる。踊ってる。楽しんでいる。
でもよく怒ってて、泣いてて、誰かとケンカしてて。
問題ばっかり起こしてるイメージなのは、騒がしいからかも。
でも気づけば一番しなやかに、芸能の世界を泳いでて、頼もしくもある。
ウジの仕事部屋に、こっそりとやってくる。
なんとなく眠れない時も、楽しすぎて眠れない時も。哀しい時も寂しい時も。何度一緒に夜食を食べたかも判らない。
ウジにとっては、気づけば愛おしくなっていた、マンネラインの一人。
誰が一番天然なのか。はたまた、誰が一番男前なのか。それは、チェ・ハンソル。
バーノンはいつでもワンテンポずれている。ミンギュがいつだってフォローしてるイメージ。
誰かがイラついてても気づかない。でも一人、イヤホンのコードが絡んでることにイラついてたりして。何故かメンバーたちを笑顔にしてくれる。でも皆が笑ってることにも気づかない。よくスングァンとジャレていて、その姿は幸せでしかない。
なのに驚くほどに男前なことがある。その見た目も、性格も、行動も。
「ヒョン、大丈夫?」
たぶんいつも、ウジが一番大丈夫じゃない時にそう言ってくれるのが、バーノンだからかも。
ウジにとっては、いつだって心配で、でも気づけば追い抜かれてるんじゃないかと思わせられる、マンネラインの一人。
誰が一番年下なのか。はたまた、誰が一番大切なのか。それは、イ・チャン。
ディノのことを思うと、実は泣けてくる時がある。
ウジにとっては、ただ、一番年下ってだけじゃないからだろう。
ディノはセブチの未来だと、最初に言い出したのはホシだったか。もう忘れてしまった。セブチの未来だと思えば、大切な存在としか言えない。
昔から練習室の中でどっかから笑い声が聞こえてきてた。いつのまにこんなに大切な存在になっていたのか、実は判らない。それがマンネだからなのかも、判らない。
でもディノのための曲を考えてると、それだけで泣けてくる時があるから。
守りたいなんて思ったことはない。でも大切な存在。
優しくしたいなんて思ったことはない。でも大切で、大切な存在。
ずっと見ていたいなんて思ったことはない。でも大切で、大切で大切で、大切な存在。
ウジにとってはいつだって、どこかで笑っててくれないと困る、マンネだった。
誰が一番天才と呼ばれてるのか。はたまた、誰が一番ただの嘘吐きなのか。それは、イ・ジフン。
時々は自分でも、自分が天才じゃないかと思う時がある。物凄いテンションがあがった時とか。色んなツジツマがあった時とか。
でも大抵は、色んな嘘で今の自分ができていると思ってる。いや、知ってる。
あぁでも気にしない。大丈夫。困ってもない。なんでもない。問題ない。だって一人じゃないから。十三人いるから。何もかも一人で背負ってる訳じゃないから。
三人のヒョンたちに。三人のチングに。六人の弟たち。
全員がウジのことを好きだと言ってくれて、ウジの努力の結晶を愛してくれる。ウジが頑張っていることを知っている。
大切な弟だと言ってくれる。大切なチングだと、大切なヒョンだと。
果たして誰が、こんなにも自分のことを必要と言ってくれるんだってくらいに、必要とされている。
全員が無事に帰りついたと、カトクで教えてくれる。
『ジフナ! 帰りにアイス買ってきて』
見ればカトクに、ホシからそんなメッセージが届いていた。
気づいた時には、「俺も」「俺も」「俺も」「俺も」「俺も」とメンバーのメッセージが続いてる。
珍しくディエイトすらも「俺も」と送ってきたけれど、「一口サイズの小さいのがいい」とも書いてあった。
それキッカケで、次は全員が全員、好みのアイスを言い出した。
「ピンクの氷のヤツ~」とか、「ミルクの高めのヤツ~」とか、「ウジのオススメでいい」とか。謎に「こないだのヤツ」とか言い出すホシの希望が一番迷惑だった。
ただ問題は、今日は帰る予定がないということぐらいだろう。
まだまだ働く予定でいて、多分朝までコース。そしてそのまま明日も働く。
スケジュールの都合でどこかで合流することはあるかもしれないけれど、宿舎に帰る予定はないかもしれない。
アイス買ってきてっていうのが、まさかの早く宿舎に帰ってこいっていうホシの優しさかもしれないが、多分そんなはずはないだろう。
「アイス了解。でも買って帰るのは、明後日ぐらいになるけど」
そう返信すれば、もはやアイスの口になってたのか、ミンギュが『いや、俺、すぐ食べたいから、アイス自分で買いに行くわ』と言い出して、結局ホシもミンギュに希望のアイスを伝えていたから。
でも次の日には、ミンギュが山ほどアイスを差し入れてくれた。
スタッフたちの分もと言いながら。
ついでに着替えも持ってきてくれた。それから帰り着いた宿舎で、拗ねたジョンハンにドギョムが許してもらうために大変だったと教えてくれて、アイスを食べながら大爆笑した。
果たして誰が一番幸せなのか......。
それはきっと自分。
The END
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