「ハニだろ」
エスクプスが言う。が、それはエスクプスがジョンハンに頭があがらないだけだろう。尻に引かれてるとも言う。
「リーダーでないことは確かだ」
ウォヌがエスクプスを見ながら言う。
ここには今、年上組の六人だけがいた。エスクプス、ジョンハン、ジョシュア、ジュン、ホシ、ウォヌ。ただ車に乗るのに二組に別れただけのことで、移動中の車の中。バカみたいに笑ったり、ふざけあったり、そんなことをしてるうちに誰が言い出したのか、「果たして誰が一番強いのか」って話題になったのだ。
一番に名前があがったのがジョンハンだったけれど、言われた本人は首を傾げてた。ワガママを言う自覚もあるし、時折意地悪になる自覚もあるけれど、強いのかと言われたら悩ましい。時折強気にはなるけれど、それ以上に弱気になる時の方が多かったから。それにワガママを言う時も意地悪になる時も、エスクプスに対してドSキャラになる時も、いつだって愛情を確認したいから......な気がするから。
「ディノ! ディノ! 絶対ディノッ!」
マンネ第一主義のホシが言う。まぁ確かに、一番下だから全員が常に気にかけていたりする。誰が一番気にかけられているか......ならぶっちぎりで一番だったはず。でも強いかと言われるとどうだろう......。簡単に言い負かされるし、強気で前に出る時もあるけれど「待て」と言われれば大人しく従うし......。
「いやそもそも、強いって何が? ケンカ? 気? なにで比較するの? 我慢強いとかさ。強いにも色々あるけど?」
みんなの意見に頷いていたジョシュアがまともなことを言いだした。
「実際に誰かと身体張ってケンカするっていうなら、ジュニが一番なんじゃ?」
ジョンハンの意見には、ジュン自身が否定した。
「俺、ハオには負けるけど?」
「それはディエイトが強いんじゃなくて、お前がただ手を出せないってだけだろ」
エスクプスがツッコんで、皆が納得。
「それじゃぁウジ! ウジ! 絶対ウジッ! だって俺たち、全員ウジには逆らえないもん!」
ウジ大好きなホシが言う。ホシ以外の全員が『逆らえないのはお前だけだろ』と思っていたけれど、ひとまず誰も口にはしなかった。たぶん優しさだろう。それにまぁ確かにセブチのプロデューサーでもあるウジは権力者でもあるかもしれない。
「いやでもこないだ、ウジがミンギュに真剣に頭下げてたぞ」
ウォヌが言えば、「あ、俺もそれ見た」とジョンハンも、「あぁ、俺も」とエスクプスも言い出した。
簡単には頭なんて下げない釜山の男のはずなのに、ウジはかつて食べたことがある、でももう今は店がなくなって食べられなくなった店の味の再現をしてほしくて、男らしくミンギュに頭を下げていた。さすが食のためならなんでもする男............。
「わかった。ドギョミだ! ドギョミ、ドギョミッ! あの声の破壊力は絶対一番だッ!」
ホシが次にあげたのはドギョムだったけど、「俺が黙れって言えば黙るけど?」というジョンハンの言葉にあっさり敗退。
バーノンは平和主義者で、誰かに勝とうとなんてしない。
負けず嫌いでできないダンスは絶対にできるようになるまで頑張り続けるディエイトも、だからって誰かを押しのけようとなんてしない。
ホシもスングァンも、司会をしたりで前に出ることが多いけれど、カメラがなければ後ろで楽しそうに笑ってることの方が多い。
「いやもうここは、統括リーダーである俺でいいんじゃね?」
エスクプスが言う。
「いやだから、強いの定義だって。まずはそこなんだって」
ジョシュアがまたもや冷静に言う。
「あ、わかった。ミンギュだミンギュ。絶対ミンギュ! だって俺たちの胃袋も、宿舎の秩序も握ってるもん!」
ホシがこれが正解とばかりに口にしたのはミンギュだったけれど......。
「でもアイツ、こないだ宿舎の掃除機、掃除しながら壊してたぞ」byエスクプス
「冷蔵庫の中で牛乳零してたよ。まぁ自分で掃除してたけど」byジョンハン
「なんでかウジに激怒りされてて、土下座してたの見たかも」byジョシュア
「ウジにむかってコーラぶちまけたからだよソレ」byジュン
「その後半泣きしてたのも見た」byウォヌ
どうやらミンギュはデキる男でもあり、デキない男でもあったようで......。
「じゃぁやっぱり、とりあえずここは、俺が一番ってことで......」
まだ諦めてなかったエスクプスの言葉を、「いや、それだけはない」ときっぱりウォヌが否定して。
車の中だというのに「外に出やがれッ」と言い始めたエスクプスに、「一人でどうぞ」と躱すウォヌ。それを見て楽しそうに笑うジョンハンにジョシュアにジュンに。
車の中ではようやく違う話題にうつりはじめたのに......。
「わかったッ! ボノニだボノニ。絶対ボノニだよ!」
ひとりホシだけが話題の変化に気づかなかったようで、バーノンが一番だと言い始めた。全員に「それはないない」と笑って否定されて、「う、そうかも」とあっさり意見を引っ込めていた。結局どこがどう絶対なのかは謎なまま。
気づけば見慣れた風景の中にいて、あと少しで宿舎にたどり着くって場所にいた。
果たして誰が............は結局わからぬまま。そしてちょっとだけエスクプスの機嫌は悪くなったけれど、「時々は俺の中でお前一番だけど」なんてジョンハンに言われて、すぐに機嫌をなおしていた............。
The END
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