ディエイトは、飛行機の中で帰ったらすることリストを考えていた。
着替え。荷物の整理。休憩。食事。思い出の整理。少しお酒を飲む。家族に電話する。お土産の整理。寝る前のあれやこれや。
スマホの中に真面目にリストを作っていた。
だけど横にいたジュンが、「帰ったらハオの部屋に泊まりに行く」とか謎なことを言い始めた。
「ヒョン。やっと帰るのに、自分の部屋でゆっくりしなきゃ」
「イヤだ。ハオの部屋に泊まりに行く。ほら、荷物そのまま持って行くから、お泊りセットもばっちりだし」
......言い出したら聞かないのも判ってるから、ディエイトは黙ってすることリストを修正した。
着替え。荷物の整理(できたら)。食事。思い出の整理(できたら)。お酒。家族に電話。お土産の整理(できたら)。寝る前のあれやこれや(できたら)。
ほぼほぼリストに(できたら)と書き込んで、多分無理だろうな......と諦めた。
もしかしたら最初の着替えからして、まともにできないかもしれないな......と考えて、家族に電話するのを一番目に持ってきたディエイトだった。
エスクプスは家に帰り着いて、とりあえずリビングで大の字になった。
それから心の中で、『疲れた......』と呟いた。
帰ったらしなきゃいけないことが山とあるのは判っていた。大抵が仕事の話。メンバーとの話しとか、事務所との話しとか、ウジとの打ち合わせとかも含めて、ほんとに山とある。
でもそれもこれも明日からでいっかと、今日は何も考えずに眠ろうと考えていた。
「ヒョン邪魔」
疲れを満喫してるというのに、ミンギュが何故か掃除機を片手に立っていた。
「嘘だろ。お前今日のこのタイミングで掃除するつもりなの?」
「するけど?」
仕方なく起き上ってダイニングテーブルにでも......と思ったら、そこには何故かディノとホシがいて、自分たちで買ったお土産を広げてる。
「いや、お前らなんでココにいんの? 上で広げろよ」
「え? なんとなく?」
「うん、まぁエレベーターを途中下車しちゃったっていうか?」
ホシとディノが二人で楽しそうに笑ってる。
しょうがないと部屋に戻ったら、ウォヌが楽しそうにゲームをしてた。
「あ、ごめんヒョン。ちょっと俺いまテンション高いけど、いい?」
久しぶりのゲームにテンションがあがったのか、ウォヌがヘッドセットもつけずにゲームを楽しんでいた。
誰かの部屋にお邪魔しようと考えて、ドギョムの部屋からは歌声が響いてきてて諦めた。やっと終わったコンサート後に、まだ歌うのかって感じ。
ジョシュアの部屋の床ででも寝ようと思って向かったら、アロマが焚かれてて諦めた。
今はただただ寝たいだけだから。
結果、二階上にあがってジョンハンの部屋に潜り込んだ。
「ん? 何? 俺にもう会いたかったの?」
と言われて、「うん。そう」とちゃんと答えたかどうかの記憶がない。倒れ込むようにジョンハンのベッドに潜り込んで瞬殺で寝たから。
なんとなく、惜しいことをしたのかもしれないと、うっすらと思いながら............眠りについたエスクプスだった。
ミンギュは帰った瞬間。掃除をはじめることにした。久しぶりの家だから。
洗濯機も動かしたかったし、窓も開けたかったし、荷物も全部出してと、やることは山ほどあるから。
「今なら洗濯機一緒に回してあげるけど~」
そんなことを言えば、「ありがと」とにこやかにジョシュアがやってくる。
何故か二階上のはずのホシとディノが、「俺のも俺のも」と慌てて荷物をほどいてる。
聞けばエレベーターを途中下車しちゃったテヘ......とか言ってたけれど、まぁ普段からどっちもどっちで皆がウロウロしてるから気にもならない。
ウォヌは「俺のもお願い」とは言うものの、もはやゲームをはじめていて自分で荷物を出そうともしてない。
でもそれもまた、日常っぽい。
ウジは部屋で寝てるけれど、そもそも荷物はもとからミンギュがまとめて持ち運んでるから、何も問題ない。
掃除機をかけようとすればエスクプスがリビングに倒れてた。
ドギョムの歌声が響いてる。
ホシとディノがお土産を広げだしている。後でまとめて自分たちの部屋に運ぶはめになるのに、楽しそうに笑いながらお互いがお互いのお土産を自慢して、楽しんでいる。
それもこれも、日常っぽい。
きっと明日になったら、ほかのメンバーの洗濯物も集まってくるだろうけど、それもまた日常で、ミンギュはそんな日常が嫌いじゃなかった。
久しぶりの家に、身体の力が抜けて、ウジはさっそく自分のベッドに横になった。
各地のホテルの方が、ベッドは広いしスプリングは良いし、布団だってふわふわだったというのに、なんで自分のベッドが一番心休まるのか。
多分それは、自分たち以外の人間が介在しない空間だからかも。
ちょっとだけ休んだら......と思った次の瞬間には眠りについていた。
眠って眠って眠り続けて、何度かミンギュに「生きてる?」と聞かれたけれどそれでも眠り続けて。
ただただ眠って日常を取り戻したウジだった。
ジュンは自分の部屋を素通りして、ディエイトの部屋に行くことにした。
飛行機の中でそう宣言したら、「何言ってんのヒョン」的なことを言われたけれど、ディエイトは強く反対はしなかったし、拒否なんて当然しなかった。
だから家に帰り着いて、自分の部屋を荷物を持ったまま通りすぎれば、後ろからスングァンが「ヒョン、どこ行くの?」と聞いてきたから、「ハオの部屋にお泊り~」と自慢してやった。
スングァンがすぐに、「ボノナ、ボノナッ」とバーノンの部屋に駆けだしてったから、きっとスングァンもお泊りするのかもしれない。
皆は家に帰り着いてホッとするというけれど、実はジュンはどこでも別に構わない。
今はもう家族と思えるメンバーたちと一緒なら、どこでもほんとに構わない。
ハオの部屋はスッキリとしててシンプルでスタイリッシュで、ハオそのもので、居心地がいい。
「とりあえず着替えて」
ハオに言われるままに着替える。
「とりあえず家族に電話して」
ハオに言われるままに電話する。
「とりあえず荷物整理しよう」
ハオに言われるままに......は止めて、ベッドの上にダイブした。
「やだ。とりあえず一緒に寝よう」
「......はぁ」
呆れたのかハオがため息をつく。でも仕方ないって笑いながら、ハオが隣りに寝ころんだ。
やっぱりどこでもいい。メンバーがいたら、ハオがいたら。
気づけば眠りについていて、途中目覚めたらハオがいなかった。そしてジュンの荷物もすべて片付いていたから、ハオは寝なかったのかもしれない。でもまたそのまま眠ってしまい、次に目覚めたら横にハオがいた。
なんだか酷く幸せだったから、しばらくはハオの部屋に泊まり続けようとか、ディエイトが聞いたら「嘘でしょ」とか言いそうなことを考えながらまた眠りについたジュンだった。
ホシは自分の部屋に帰るはずだったのに、何故か下の階でエレベータを降りてしまった。
ディノと一緒に。
いや、そんなつもりはなかったけど、エレベーターを降りるところぐらいから、うつらうつらしながら歩いてたウジが気になったし、ルンルンって感じで歌いながら歩いてるドギョムの歌に引き寄せられたってのもあるし、ミンギュがいるから洗濯を一緒にしてくれるかもしれないとも思ったのも事実で......。
「と、途中下車する?」
マンネなディノに声をかけたら、「おぉヒョン!凄い!」と喜んでついてきた。
何が凄いかは謎だけど。
エレベーターを降りていく二人を止める冷静な人間はそこにはいなかった。
きっと皆、それなりに疲れてたからだろう。
勝手知ったるもう一つの部屋。結構泊まりに来るし、遊びにくるし、ご飯を一緒に食べる時もあるし、何か話し合いがもたれる時にも集まったりするから、なんの遠慮もあるはずがない。
勝手に冷蔵庫からコーラを取り出したって、文句を言われることもない。
荷物をそこで広げ始めたって、お土産自慢をはじめたって、片づけるのが面倒だからそのまま放置したって。掃除を終えたミンギュがダイニングテーブルの上の荷物も勝手に片づけはじめていたけれど、自分たちの荷物を勝手にさわられたって、何も問題ない。
「あぁ、なんか俺ら凄くない?」
「うんヒョン!凄いよ!」
何が凄いかは謎だけど、ディノと二人で謎にテンションだけはあがる。
自分たちのベッドがなくたって、雑魚寝だって気にしない。
でもエスクプスが上の階にいったから、エスクプスのベッドが空いた。
だからそこでディノと二人で眠ることにした。
ウォヌが同じ部屋の中でテンション高めにゲームしてたけど、寝てたってホシとディノの方がテンション高めな気もするから、何の問題もなかった。
実は次の日もそのままそこで過ごして、「もしかして俺らの旅はまだ終わってないんじゃない?」と言えば、ディノがやっぱり「おぉ、ヒョン!凄い!」と、やっぱり何が凄いんだか......。
しかしまぁ、二人は幸せだったから、それで十分だったんだろう。誰も帰れなんて言わなかったし......。
「ボノナ、ボノナッ。今日はココに俺泊まる!」
ジュンがディエイトの部屋に泊まると聞いて、スングァンもテンション高めにバーノンの部屋を訪れたというのに、「No!」と一言で断られた。
「ディエイヒョンは一人部屋だからジュニヒョンが泊まっても大丈夫だけど、この部屋はホシヒョンと二人だからダメ。荷物も多いし、疲れてるし、もう寝るだろうし。とにかくダメ」
完璧に否定された感じ......。
ショボンとしながら、トボトボと部屋に戻ることになった。
皆はバーノンは絶対スングァンのことが大好きで、なんなら愛してると思う......とか言うけれど、それは嘘だと思う。だって優しくないし。部屋に泊めてくれないし。ちょっとぐらいは考えてから断ったっていいのに、「ノー」とか瞬殺で断るし......。せめて「ノーサンキューぐらい言いやがれ」って感じ。
楽しかった気持ちが一瞬でしぼんでしまい、なんだか泣きそうな気分にもなってきて......。
もう寝てしまおうって感じ。
でもジュンはいないし、ディノは途中下車したし、部屋には一人きり。
だったらバーノンが泊まりに来たらいいんじゃんッ!と気づいて、またちょっとテンションあがって「ボノナッ。ボノナッ。俺らの部屋俺だけだから俺のとこに来たらいいよ。泊まりにおいでよ」とわざわざ声をかけにいったのに、「シロッ」って一言。
嫌ってどういうこと? どういうこと? どういうこと?
って聞く気力もなく、またしても廊下をショボンとトボトボと、なんだかもうベタベタと歩く。
今度こそ泣ける。そんな気持ち。
「ヤー、二度と誘ってなんてやらないからな」
とは口にしたけれど、部屋に戻ってきてから言ったから、当然バーノンに届くはずもなく......。
「寝る」
誰もいないのにそう宣言して、寝る準備を寂しくしはじめたスングァンだった。
帰ってきて、疲れたからすぐに寝よう......と思っていたというのに。
ウォヌは今、ゲームの世界の中にいた。
ちょっとだけ。少しだけ。さわりだけ。気持ちだけ。そんな感じではじめたゲームにテンションがあがり、「うぉ〜」「わぁ」「おぉ」と一人で騒いで楽しみはじめてしまった。
ヤバイ。これは勝つまで止められないパターンだ。
同室のエスクプスはテンション高めのウォヌに嫌気がさしたのか、どっかに行ってしまった。
その代りにホシとディノが「お邪魔しま~す」と二人してやってきて、エスクプスのベッドに寝てしまった。
ウォヌが騒いでても気にならないらしい。寝てるのか起きてるのか判らないような二人も、時折バタバタして笑って眠ってまた起きて騒いでとしてたから、お互い様なんだろう。
「楽しすぎる。俺、このゲーム終わるまで寝なくてもいける気がする」
誰も聞いてないと思って呟いたのに、「ヒョン。寝ないと死ぬから。とりあえずご飯食べにきなよ」とミンギュが声をかけてきた。
「いや、ごめん無理。俺がいま抜けたらこの世界が終わる」
「終わっても大丈夫だよ。ゲームの世界なんだから。ご飯どうする?」
「悪い。持ってきて」
優しいミンギュが片手で食べられるものを持ってきてくれたから、ゲームしながら食べて、また戦って。
しかしトイレには行かなければならない。
とりあえずウォヌはディノを叩き起こした。
「ちょっとコレ持ってて、でもって、ココ押しといて。で、やられそうになったら死ぬ気で逃げろ」
「え? ヒョン、俺無理だよ。こういうゲーム苦手だし」
「いや、死ぬ気で頑張ればどうにかなるから。とりあえず俺猛ダッシュでトイレ行くから。帰ってきて死んでたら二度と口きかないからな」
「え? 無理だって。ヒョン、ちょ、ヒョンッ」
叫ぶディノに世界を任せ、廊下を猛ダッシュ。「俺がトイレ行くから誰か行ってたら一旦出て~」と確実無理なことを叫びながら廊下を猛ダッシュしたら、遠くでミンギュが笑ってた。部屋からトイレ行って猛ダッシュで戻ってくる選手権があったら絶対メンバー1になれる自信があるが、なかなかそんな選手権が開催される予定もなく......。
とりあえず、猛ダッシュしたからか、ディノは逃げ切っていた。
「よし。後は任せろ」
そう言えば、力尽きたかのように「任せたよヒョン~」と言いつつ倒れ込んでそのまま眠っていたけれど。
多分一番疲れてないのが自分かもしれない......と思いながら、闘い続けたウォヌだった。
当然、翌日戻ってきたエスクプスに怒られたけど............。
ジョンハンはいたって普通に家に戻ってきた。
自分の部屋にたどり着き、普通に荷物の整理もして、ふぅってしてたら、エスクプスがやってきた。
「ん? 何? 俺にもう会いたかったの?」
ジョンハンにしては優しく聞いたというのに、エスクプスは返事もあやふやなままに勝手にベッドに倒れ込んでそのまま眠ってしまった。
「............」
ちょっとムカついたジョンハンだった。
リビングに行けば、家の中が静かだった。
まぁそうだろう。賑やかなホシとディノはエレベータを途中下車するっていって降りてったから。
ジュンがディエイトの部屋にお泊りに行くと言ってたのも知っている。基本あの二人は静かだし。
その話を聞いたスングァンが、「俺もバーノンの部屋に泊まる」と言っていたが、断られたらしくショボンとしながら自分の部屋に戻って来てたのも知ってる。
なので家の中が余計に静かなのかもしれない。
「スングァナ~」
とりあえずスングァンの部屋を覗けば、落ち込んだままのスングァンが一人寝る準備をしはじめていたから。
「飲もう一緒に」
誘ってみた。
当然スングァンはのってきた。
「っていうか、俺がいるのに一人で寝るってどうよ」
飲む前から絡み酒。
「そうだよね。俺が誘ってるのに、嫌ってなんだよ」
飲んだら当然恨み酒。
ムカついてるからか、酒を煽るスピードが二人とも早い早い。
二人して全然違う会話をしてるのに、物凄く会話が噛み合っているという不思議な現象も起きていた。
「だいたい、俺に甘い感じだしてるのに、肝心なところでもう一声足りないんだよ。押しが弱いっていうの? 男のクセにまったく」
ジョンハンの本音はなかなか聞けない。だけど今は、肝心の聞く相手がいなかった。
「そうなんだよ。俺のことじっと見てくるくせに、見てるだけで満足すんなっての」
スングァンの本音もまた、なかなか聞けない。何せ本人もいまいち判っていない感情だから。
「男なら、ぐいっといけって感じ」
「そうだよ。男なら手を出してこいって感じ」
二人揃って自分の話ししかしないし、酒はまわるし、なんだか悲しいし不満だし。
気づけば潰れてた。ディノが隠し持っていたマッコリとか、ディエイトのワインとか、焼酎とかビールとか、甘いお酒とか。なんだか勢いに任せて色んなものを飲んだからだろう。
「よし。俺が行く」
何故かジョンハンは宣言して、酔ってる割にはしっかり立ち上がって、スングァンを置いて出て行った。
「ヒョン、ファイティン!」
スングァンも応援して送り出した。
当然戻ったのは自分の部屋のベッドで幸せそうに熟睡しているエスクプスのところで......。
その後のあれやこれやは、酔っていたのでジョンハンも覚えていないけれど、きっとあれやこれやの事実を知ったならば、エスクプスは熟睡してたことに一生後悔しただろう.........。
ディノは楽しかった。
ホシと一緒にいたから。
ウォヌにゲームを押し付けられた時にはちょっとビビったけれど、それでも楽しかった。
「お前らなんでここいんの?」
トイレに起きてきたウジにそう言われても、ただただ楽しかった。
翌日、二階上から降りてきたジョンハンに「帰ってこないつもりなのか?」と呆れられたし、さらにその翌日にしっかり起きてきたウジに「お前らまさか、まだ帰ってないの? バカなんじゃないの?」と言われたけれど、それでも楽しかった。
「テバ」って何回言っただろう。
ホシと一緒に二人して笑ってばかりいたし、時折そこにミンギュとドギョムが混ざってくれたし、洗濯物は乾いた状態で戻って来たし。
思わず二人して、引っ越してこようかと真剣に話し合いそうになったほど。
でも荷物を持って部屋に戻ってみれば、ジュンとディエイトとスングァンとバーノンが何故か酒盛りをしてて、そこに混じればそれもまた楽しかったから。
結局はどっちでも楽しかったことに気づいて、やっぱり「テバ」と何回も口にしたディノだった。
バーノンは呆れていた。
部屋に泊まりたいと言ったスングァンに断ったら、ショボンとして帰って行ったから。
部屋に泊まりに来いと言ったスングァンに嫌と言ったら、さらにショボンとして帰って行ったから。
眠る前に様子を見てから寝ようと思ったら、ジョンハンとスングァンが酒盛りをしてたから。
凹みすぎて酒に走ったのかもしれないが、スングァン一人だったら飲んだりはしなかっただろう。
「そうなんだよ。俺のことじっと見てくるくせに、見てるだけで満足すんなっての」
部屋の外、廊下に座りながら様子を見てれば、言いたいことを言っている。
そうか、襲っても文句は言わないんだ......と思わなくもないけれど、そんな酔っ払いな発言をするスングァンを思うと、笑ってしまう。
結局小一時間は廊下にいて酔っ払い二人の話しを聞いていたかもしれない。
ジョンハンが何を頑張るのか、自分の部屋に戻っていった。
それを隠れてやり過ごしてからスングァンの部屋に入ってみれば、「ボノナ~。俺に優しいのは夢に出てくるハンソリだけだよ~」と、抱き着いてくる。
どうやらスングァンの夢に出てくるバーノンは優しいらしい。
「ホンモノの方が優しいって」
抱き起してベッドに運んでやりながら、そう囁いてみる。
起きた時には覚えてないだろうけど......。ちょっとだけ愛っぽいことも囁いてみる。
それからバーノンは二人の酔っ払いの酒盛りの後を片づけはじめた。今度ちょっとだけ手を出してみようとか、考えながら。でもきっと、スングァンは驚いて照れ隠しに怒って逃げるだろうなとか考えて、やっぱり笑ってしまったバーノンだった。
ドギョムは飛行場が苦手。
ムスっとした顔をしとけと言われるから。
油断すると微笑んじゃうし、ボーっとしてたらニコニコしちゃうから、意識して無表情を保とうと結構必死だったりする。
別に飛行場でニコニコしながら歩いたって問題ない気がしないでもないけれど、あんまりよくないらしい。
だからいつも、車に乗り込んだ三秒後ぐらいには顔の緊張を緩めて笑ってしまう。
車の中はだから好き。
音楽聞きながら大声で歌ったりもできるから。
狭い空間に皆がぎゅっと集まってる感じも好き。
何故か疲れてるからか、皆はすぐに寝てしまうけれど、気にせず歌ってる。
時折「静かにしろ~」って誰かが叫ぶけど、「ごめ~ん」と言えば許してくれる。だからやっぱり車の中が好き。
家に近づいていく景色を見るのも好き。
家が見えた瞬間も好き。
車から降りる瞬間も、エレベータに全員で乗れなくて何人かに別れるのも、全部全部好き。
「家に帰って来たよ~。俺たちの家だよ~」
適当に歌ってたら、それにホシとディノが、「そうだよ~」「俺たちの家だよ~」とハモってくれる。
そういうのも好き。
何故か違う階の部屋の二人がついてきたけれど、やっぱり好き。
自分の部屋も当然好きで。
ドアを開けたまま過ごしていれば、どこからか聞こえてくる皆の生活音がまた好きで。
掃除機をかけながら、ミンギュが通りすぎていくのも、やっぱり好き。。
色んなことが好きすぎて、笑顔でいることが止められないドギョムだった。
ジョシュアは自分が一番まともだと思っている。
普通に部屋に戻って。普通に着替えて。普通に片づけて。普通にアロマを焚いて寝たから。
起きたら謎なテンションのウォヌが廊下を走ってた。どうやらトイレに猛ダッシュしたらしい。
エスクプスはいなくなっていた。ジョンハンのところだろう。
ウジは死んだように眠っていて、何故かホシとディノが寝ながら騒がしいという謎な状態でエスクプスのベッドにいた。
ドギョムの部屋からはご機嫌な歌が聞こえてきて、ミンギュが何回目かの洗濯機を回してる。
なんだか、日常と言えば日常だろう。
他のメンバーの様子を見に上にあがれば、ジュンはディエイトの部屋で熟睡してた。
スングァンは自分の部屋で、バーノンはリビングで、エスクプスとジョンハンはジョンハンの部屋で。
それぞれに寝てた。
何気にダイニングテーブルの上に空いた酒瓶が転がってる感じがしたけれど、まぁそれだって問題ない。
何せ久しぶりの家だから。
とりあえず勝手に全員の部屋を覗いてまわって、自分のテリトリーを確認する、ちょっと変わってるジョシュアだった。
でも何故か、自分が一番まともだと思っているのだ。
用もないのにトイレの便座まで上げて、何を確認してまわってるのか。何故かミンギュが動かしている洗濯機の蓋まであけて、洗濯機をピーピー言わせていた。
「ヒョン、何やってんの?」
洗濯機の文句を聞いてやってきたミンギュに呆れられたけど、聞かれてもジョシュア自身も何とは答えられない。だってなんとなく気になるだけだから。
とりあえず冷蔵庫も開けてみたし、ホシとディノの放置されてる荷物の中身も見たし。
結構色々見たはずなのに、何故かジョシュアは2巡目に入って、なんとなく皆の様子を見ながらまたウロウロ。
やっぱりちょっと変わってるのに、自分が一番まともだと思っているジョシュアだった。
The END
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