好きだなと思う瞬間は山ほどある。
名前を呼ばれるのも好き。
笑い方も。怒り方も。謝り方も。泣き方も。
困ってる顔も好きだから、無理難題を言ってしまうこともあるけれど。
抱き締めてくるその強さが心地よいから、ケンカした時も、仲直りした時も、ただ一緒にいるだけの時も、何かを乗り越えてる時も、何もない日も、疲れすぎて何も考えられなくなってしまった日も......、一日の終わりには必ず抱き締めてもらってたと思う。
きっと誰もが、自分よりも相手の方が、自分のことを何倍も思ってると思ってるはず。
でも実は、自分の方が相手のことを、何倍も何倍も何倍も思ってるって自信がある。
だってほら、そばにいないから心が寂しがっている。
コンサートが終わって、ホテルに帰ってきて、時差があるのは知ってるのに鳴らす電話はコール音が続くばかりなのに。声が聞きたいと思うのは、いつだって自分の方。
「何時だと思ってるんだよ」
声を聞くだけで涙が出て、抱き締めてほしいと思うのに。
会いたいって、言いそうになる。
そばに行きたいって、言いそうになる。
「何時だって関係ないよ。俺が電話したい時にかけるんだから」
笑ってみせて、自分勝手なふりをする。
でも電話をかけずにはいられない。その声を聞かずにはいられない。
「俺、起きちゃったじゃん」
「起きてればいいじゃん。俺が眠るまで」
そう言えば、文句を言いながらも付き合ってくれる。
明日も仕事だというのに、今日一日のメンバーの様子から、小さな失敗から嬉しかったことまで。
電話の向こう側から、笑い声や驚いた声が聞こえてきたのが、相槌だけになり、そのうち寝息が聞こえてくるまで。ずっと、ずっと。
涙が止まらなくなるほど、好きだから。やっぱり自分の方が、ずっとずっと思ってると思う。寝息しか聞こえてこないのに、その電話が切れないんだから。寝息すら愛おしいんだから。電話越しでも一緒にいたいと思うんだから。よっぽど愛してるはず。
こんなにも、愛してやまないのに............。
The END
846moji