カーテンが開かれた大きな窓の前で、スングァンは一人で立っていた。
晴れた日には気持ち良い景色だろうに、外は雨で、窓は閉まってるのに哀しい雨音が聞こえてきそうで、灰色の重たい雨雲が空をおおっていた。
「うちのジョンハニヒョンは天使なのにさ。こんな日に青空じゃないってどういうことだよ……。ほんとに、ハニヒョンは天使なのに。飛んでく日に、こんな天気だなんて……」
一番最初にその男に気づいたのは、バーノンと一緒にゴソゴソしていたスングァンだった。部屋の一番奥にいたけれど、そこは入り口の真正面で。壁に沿っておかれた机の上にはお菓子とかが置いてあって、そこでさっきまでバーノンとお菓子を漁っていた。そしてその時はそのテーブルに腰かけながら、たまたま入り口の方を見ていて気づいたのだ。もともとが怖がりの性格だからか、いつもと違う何かを察知するのも早いのかもしれない。見た瞬間には、なんだかゾワっとしたから。
「何?」
「ん? 何が?」
バーノンがスングァンの呟きをきいて、その視線の先を振り返った。それが、その男を視界に捉えた二人目だったかもしれない。
ドギョムとホシが身体を動かしながら楽しそうに歌っていて、ウジとミンギュは対戦ゲームで戦っていて、エスクプスとジョンハンとジョシュアは二つの椅子に三人で座りながら相変わらずの仲良しぶりで、ウォヌは静かに座って目を閉じていた。寝ているのか瞑想中なのかは謎。そしてジュンは器用にパイプイスを並べた小さなスペースで身体を横たえていた。眠っていないのは、時折揺れる頭の動きで判っていたけれど、特に誰かがツッコむでもなく、少し不思議な行動は安定の通常運転。それから入り口近くの大きな鏡の前で、ディノは一人覚えたての踊りを練習していて、それにつきあう素振りで鏡の中の自分をチェックしているディエイトがいた。
いつも通りの風景と、騒がしさと、慣れ親しんだ空気。そこには幸せとか、愛しいとか、楽しいとか、嬉しいとか、ドキドキするとか。全員の心から滲みでる気持ちがいっぱい詰まった空間だったのに......。
全部が一瞬だった............と、スングァンは思う。
だって気づいたら、全てが終わっていたから。誰がどう動いて、誰が何をして、誰が何を口にして。全てをしっかり見ていて覚えているのに、そこには自分の発した言葉が一つもなくて、座るでもなくただ机にもたれるように腰かけていただけなのに、腰をあげるどころか、たったの一歩も、もたれてる机に置いたままの手を挙げることすらしなかったから。たぶん指一本も、動かさなかった自信がある。
ディエイトが気づいたのが、たぶん三人目。
「このおじさんお酒臭いよ」
騒がしかったのに、その言葉はハッキリと聞き取れた。まだ発音が少しおかしくて、お酒って部分も大分あやしかったはずなのに、それなのにスングァンにははっきりと聞こえた。
ディエイトの近くにいたディノが、「ん? なんですか? どちら様ですか?」と丁寧な口調で近づいていった。
「イ・チャンッ」
やっぱり様子がおかしくて、数歩前に出たディノを止めなきゃ......と思ったけど何も言えなくて、でも誰かがディノを止めてくれた。見ればツカツカと歩いていく姿が見えて、長めの髪が揺れていて、『あ、ジョンハニヒョンだ......』って少し安心したのを覚えてる。
いつだって優しくて、時々意地悪で、でもやっぱり優しくて。セブンティーンの紅一点とか言われることもあるジョンハンだったけど、誰よりも男らしくてしっかりしてて皆のことを思ってくれている。そんなしっかり者のジョンハンが出ていったから。
これで少し変な人は部屋を出ていくだろう。
そしてその時にはウォヌも目を開けていて、ジュンも身体を起こして、全員がその男と近づいていくジョンハンを見ていた。
「すみませんが、関係者以外は............」
最後まで言葉が聞き取れなかったのは、男がジョンハンに殴り掛かったから。正確には体当たりをしたのかもしれない。でも手には細めの、でもしっかりとした棍棒のようなものを持っていたから、それで殴ったのかもしれない。
ジョンハンの細めの身体はそんな出来事を想像もしてなかったからか、軽く弾き飛ばされて、受け身を取る間もなく机の脚元に打ち付けられた。
ゴガッ......って鈍い音が聞こえた気がした。
「ハニやッ!」
「ユン・ジョンハンッ!」
エスクプスとジョシュアが叫びながらジョンハンに駆け寄った。
クプスヒョンは「ハニや」で、ジスヒョンはフルネーム呼びなんだ......なんてことを思ってる間にも、事態はもっと複雑に動きはじめていて。
「なんだよアンタ!」
一番小さいのに、釜山の男でもあるからか、ウジがその男に立ち向かっていったから。もう明らかに自分たちがトラブルに巻き込まれてると判ってる状態なのに、怯むこともなく真っ直ぐと。可愛らしい見た目に反して男らしいウジだから、言う時は言うしヤル時はヤル。だからそれは当然だったのかもしれない。でもやっぱり小さくて、一番軽くて、暴力になんて慣れてなかったから。
殴られはしなかったけれど、押しのけられるようにして薙ぎ払われて、それだけでウジの身体は軽く飛んだ。きっとそのままなら、壁に強く頭から打ちつけられていただろう。
「ウジやッ!」
でもそう叫んで薙ぎ払われたウジの身体を受け止めたミンギュがいて、ウジと壁の間で衝撃を吸収したからか、ウジもろとも壁に沿って倒れ込んでいた。背中と腰を打ったのか、起き上れそうにはなかったけれど、それでもミンギュはまだ叫んでた。
「ヒョンッ! 動かすな。頭打ってるからッ」
ジョンハンを抱き起そうとしたエスクプスに向かって。
「血が出てるところを強く抑えて、頭だから血が多く出ちゃうからッ」
その言葉を聞いてはじめて、赤い色がスングァンにも見えた。ミンギュに言われた通りに傷口を強く抑えているジョシュアの服も、赤く染まっていく。
赤い血の色に意識を奪われて、誰も動けなかったはずなのに、冷静に立ち上がったのはジュンだった。
「ハオッ! XXXッ!」(ハオッ! 下がれッ!)
聞き取れなかったのは、それが中国語だったからだろう。聞き取れたのはディエイトだけで、聞き取った瞬間にはディエイトが、ディノの腕を掴んで後ろに跳び下がっていた。
そこに、イスが飛んだ。
さっきまでジュンが寝ていたはずのパイプイスが飛んで、入り口横の鏡に投げつけられて、物凄い音ともに鏡は粉々になった。
男の意識も一瞬そっちに気を取られたのか、次の瞬間にはジュンが男の前に立っていた。手には、そこらへんに置いてあった水の入ったペットボトル。まだ未開封だからか、振り回せば結構な威力になるのかもしれないけれど、誰かに向かってそれを思い切り振りかざすのにも勇気がいるだろう。
でもジュンは迷いも見せずに振りかざし、その腕をそのままの勢いで振り下ろした。そして間髪入れずに思いっきり男に蹴りを入れた。
次に動いたのはウォヌとドギョムで、ジュンに加勢するために動いたんだろう。
「イ・ソクミンッ! ダメだッ、下がれ!」
ジョンハンの身体を支えたままのエスクプスが叫んだ。
それでみんなが思い出した。ドギョムはケガしちゃいけないってことを。珍しい血液型で普通のケガでも命とりになることがあるってことを。
エスクプスの言葉に倒れていたジョンハンまでもが反応してドギョムに手を伸ばしたのか。傷口を押さえていたジョシュアが「バカッ、動くなッ」と、誰もこれまで聞いたこともないようなキツイ口調で叫んだ。でもドギョムの足が止まったのは、ジョシュアのその声の強さよりも、ジョシュアの手が外れたことによってジョンハンの傷口から吹き出した血が、驚くほどの勢いだったからだろう。
「ハニ、ハニ、頼むから」
エスクプスが泣きそうな声で、それ以上動いてくれるなとジョンハンを抱きしめていた。
振り返りはしたけれど立ち止まりはしなかったウォヌが、ドギョムの肩を後ろに押しながら進んで行った。それでようやく、自分も前に進む必要があるってことを思い出したドギョムだったけれど。
「ドギョマ、ドギョマ!」
ホシが慌ててドギョムに駆け寄って、背中から抱き着くようにしてドギョムの身体を引き留めていた。そうしたらいつの間にか真横にいたはずのバーノンが、近くにあった椅子を胸の前まで持ち上げて、ドギョムとホシの前に二人を背にするようにして立ちふさがった。何かがあったとしても、ドギョムだけは守らなきゃいけないと思ったんだろう。
平和主義のバーノンには、誰かを殴るなんてことは冗談でもできないっていうのに......。
ジュンは闘っていた。たぶんそれは本当に闘いで、酔っているから痛みを感じない相手では、苦戦を強いられただろう。
ウォヌは机を動かして、倒れているウジやジョンハンたちの防御壁を作り、その後ジュンの加勢に回って見知らぬ男を足蹴にしていた。何故か手を使いたくないのか、動かすのは足ばかり。でも後から聞いてみれば、間接を叩いて倒すのが最も効果的だから......と、まともそうなことを言っていた。
たぶん二分もかからなかっただろう。男は倒れて、それをジュンとウォヌが押さえこんで。
「ハオ。XXXXXX? XXXXXXXX」(ハオ。行けるか? もしもの時は倒せ)
ジュンがまたディエイトを呼ぶ。咄嗟の会話はやはり中国語のようで、でもミンハオはそれに頷くだけで返事もしなかった。ただ二人の間で、ジュンが持っていたペットボトルがディエイトに渡されて、それを持ってディエイトが廊下に出て行った。
後から聞けば、暴漢が一人とは限らないから様子を見てこさせたという。何かあった際には迷わず倒せとの伝達付きで。
「ディノやッ。廊下にある非常ベルを押してこい」
冷静なことを口にしたのは動けないままのミンギュで、でもしっかりと「ガラスに気をつけろよ」とも口にしていたから、動けないだけで頭は打っていないんだろう。衝撃で気を失ってるのか、ウジはピクリともしない。
その間にもジョンハンの血で、ジョシュアは赤く染まっていた。
非常ベルの音とともに、廊下がざわつきはじめた。マネージャーやスタッフが駆けこんできて、誰かがその場の惨状に悲鳴をあげて、ジュンとウォヌに加勢して男を押さえつける人間が増えて、気づけば警備員がいて、外に出て行ったはずのディエイトとディノも無事に戻ってきていた。
救急車が来て、ジョンハンが一番に運ばれていった。まだ意識を失ったままのウジと、背中や腰や、胸や腹を打ち付けたミンギュも運ばれていった。エスクプスやジョシュアもついていって、警察が来るらしいって声が聞こえてきて。バーノンは手にしていたイスをいつの間にかおろしていた。
「スングァナ? スングァナ? スングァナッ!」
気づけば、目の前にジュンがいて、呼ばれていた。
みんなが少しだけ普通の呼吸を取り戻し始めていたのに、スングァンだけが固まったままだったから。ピクリともせず、叫びもせず、息すら止めてしまいそうなまま、まだ緊急事態だった時のままのようにそこにいたから。
「大丈夫。もう終わったから。大丈夫」
いつもはおどけたり、ふざけたり、笑わせてきたり。そんなことばかりしてるイメージのジュンなのに、いつだっていざって時にはちゃんと動いてくれる。
「大丈夫。怖かっただろ? でももう大丈夫だから」
抱きしめてくれて、背中を優しく叩かれて、ようやく呼吸を取り戻したスングァンだったけれど、今度は涙が止まらなくなった。
「なんで? なんで? なんで? どうして? どうしたの? みんなは?」
言葉は出たけれど、身体はやっぱり動かなくて、何もしてないし何もされてないのに、ジュンに支えられて動かしてもらってた。いつの間にか戻ってきていたバーノンが横から手を繋いでくれて。
「警察が来たら、俺とジュンで対応するから」
ウォヌが冷静な顔と声で、たぶん事情聴取があるはずだからと言う。それにもスングァンは、「なんで? なんで? どうして? なんで?」としか言えなかった。
ドギョムのことを抱きしめたままのホシは、そのままくっついてしまったんだろう。誰かに「もう大丈夫」と言われても、ドギョムから離れようとしなかった。その気持ちは痛いほどわかる。だってスングァンも、握ってくれたバーノンの手を離せそうになかったし、背中に回してくれたジュンの手はそのままにしておいて欲しかったから。
今はもう少し、いやしばらくはギュッと誰かにしておいて欲しくて、できるなら全員で固まっていたかった。
でも興奮したようにスタッフたちに起きた出来事を必死に話してるディノのことも心配だった。それはホシもそうだったようで、ドギョムから離れないくせに、こっちに来いとディノのことを必死に呼んでいたから。ディノが素直に近づいて、ホシによってドギョムと一緒に抱き込まれて、三人が合体していた。
いつもなら笑えるその姿に、ホッとしてまた泣いてしまった。
救急車ではないけれど、病院に向かう車にスングァンも乗っていけと言われたけれど、そこを離れるのもまた怖かった。病院に行ったら怖いものを見てしまいそうな気もしたからかもしれない。
「ハオ。行って」
ジュンがディエイトを呼んで、そう言った。ホシとドギョムとディノも一緒に行くという。最後にもう一度「スングァナ?」とジュンから確認するように名前を呼ばれたけれど、首を振って拒否した。
マネヒョンは病院についていったのか、それとも何かまだあるからここにいないのか、全体的に騒然としてて何も把握ができなかった。もしかしたら誰かは把握してるのかもしれないけれど、顔は知ってるけれど名前を思い出せない事務所の人が来て、警察の人が来たと知らせてくれた。ジュンとウォヌに、話が聞きたいと言っていると。
ジュンの手が、スングァンの背中から離れていく。それが怖くて「ヒョン......」と呼びかければ、「大丈夫。この部屋から出ないから。お前の視界の中に、絶対いるから」と言ってくれた。隣りにいたバーノンが、ジュンの分までと思ったのか、しっかりと抱きしめて背中を擦ってくれた。
警察の人はテレビで見るような感じじゃなくて、どこかの会社員みたいな人ばかりだった。二人でペアになって来るイメージなのに、見ていればジュンとウォヌを五人ぐらいの人間が囲んで話を聞いていた。
見知らぬ人が多すぎて。緊張もピークで。もしももう少し時間がかかってたら、限界だったかもしれない。
「ハンソラ......」
「ん?」
「俺、もう無理かも」
「座る?」
小声で話してた。誰かに聞かれたら、マズいような気がしたから。
だってもう、誰が誰だか判らない。敵か味方かもわからない。良い人か悪い人かもわからない。警察の人間だと言われたって、「だから?」って気しかしない。
たぶん今は、メンバー全員と、いつも一緒にいてくれるマネヒョンぐらいしか、スングァンの側にはいられないかもしれない。
明らかに被害者だったから、ウォヌとジュンがどこかに連れていかれることはなかった。
「俺たちも、病院に行こう」
そう言って、ジュンがスングァンの腕を取って歩かせてくれた。車に乗ったのは覚えてるけど、誰が運転してたのか、タクシーに乗ったのかは記憶にない。助手席に座ってるウォヌが、誰かと電話してたのは覚えてる。
「今から行く。ジフニは? ........................わかった」
ウジは大丈夫なのか。電話の相手は誰だったのか。何がわかったのか。全部判らなかったけど、それを考える余裕がなかった。バーノンも同じだったのか、時折握ったままの手に力が入る。でも何も言わなかった。
車を降りた記憶もないのに、気づけば病室にいた。
そこからはあまり記憶がない。
一番最後に来たはずなのに、そこに全員はいなかった。何度も何度も数えたからそれだけは確かなのに、誰が足りないのかが、何度数えても理解できなかった。
病院にも警察が来て、全員に話が聞きたいと言ったらしいが、警察と話した記憶もない。
気づけばドギョミヒョンが号泣していた。ベッドに横たわっているハニヒョンに縋りつくような感じで。
頭がガンガンして、涙は止まらないし。
数えても数えても、やっぱり13っていう数字にはならないし。
理由もなく怖いし、苦しいし、哀しいし、辛いし。震えてくるし、泣けてくるし、なのに声は出ないし。バーノンがずっと横にいて、ずっとどこかが触れ合っているのに、いつもなら感じる優しさとか、嬉しさとか、どこかドキドキする感じがどこにも無くて。
でも気づけば寝てた。そして夢を見て飛び起きた。どんな夢だったかは覚えてないけどとにかく飛び起きて。また数えて、でも足りなくて。気づけば横にいたはずのバーノンがいなくて、驚いて死にそうになって「ハンソラッ。ハンソラどこッ」って叫んだら、ウジヒョンに「五月蠅いッ黙れッ。今何時だと思ってんだ」と怒られて目が覚めた。
「だってヒョン、ボノニがいないんだよ」
「じゃぁお前の横にいるヤツはニセモノかよ」
言われて見れば、バーノンはちゃんといた。心配そうにスングァンを見てるし、その手はしっかりとスングァンの手を握ってくれていた。
「でもヒョン、俺数えても数えても、全然数があわなくて」
「ほんとに今何時だと思ってんだよ。あぁもう、番号ッ!」
何時かは判らなかったけれど、ウジが大きな声で「番号」と言えば、ジョンハンの横のソファに座って寝てたエスクプスが手をあげながら「イチッ」と口にした。ベッドに横たわってるジョンハンが、しっかりした口調で「ニッ」と言えば、何故かジョンハンのベッドに一緒に寝てるジョシュアが「サンッ」と言いながら手をあげて......。
別のベッドにディエイトと一緒に寝てたジュンが当然のように「ヨンッ」と言う。ウジと一緒に寝てたホシが「ゴッ」と元気よく両手をあげてくれた。入り口横の椅子に座ったままだったウォヌが「ロク」と静かに言えば、怒ってたウジが「ナナ」と言い、ドギョムが「ハチ」、ミンギュが「キュ」、ディエイトが「ジュ」と数字をテンポよく刻んでくれた。
それから少し沈黙。全員がスングァンを見てた。
「ほら、お前だろ」
ウジに言われて、自分の番なことに気がついた。
「ジュウイチ」
横にいたバーノンがすぐに、「ジュウニ」って言った。
最後にディノが「ジュウサンッ」と言った。姿が見えなくて、でも足元から声がしたから覗いてみれば、何故かディノが寝袋に入って寝てた。
「13だ......」
やっと数があったことにホッとして、また泣けてきた。
「いいから寝ろ。朝まで起きるな」
命令されたからじゃないけれど、13という数字がひどくスングァンを安心させた。だから次に目が覚めた時には朝だった。
あの日から三日目の朝。
やっとそこが四人部屋だと認識した。そこに十三人。でも狭くは感じなくて、全員でギュッとなってて良い感じだったかもしれない。
いつも絶対誰かはそばにいてくれた。
そしてその時は、ウジヒョンが一緒にいた。なんでか病室に二人だけ。
窓の外は雨で、今日全員で宿舎に帰るという。
「うちのジョンハニヒョンは天使なのにさ。こんな日に青空じゃないってどういうことだよ……。ほんとに、ハニヒョンは天使なのに。飛んでく日に、こんな天気だなんて……」
「縁起でもないこと言うなよな」
「そんなことないよ。だって飛んでいくのは、天使だけなんだよ。ハニヒョンは残るんだから」
スングァンがあんまりにも普通にそう言ったからか、ウジからの反論はなかった。
帰ったら何しようかな......。
練習室で、みんなで、踊りたいな......。
The END
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