ウォヌは今、バニラアイスのことで悩んでいた。
ダンスの練習を真剣にした。結構汗をかいた。誰からも「真剣にやってよ」なんて言われなかった。
でもウォヌはずっと、バニラアイスのことで悩んでいた。
一番店の中で売り上げがいいのに、バニラアイスの材料がなかなか手に入らないから気づけばいつだってちょっと赤字になる。売上をあげるためにも、店を大きくしていくためにも、やっぱり問題はバニラアイスだと思われるから。
パフォチが集まっての歌詞作りも真剣にした。結構いい感じの言葉を紡げた気がする。だから誰からも「働けよちゃんと」なんて言われなかった。
でもウォヌはずっと、バニラアイスのことで悩んでいた。
バニラアイスが一番消費する理由は判ってる。バニラアイスは単品としても売れるのに、ストロベリーアイスやチョコレートアイスとのミックスでも売れるからだ。だから最初からバニラアイスを一番作れるように準備しなきゃいけないのに、なんでか全部のアイスの材料を均等に仕入れたのが敗因だったのだ。分析は冷静にできている。後は実践だけだろう。
歌録りの時だって、ウォヌはミスなく歌って見せた。ウジにもボムジュヒョンにも褒められた。だからやっぱり誰からも、「いい加減にしとけって」なんて言われなかった。
でもウォヌはずっと、バニラアイスのことで悩んでいた............。
ウォヌが今、バニラアイスのことで悩んでいる。
エスクプスが最初にそれを知ったのは、同じ部屋だったからだろう。
ウォヌがゲームの世界で働きはじめたことを知ったのは、真剣な顔で机の上に紙を広げてバイトシフトを作っていたから。
どうやらアルバイトするゲームをはじめてすぐにバイトリーダーに昇格し、順調に店長になり、今では店の売り上げ管理まで手を出すことになったらしい.........。
別にゲームを楽しむならいいけれど、ウォヌは地味にそういうのを頑張るタイプで、現実世界で働いてる合間にゲームの世界でも真剣にアイスを売ることを考えながら働いている。気づけば『なにお前ゲームの中でも働いてんの』なんて言えないほど、頭を悩ませているウォヌがいた。
ある時ウォヌが「バニラアイスが足りない」と呟いた。
どっかのテレビ局の楽屋の中で突然。きっと頭の中がバニラアイスでいっぱいで、呟いたことすら気づいていないんだろうけど、気づけばウォヌはあちこちで、「バニラアイスが」「またバニラアイスだ」「だからやっぱりバニラアイスなんだよ」とか。
あまりにも真剣な顔で毎回呟くもんだから、もはや誰もバニラアイスの話題も出せないし、バニラアイスを食べるのさえ控えはじめるぐらい。
「いやもう、どこにウォヌの店はあるの? 俺が買い占めにいくけど?」
ある日ウジが叫んでた。それはエスクプスもそう思う。でもゲームの中の世界だから、買い占めはできないけれど………。
「と、ところでさ。怖いこと聞くとさ。そのゲームって、どうなったら終わるの? ゴールって、あるんだよね?」
ある日ホシがそんなことを聞いてきた。確かに怖い。けれどそれを知る者は誰もいない。
最近のウォヌの目覚めた後の一言は、「バニラアイス作らなきゃ」だったりするし、ウォヌの頭の中にはいつだってバニラアイスがあるのも判ってる。
「わかった。ゲーム会社を買収して、バニラアイスをログインボーナスにでもしよう」
ウジが壮大なことを言う。
「それならホンモノのアイス屋をウォヌにやらせてみたら?」
ホシも大概なことを言う。
「風評被害を流してゲーム会社を潰そう」
「そうだね。株価下げたらどうにかなるかも」
ジョンハンとジョシュアが二人してブラックなことを言う。
一番現実的でまともな行動したのはミンギュだった。時折物凄いうっかりを発動するけれど、それでもミンギュさえいればセブチに不可能はないとエスクプスは信じてる。それぐらいミンギュはいざとなったら頼りになるのだ。
「要は、バニラアイスが順調なら何も問題ないんでしょ?」
そう言ってたミンギュが僅か数日で、とある情報をゲットしてきた。
「妹に同じゲームやらせてみたんだけどさ。妹はまだはじめて数日だけど、もう三店舗展開してるって」
バニラアイスのせいで売り上げが上がらなくてウォヌは多店舗展開までいけてないというのに、ミンギュの妹に才能があるのか、ウォヌにゲームの中とはいえ、店の切り盛りなんて無理なのか......。
「いやそれがさ、結構まともなゲーム会社が出してるゲームらしくて、子供が夜中にゲームをしないように、昼間に営業した方が客の回転率とかアイスの製造率が高いようになってるんだって」
なんと………。
青少年に対して見せたゲーム会社の優しさは評価するけれど、この世界にいる限り、ウォヌにはバニラアイスをガンガンに製造して成功を収めることは無理ってことかもしれない。
日中にゲームができるのは、せいぜいが仕事と仕事の合間と食事をしながらもゲームする時間ぐらいのもので、後は夜中だというのに......。
ウォヌヒョンがバニラアイスに苦しめられている。
「ゲームって遊ぶためのものじゃないの?」
ディノの素朴な意見にみなが頷いていたけれど、どうやらウォヌヒョンは真面目にゲームの世界で働いているらしい。成果は出ないけど......。
「でも俺らって、十三人もいるじゃん」
ディノが普通の顔で言うのに、ウォヌを除いた十一人のヒョンたちが、意味が判らないと顔を傾げる。
「みんなで適当に頑張れば、俺ら十三人もいるんだもん。二十四時間余裕で働けちゃうじゃん。最強じゃん。簡単じゃん。楽勝じゃん」
ディノが自信を持って言ってるってのに、全員が『何言ってんだこの子は』って顔。
「ウォヌのスマフォの中のゲームなんだから、手出しはできないし。そもそもウォヌがゲームを手伝うって言って手伝わしてくれるかどうか」
エスクプスが説明するように言うけれど、「そんなの簡単じゃん。勝手に使えばいいだけだし」とディノが自信満々。みなが不思議顔なのをよそに、自分の部屋の中でゲームに夢中なウォヌのもとへと走っていった。
「ウォヌヒョン。ちょっとだけ俺にもそのゲームやらして。ウォヌヒョンがシャワーしてる間だけでいいから」
そう言ってウォヌをシャワーに追いやって、ディノは簡単にウォヌのスマフォをゲットしてきた。それから普通の顔して自分の指をウォヌのスマフォの指紋認証に登録してみせた。
「はい、これで俺はゲームをこっそり手伝えるよ。現場での仮眠時間に順番にゲームしよう。俺の指で指紋認証突破できるし、ウォヌヒョン眠り浅いことってほとんどないし」
マンネなディノが頼もしく育ったと喜ぶべきか、なんだか育て方を間違えたかもと嘆くべきか。ちょっとだけ95ラインの三人が頭を抱えて悩んでいた。
単純にそんなディノのことを「凄いさすが! やるじゃん」と喜んでいたのは、マンネラインのスングァンとバーノンと、細かいことどころか大切なことも含めて何も気にしてないジュンぐらいだろうか。
「俺パス」
そう言って参加しないことを宣言したのはウジで、それでなくても仕事仕事で睡眠時間が少ないのだから、誰もが頷いて、あっさりとウジ以外のメンバー全員で頑張ることになったんだけれど………。
ウォヌのバニラアイスに、セブチが苦しめられている。
ウジ以外のメンバー全員で、ウォヌのゲームの中での仕事を手伝うっていう話になったはずなのに、すぐにゲームの手伝いが免除されたのはジョンハンだった。
何せゲームが下手だから。お客がきたら、希望するアイスを作って渡すだけなのに、間違えたアイスを作っては渡してロスを出すということを繰り返し、ジョンハンはすぐにウォヌがちゃんと寝てるかをチェックする係にまわされた。
次に免除されたのはジョシュア。お客が希望してないトッピングをサービスして、売り上げを減らすことが多かったから。ジョシュア曰く、「だってトッピングした方が、可愛いアイスになるんだって」とのことだが、「ヒョンッ! 俺たちが求めてるのは売上で、可愛さなんて求めてないんだって」とディノに怒られていた。
次に免除されたのはジュン。お客が去ってしまう前にアイスを作って渡さなきゃ成立しないゲームなのに「コイツには売りたくない」とか謎なことを言い始めたから。当然のようにディノから「ジュニヒョンはもうダメッ!」と怒られていた。
次に免除されたのはホシ。ウォヌのスマフォでゲームを頑張るはずが、そのまま寝落ちしたから。それでうっかりウォヌにバレかけて、ディノから当然のように睨まれていた。
次に免除されたのはバーノン。単純にトロかったから。
次に免除されたのはミンギュ。手先は器用なのにうっかりが過ぎて、ウォヌにバレそうになること数度。ウォヌの前でミンギュはニヤニヤが我慢できないからだろう。
次に免除されたのはスングァン。テレビ局の中でいろんな人に挨拶してまわってるスングァンは、営業とほぼ同じだと認識されているからか、ゲームは頑張らなくて良いよと唯一良い感じの免除。優しく免除と言ってるけれど、結局は「役立たず」の烙印を押されただけだろう。スングァン以外が。
そして結局はエスクプスと、真面目なドギョムと手先の器用なディエイトと、ディノがせっせと頑張っていた。しかしそれだって、ウォヌが眠ってる間を狙ってのことで、自分たちも働きながらだったから、ウォヌが一人で頑張るよりもちょっとマシって程度だったけど。
ウォヌはバニラアイスに、最近満足していた。
最初は失敗してばかりだったけれど、冷静に考えて仕入れの割合を変えて頑張り続けたら、売り上げが倍増してきた。
結果二店舗目が結構早く出せた。今は三店舗目の展開を目指してるところ。
だからウォヌは満足していた。最近はバニラアイスで頭を悩ますことも減った。
楽屋の中、「そのゲームってさ。一体いつが? 何が? ゴールなの?」とホシが聞いていたから、「とりあえず十三店舗展開できたら、ゴールにしようと思ってる」と本気で答えたのに、何故か楽屋の中で「マジかよッ。嘘だろッ。冗談だろッ」とエスクプスが過度に驚いてたし、ディノが「うへ~」としゃがみ込んでいた。
「やりたいなら、少しなら貸してあげるけど?」
これまた真剣に言ったのに、爆睡しているウジ以外の全員から、謎な視線が向けられてきた。
でもすぐにバニラアイスを作ることに没頭しはじめたから、あちこちでみんながジェスチャーで、『13店舗って』『誰か止めろよ』『いや、先が遠すぎるって』などなど、色んなことを言いあっていることなんて、気づきもしてないウォヌだった。
でもウォヌは最近、バニラアイスに非常に満足していた。
The END
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