妄想heaven

SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

ハニハニ涙

 

泣くつもりなんてなかったし、泣くとも思ってなかった。
でも口を閉じてじっと耐えたけど、気づけば涙が零れてた。
哀しい訳じゃない。辛い訳でもない。ただだただ自分が情けないだけ。頑張ってなかった自分が悪かっただけだから、誰も責められない。

うまく歌えたか......といえば、歌えた。
歌詞通りに歌えて、音程も外さなかった。声も響いていたし、何よりウジが「おぉ、ヒョン、良いよ」と言ってくれた。
でもいつもみたいに嬉しくなくて、納得できなくて、こんなんじゃダメで、そのまま歌い続けてすべてを終えてしまう訳にはいかなくて......。

「ごめんドギョマ、俺ちょっと休憩するから、先に入って」

そう言って順番待ちしてたドギョムと代わってもらった。
なんとなく納得できないっていう理由だけで、連日数時間も寝てないウジの時間を奪う訳にもいかない。

きっと考えすぎなだけだから、ちょっと落ち着こう......。そう思って目を閉じていたら、ドギョムの力強い歌が聞こえてきた。ここ数日、何度も何度も、車でも宿舎でも楽屋でも聞いたフレーズが、キレイに響いてた。バカみたいに練習するドギョムだから、当然の結果だろう。みんながもうそれぐらいでいいだろって言ったって、自分が納得するまで絶対に歌うことをやめないドギョムの歌は、いつだってキレイだし、力強いし、耳だけじゃなくて心にまで響いてくる。

「ごめん。先いって」

ジョシュアにも先にいってもらった。
ウジに褒められたと嬉しそうに笑ってたドギョムが、「先に帰るね〜〜」といなくなった。いつも通りに笑って「気をつけろよ〜」と言ったつもりだけど、笑えたのはそれが最後。
ジョシュアの後にブースに入っても、一節も歌えなかった。
泣くのを我慢してたんだ……と気づいたのは、ドギョムが帰ってったことに安心したから。ドギョムは誰かが泣いてたら心の底から一緒に泣けてしまえる奴だから。

「ごめん。俺、無理かも」

止められない涙が勝手に次から次へと流れていって、歌いもしないのにブースの中で立ち尽くしてて、邪魔でしかなかった。

「出といで」

ジョシュアがそう声をかけてくれて……。誰かが呼んでくれたのか、エスクプスもやってきて。
でも自分からは動けなかった。ここを出てしまえば、この場所にはもう戻ってこれないかもしれないと思ったから。
全員が全速力で走ってる。ちょっとでも遅れたら、追いつくこともできないぐらい、一瞬で距離が開いてしまうことも判ってたのに。
努力しなかった訳じゃない。頑張ってなかった訳でもない。ただ、普通に努力するだけでは、頑張るだけでは足りないって判ってたのに………。

今はもう遠い昔。
宿舎で一緒に暮らし始めた頃、ジョンハンは毎日必死に練習してた。参加したばかりだから踊れない曲が多かったのは判ってたのに、ジョシュアがマイペースに練習しながらも順調に踊れていたから焦ってもいたかもしれない。
身体はヘトヘトなはずなのに、宿舎でベッドに入っても悔しくて眠れなくて、夜中に一人で練習場に行った時のこと。
真夜中よりも朝の方が近いぐらいの時間だったから、もう誰もいないはずなのに。練習場には明かりがついていて、そこからは聞きなれた曲が聞こえてきて。
ドアを開けたら、そこには踊ってるホシとウジがいた。汗でビショビショになりながら。

「あ、ヒョン。こんな時間にどうしたの?」

そう言って近づいてきたのはジュンで、片手には録画してたからなのか、ホシのスマフォを持っていた。

「予習? それとも補習?」

床に倒れながらそう聞いてきたのはウォヌだった。
一緒に踊っても充分に踊れているのに、こんな夜中になんでまだ踊るのか。その時点でもう大分凹んでたというのに、ホシは予習だと笑ってた。メンバー全員の振りを身体に入れときたいからと。ウジは補習だと嫌そうに言っていた。身体が小さい分だけダイナミックに踊らないと一人浮いてしまうから......と。

「俺は撮影係に駆り出されただけ」

ウォヌはそう言ったけれど、起き上ったその背中はホシやウジに負けないぐらいに汗でびっしょりだった。

「俺は......、勉強になるから?」

ジュンはつきあってる理由がいまいち自分で判ってないのか、何故か首を傾げながら教えてくれた。

「あ、ヤバイ。なんか来たかも」

ホシがそう言えば、「うへぇ。マジで」とウジがさらに嫌そうな顔をした。ウォヌもまた「いや、この時間からそれは無理だって」と言うけれど、ジュンは「はいはい。録ってるよ」とカメラをむける。
目の前でホシが思うままに踊りだす。いつも踊りの一つ一つを説明してくれる時のような感じでもなく、ただただキレがよく、カッコよく、動きがどうなってるか判らないような、ホシの実力全開での踊り。きっと踊っているホシ自身も自分の身体がどうなっているかなんて判らないのかもしれない。僅か、数分もなかっただろう。

「全部は無理だろ。これは揃えんの無理だって」

ウォヌが言えば、ジュンも「少数精鋭じゃないと無理じゃないかな?」と言う。
ホシのスマホでその踊りを見返してたウジが、「ここまでカッコイイのは二年後か三年後だろ」と言う。

そんなウジの言葉にウォヌが「よかった。今じゃなくて」と心の底から喜んでいた。
下手に今の自分たちが踊れそうな踊りなら、踊ってみて、揃えてみて、撮ってみて。今やってる曲でもないのにホシが納得するまで付き合わされるという。

「朝ご飯の準備するから帰るね」

ジュンがそう言って一番に消えてった。わざわざそう言ったのは、そこにジョンハンがいたからだろう。多分いつもなら黙っていなくなってるのかもしれない。だってジュンはジョンハンにだけ話しかけたし、誰も帰って行くジュンのことを見もしなかったし。

しばらくしたらウォヌとウジがジャンケンをはじめて、勝ったウジがいなくなった。残ったウォヌが掃除をはじめて、しばらくしてから帰っていった。それでもホシはまだ残っていて、何度も何度も、誰かのパートを踊ってた。

ジュンが時々、朝ご飯を作ってくれる理由を知った日。
ウジが時々物凄く、寝汚い理由を知った日。
ウォヌが時々物凄く、早起きしてる理由を知った日。
ホシが時々、朝からいない理由を知った日。
だけど何より、才能がある奴は、努力する才能もあるんだと思い知った日。

「ジョンハナ」

エスクプスの呼ぶ声がするけれど、その声は近づいてはこない。誰かの視線があれば強引に引き寄せるくせに、いざって時に動けなくなるのは、エスクプスの情けないところでもあり、優しいところでもある。

またジョシュアもジョンハンの意思を大切にしたいと思っているからか、ただただ待っていてくれる。無理に連れ出すのはよくないとでも思っているのかもしれない。

でも時には、強引に動かして欲しい時だってある。

こんな時に何も考えずにやって来てくれるのは空気を読まないジュンだったりする。

「ヒョン、ヒョンッ。一人で泣かないで」

そう言って躊躇することなくジョンハンを抱きしめてくれるから。こんな時には国の違いなのかと思ったりもするけれど、ディエイトはそうでもないから、国は関係なくてただただ性格なのかもしれない。

だって空気を読まないジュンが一番、ジョンハンの求めるものをくれるから。

「ヒョン、泣いてもいいけど、場所を変えよう」

そう言って、強引に連れ出してくれるから。
気がつけばそこにはウォヌもいて、「ウジが厳しすぎた?」と笑ってた。ウォヌの良いところは、どんなことにも驚いたりせずに受け流してくれるところかもしれない。

ウジが「失礼な」といえば、その後ろから顔を出してきたホシもまた「ヒョンも音が拾えなくて怒られた?」と言ってくる。それこそ「失礼な」と言い返してやりたかったけど、口を開けば子供のようにワンワンと泣いてしまいそうだったから……。

不思議なことに、誰も「どうしたの?」とは聞かなかった。

もしかしたらジョンハン以上に、涙の理由を知っているのか……。ただエスクプスが、ジュンに連れ出されたジョンハンのことを抱きしめてきて、「俺のとこに来て泣けって」と言っただけ。

「ジフナ、ジフナ。もう俺たちしかいないよ。弟たちはいないんだよ」

ホシが急にウジにそんなことを言い出して、ウォヌまで「今日はこれぐらいにしとこうぜ」と続けて、ジュンが最後にテンション高く「飲もう!食べよう!騒ごう!」と締めくくった。

「ハニヒョンたくさん泣いたから、たくさんたくさん、楽しい事がなきゃ」

ホシがまだ何も言わないウジに向かって、訴えている。

今仕事を中断したら、きっと明日死ぬほど苦労するだろう。ジョンハンが歌えないにしても、まだウォヌもジュンもホシも残ってるのに。

でもウジ以外の96ラインの三人は確実に出かける気でいるし、上三人ももう仕事って気分じゃないだろうし……。

「お前ら全員、明日一発オッケーだからな」

ウジの言葉に、過去一度たりとも一発オッケーなんて出した事がないというのに、ホシが「楽勝じゃん」と勢いよく答えていた。

後先考えないタイプだからだろう。

決めたら早いのが、謎に行動力のある96ラインの四人。何の打合せもなく、ジュンが全員の荷物を取りに行き、ウォヌは店の予約の電話をし、ついでにミンギュにも電話して帰らない旨を伝え、宿舎と弟たちのことを頼んでいた。ホシとウジはそれぞれにスタッフさんや関係者に頭を下げに行き、ジュンが荷物を持って戻ってきた時には完璧に出かけるだけの状態で……。

エスクプスがまだジョンハンを抱きしめていて、ジョシュアも心配顔でジョンハンを見ていて、まだほとんど同じ場所にいただけなのに、気づけば「カジャ!」というホシの言葉で移動するはめに。

ちょっとだけ涙が引っ込んだかもしれないジョンハンだった。

ライン別にタクシーで移動した。

タクシーの中でちょっとだけ落ち着いたジョンハンが「俺ら、いつ飲みに行くこと、決めたの?」と聞けば、エスクプスもジョシュアも無言。
だって訪ねられもしなかったから、行くとも行かないとも答えてない。
案外流されやすい95ラインの三人だった。

ウォヌが予約した店は個室で、座敷の店。少し大きめの丸いテーブルを、全員で囲む。ここなら顔を隠す必要もないし、泣き顔だってバレたりしないだろう。
適当に注文をしてくれたのも96ラインの四人で、ウォヌは「大丈夫。ウジの驕りだから」と笑ってた。
ウジだけが持ってる天下の法人カードがあるからだろう。
そして気づけば「乾杯!」って、まだ半分泣いてる状態のジョンハンまでもが乾杯してた。

肉はうまいし、飯もうまい。それに酒もうまいときたら、涙は大分引っ込んだかもしれない。それに隣りにいるエスクプスの左手が、ずっとジョンハンの足の上にあって、時々ポンポンと叩いてくれる。
反対側に座ってるジョシュアは、美味しいものを食べたら必ず、「これ美味いよ」とジョンハンの皿にも入れてくれる。

「やっぱりさ。原因は、宿舎が二つになったことなんだって」

そう言い出したのはエスクプス。
あんなに立派な宿舎を二つも用意してもらって、ジョンハンにジョシュアにドギョムにディエイトは個室にまでなって。会社にも代表にもマネヒョンたちにも感謝しかないというのに、今の宿舎になる時に、最後まで反対してたのは確かにエスクプスだった。
最終的には「じゃぁ今のままでもうしばらく我慢するか?」と聞かれて、全員に反対されてエスクプスが折れたのだ。

あぁでも確かに、一緒に暮らさなくなったのが原因ではなかったけれど、もしも一緒に今も暮らしてたら、ここまで泣くことはなかったかもしれない。

でも泣いてる理由の本当のところは、自分でもわからない。だってただただ悔しかっただけだから。うまく歌えないことが辛かっただけだから。音も外さなかったし、声だって響いてたし、ドギョムみたいな力強さはないけれど、それでも自分の声は嫌いじゃなかった。歌い方だって。だからもしかしたら昨日までなら納得してたかもしれない。

でも今日はダメだった。なんでか耐えられなかった。置いていかれてしまったことがショックで、もしも何もできない自分でも、一緒にセブチのメンバーとして仲間たちといられるだろうか......ってことまで考えて、思い出せば、涙がやっぱりこみ上げてくる。

「うまく歌えなかった………。どうしても、うまく歌えなくて」

隠したっていずれはバレるだろう。だから自分から言わなくちゃ......と、ジョンハン的には結構頑張ってそう言ったのに。

「ほんとに?」

そう言ったのはジュンで、だけどジュンが聞いた相手はウジだった。

「ハニヒョンは歌えてなかったの?」

「いや、いつも通り声はキレイだったし、響いてたし、俺は満足したけど」

「なら、今日の曲がもしハニヒョンのソロ曲だと考えても、ウジはオッケーだした?」

途中から割り込んできたのはウォヌで、でもそれはジョンハンも聞きたいことだった。メンバー全員との声の兼ね合いで、ジョンハンはそれぐらい歌えてたらオッケーだと判断されてるだけかもしれないと、少しだけ思っていたから。もしも自分がメインボーカルだったら、今日の歌では到底オッケーなんて貰えなかったはずだから。

「そりゃ今日のがソロ曲だっていうなら、もう少し時間はかかってただろうけど、それでもハニヒョンの声はいつも通りだったし、最終的にはオッケーだったって」

ウジが箸を止めることなく答えてくれた。

「ならさ。この曲はもう、しばらく寝かせよう」

ホシが言い出したその言葉の意味が、すぐには理解できなかった。

「そうだな」

でもウジがあっさりとそれに頷きながら、「候補の曲がまだあるから、みんなで明日聞いてみよ」とアルバムに入れる曲を入れ替えるという。

ジョンハンがうまく歌えない。それだけのことなのに、そんなバカみたいな話......と思ったけれど、誰も反対なんてしないし、なんならエスクプスは頷いてるだけだし、ジョシュアは優しく笑ってるだけ。

96ラインの四人がそう言うなら、いいじゃないかっていう感じで。

「タイトル曲じゃないから?」

どうしてもそれだけは気になって聞いてみれば、「タイトル曲だったとしても、ハニヒョンじゃなくて、歌えないのが別の誰かだったとしても、同じだって」とホシが笑う。

口にものを山と詰め込んでるからか、ウジは頷くだけだった。

「それに昔ウォヌも、『俺これうまく歌えないけど?』って言ったことあったし。確か「Fast Pace」じゃなかった? あれ、結局三年ぐらい寝かせただろ?」

「あぁ、あれね。俺は今回はパスってぐらいの気持ちだったのに、大分寝かせたな」

ウォヌの歌い出しからはじまる曲が、作られてから表に出るまでに時間がかかっていたのはジョンハンも知っていたけれど、それは事務所の意向だと思ってた。

「いいの? そんなこと、許されるのかな? だってタイトル曲じゃなかったにしても、簡単に決めた訳じゃないのに」

「いいも悪いもないよ。だって俺たち、自主制作ドルだよ? どっかの偉い先生の曲って訳でもないし、しがらみなんてないんだもん。これぐらい朝メシ前だよ」

「ま、寝かせるだけで、いつかは歌うだろうし」

ホシとウォヌがなんでもないって感じでそう言う。それに対してウジが頷く。相変わらず口の中がいっぱいだから声は出せないようで。

そしてジュンが、やっぱり一番ジョンハンの欲しい言葉をくれる。

「ハニヒョンはきっと、自分の限界を知ったんじゃなくて、何かを突き抜けて、次に目指すものを見つける所なんだよ。だから今までの自分じゃ納得できなくなったんだね」

それは嘘かもしれない。でも本当かもしれない。それともどちらも何の関係もなくて、今日はたまたま調子が悪いだけだったかも。

でもジュンの言葉は確かにジョンハンを救ってくれた。

「お、俺だけ、置いてかれちゃうかと思った」

そう口にしたら、また涙が止まらなくなって、横からエスクプスが抱きしめてきたのもそのままで、子供みたいに「わーん」と泣いてしまった。

「置いてく訳ないじゃん。俺がお前を離す訳ないじゃん」

何故かエスクプスも泣きそうになりながら。

反対側にいたジョシュアもジョンハンを抱きしめてくれた。エスクプスごと。

「誰も置いてったりしないよ。バカだな」

きっとジョンハンの不安はジョシュアが一番知ってるだろう。一緒に暮らしはじめた頃の、苦労してたのも苦しんでたのも辛かったのも、全部隣りで見てたから。

「そうだよヒョン、もしもうっかり暴走してるホシのせいで物凄く距離があいちゃったとしても、全然大丈夫だよ。コイツらはびっくりするぐらい全員で、しかも猛ダッシュで戻ってくるんだよ。経験済みの俺が言うんだから、間違いないよ」

そう言ってウォヌが笑う。

ウォヌは体調を崩して休んでたことがあったから、その時のことを言ってるんだろう。

一時的にでも離脱して、脱退じゃないかと騒がれたことも覚えてる。

でもあの時もホシがウォヌのパートを完璧に踊って、十三人での踊りを当然のように組み立てて。歌のパートはエスクプスやバーノンが歌っていたけれど、ウジだって当然のようにウォヌのパートを作ってた。

ミンギュはいつだってウォヌの代わりの人形を持ってたし、スングァンはいつだってどこだって、司会のマイクを持てばウォヌのことを口にしてた。

「ほら、飲もう!」

ホシの言葉にまた乾杯して、泣きながらも飲んでたら、多分酔っていたんだろう。
気づけばウジがホシの膝枕で寝てた。ウジはほとんど飲んでなかったはずだから、疲れ過ぎて寝てしまったんだろう。

泣いてた涙が乾いた頃、「いっぱい泣いて、ちょっと恥ずかしいかも」と呟けば、目の前に座ってたウォヌが「大丈夫。ホシもクプスヒョンも、もうすぐ泣くから」と言い出した。

楽しそうにホシは笑いながら寝てるウジの頭を撫で回してるし、横に座ってるエスクプスは時々ジョンハンのことを愛おしそうに見ながら優しく笑ってて、泣く気配すらない。でも結局ウォヌの言葉は正しかった。

「俺たち、別れよう」

エスクプスが飲み干した酒を自分でつぎ足しながら、突然そんなことを言いだしたから。

「ほら、はじまった」

「俺たち別れようって、ハニが言ったんだよ......。俺に......」

エスクプスはかなり酔うと、決まってこの話をするらしい。深酒に付き合うことがあまりないジョンハンは知らなかった。

「俺は嫌だって言ったのに、ハニが「俺たちは離れても大丈夫だから」って。俺はハニがいないと生きていけないって言ったのに、ハニが「俺たちは離れてたっていつも一緒だから」って。ハニが、ハニが、ハニが、俺に言ったんだよぉぉぉぉぉぉ」

「..................」

なんだか目に涙をためてウルウルな感じだったのが、どこで感極まったのか判らないが、一瞬で号泣。

そんな話し方だと物凄く恋人たちの別れが語られてるような感じがするけれど、宿舎が二つに分かれることになった時に、確かにジョンハンはエスクプスにそう言った。

「俺たち別れよう」

子供みたいに「嫌だ」って言ったのはエスクプスで、だからこそエスクプスは宿舎が二つに分かれる事を最後まで反対したのかもしれない。

でもエスクプスが自分の為だけに嫌だって言った訳じゃないのは判ってる。だって「じゃあせめてジョシュアは連れていけ」とも言ってくれたから。

でも練習量も多けりゃ話し合うことも一番多いパフォチは一緒にしてあげたかったし、友達がいないと思ってるディノにはスングァンとバーノンが必要だと思ったし。結局は自分とエスクプスが別れるのが一番良かったから………。

「せめて同じフロアで」

そうもエスクプスが粘ってたのは知ってるけれど、なかなかそう都合良く物件は見つからなかったんだろう。
泣く泣く、本当に泣く泣く諦めたエスクプスだった。
それが本当に泣く泣くだったから、深酒する度にこの話をして号泣してるらしく…………。

恥ずかしいったらない。

エスクプスの号泣に影響されたのか、ホシもなぜか「ジフナ~~~」と寝てるウジに覆いかぶさるようにして泣き始めた。
ホシが「俺にもう一本腕があったら、踊りながらもジフニの手も掴んでられるのに」と、なんだか恐ろしいことを言っていた。
その後もグズグズ言っていたけれど、要約すると「守ってやれなくてごめん」って事らしい。
ウジは守られるタイプでもないし、手なんか繋ごうもんなら腕ごと捻られるのがオチな気がする。
それにしてもホシがうぉんうぉん泣き始めたというのに、ウジは熟睡してるのか起きる素ぶりもないのも、また凄い。

ウォヌも酔ってるのか、物凄く楽しそうに、号泣するエスクプスとホシを指差しながら笑ってる。
ジュンは相変わらずの男前なままで、いくら飲んでも顔色一つ変えず。
ジョシュアもまたあまり酔ってるようには見えなかったけど、ニコニコと優しく笑いながら、何故か自分は食べもしないのに新しい料理を注文しては、「美味しそうだね」っていうだけで満足してはまた何かを注文するっていうのを繰り返してた。多分最終は持ち帰ることになる気がする。

エスクプスは一通り泣いたらスッキリしたのか、またしても飲み始めてた。ウォヌが言うには「あの別れ話、あと二回は繰り返されるから」という事なので、多分また号泣するんだろう。

それに途中何故か、泣いてる姿もキレイだと、エスクプスに謎に口説かれた。恥ずかしくて黙ってたら、「ハラハラと涙を零すハニにも目を奪われる」とエスクプスが言い直してきた。

ジョンハンもしっかり酔っていたんだろう。
そんなエスクプスの言葉に頬を染めて頷いてるだけだったから。
で、結局朝まで飲んでいた。

なんだか何も解決してないのに、泣いたからか、それとも朝までずっと一緒にいたからか、スッキリしてたジョンハンだった。

酔ってるはずなのに、ウォヌはタクシーを二台ちゃんと呼ぶし、ジュンは全員の荷物をまとめるし、ずっと寝てたウジはボーっとしまくってたけれど、財布からしっかり法人カードを取り出してホシに渡してた。

ウジだけがそれを持っているのは、一人だけ別の世界でも働いてるからかもしれない。一緒に仕事してる人たちの分まで支払いをする事も多いんだろう。
でもそれ以上にウジは代表からも事務所からも信頼されているからでもある。
何か高級なものを勝手に買うでもない。豪遊するでもない。大抵は仕事場で出前を取るだけで、それだってチキンとかピザとかで。しかも自分一人の時には決して使わないのだから会社だってウジに安心して法人カードを渡すってもんだろう。

時々はこうしてセブチにも使ってくれるけど、それだってウジの日頃の行いがあってのことだろう。誰がどう見たって働きすぎなほど、働いて働いて働いているウジだったから。

ウジ以外は全員酒が残っていて酔ってるはずなのに、96ラインの面子は足取りもしっかりしてて、エスクプスを支えてタクシーに放り込んでくれたのもジュンだった。

だけどスタジオに戻ってきたところで力尽きたのか。ジュンがスタジオの中、ソファまでも行きつけずに床に行き倒れてた。ウォヌは入り口横で崩れ落ちてて、入ってくるメンバーやら関係者やらをことごとく驚かせていた。

いつもどんな場所でもシュっとしてるジョシュアだって、ソファに座ったまま滑り落ちてきたのか、ソファにもたれるようにして大の字になって眠ってた。

エスクプスは酔ったままウロウロしてて、酒臭い息で律儀に挨拶してまわって嫌がられてた。多分もう少ししたらエスクプスも潰れてそこら辺で寝てしまうだろう。

ウジは仕事をするための椅子に座って、半分寝てた。

そして謎に元気だったのかホシで、「おしっ! ちょっと俺、踊って汗流して酒抜いてくる」とか言っていたから。

「スニョア~」

そんなホシのことを、ウジが呼ぶ。

「おん?」

「一発オッケーだからな」

「............きょ、曲変わるのに?」

「ぁあ?」

「いや、た、多分大丈夫」

どうやらウジはしっかり覚えていたらしい。まぁ飲んでないんだから忘れるはずもない。
ちょっとだけフラフラになりながら、踊るために消えてったホシだった。
なんだか自分も全然酒が抜けてないからか、楽しくなってきた。自分だけはとしっかりソファに寝たはずなのに、気づけばジョシュアの横に寝っ転がってたし、その横ではエスクプスが死んでたし......。

次に起きた時には、飲みすぎて頭は痛かったけど、気持ちは物凄くスッキリしていた。

昼も近くなったころ、集まってきたメンバーたちがいて、何故か嬉しそうにお土産にと持ち帰ったあれやこれやを食べていた。

ジョシュアがそれを見て、こんなにお土産買ってきたの?と驚いていたけれど、朝方まで食べもしないのに次から次へと注文していたことはどうやら覚えていないらしい。

そして最後にやってきたディノに「ヒョン、泣いたの?」って聞かれた。目ももう腫れてもいないはずなのに、よく気づいたな......とマンネの成長を喜んだというのに、「いや、カレンダーに書いてあるから」と言われた。

「は?」

ディノの指さす場所を見れば、スタジオ入り口横の壁にある特大カレンダーの昨日の場所に、でっかく見覚えのある字で「ハニハニ涙」と書かれてた。

「..................ス、ス、ス、スンチョラッ!!!」

潰れてたエスクプスがジョンハンの叫び声に慌てて起きてきたけれど、酔っ払ってた時のことなんて、全然覚えていなかった。

ほんとに、恥ずかしいったらない。

結局全員が揃った後に、新しい曲を選ぶために何曲か聞いて、二つほど候補があがって、それぞれが歌ってみて、どっちも選べなくて、じゃぁ二つとも入れりゃぁいいじゃんとあっさりと決まった。

歌う時にはちょっとだけドキドキしたけれど、哀しくはならなかった。涙もこぼれてこなかった。

「だからやっぱり宿舎なんだって原因は......」

エスクプスは最後までうるさかったし、「一発オッケーだからな」とウジもずっとそう言っていたし、当然のようにホシは一発オッケーなんて無理で……。騒がしかったけどそれがまた楽しくて、昨日の出来事が嘘のように、一日中笑ってたジョンハンだった。

 

The END

 

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